紅葉色の水平線に勝利を刻むんじゃ!   作:RightWorld

31 / 35
第13夜 その2

 

「えーと、毎度のルーチーンで、次は出撃なんだけど……」

 

 提督が言葉を切った。

 吹雪と曙があたしを見る。パソコンのCCDカメラに映る提督も、母港のあたしの立ち絵をじっと見てる。

 

「な、なんなのさあ」

 

 もしかして、あたし、皆に心配かけてる?

 すると提督が、唐突に話を変えた。

 

「ね、ねえ、遠征ってどうやるのかな! 開発資材とか資源とか取ってきたりするんでしょ? いつも自然回復分と任務報酬だけで賄ってるけど、本当は遠征で取ってくるのが基本なのよね?」

 

 遠征。遠征かあ。

 確かにあれなら戦闘しないで、練度も上げられて、資源まで手に入るけど……。

 

「遠征って、第2艦隊を編成して、第2艦隊を出撃させるんだけど、まずその第2艦隊を解放してやる必要があって、第2艦隊の解放条件ってのが確か『6隻編成の艦隊を編成せよ』って任務の達成なんだよ」

「6隻!?」

「さらに言うと、『6隻編成の艦隊を編成せよ』の任務解放には、軽巡を旗艦にして駆逐艦数隻で艦隊を作る『水雷戦隊を編成せよ』任務をやらないとで、さらにその任務解放には、駆逐艦4隻以上で艦隊を作る『駆逐隊を編成せよ』任務を達成しないとなんだよね」

「え゛え゛え゛~~」

 

 紅葉提督の鎮守府は、ゲーム開始1ヶ月半経ってもいまだに軽巡1隻、駆逐艦2隻しかない。建造に成功するのは駆逐艦「曙」ばかりで、6隻編成なんて夢のまた夢。駆逐艦4隻の駆逐隊でさえ編成できないでいる。

 

「……ねえ、いつまで経っても遠征任務もできない、1ー1海域(いっちばん易しい海域)の、それもいっちばん最初の敵駆逐1隻のところも倒せなくて先に進めない提督って、今まで二次小説でもいたかなあ」

 

 首を垂れて黄昏た提督が力なく言う。

 

「二次小説の場合なら、それは前任者の提督で、クビにされて、新しく着任した主人公の提督が次々と海域を開放しまくって、それをねたんで嫌がらせを入れて反撃食らって処分されるって人ですね」

「最底辺からスタートしても、主人公なら途中で特別な能力が目覚めたりとか、すごい仲間が現れたりして、やっぱり次々と海域を開放しまくるってのが鉄板のストーリーだわ」

 

 提督の顔がみるみる青くなっていく。

 

「主人公が無能な提督だったとしても、勘違いとかあり得ない運で危機を乗り越えて、やっぱり海域を開放していきますね」

「だいたい、改の娘はいない、いる娘はレベル1だの2だのの初期艦で、高性能な装備はあっても積めないし、資源もない。皆してくじ運が悪くてレベルアップ速度は牛歩戦術だし、そんな条件下で面白い小説なんてあるわけないじゃない」

 

 空いた時間に待機部屋の畳の間にあった二次小説を読みまくっている吹雪と曙が、容赦ない指摘を浴びせ掛ける。さり気なく作者の悩みも織り交ぜる。

 

「だよねえ~~。分かってたけど、だよねえ~~」

 

 両手を投げ出して机に突っ伏した提督が諦めの嘆きをあらわにする。

 

「小説のテンプレになぞるなら、北上さんが提督を助ける凄い力を持った仲間じゃなきゃおかしいんだけど」

 

 曙があたしを見ながら言った。

 

「すまないね。あたしもそのつもりで登場したんだけど。もう解体してもらってもいいかね? 役に立たない仲間なんていらないよね?」

 

 曙が焦る。

 

「そ、そこまで言ってないから! 気に入らないからって解体はやり過ぎでしょ!」

 

 提督も焦る。

 

「そ、そうよ、北上さんの解体なんて必要ないよ! ここは鎮守府低迷の責任はわたし(ダメ提督)と同罪ってことで」

「提督もあたしが足引っ張ってる片割れだって言ってるよ!」

「まあまあ皆さん、落ち着いて。私は決して提督は悪い人だとは思ってないですよ。優しいし、ここはブラック鎮守府じゃないし、艦娘も虐待されてないし」

「遠征でこき使って虐待したくても、遠征さえできない体たらくだもんね」

「北上さん、やっぱ外すわよ? 解体はかわいそうだから、放置の刑にするわよ?」

「そんな喧嘩しないでください。北上さんが来てくれたおかげで、うちの艦隊は随分レベルアップできたんですよ。曙ちゃんもそう思うでしょ?」

「ま、まあね。北上さんは万年待機だったあたしを艦隊に戻してくれたしね。クソ提督は、妙にサイコロ運が悪いのさえどうにかしてくれれば……他はまあまあ……かな」

「曙ちゃん、ありがと~。吹雪ちゃんも、あ゛りがどぉ~~。」

 

 吹雪と曙を一人ずつ秘書官席に移動して、マウスでなでなでする提督。

 吹雪は「えへへへ」と笑い、曙は「う、うざいのよっ」とツンデレる。

 

「と、とにかく時間ないし、あたしも練度上げたいから、1回は出撃させなさいよね!」

 

 撫でられて赤い顔した曙が振り返る。そしてあたしを自前の剣な目でじろりと睨んだ。

 

「北上さん、行ける?」

「え? も、もちろn……」

 

 と言い掛けるが、途端にがたがたと震えが出てきて言葉が途切れた。

 

 お、おかしいな。

 

 曙はため息をついた。

 

「はぁ~。いいわ、あたしが旗艦をやるわ。北上さんは殿でついてきなさい。提督、そういう陣形に組み直して」

「わ、わかったわ。編成画面で、曙ちゃんをクリックして、北上さんのところへドラッグして」

 

 本来水雷戦隊の先頭に立つべき軽巡(あたし)が、情けないことに一番後ろにされた。

 

「じゃあ、気を付けてね。無理しないでね。本国艦隊、出撃してください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ざあああーー。

 

 鎮守府正面海域に現れたあたし達。

 旗艦は曙。2番艦が吹雪。3番艦に軽巡北上(あたし)という単縦陣の艦隊が大海原を進む。

 今日の海は静かだ。

 

 ピリリリリ。

 

「え、何? なんのアラーム?」

「はい、三枝です。え、先生? なんですかこんな時間に、なさけない声して」

 

 なんだ。提督の携帯に電話か。

 

「学習システムに繋がらない? 知りませんよそんなの。さっきわたしもやったけど、403エラーでしたよ。え? 削除したはずの宿題のメッセージが次々と生徒へ送られてるって? 学習システムって落ちてるんじゃないんですか?」

 

≪てきかんたいとのそうぐうがよそうされます≫

 

「ああ、敵艦隊が来る。あ、いえ、こっちのことです。単縦陣になってください。え? いやこっちのことです。403エラーってなんでしたっけ? いえ、そっちのことです」

「提督、大変だなあ」

 

『てきかん、しにんしました』

『いきゅう、えりーと1せき。はんこうせんです』

 

「イ級? 偉そうにエリートですって~? フフン、そうこなくっちゃね! みんな当てていくわよ!」

 

 旗艦の曙がやる気をみなぎらせる。

 

「頑張ってね、みんな! もうわたし見てるしかできないから。ああ、いいえ、こっちのことです。403エラーってアクセス拒否されたりしたときですね。ってことはシステム動いてますよ。アクセス権が変わっちゃったのかな。先生に言ってますよ?」

「中射程圏内よ、北上さん撃って!」

「14cm単装砲、てーっ!」

 

 ズドン、ズドン、ズドン!

 

「うーん、外れた。まぁあたしはやっぱ、基本雷撃よねー」

「あたし達も射程まで接近するわよ!」

「先生は管理者画面、入れないんですか? えぇ? そっちも403エラーですか」

「射程に入ったわ! いっけぇー!」

 

 ずどどどーん、どどどーん。

 どかん、どかん、どかん!

 

「当たったわ!」

「やったね曙ちゃん!」

 

『めいちゅうだんかくにん。だめーじ15ぽいんと』

『てき、しょうはです』

 

「先生、繋ぎ直してます? ええ、なんか今、応答がなくなりましたね」

 

『はんげき、きます。かくかんかいひうんどう』

 

 しゅるしゅるしゅる。

 

「く、来るよ!」

 

 この音はあたしへじゃない。だ、誰に?

 

 ドバーーッ!

 

「きゃーっ!!」

 

 2番艦の吹雪が水柱で見えなくなった。

 どどどーっと滝のような水が落ちると、上半身が黒煙につつまれた吹雪が両手をだらりと下げて現れた。

 

「ふ、吹雪ー!」

 

 あたしはスピードを上げて吹雪に接近する。近付くにつれ、首から上にモザイクがかかり始める。

 

「こ、これってヤバいやつじゃない!?」

「隊列乱さないで! 雷撃戦! 魚雷、発射ー!」

 

 曙の指令にはっと顔を上げた。雷装値がアップしたからか、敵が良く見える。敵を見据えて、左手の2連装魚雷発射管を構える。

 

「魚雷、発射ーっ」

 

 魚雷発射管に乗っかっていた妖精さんが操作すると、圧縮空気によって魚雷がしゅぽんっと飛んで、ざぶんと海に落ちた。航跡を引いて2本の魚雷がイ級へ向かっていく。

 

「艦隊、退避行動!」

 

 魚雷を放ったので、曙が退避のため針路を変えた。敵も魚雷を発射しているのだ。

 しかし胸から上がどうなってるかわからない吹雪は、ふらふらと漂っている。

 

「吹雪、回避運動! 聞こえてる!?」

 

 吹雪に声を掛けていたら、イ級がいた方から水柱が上がった。遅れて衝撃波と音がやってきた。

 

 ずどどーん!

 

『ほんかんのうったぎょらいが、めいちゅう』

『てきかんへ、だめーじ、20ぽいんと』

『てきかん、たいはです』

 

「あたしの魚雷で? 大破って初じゃない?」

 

『やった、やったー』

 

「あ、先生。学習システムのログイン画面が出ましたよ。そっち入れます?」

 

 喜んだのも束の間。

 

『みぎげん、らいせき』

『おうぎじょうにくるよ』

『よけろよけろ』

『これ、どううごいてもあたりまっせ』

『あたるよー』

 

「えっ、あたし!?」

 

『そういん、しょうげきにそなえー』

 

 ドドーン!

 

「うああぁーーっ!」

「誰!? 北上さん? 大丈夫!? いえ、こっちの話です。わたしログインできました。先生も早くやってくださいよ」

 

 下から突き上げるような衝撃に襲われる。

 

 メキメキメキ…… 

 

 嫌な音が脚の方から聞こえてきた。

 

「うあ、足が変な方向むいて……」

 

『すいせんかに、だいそんがい』

『かいすいがながれこんでまーす』

『どうする? にげる? たいかんする?』

『ぼうすいにぜんりょくつくせー』

『しゅほうはぶじ?』

『うてるよー』

『おのれ、いちげきおみまいするざます』

『きかんへ、はっこうしんごうおくれ。ほんかんにかまわず、やせんにとつにゅうされたし』

 

「た、大破進軍はやめて! ねえ、足が変で、真っ直ぐ走れないんだけど。ねえ、そこの少し離れたところに、足みたいの見えない? ありゃ……傾いてきた」

「吹雪と北上さんが大破したわ! クソ提督、撤退指示して!」

「大変! 撤退してください! 曙ちゃん、二人を港までよろしくね! 先生、ちゃんと動いてそうだから、あと頼みます。おやすみなさい。みんな大丈夫!?」

「あたし一人で二人を曳航するの? 誰か助けてーっ!」

 

 

 1-1-A海域 イ級1隻のパターン1(ただしエリート)

 旗艦:曙

 MVP:北上

 累積EXP

  吹雪:288

  曙 :170

  北上:150

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。