紅葉色の水平線に勝利を刻むんじゃ!   作:RightWorld

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第3夜

 

≪提督が鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮を執ります≫

 

 入渠のおかげですっかり治った(直った?)あたしこと軽巡「北上」は、艦これのオリジナル北上同様、けだるげに鎮守府に流れるこの放送を聞いた。

 間もなく目の前に現れるであろうここの鎮守府の提督を思い浮かべ、今日もパジャマ姿なのだろうかと思案する。そろそろ自分の置かれている状況をしっかり把握しなければならない頃だ。転生して早3日目……だったはずだ。

 

 あのインチキ臭いガキみたいな神様に、一応希望通りの艦これ世界に飛ばされたものの、提督ではなく艦娘にされたうえ、チート能力も付与されたのか今のところわからない。いや、貰えてないような気がしてならないんだけど。そして周囲を見回しても、なんだか情景が見えないのが妙だ。ここが鎮守府なるところなら、ご立派なレンガ造りの建物とか、艦娘寮とかで他の艦娘とうっふきゃははと戯れるとか、甘味処間宮で巨大なあんみつを頬張ってみたりとか、艦娘ならそれはそれで、いろいろやってみたいことはあるのだが……なにも見あたらない、というか見えない。

 

 他の艦娘はどうしたのかな。唯一知っているのといえば……

 

「吹雪ー」

 

 唯一知っていて、面識のある駆逐艦「吹雪」を呼んでみた。

 

「はぁーい」

 

 明るく元気な声が聞こえてきた。何もない向こうからセーラー服の少女がてってけ走ってやって来る。それほど長くない黒髪を後ろで一つに縛ってる、まがいない「吹雪」だ。

 

「ふぎゃっ!」

 

 あ、こけた。うわぁ、パンツ見えたぞ。やっぱあんな短いスカートはいてりゃそうだよな。

 

「きき、き、北上さん、こんにちは!」

 

 ぴしっと敬礼してきた。元気だな~。設定の通りだ。しかし顔真っ赤だよキミ。

 

「み、見苦しいところを見せてしまいました……」

「気を付けなよ~。もう傷は大丈夫なの?」

「はい! たっぷり入渠したので、この通り完璧です!」

 

 むんっと力こぶを見せて修理出来ていることをアピールする。

 

 ……普通の女の子の腕だな。力こぶなんて殆どできてない。この細腕であんなバケモノと戦わせるなんて、何て酷い世界だ。いや、そこに自分で望んで来たんだけどさぁ。

 

「あ、提督が来たみたいなので行ってきます。わたし秘書艦なんです」

 

 そう言って何もない向こうへ走り去っていった。

 

 吹雪が秘書艦。

 まあいいさ。いい子だし、常にポジティブだから、提督が傍に置いときたいと思うのは良くわかる。

 第1艦隊(ここでは本国艦隊というらしいケド)の1番艦、つまり旗艦ってことだよね。昨日の出撃でも先頭に立ってたし。その第1艦隊にいたのが、昨日は吹雪とあたしだけだった。他の艦娘、いないのかな? 深海棲艦に海上封鎖されて苦しんでいるはずの国を守る拠点の一つなはずだと思うんだけど。他の鎮守府とも連携取ってるんだろうが、配備されてたのが吹雪だけ?

 

 腕組みして考える。奇妙なようだが、無くもないシチュエーションが一つ思い浮かんだ。

 

「いやでもそれは……」

 

 そこにたったと吹雪がやってきた。

 

「提督が本国艦隊を再編成します」

 

 吹雪がそう言うと、目の前にあの女提督が現れた。

 

 ああ、やっぱりパジャマなのね。これがあんたの制服ですか。

 

 さっき思い浮かんだシチュエーションがちらついてくる。

 

「北上さん、昨日はごめんなさいね」

 

 一応、本当に申し訳なさそうな顔で謝っている。根は悪くなさそうだな。

 

「もうすっかり直ったようだし、今日は北上さんを旗艦にしてみようと思うの」

 

 あたしがびっくりしていると、吹雪は嬉しそうに目をキラキラさせて見つめてきた。

 

「水雷戦隊の旗艦はやっぱり軽巡じゃなきゃね。吹雪ちゃんは今までご苦労様。これであなたの肩の荷も下りるわ」

 

 さらにびっくりしているあたしに、吹雪は今までの事を思い起こしてか、涙ぐんでまでいる。

 

「では、軽巡洋艦北上さん、本国艦隊旗艦に任命します」

 

 席次が吹雪と入れ替わった。

 

 え~? という迷惑そうな顔のあたしに対し、吹雪の嬉しそうなこと嬉しそうなこと。艦種として格上のあたしが旗艦に座った事によるものか、今までの重責から逃れた事への安堵か。

 

「あ、という事は北上さんが秘書艦になるのね。そっか~」

 

 第1艦隊の旗艦だからそうなるか。何やればいいんだろ? 知らんぞあたしは。提督が入室してきたら挨拶したり、時報告げたりしてりゃいいのかな?

 

 しかし女提督は頬を少し色付かせると、ちょっとやらしい目をして身の危険を感じるような言葉を投げかけてきた。

 

「さっそく北上さんをいろいろいじってみなきゃ。執務室行きましょ」

「んな!?」

 

 いじる!? こいつ何する気!?

 密室(提督室)に艦娘を閉じ込めて、そこで上官の立場を利用して抵抗できない部下に好き放題、あんなことやこんなことを!? そうか、それで吹雪はあんな嬉しそうに……きっとこいつに毎晩いじくり回されてきたのだろう。それから逃れられたからの、あの安堵の表情。それでか!

 

 吹雪のいい人印象に大きな疑惑が浮上する。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 あたしは提督執務室にいた。

 さっきまであんなに吹雪に裏切られた気持ちや、女提督にナニされる恐怖でパニくっていたが、やって来た執務室の風景を見ていっぺんに冷めた。

 

 部屋の中央に積み上げられた段ボール箱の山。

 まさかと思っていたシチュエーションが蘇ってきた。

 

「改めまして。私はこの鎮守府の提督、三枝紅葉(さえぐさもみじ)。末永くよろしくね、北上さん」

 

 トラックじじいのもみじマークが蘇ってきた。相変わらず縁起でもない名前だ。

 

 そしていよいよ、女提督が目尻を下げて目の前に迫ってきた。

 

 きゃあ! やめて!

 

「うふふふ。さぁて、北上さんはどんな事を言ってくれるのかしら」

 

 いやあああ!

 

「抵抗しても無駄よ。うふ、うふふ、つんつん」

 

 あうぅ!

 

 胸の辺りを突っつかれた。

 

 「……」

 

 それは、いやらし気な挙動の手ではなかった。

 

 そもそも、手ではなかった。

 

 硬い、棒のようなものに突かれたような感じに似ていた。

 

 つんつんは、マウスクリックだったのだ。

 

「こ、これ……艦これゲーム、なの?」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「こ、これ……艦これゲーム、なの?」

 

 オレの呟きに、女提督は一瞬あっけにとられたように顔が固まった。

 大きな目を2,3回ぱちぱちさせると、

 

「はれ!?」

 

とか奇声を上げた。

 

 提督執務室に積み上げられた段ボール箱の山。秘書艦が吹雪。他にいなさそうな艦娘。パジャマ姿でいつも現れる女提督。鎮守府建物や廊下や艦娘の部屋が明確に出てこない情景。

 

 あたしは察してしまったのだ。

 艦これは艦これ世界なんだけど、天性モノで一般的な、実体の艦娘がいる世界ではなく、艦これゲームの仮想世界に行ってしまっている!

 

 艦これ初めたばっかりで、最初に選択する初期艦に「吹雪」を選び、まだ建造やドロップ艦がない状態、提督室の模様替えも出来ず、学生なので日中はできないから、夜寝る前にゲームをやる。だからパジャマ姿……

 

 まさかと思ったシチュエーションにどストライクだ。あのインチキ神様~!

 

 いやでも海戦では海を疾走したし、受けた攻撃は実際に痛かったというのはあるんだけど……。吹雪にも触れたし、あそこだけ艦これアーケードの実体世界なのかな?

 

 ゲームオーナーの女、紅葉(もみじ)は真剣な顔になると、恐る恐るという感じでまたあたしを突っついた。くすぐったい。

 

「あなた、ゲーム始めたばっか?」

「ほわっ!」

 

 あたしが発した質問に、紅葉はびっくりして後ろにのけぞった。

 

「だって他に艦娘いないし……」

「はわわわ!」

 

 指をかじって暫らく引き気味になっていたが、じりじりとにじみ寄ると画面に食らいついたのか、食い入るように見つめてくる。あたしはどこからこの娘を見ているのだろう。パソコンのCCDカメラか?

 

「……え、えっとね、1ヶ月くらい、かな」

 

 なぬ!?

 それはそれでびっくりだ。思わず口走ってしまった。

 

「1ヶ月やって、まだ吹雪とあたしだけ? それで鎮守府正面海域でボロ負けする練度?」

 

 女提督の顔が真っ赤になり、半開きになった口の輪郭が波線で描かれた。

 

 バムッ!

 

 急に目の前が真っ暗になった。

 しゃりしゃりカリカリとハードディスクだかSSDだかにメモリの内容が退避される音がした。

 

 あ、成程。パソコンのスリープ状態へ移行してる音だったのか。あの女、ノートパソコン閉じたんだな。

 

 待機電源状態になったのか、あたしの意識も待機状態になったようだった。

 

 

 




どうも、RightWorldです。
勢いで艦これ二次を書いてしまいました。
ここまで来てようやく飛ばされた世界の片鱗が見えるとこまできました。……もっといい書き方ないんじゃろか。
更新ペース落として細々続けていきますので、気が向いたら励ましのお言葉など残していっていただければ、それを糧にがむばります。
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