紅葉色の水平線に勝利を刻むんじゃ!   作:RightWorld

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第4夜 その1

 

≪提督が鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮を執ります≫

 

 今あたしは秘書艦である。提督と真っ先に顔を合わせる艦娘である。

 

 その女提督は、それはそれはおどろおどろしいものを見るように、慎重にこちらを窺っていた。ノートパソコンの開き角度は30度といったところか。昨夜、艦娘セリフにないことを口走ってしまったので、警戒されてしまったみたいなんだ。

 ここはやっぱり、規定のセリフを言った方がいいんだろうか。

 

「あ、あたし北上。まあよろしく」

 

 こ、こんな感じだったよね? 北上のセリフなんて覚えてないよ? もうなんか既に間違えてるような気がするし……。

 

 紅葉(もみじ)とかいう、転生前のあたしにとっては非常に縁起悪い名前を持った女提督は、じーっとあたしを横眼がちに見続けていた。ちょっと間をおいてから、目を逸した。今日は片手にスマホらしきものを持っている。それをちらりと見たようだ。

 

「……セリフから『軽巡』って言葉が抜けてる」

 

 ぐはっ!(吐血)

 

 そ、そうか。正しくは「あたし軽巡北上」だったか。んなの覚えてるわけなーいじゃん!

 

 紅葉は引き続きあたしを観察し続けてる。何が飛び出してくるか分からない箱の中を見る訳じゃなし、ノートパソコンの画面をそんなふうに警戒して見る人、初めて見た。フィッシングメールとかウィルス感染ファイルとか見る時も、そんなふうにするんだろうか。そんなことしても何の防御にもならないと思うケド。

 

 意を決したようにノートパソコンが完全に開かれた。今日は顔しか見えない。机の上にノートパソコンを置いて、地べたに座って顔だけその高さにあるという感じで操作してるみたいだ。

 その後、紅葉はあたしの方を、つまり画面をじい~~~と見続けているだけだった。

 

 えーと、北上の放置時のセリフってなんだっけ。魚雷が重くて肩が凝るみたいな……

 

 そろそろ言ったがいいかななどと考え出した数分経過した頃、ようやく紅葉が口を開いた。

 

「頭で考えてるだけじゃ何も伝わらないみたいね。口で言うと伝わるのかな」

 

 そう言えばこの娘、声に出しながらゲームの艦娘に話しかけてたっけ。変わった奴だ。

 

「言っとくけど、わたし1ヶ月ほぼ毎日やってたんだからね。始めたばっかりの初心者じゃないんだよ。せ、戦果はぜんぜんないけど……」

 

 やっぱり驚きだ。毎日何やってたんだ。鎮守府正面海域なら最初の1艦、つまりここでは吹雪だけど、その吹雪を出撃させるしかないわけで、しかも出撃させれば少なからず戦果が出て、練度も上がって、ドロップ艦の1隻や2隻手に入ってもよさそうなもんだ。だいたいそうでもしないと先進まなくて、ゲームやる方だってやめちゃうよ。よくやめなかったな、この娘。

 

「吹雪のレベル今幾つ?」

「えげっ!?」

 

 また紅葉が変な悲鳴を上げた。いやこれはあたしが悪い。また北上のセリフにない事言ってしまったから。

 

「……レベル2、かな」

 

 はあ!?

 

「信じらんない。1日あればその倍は行くでしょ」

「ひあっ!」

 

 しまった、またセリフにない事言ってしまった。だって毎回常識外れなスコアなもんだから。

 それにしても不思議だ。頭の中の奥の奥は転生前同様、男のままなのに、モノローグとか、口から出る言葉は女言葉に矯正させられている。しかもあの気怠げな北上の声にだ。可愛さとか色っぽさとはあまり無縁な声色だけど、それがかえって恥ずかしくなくていい。いや、北上さんが可愛くないわけじゃないよ。

 おわっ! 紅葉が目に涙を滲ませてる!

 

「だけど強いのよ最初の敵。あなたも戦ったでしょ」

 

 運が悪かっただけじゃないのかねぇ? 何回か回せばいくらなんでも乱数だっていい数字が出るでしょ。だいたい提督レベル最低で最初の海域はいい値が出るように補正されたりしないの? ゲーム作ってる側じゃないから知らんけど。ところで……

 

「あたしはどうやって出現したの? ドロップ?建造?」

 

 おおおーっと紅葉さん、驚きは驚きでも、今までとは種類の違う驚きを見せたよ。

 

「け、建造だよ。なにしろ勝てないから、ドロップで艦娘手に入らないのよね」

「あたしと吹雪以外も何隻か建造した娘いるの?」

「ご、5隻程いるよ」

 

 なんだ、少しは戦力あるんじゃない。

 

「艦隊には6隻まで配備できるよ。そうすれば鎮守府正面海域くらいならすぐクリアできるよ」

「おひょおおおおおー!?」

 

 感嘆で奇声を上げた。こいつ、いちいち感情表現に変な奇声を加えるなぁ。うざ。

 

「も、もしかして北上さんって、AI? それもゲームをうまく導いてくれるヘルパーみたいな機能を持ってるの?」

 

 あ、なんかまた勘違いされてる。でもAIかあ。自由に喋れる艦娘としてはいい設定かも。

 

「そうだよ。あたしはAI北上さん。下手っぴな提督を助ける為にたまに現れるレア艦だよ」

「うひょおおー!」

 

 チョロいぜ。

 

「ありがとう、ありがとう! これで1面もクリアできないダメゲーマーを卒業できるよ!」

 

 1面もクリアできない? 他のゲームもこんな調子なの? それはもう才能じゃないだろうか。

 

「レア艦だから、間違って解体しないようロックしといてね」

「ロック!? そんなのあるんだ! どうやるの?」

「母港で艦隊の編集するところへ行ってみて」

「わ、分かった!」

 

 どうやらAI北上さんで通していけそうだよん。暫くはこれで安心だねぇ。

 

 

 

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