紅葉色の水平線に勝利を刻むんじゃ! 作:RightWorld
ロックもしてもらったところで、さっそく艦隊の編成に取り掛かる。
本国艦隊(第1艦隊)の部屋に来ると吹雪が待っていた。
「お帰りなさい、北上さん。提督の機嫌はどうでした?」
電脳世界なはずだけど、この艦娘と実体交流できるのはどういう仕掛けなんだろう。あたしに取っちゃありがたい仕様だけど。ユーザーが見えないところを丁寧に作り込むことはないだろうし。もしかして将来公開される機能なんだろうか。
「まあまあ良かったよ。あたしが指導して、ちゃっちゃと鎮守府正面をクリアすることにしたから」
吹雪がぱあっと明るく微笑んだ。
「えー? さすが北上さん! 戦い方を心得てるんですねえ」
「まだ鎮守府レベルも最低だし、正面海域なんて敵の数はたかが知れてるんだから、数の優位で押せば簡単に突破できるわよ。それじゃ提督、さっそく他の艦娘を配備して」
「わ、わかった」
紅葉の声はなぜか少し怯えていた。
少し間をおいてやって来たのは、長い髪を右に束ね、束ねたところに赤い花の髪留めと鈴を付けた、青基調のセーラー服の駆逐艦だった。不機嫌そうに眉を吊り上げ、剣な目つきでこっちを睨む。
やや、こいつは……
提督は恐々と本国艦隊にやって来た駆逐艦に愛想笑いを送った。
「や、やあ。久しぶりね」
「特型駆逐艦『曙』よ。ってこっち見んな、このクソ提督!」
「ひいぃ!」
紅葉が頭を抱えて首をひっこめた。ああ、なんとなく紅葉がこの艦娘を艦隊に加えなかったワケが分かった気がする。
曙かあ。確かに初対面でいきなり“クソ提督”呼ばわりだから酷い奴だ。いや、これがたまらんという変態提督もあまたに存在するんだけど、それはこの艦娘と長く付き合って、限定グラとか、時折見せる実は提督を慕っているというツンデレに気付いてからだ。最初の入り口で拒絶してしまうとそれを知らずに終わってしまう。
「提督、彼女はいろいろあってやさぐれているけど、根はいい娘だから。最初のうちは我慢してあげて」
「なに、あたしを庇護してなんの企み? 小艦艇をウザがる軽巡北上ともあろうものがあやしいわね」
うぐ!
提督以外にも言うのか。艦娘語録にもないセリフを浴びせられて、こっちも心がへこむよ。曙の中でも特に酷いやつかな。とりあえず放っといて先へ行こう。
「あと3隻配備できるから、残りもやっちゃって」
「う、うん。……あれ?」
紅葉は必死に操作しているようだけど、思うようにならないみたいだ。
「ばっかじゃないの、クソ提督。配備できるわけないじゃない」
ふてくされて投げやりに言う曙に、あたしも分からなくて聞き返した。
「どうして? なんで配備できないの? 曙」
曙は無言で、「待機部屋(牧場)」と書かれたドアを開けた。
うわお!
「何? なんか用?」
「こっち見んな! このクソ提督!」
「だ~か~ら~! 何なの?!」
「気に入らないなら、外せば?」
待機部屋にうようよといたのは、全員曙だった。悪態の大合唱である。さすがにこれは紅葉でなくても堪える。
「み、みんな曙かあ。同じ艦娘は同じ艦隊には配備できないから、確かにこれは無理だねぇ。なんでこんなことになっちゃったの?」
「建造したら、みんな曙ちゃんだったの」
吹雪が困ったような笑顔をして答えた。なんて運のない提督だ。
「じゃあ今はどうやっても3隻編成にしかできないってことか~」
「ど、どうしよう北上さん」
本当に困った顔の紅葉さん。
「うーん、そうだねぇ。そしたら艦娘を強化しようか。出撃しなくてもできるし」
「え? 出撃しなくても強くできるの?!」
「提督、本当に何も知らないんだねえ。任務のチュートリアルにもあったでしょ。「近代化改修」っての」
「うう、やってない。だってあれ、艦娘を壊してバラバラにして、一人の艦娘の改造の材料にされるんじゃないの? バラバラにされちゃう娘かわいそうじゃない」
「艤装合成って言ってデイリー任務にもなってる普通の事だから、気にしなくて大丈夫だよ。だいたいそうでもしないと持てる艦娘の数には制限があるんだから、いずれいっぱいになって新しい艦娘を手に入れられなくなるじゃん」
「本当に、痛いとか酷いことにならない?」
「改修された方は強くなるし、中には気持ちいいとか言う娘もいるみたいだから、気にせずやろう。さしあたり曙が5隻もいるから、みんなこの曙に合成させちゃおうか」
この口の悪さを1つにしてやらないと、紅葉の心、いやあたしもたないかもしれない。
「母港の改装のところからやるのよね」
「か、改装とかいって、私の裸が見たいだけなんでしょっ、このクソ提督!」
「はうう!」
「は、早いよ曙、そのセリフ言うのは。提督、任務選んでからやってよね。報酬をもらえないよ。報酬はバカになんないよ」
≪提督、任務を遂行してください≫
「き、北上さん。この人、大淀さんよね! 鎮守府にいるの? 艦隊に加えられないのかな」
「その大淀は任務の説明とか連絡をしてくれるだけだから戦力外」
「そうですか……」
紅葉はしょんぼりとした。
こうして4隻の曙を強化材料にして、残った曙の雷装が+4された。
「こんだけ? たいしたこと無いわね」
「はわわわ! ごめんなさい!」
う~む、口数が一つに集約されたが、曙は曙だ。
「さあそれじゃ提督。出撃しようか」
「うん……あ、待って! もう11時だ。ごめんね、もう寝る時間だわ」
紅葉さん、就寝時間は午後11時と厳格に決めているみたいだね。夜更かししてまでゲームはしないらしい。偉いっちゃ偉いけど、なかなか進まないのは、これも一因なのかな。もどかしい。
「そう、しかたないね。それじゃ最後に建造をやっておこうか。寝てる間にできあがるし。資材はどれくらいある?」
「このところたいして出撃してないから……わ! ボーキサイト除いて1000も溜まってるわ!」
レベル1提督の最大値だ。そんじゃ提督が建造に着手してる間に、あたしは吹雪と曙に声を掛ける。
ちなみに艦娘同士の会話は普通にできるけど、規定セリフ以外のは提督には届かないみたいだ。
「今日はもう店じまいだって。提督が建造の手配をしたら、あたしらも明日まで休みだよ」
「それじゃ明日は新しい仲間と出撃ですね」
「クソ提督の事だから、またあたしを作るかもしれないわよ」
あたしと吹雪の表情が一瞬固まった。
そ、それは大変だ。
今、一瞬、吹雪と心が通じたよ。間違いなく。
「よーし、建造開始したわ! 明日は戦艦を艦隊に入れるわよ!」
「せ、戦艦!? まだこのレベルじゃ無理じゃないの?」
「だって資材思いっきりつぎ込んだのよ」
「……いくつ入れて建造したの?」
「燃料、鋼材、弾薬それぞれ900にボーキサイト400」
「そ、それで建造時間は?」
「建造時間? えっとね、20分?」
く、駆逐艦だ!
「提督、それだとできるのは駆逐艦だよ!」
「え? 時間で何ができるか分かるの?」
「戦艦や正規空母なら4時間以上かかるから」
「……」
紅葉は絶句、息が止まったようだった。口を尖らせて青い顔になってた。
「資材無駄にしやがって、この無能クソ提督が」
「あはは、あしたの出撃はないかもしれないね、燃料不足で」
セリフ集にない言葉は提督には届いていない。あたし以外のは。今はよかった。特に曙のが聞こえなくてよかった。
「まあ提督、誰ができるか明日の楽しみにして、終わりにしなよ」
はっと我に返った紅葉さん。
「あ、ありがと。続きはまた明日」
そう言って紅葉は立ち上がった。全身が見えた。今日はパジャマではなく普段着だった。
「明日こそ暁の水平線に勝利を刻もうね」
そう言うと、紅葉は上着のボタンに手をかけた。何ともなくそれをぼ~と見ていたら……ボタンを次々に外し始めるので、「え!!?」っと慌てた。
紅葉さん、着替え!?
まだノートPCは開いたまま。電源入ったままである。
「それにしてもAI北上さんってすごいね。密林とか、りんごとかのAIスピーカーみたい。艦娘以外のことも相談できるのかなあ」
シャツのボタンをはずし、脱ぎ去った。
えええええ!
控え目な胸のふくらみを覆うブラ、脱ぎ捨てたスカート、そしてリボンのついたパンツ。ちょっとお尻に食い込んでたりして、それを直したりとか、めっちゃリアルな……
ちょ、ちょっとお! あ、あたし、まだ見てるんだけどおおおお!
そしてパジャマを羽織った。昨日までの薄いピンクのから変わって、今日は少しブルーの入ったのである。前のは洗濯したんだろうか。
「き、昨日のとパジャマ違う」
あたしがそう呟いた途端、ボタンの一番上をとめた状態で紅葉がこちらを振り向いた。そしてしだいに驚愕も驚愕な顔になった。みるみる顔が赤くなっていく。
「み、見える……の?」
し、しまった。
飛びかかってきた紅葉がばむっと勢いよくパソコンを閉じた。
「AIじゃなくて、どこかのオペレータだったの!? そ、そういえばAIスピーカーに話しかけたのって、オペレーターが聞いて分析してるんだって! もしかして北上さんを装おってわたしを覗き見てたの! やだああ!」
やばい、サポートに連絡されるかも。そしたらこの鎮守部ごと消されるかも。あたしもそれで終わりかも。
ノートパソコンはスリーブ状態に移行した。
短い転生人生だったなあ。