ショーワのトレセン学園   作:zaq2

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選考競技会

 日本ウマ娘トレーニングセンター学園

 通称、トレセン学園

 

 

 日本全国から集う、競走競技に関するウマ娘たちの育成を担う学び舎

 

 

 もともとは各地の競走競技場内や、その近隣にそなえていた教育機関だったものが、過去の大きな戦争により物資は徴収され、人材ともいえるウマ娘たちも召集されては、競技界隈を色々な不足に悩ませていた。

 

 その不足の中での戦後の混乱、何もかもが不足する事態によって経営が危ぶまれたが、それでも存続させようとする有志の力添えにより再編を得て、地方は地方に根付く形で、中央はその大きさから点在していた拠点を一時的に東は美浦、西は栗東へと、それぞれに統合することにより再び歩き出し始めた。

 

 

 そして、その後の経済成長とともに発展を続けては、それまでにも各種地方競技会場も地区を限定され、中央競技会においては東と西に一時的に集約されていた施設も、その役目を終えたのか、さらに統合される形にもなり、"日本ウマ娘トレーニングセンター学園"として、一つの巨大な施設と組織へと変貌していった。

 

 

 

 

 そんな巨大な学園において本日、競走ウマ娘たちの選考競技会が開催されていた。

 

 

   *   *   *

 

 

 選抜競技会。

 今は選考レースと名前が変わったっけか。

 

 この選考レースにおいてウマ娘たちに対して指導員との契約がなされて担当が付く事になる。

 

 違った。今は"指導員"という名じゃなく"トレーナー"と呼称するんだったか。

 

 とりあえずは、その指導員資格を持つ相手との契約を得たウマ娘だけが、本選ともいえる明星競技大会という名誉ある競技会への出場する権利を得られ、その競技会の名だたる競技で勝ち続ければ、年度代表や日本一という栄冠を得られる。

 

 

 そのために、彼女たちも必死に選抜き・・・選考レースに挑んでいる。

 

 

 というのだが・・・

 

 まぁ、自分としてみれば以前所属していた京都と栗東の事務局員のかたわら"持っていたら食いっぱぐれしないだろう"という魂胆で、地方と中央の指導員免許を取得をしてみたものの、その後の再編やら何やらの荒波の飲まれる恰好になっては、このトレーニングセンター学園の指導員として招集枠で集められた訳なのだが・・・

 

 

「自分がココにいるってのが、ほんと、何でなのかね」

 

 

 招集枠という枠に選ばれる。

 

 そう聞くと、運がよかった、実力があったのだろう、と思う人がいるだろうが、実際は、その枠に入った経緯も知っているために世の不条理と感じてしまった。

 

 "将来有望となる若者指導員を集め、未来に備える"

 

 そんな内容で募集が始まったのだが、その理由は巨大な施設となったトレセン学園に人材がまったく足りてなく、とにかく人を集めるという趣旨で、各地元の地方事務局から事務員から指導員にまで募集という名目で転属者を募っていた。

 

 地元の競技場は競技場で、レースを行うための運営費用が贅沢に使えるとは言えない状態であったのは、事務員をやってた時代に知りたくもない情報が嫌でも入ってきていた。

 

 そんな中、中央への転属枠で表向きに言えば将来の為、裏の話としては人件費削減で経営費用を少しでも減らすためにと、送り出すには恰好の良い案件だったってわけだ。

 

 

 さらに言えば、保身に走った地元経営陣にとっては、とにかく築き上げた立場は崩したくない、けれど表向きは"協力しましたよ"といえるアピール行為、さらには人件費という経費削減を職員をクビにする訳でもなく、栄達という恰好で薦める事すらできる。

 

 

 そんな"大人の事情"って奴が多大に含まれては、まだ30代でなおかつ中央の指導員免許を持っている自分が、まっさきに"追い出せる枠入り決定"したってわけだ。

 

 そんな経緯を送別会の酒の席で同じ事務課の奴の情報通から、体のいい厄介払いにされたって事だとぶっちゃけられたときは、ああ、やっぱりな、と思ったぐらいだった。

 

 

 そうして振り回される形でやってきた学園においては、一応は飯のタネともなる役職なのだからと、自身に与えられた役割をこなそうと、何度目かになる選考レースに顔を出してはみたものの・・・

 

 

「はぁ、やっぱりわからん。こういうのは、経験が一番重要だよな」

 

 

 こうなってくると、周囲にいる聞いたことのある名のある指導員たちから、こちらを異端者を見るような視線を常に感じてしまう。

 

 しかたがない、なにせこちとら資格を持っていたとしても、地方でも中央でも育成経験の"イ"の字も経験してないズブの素人同然である。

 

 そして、来た時に知らないために()()()()()()()()()()だってもっている。

 

 そんな、()()()()()()()()()()()()()を見る視線を感じながらも、今の競技会で交わされる指導員たちの会話に聞き耳をたてていくのだが、

 

 

「あの娘の末脚は、見る物がある」「息をいれるタイミングが絶妙」「位置取りも申し分ない」などなど・・・色々な見るべきところを見ているという会話が聞こえてくる。

 

 だが、経験も何もない自分にとっては、目の前で走る彼女たちの雄姿は、ただただ"速く走るなぁ"という印象でしかないのである。

 

 もちろん見るべき所は指導員にとっては基礎でもあり、講習で教わる歩き方、走り方、レース運びに、はては筋肉や骨格の状況確認など、基本的な所は見るようにはしている、のであるが・・・

 

 

「どれを見ても、おんなじにしか見えねぇ…何処の何を見ればいいんだよ」

 

 

 コース柵に肘ついては顎を載せながら観察していくが、どのウマ娘がすごいのかすらわからないために独り言ちる。

 

 そうこうしている最中にも、トレセンお抱えのトレーナーたちはお目当てとなるウマ娘たちへと声をかけては自身の班、じゃなくチームへと勧誘をかけにいっている。

 

 

 ウマ娘たちにとっても、競技に出場するための最低限として指導員の班、つまりはチームへと所属することがレースに出るための最低条件でもある。

 

 その為、この選考会でウマ娘たちは実力を指導員たちに見せるために頑張っているのである。

 

 

 なお、現在わがチーム「北極星(ポラリス)」は今現在もってしても0人。

 

 そう、ゼロ人。

 

 

 チーム名は、過去に結果を残したウマ娘もいた伝統ある班だとかで、戦時中に一度解散しては消滅した名を、自分が指導員に割り当てられる時に学園側から無理矢理ともいえる形で押し付けられた名でもある。

 

 とまあ、上から色々押し付けられ、邪魔者扱いで経験も何もない地方出身の指導員。

 

 実績も無けりゃぁ名声も何にも無い無い状態。

 

 一年目は大目にみてもらっていたが、さすがに0人のままでは不味いと思われたのか、学園側から要注意的なお話が出てきた始末である。

 

 それならばと、少なくとも指導員として励むために選考競技会場に赴いているわけなのだが

 

 

「まずは、班員がいなきゃ何もできん。って言うのは分かるが、わかるがなぁ・・・」

 

 

 ひた向きに走っている姿は、人のそれと何ら変わらないウマ娘。

 

 何かしらの感情や感動、思いや熱意などなど、そういうものを感じる人はいるらしいが、自分にとってみれば"ただはやく走っているだけ"にしか見えない。

 

 

 何か"輝くモノをもっている"とかも解らない。

 

 

 どれが良いのか、どこが良いのかがサッパリわからない・・・

 

 

 指導員として所属しているにもかかわらず、指導する相手も見極めれないまま、ダラダラ選考会の時間が過ぎていく。

 

 目の前では、目標をもって走っているウマ娘たちを眺めるていると、あんな彼女たちのウマ生を左右する事を、こんな自分が携わって良いものか?という気にもなってくる。

 

 いっそのこと、辞表でも出してスッパリと辞めてしまった方が、世のため、人のため、学園のため、ウマ娘のためになるんじゃなかろうかと思ってしまう。

 

 

「「ほんと、何でトレセン(ココ)にいるんだろ・・・」」

 

 

 ん?

 

 まったくもって同じ言葉を発した声の方をみると、気が付かなかったが、地面に座りこんでいる人物がいた。

 

 相手も、こちらに気づいたのか、こちらを見あげてきたが・・・

 

 

「「・・・・」」

 

 

 言葉を発することなくお互いが見つめあう。

 

 なんだろう、やる気というのが微塵も感じられない。

 感じられないというか、自分と似た雰囲気で選考会という空気の中を斜めに見ている気がした。

 

 

「トレーナー・・・?」

「ん?あぁ、まぁそういう仕事に"席"だけ、は、あるかな・・・」

「ふーん・・・」

 

 

 そうして、新たに始まった選考競技会を眺めていた時に、不意に言葉をなげかけられた。

 

 

「勧誘しに行かへんの?」

「正直、どのウマ娘を勧誘するべきかってのがサッパリわからん」

「・・・そんなんでトレーナーやってはんの?」

「ほんと、どうしてオレ、トレーナーやってんだろうなぁ?」

 

 

 言い返せる理由もなく、ただ黙ってその言葉を受けるしかなく、それでもターフを間近で見るために視線を戻すと、スタート位置にいる一人が、こちらに向かって手を振っているのが目に入る。

 

 

「マツー!!次、出走だよー!!」

「えぇ、もぅー?」

「そろそろちゃんとしないと、コダチ姐にしかられるよー?」

「え、それ、かなんて・・・よっこらしょっと。ほんならトレーナーさん、ほな」

「おう」

 

 

 気だるげにそう返事しながら、念のためにと手持ちの箋挟に止めてある出走表を見ようとしたとき、資料に影が映る。

 

 なんだ?と、視線をむけてみると、コースの柵を手を使わずにその脚でゆうゆうと飛び越していたのは、先ほどまでのやる気の無かったウマ娘が視界に入っていた。

 

 

「えっ?この高さを・・・?」

 

 

 柵の高さといえば、自分の胸下ぐらいの高さもあろうところ。それを飛び越えたというのであろうか?

 そうして、軟着地したかとおもえば、そのまま軽く走っていったウマ娘を眺めていた。

 

 

 背中に見える番号、そこから手元の出走表に視線をむけては当てはまる名をさがすと、そこには"マツカゼ"という名が記されていた。

 

 

 

 

 

 

 それが"淀組"と呼ばれるウマ娘たちとの最初の出会いだった。

 

 

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