ショーワのトレセン学園   作:zaq2

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いろいろと修正と追記
主に、キャラクター説明的な部分など。


選考レース

「マツ、さっきのトレーナーの人と何話てたの?あ、まさか契約で声かけられたとか?」

「あらへんあらへんって。それにまだ走ってないでしょ」

「あ、そうだった。けどさ、真面目に走ったらコダチ姐よりも速いのにさ」

 

 

 幼少のころ、京都の方に転入してきた時に、セっちゃんのお姉さんと、その友達という上級生であるコダチ姐と競うことになって、みんなを追い抜いてゴールしたことがあった。

 

 ただ、その頃は小さい頃の話で、大きくなるにつれて競う事・・・うん、走る事すらなくなっていったっけ。

 そんな昔のことをふと思い出したりしたが、

 

 

「それ、いつの話?今じゃぁ、届かへんって・・・よいしょっ・・・と」

 

 

 そう、届くわけがない。

 

 なにせ、コダチ姐は小さいころから東京優駿で勝利を掴む事に情熱を注ぎ、そのためにこのトレセン学園に仲間内から率先して入り、そして、その言葉どおりに"無敗で東京優駿を勝ち取った【二冠】ウマ娘"なのだから。

 

 そんな、すごい結果を残しているコダチ姐に、競走の「き」の字すらまともにやってない自分が速い訳がない・・・

 

 

「えぇ、そんな事ないと思うけどなぁ・・・って聞いてる?!」

「はいはい、聞いてますよー」

 

 と、聴き流しながら準備体操を行っておく。

 

 特に脚の方を入念にほぐしておかないと、走った後の調子がよくないのを経験してからは、少なくとも授業などでも重点的に行うようにしていた。

 

 そしてふと、声をかけてきたセっちゃんの方は、そういえばどうだったんだろう?と思い

 

 

「あれ?そういや、セっちゃんは走ったん?」

「うん。とっくに走り終わってトレーナーさんたちからは声がかかったけど…」

 

 

 そういわれて見せられたのは、届け出のわら半紙の束。

 複数のトレーナーたちから勧誘されたのが見て取れる。

 

 セっちゃんは昔から真面目で、地元のみんなとの競争でも速かったから、こういう選考レースで選ばれるのは確定してるだろうなぁと思ってはいた。

 

 だから、今さら思う事もないが、各トレーナーからの言葉に対して、キチンと受け答えをしている姿を想像できてしまい・・・

 

 

「『少し待ってください。契約云々は、じっくり考えさせてください』って感じで真面目に受け答えして」

「えっ?あっ、なんで知ってるの!?」

「で、一人一人丁寧にあたま下げて・・・」

「あぁ、やっぱり見てたでしょ!!」

「見てへん見てへん。セっちゃんの事だから、こうなるかなぁーってさ」

「もぅ!マツったら!!」

「ごめんごめん」

「「・・・プッ」」

「なんか、おっかしー」

「せやね」

 

 

 そうして、二人して笑いあう。

 

 

「んで、いつもなら・・・「お前たちは、もう少し真面目にならないのか?特にマツカゼ、お前は・・・」」

「アハハハハハ、コダチ姐にソックリ」

「ってな感じに・・・って、そんな似てた?」

「うんうん、似てた似てた」

「けどさ、フォー姉もコダチ姉も、どこ行ってるんだか」

「そういえば、同じ学園に入学したけど入学式の時ぐらいだよね、顔みたのは。寮でも歓迎会にもでてなかったし」

 

 

 出身地が同じで、このトレセン学園にセっちゃんと一緒に編入する事になったけど、私たちより前に同じように編入していった人たちがいる。

 

 セっちゃんの実姉のミストレスフォース姉と、仲間うちで一番年長者役だったコダチ姐。

 

 無敗で二冠ウマ娘のコダチ姐。そして、無敗でダブルティアラの栄誉を勝ち取ったフォー姉。

 二人の"アネ"達は、どちらもトレセン学園にてすごい事をやってのけていた。

 

 私たち二人と同じ地元で、小さいころにおなじ学校に通って何故か意気投合して、よく集まっては馬鹿な話をしたり、将来の話をしたり、いっしょに走って・・・そんな姉たちが、遠くに行ったと感じることもあった。

 

 そんな折に、二人ともが生徒会の役員になっているなど、たまに送られてくる手紙で色々と事情を知ってたけれど、入学してからはまともに会うことができなかった。

 

 始業式の時に顔はみれたけど、そんな二人の"アネ"達に言葉が交わせれないことに、セっちゃんは少し寂しく思っていたりした。

 

 

「ほんと、いつ会えるのかなぁ・・・」

「マツカゼ、いつもみたいに柔軟は念入りにやらなくて良いの?」

「って、ウワサをしていたらフォー姉きちゃったよ・・・」

「フォー姉だ!!」

「こら、いきなり抱き着かない。そうそう、いまさらだけど入學おめでとう。って、噂?」

「ほら、始業式の時に顔を見ただけで、直接会ってなかったねって話してた」

「ああ、そういえば…新学期だと色々あってね。あの時は時間が取れなかったからごめんなさい」

「ううん。今、会えたから、わたしは気にしてない!」

「ありがとうね」

「ところで、フォー姉は何で選考レースに?」

「ええ、今も雑務員として駆り出されててね。ちょうど交代休憩になったから様子をみに来た訳だけど・・・ねぇ、セカンド?そろそろ離れない?」

「ぶー、久しぶりのフォー姉だもん・・・」

「また、時間作ってあげるから、そろそろ離れよ?」

「はーい。あと、時間作ってくれるの絶対だよ?絶対だからね!!」

 

 と、抱き着いてきていたセっちゃんが離れては、こちらをしゃがみこんで視線を合わせてくる。

 あ、これはお小言の予感がする・・・

 

 

「今日という今日は、少しだけでも真面目に走ってみない?マツカゼ」

「えぇ・・・」

「うんうん。マツもちゃんと走ったら、契約とりにトレーナーにたっっっくさん囲まれたりするから」

「えっ?そんな事になるん?」

 

 

 ストレッチをしながら、セっちゃんに集まるトレーナーと、手渡される紙の束を想像し・・・

 うん、絶対にああなるのは嫌だな。

 

 

「そういうのは、ちょっと苦手やな」

 

 

 そうキッパリ言い捨てる。

 やっぱり、静かにのんびりとやっていくってのが長生きの秘訣だとも、じっちゃんも言ってたし。

 

 

「もぅ、マツったら・・・やっぱり、勿体ないって」

「ならセっちゃんに」

「あたしは、マツと一緒のとこがいいの!一番近くで見ていたいし!」

「えぇ・・・なんで・・・」

「そう決めてるの!」

「ほらマツカゼ、セカンドの頼みだし、ちゃんと走って契約をとってきなさい」

「えぇ・・・」

 

 

 うぐ、真正面から真剣な視線でこちらを見つめてくる。

 フォー姉の本心というのは分かっている。

 

 お前は誰よりも『強い』と信じてる目だ。

 うん、何故か『速い』じゃなくて『強い』っていう。

 

 

 

『そろそろ、次の走者は、発走準備してください』

 

 

「ほらマツ、招集がかかったみたいだし、待ってるよ!!」

「ほらほら、いってらっしゃい」

「うぇ・・・」

 

 

 

 

   *    *    *

 

 

「マツー!!ガンバレーー!!」

 

 

 ゲートの中に入ってからも、セっちゃんからの声援が聞こえてくる。

 何だか、おなかのあたりから、痛みが出てきそうな感覚にさいなまれるけれど・・・とりあえずは、走る準備だけはと心構えをしておく。

 

 

 

<ゲート開きました。綺麗に出たのは7番マツカゼ。綺麗なスタートだ>

 

 

 扉が開くその前に、何故かわかる開く瞬間の雰囲気。

 なんとなく、開く瞬間が分かるというか・・・

 

 その雰囲気に合わせて、ゲートにぶつかる様に一歩踏み出すクセがでてしまっては頭一つ先に走り出してしまった。

 

 どうしよう、このままでいいんだろうか?けど、後ろの人たちを行かせた方がいいよね?うん・・・っと、だいたいこんな速さで良いかな・・・

 

 

<最初に抜け出したのは3番、最初のコーナーに差し掛かります。

 つづいて、2番、6番と続き・・・>

 

 

 先行は4,5番手まで、あとは後方ってとこかな?

 前よりに位置取りしてる先行あたりは、そろそろ息を入れて・・・

 

 

<向こう正面で先頭集団が一まとめになり、その後方に7番のマツカゼがポツンと追送している形だ>

 

 

 うーん、どうしようか・・・

 やっぱり、追い抜きたいっていう性分は、この身体が言ってくる。

 けど、けどさ・・・

 

 

(田舎菌がうつるー)

(お前みたいな芋が走ってるのがウザいんだよ)

(貧乏人がしゃしゃりでてくんな)

 

 

 昔いた場所、競争で走った後の記憶・・・

 速く走ったとしても、喜ばれる事もなく、いじめてくる理由にされた・・・

 速く走れば走るほど、逆に虐げてくる者たちがいる事を知ってる・・・

 

 

<マツカゼどうした?先頭集団との差が広がっていくぞ!そのまま、先頭集団は最終コーナーへ>

 

 

 

「お前は真面目に走らなさすぎる。もったいない。そら、もっと走るぞ」

「そうそう、一緒に走ったら、きっと楽しいよ、マツカゼ」

「はやーい、マツってやっぱすっごい早いね!!」

 

 

 一人は興味を、一人は走る楽しさを、一人は単純な感情をぶつけてきた。

 引っ越した先で受け入れられた時のさ・・・

 

 

 みんなの目がさ・・・眩しくてさ・・・

 ワタシもそこにいていいのかなって・・・

 

 

 

「マツー!イッチャエーーー!」

 

 

 耳に聞こえてくるセっちゃんの声。

 うん、やっぱ、みんなと離れたくないなぁ・・・

 

 

(久しぶりに、本当に久しぶりだけど・・・やれるかな・・・)

 

 

 大きく息を吸い込んでは、水中へと潜るかのように息を止め、静かに身体を沈みこませる。

 

 自分以外の何も聞こえなくなる、静かな水の中に入った感覚・・・

 

 そうすると、脚の筋肉の動きと合わせて、足の裏の地面へと繋がっている感覚、特に繰り出す力の使い方に集中し、前を見ることなく大きく身体を動かす事に意識を集中し、歩を前へ前へと進めては、後ろ後ろへと蹴りやる。

 

 そういえば、小さいころは、この静かな風景が好きだったっけか・・・

 

 

<おおっと!マツカゼが急激に上がって来た!残り600!!>

 

 

 まだ、まだ潜れる。

 腕を速く振りぬき、脚も前にだす速さを増し、

 邪魔されない外側から・・・

 

 ・・・邪魔

 

"「お前、邪魔なんだよ」

"「外から来た奴なんだろ?田舎者じゃね?」

"「なんで一緒に走らなきゃならないんだよ」

"「後ろにいたらいいんだよ」

 

 

 あ、あぁ・・・・

 

 

「ぐっ、はぁ!!」

 

 

 残り1ハロンから、いきなり呼吸がおかしくなっては身体が起き上がり、一気にいろんな音が聞こえてくる・・・

 

 

<一着は3番、二着は4番・・・>

 

 

 掲示板に白いチョークで書かれた結果は9人中7番。

 

 潜るタイミングを間違えた結果かな。

 こんなもんか・・・

 うん・・・これでいい・・・コレデイイ・・・ソウシナイト・・・

 

 

「マツ!・・・大丈夫!?・・・やっぱり・・・」

 

 

 走り終わり、呼吸がおかしい自分に駆け寄ってきてたセっちゃん。

 セっちゃんは、いつも私の心の中を覗いてくる気がする・・・

 顔には出していないはずなんだけどな・・・

 

 

 周囲ではトレーナーたちが、上位着順の者へと声掛けしようとしているのを、肩で息をしながら見続ける。

 最後に息が切れて崩れた私に、そういう人がいるわけもない。

 

 

 息を整えながら邪魔にならないように、コースから離れるように移動しては仮設観戦場のすみに座り込んでしまう。

 

 やっぱり、自分にはああいう舞台に上がる資格なんてないんだ、と・・・

 

 

「はい水。マツ、無茶しちゃだめだよ」

「そうだな、無茶をするのは駄目だか・・・ま、いまはまだ全力は辛いか」

「「えっ?」」

「コダチじゃない?忙しそうだったけど、来れたの?」

「ひと段落はついたからな」

 

 

 懐かしい声に振り替えると・・・

 

 

「「コダチ姐?」」

 

 

 そこには、私たち地元組のもう一人、コダチ姐が座り込む私を見下ろすように立っていた。

 

 

「ん、いやまぁ、ここはマツカゼが少しでも真面目に走ろうとしてくれたことを褒めるべきか?」

「・・・いや、コダチ、ちょっとそこズレてるから」

「ん、そうか?フォース」

 

 

 コダチ姐も、自分たちの事を"かわいい妹分"という恰好で弄ってくる。

 けど、その行為がやさしさと温かさを知ってるから、嫌いにはなれない。

 

 

「お前の事だ、(走ろうという意思はあったのだろうが・・・心の傷は、未だ癒えずか)・・・」

「?」

「いや、何でもない。そうだ、今日は久しぶりにみんなが揃ったんだ、あとで街にでもくりだそう。学園の先輩として甘味をおごるぞ?フォースも一緒にな」

「本当に?やったー!!コダチ姐大好き!!」

「って、セツ、お前・・・いきなり抱き着くな」

「って、うっぁ、つべたっ・・・」

「あ!ごめん!!」

 

 盛大に抱き着いたセっちゃんの勢いで、コップに入ってた水をまともにかぶってしまった。

 これは、着替えなきゃな・・・

 

「いいの?コダチ。この後も雑務があったんじゃ?」

「ん?許可はとってきている。かわいい妹分たちが選考競技会に出るから打ち上げに、とはな。でなければ、今後、会長の書類整理を手伝わないとも伝えたがな?」

「はぁ、それ、脅しっていうやつじゃ?」

「交渉した結果だ」

「んー、やっぱり、私はおぜんざい!あ、マツは金時とかだったよね?」

「じゃ、私は洋菓子で」

「ちょっとまてフォース、君は先輩だから私の側に立つべきだろう?」

 

 

 懐かしい、みんなで集まって、みんなで騒いで・・・。

 けど、こんな温かい輪に、自分が入っているのが良いのだろうか・・・。

 

 

 田舎者、貧乏人、食み出し者、異児・・・

 

 

 自分に向けられた、冷たい視線が見つめてくる。

 思い出したくもなかった感情が、さっきから迫ってくる。

 

 ちがう、今は違う、違・・・

 

 

「どうしたのマツ?」

「な、なんでもないよ。何食べようかなって考えてただけ」

「そう?ならいいけど・・・あ、自由解散だって、じゃ、さっそくシャワー浴びにいこ!ひっさしぶりの甘味だー」

「う、うん」

 

 

 そんな冷めた視線の過去を隠しては、いつも通りに接していく。

 すくなくとも、この学園だけでも、一緒に居続けたらいいなと思いながら。

 

 

 

 

 そんな姦しい光景を、ただぼんやりと競技会を見ていた人物だった者が、興味本位で注目していたがために、その違和感に気づいていた。

 

 

 

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