ショーワのトレセン学園   作:zaq2

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赤文字

 選考競技会が終わってから数日後。

 

 古めかしい木造建築の一番端に割り当てられている、狭く小さな個室に籠っては自身の記憶と競技会の記録、そして手元で捲っているわら半紙の表の一覧を見つめていた。

 

 

「早く集めないと不味い……んだろうが。今さらどうしたもんか」

 

 

 今朝方、学園の長に呼び出されては、(くだん)がどうなったかの進捗状況を聞かれ「目星はつけて、交渉の予定でいる」という、ウソの回答で濁してきたばかりであった。

 

 その為、朝から先日おこなわれた競技会の出走表を慌てて眺め直していた。

 

 わら半紙に謄写版(ガリ版)で印刷された出走表には、一応、いたるところに赤鉛筆で色々と注釈を書き加えてはある代物でもある。

 

 ただ、その赤文字で記載されている文面の中身といえば、その記載された文字から記憶を掘り返してみれば、ほとんどが周囲に聞き耳を立てて聞いた内容ではあるのだが・・・

 

 それでも、十二分に活用できる情報である事には変わらないため、この出走表の中での「注目株」といえる存在をと探してみれば、二人に絞られていった。

 

 

 「タケノシナリ」に「セルコヴァ」

 

 

 再び、選考会の記憶を辿ってこの二人の事を思い出す。

 

 たしか、この二人は選考会においても「駆けっこ」ではなく「競争」をしていたなと、記憶の中の記録からそんな印象を受けていたのを思い返す。

 

 

 まずは、タケノシナリ──

 

 他のウマ娘たちが息をあげたという"ここだ"という所で仕掛けている感じがし、そのまま、その豪脚ともいえる(トモ)の力で、後半は一人独走という抜きんでた走りで駆け抜けていった。

 

 

 次に、セルコヴァ──

 

 位置取りに関して抜きんでており、いつでも仕掛けられる場所を維持し、そして仕掛ける場所も理解しているみたいで、集団を苦も無くかわしては、余裕のある先頭でゴール板を駆け抜けていた。

 

 

 この二人には、今も各トレーナーたちからも取合い合戦が続いている。

 

 まぁ、この赤鉛筆で記載してあるメモも、同業者のささやきや小話を耳にして書いているものだし、先輩方が契約をという事も言っていたメモ書きがいたるところに、恨み節かのように残っていたからだが。

 

 たしかに、この二人は自分の目からみても競争ウマ娘の基礎が出来ている事が分かるし、素晴らしい素質があるというのは周囲の評価が多いことからもわかる。

 

 チームとしての結果を出す、という点では、逃がす手はない相手であるというのは解るが、自分から声をかける事はできない。

 

 

 

 いや、()()()()()()()()()()()、と言った方が正しいのかもしれない。

 

 

 

 その為、一着となったこの二人の項目には「除外」と新たに文字を書き足してはバツ印を記載する、次はと出走表をめくっていくと、周りの言葉と自分の意見として書き込んだ赤文字が多かいのがあったのが

 

 

 フォースセカンド──

 

 こちらに記載された文字から思いこされる記憶は「競争」というよりも「走っている」という感が否めない。

 

 

 地力はあるのかもしれないが「あるのかもしれない」という()()()()としか感じしかなかったが、それでもハナ差ともいえる拮抗した状況で先頭で走り抜けていた。

 

 将来に期待といった処でもあり、こちらは他の指導員の評価は高くもなく低くもなくといった所であったが、こちらも一着を取っているために、他の指導員よりも先に声掛けをする事もできないため「除外」と記載してはバツ印を追加する。

 

 

 他にも「バーリーニダイ」に「ニンベンスパー」など、上位入着したのには何かしら光るものを持っていそうなのはいるにはいるみたいだが、そのどれもかれもが先輩指導員様たちが先に声をかけては契約しているケースを見かけていた。

 

 

 目星をつけてはいるウマ娘たちだが、ある意味で()()()()()()ところだけでもバツ印を追記していくしかない。

 

 

 そうして、増えていく()()()()()()()()()()()のバツ印をながめては、暗黙のルールともなっている()()()()()()()が低いこちらにしてみればどうしようできないと愚痴るしかなかった。

 

 

 

 暗黙のルール──

 それは、掲示板入着ウマ娘は、()()()()()()()()()()()()()()()()()。というものだ。

 

 

 

 学園に来た当初は、そんな事があるなぞつゆ知らずに掲示板入着ウマ娘にどんどん声掛けを行っていったのだが、その結果、大先輩の指導員たちによって爪弾きの様に、こんなトレーナー棟と称した今はほとんど使われない、残された旧官舎の木造建造物の隅にある物置部屋、もとい小部屋に追いやられてしまっているわけになったのだが。

 

 

 そんな、陰湿な対応の事を思い返しながらも、再び手元にある注釈を書き加えている出走表のメモ書きを眺めては、当時の競技会の事を思い返していた。

 

 すると、小さく書かれた「目が生きてるのに死んでいる」という意味がよく分からない哲学的な文面が目に入った。

 

 

 その小さく書かれた文面がある場所に記載されている出走ウマ娘の名前をみるために、枠をなぞって視線を移動させると、そこに記載されていたウマ娘の名の欄には、

 

 

『マツカゼ』

 

 

 その名があった。

 

 その名から記憶を探り、その走りを思い出そうとしたら、出走前の出来事、走ってる姿、そしてゴール手前とその後と、その時々の事を思いだす。

 

 

 そう、最初出会ったあの時の、あの跳躍力を持った脚に、興味ともいえる惹かれるものがあったのは否めない。

 

 そして気になってからはレースに関心を持って見ていくと、発バ機が開いた瞬間、誰よりも早く飛び出してきたかと思えば、そのまま後方集団に飲まれては最後方へと流れ着き、最後の直線において後方集団すら追い抜く異様な加速姿を見せつけてくれた。

 

 ただ、周りの指導員たちはその末脚に驚きはしたのだが、その感心した矢先に急激に失速しはじめ……

 

 持久力が無いのか、仕掛け所を間違えたのか、あの爆発的な速度は、ゴール板を通り過ぎる頃には、その陰すらないぐらいに失ってしまっていた。

 

 

 周囲の指導員たちの感想としては、とても残念という意見が多かった。

 

 "根性が足りない""体が出来てない""競争をするという気概を感じられない"などなど、言いたい放題の評価だったなと。

 

 だが、自分としてはそんな周囲の評価よりも、表情が気になっていた。

 

 そう、周りでは負けが分かれば、"悔しさ"や"落胆"など、負けた事に感情を露わにしているウマ娘たちばかりの中、まったく違う表情。

 

 それは、まるで"おびえた表情"が気になってしまったというのがある。

 

 まさかとは思うが、先頭に立つのが怖いのか?いや、走る事が怖い様な……気弱に近い、それ以上の何か……

 

 

「"気になる"っていや、"気になる"んだよなぁ、何故だかあの表情が……」

 

 

 彼女の知人と思わしき者たちと会話をしている時もそうだ。

 

 和気藹々という感じでいたが、その中でもふと見せた何かにおびえている表情、それがとても気になってもいた。

 

 

「直接、聞いてみるか……」

 

 

 都合の良い事に、着順も掲示板圏外ならば、仲間内の先輩から見られても"優先順"という暗黙のルールには抵触しないだろう。

 

 さっそくいってみるか。と、あてがわれている物置部屋もとい自身の指導員室を後にした。

 

 

 

   *    *    *

 

 

 

 授業時間における校舎内捜索は、流石に学徒の邪魔になるために遠慮し、昼休み前に食堂近くに来ないかと遠目から探してみたが、見つける事もなかった。

 

 大抵の学生は学食の方で見つかるものなんだが……それらしい姿を見かける事はない。

 

 その代わりと言えば、前回の競技会の影響か、各テーブルでは、指導員からの熱烈に声をかけられている風景がいたる所で見て取れる。

 

 現に、自分に対しても、好機な視線というのを感じている。

 

 なにせ、担当契約を得られる事が、競技に参加するための条件でもあるために、彼女らにとっても千載一遇の好機という訳でもある。

 

 しかしながら、話を聞きたい対象が昼飯時間に現れる気配がないまま時間が過ぎ去っていった。

 

 アテが外れて、どうしたもんかと肘をついては悩み始めていたら、近くで複数人のトレーナーから勧誘行為をしている声が聞こえ、その中に探している名前が出てきていた。

 

 

「えっと、あの……」

「一度、しっかりと考えてみてほしい」

「私なら、君を栄えある名誉をつかむことが出来る」

「それなら、私も同じく、計画をもって行えると自負するところだ」

「えっと・・・その、私は一緒にいる子と同じところって決めてるので」

「一緒にいる子?いったい誰かね?」

「ふむ、なら、併せという形でもかまわないな……それで、どういった子なんだ?」

「いいんですか!えっと、マツカゼっていうんですけど」

「マツカゼ……マツカゼ……マツカゼ……そんなウマ娘、いたか?」

「いや、聞いたことは……あ、あれでは?補助員として来ている子では?」

「ああ、なるほど、なら丁度いいだろう、その補助員候補生と一緒でもかまわないぞ」

「……も、もういいです!」

「ちょっと……君!」

「まだ話は……」

「わたし、入りませんから!」

「いや、私の話をだな……」

「お断りします!」

 

 

 最後は、相手の機嫌を損なわせては、入らないと突きつけていた。

 ただ、例の名前が出てきたので、何か知ってるかも?と、その後をおう。

 

 一応、先輩方が先に声掛けしていて、断られていたはずだから自分が声かけしても問題はないだろう。と、

 

 

「えーっと、ちょっといいかな?」

「だから、入りませんから!って、あ、人違いでした……スイマセン……」

「あーっと、驚かせたようで、その悪かった……その、何だが」

 

「あ、あの、トレーナーさん!わたしはマツカゼって子といっしょじゃないと」

「うん?いや、悪いんだけど、そのマツカゼを探してるんだけど、その知らない?」

「……はぇ?え?私じゃなくて、マツに?トレーナーさんが?」

「えー、まぁ、そうなる……かな?」

「!!(やった!やったよマツ!!!やっぱ見てくれる人はちゃんといるんだって!!)」

 

 

 目の前で、何故か大げさに喜んでいる姿の少女だったが、そんなときに昼食時間が終わりを告げる予鈴が鳴り響いた。

 

 

「あぁ!昼からは移動教室だった!トレーナーさん、ごめんなさい!!マツは絶対に放課後に連れていきますから!まっててくださいね!!」

「え、あ、あぁ……」

 

 

 

 勢いに負けた返事の後、いきなり走り出してはあっという間に本舎へと消えていった彼女を見て、そういえば、こちらの名前も何もだしてないのに、わかってるのだろうか?という一抹の不安をよぎらせていた。

 

 

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