ヒト>ウマ>ヒト   作:ゼン◯ロブロイ

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仕事上がりからやっつけででっち上げた


ファイン殿下と温泉行けた
固有二つ名も取れた

だから、それでいいんだ(無料10連で全敗した


あ、来年サイレント加筆修正するので短いのは見逃してクレメンス
これで追加は〆(多分


年忘れやっつけ番外編

 夢の中に出たのは

シャムロック

青薔薇

カチューシャ

ティアラ

樫の女王

猛馬注意

日焼け跡

スケッチブック

機内缶詰

ダンボール…?

絆創膏

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャムロック

 

 

 

 

 

 ゆっくりと目を開くと、妻の後ろ姿が見える。私達の娘を抱き上げたところのようだ。妻は私が目を覚ましたのに気づいたようで、娘たちに「ねぼすけさんがお目覚めね?」などと囁いている。双子の娘達に何ということを言うのか、私は決して寝坊助などではない。そう言いたかったのだが、妻の優しさと穏やかさの滲んだ微笑みに毒気を抜かれてしまう。これも惚れた弱みというものだろうか

 ゆっくりと降参のポーズを取りながら、妻のもとへ歩み寄る。今日も愛らしい我が娘達は、ウマ耳を忙しなく動かし、尻尾もゆらゆらと動かしながら私に手を伸ばす。僅かに伸びた無精髭の刺激が気に入っているのか、てちてちと私の顎や頬を叩くその姿に妻に抱くのとは違う愛を感じる。瞼をおろして無抵抗に叩かれながら、考える。私が人並みに親の愛というモノを持つ時が来るは、と。こんな日々を過ごすとは考えた事もなかったが…悪くない、と思う。

 私を人に引き戻した愛する妻は、娘達が私をてちてち叩くのを微笑みながら見守っている。というか吹き出しそうなのを堪えていないかね? SP隊長の彼女がハラハラしながら子育てを見守っていた頃が懐かしいよ、あの頃の妻は私を娘達のおもちゃに差し出したりはしなかった…いや、そうでもないか。ちょっとしたイタズラや、サプライズ好きなのは変わっていなかったな。そのたびにSP隊長の彼女が苦労していたのは不憫と取るべきか、忠義の徒と考えるべきか…。

 そんな事をつらつらと考えていたら娘達の手が止まっていた。はて? 疲れて眠ったのか? そう思って片目をゆっくりと開いていくと、妻が娘達に食事を与えていた。有り体に言えば授乳である。今は妹の方が吸い付いているようだが、姉の方はじっと待つことができている辺り、私達の娘は賢いな、なんて感想が脳裏をよぎる。流石に言葉にしてしまえば親バカだろうと自制ぐらいはするが、私の視線に気づいた妻は、パチリと私に向かってウィンクをした。

 私達の間での『合図』だ。娘達が満腹になったら眠るのは間違い無いだろうから、その後二人の時間を取ろう、という事だろう。最近はバタバタしていたから、二人でゆっくり過ごす事も出来なかった。双子の乳幼児を抱えていればそれも当然と言えるが、それでも妻は自分で育てたいと言い切っていた。無論私も賛成したが、助力を拒まないことを条件に盛り込んだのは間違いなく正解だっただろう。おかげで今のようなタイミングで二人の時間も、『夫婦の時間』も取れるのだから。

 

 ファイン、洗濯は私が済ませておくよ。そう言い残してリビングを出る。さて、今日はどちらの時間になるのだろうか。どちらであっても嬉しい時間になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青薔薇

 

 

 

 

 

 ゆらり、ゆらりと身体が揺れる。誰かが遠慮がちに私を揺らしているようだ。まぁ、該当者は一人だけだろう。確認を兼ねて、私を揺らす腕の持ち主を抱き込んでみよう。抱き込んだ。私の胸の上に倒れ込んだ拍子に「きゃっ」という小さな声が聞こえる。やはり、かつて私を兄と慕っていた妻で間違いないようだ。

 ポンポンと背中を叩いて諦めを促すと、抵抗を諦めたのか脱力する。うん、素直で宜しい。偶には夢現の間で会話を愉しむのも良いのではないか? そう伝えると尻尾でぺちりと叩かれた。解せぬ。なんとなく悔しいのでウマ耳をふにふにと揉み解すと、脱力していた妻が更にへにゃりとなる。勝ったな。

 今何時頃かな? と問えばもうお昼過ぎちゃったよ、と返ってくる。あぁ、昼食を用意してくれたのなら、悪い事をしてしまったかな。ごめんな、と囁くと、今日のお兄さまはお寝坊さんだね、と返される。否定したいが否定できない現実になんと言おうかと考えていると、妻が優しい声音で最近忙しかったから疲れてたんだよね? と気遣いを滲ませて囁いてくる。あぁもぅ、この元妹分の妻は可愛いなぁ、とやんわりと抱きしめてやると、ビクリと反応してからゆっくりと此方を抱き返してくる。

 そろそろ、子供を考えても良いかもしれないという思いと、まだ二人の時間を過ごしていても良いのではないか、という思いが交錯する。どうやってかわからないが、私の考えをある程度読み取ったであろう妻が一言、今日は出来る日、だよ?

 

 ライス、家族が増えるのも喜ばしい事だと私は思うが、君はどう思う?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カチューシャ

 

 

 

 

 

 

 優しい歌声が降ってくる。柔らかい枕から離れがたい私は、ゆっくりと薄目を開いて周りを探ると、公園の芝生の上のようだ。囁き声のような優しい歌が途切れ、頬が突かれる。どうやら目覚めたのがバレたらしい。諦めて目を開くと、何が楽しいのか満面の笑みを浮かべる妻がいた。どうやら膝枕で寝かされていたようだ。もしかして、と思って態々膝枕をしてくれたのか? そう問うてみれば、だって兄さんがしかめっ面で眠っていたから、と返ってきた。

 しかめっ面で寝ていたら膝枕をしてもらえるらしい、覚えておこう。感謝の気持ちを込めて、私の顔を覗き込んでいる妻の後頭部に手を当て私の側に引き寄せ…愛を込めて口づける。僅かに目を見開いたが、頬を染めて嬉しそうに応えた妻は中々どうして、甘えることをためらわない可愛い妻だと再確認する。

 かつての妹分であり、それなりに長い間音信不通だった私を待っていてくれた妻は、離れていた時間を埋めるくらいに甘えようとしてくるのがたまらなく可愛らしい。これで他人の前ではクール系に見られているというのだから、私は相当に愛されているのだろう。まぁ、再会した時点では妹分でしかなかったとはいえ、あれほど真っ直ぐに好意を向けられれば無碍にはしにくい。それが男女の愛情として向けられているとは告白されるまで気づかなかった私は相当に鈍いと言われても否定できないのだが、年齢差を考えるとまさかなと考えてしまうのは仕方ないのではないだろうか?

 そんな事をつらつらと考えていたら、どうやらやりすぎたらしい。妻は頬を上気させ、目がうつろになってしまっている。というか、これ腰が抜けてないか…? だがまぁ、これなら抵抗もされまい、と名残惜しいが妻の膝枕から離れて、横抱きに抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこというヤツだな。何時もの妻なら私が考え事をしていたら拗ねるのだが、今はそれどころではなさそうだ。

 さて、二人の家に戻るか、とあるき出そうとすると、不意に胸元をクイクイと引っ張られる。何事かと思えば、妻が潤んだ瞳で私を見ているではないか…。

 

 スズカ、君はどうしたい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティアラ

 

 

 

 

 

 はて、随分と騒々しいというか、賑やかだが…? 恐る恐る目を開けば、そこには荒れ果てた我が城、診療室が。いやまて、診療室で寝落ちていたのは百歩譲って良しとするが、何故荒れ果ててい…いや、考えるまでも無いか。誰に似たのかヤンチャし放題な我が娘の仕業であろう。怒れる我が妻の声と足音で察するというものである。今も扉の外から駆けてくる足音が…?

 

 うごふっ!?

 

 む、娘よ。父は頑丈ではあるが限度というものがあるのだ。君の突撃を受け止めるのは少々厳しいのだぞ? そう娘に伝えてはみるものの、どこ吹く風で私の膝の上でご満悦のようだ。後ろから駆けこんで来た妻の柳眉が危険な角度になったが、今は見なかった事にしよう。娘よ、何故私の仕事場がこんなことになっているのか教えてもらえるかな?

 ふむ…片づけを手伝おうとしてくれた、と。その際にちょっと手が滑ってこうなった…そうかぁ。それなら仕方ないな。うん、手伝おうとしてくれた気持ちはとても嬉しいぞ。優しい子に育ってくれているようで何よりだ。そう娘に伝えて頭を撫でるとニコニコしながらされるがままになる。うんうん、やはり妻ににて愛嬌があるなぁ。これは将来とんでもない美人になるな。

 

 え、ママみたいになれるか? それは難しいんじゃないかなぁ。何故って、そりゃあママは私の一番になったヒトだからね。お前は娘として家族としてはママと同じ一番だが、それとはちょっとちがうからな。こればっかりは、な? 娘にそう伝えながら、その後ろに立っている妻に目を向けると真っ赤になって照れていた。あぁもう、我が妻は出会った頃から変わらず可愛らしいな!

 娘の頭を撫でながら、空いている手で妻に手招きをする。まだ頬を染めている妻がゆっくりと此方に来たのを捕まえ、娘ごと抱きしめる。現在の私にとっての一番が君達だ。今はそれで良しとしてくれないかな? そう問えば笑顔で頷く母娘。うんうん、やはり君たちは笑顔が良いなぁ。

 

 あ、それはそれとして逃げ回った事に関してお説教はするんですね…。すまない、娘よ。父は無力だ。だから叱られてきなさい。

 

 あぁ、スカーレット。あまりキツク言わないであげてくれ。今日はトモダチの家にお泊りに行くのだろう? 送り出したら二人でゆっくりしようじゃないか。まぁ、ゆっくり過ごすかどうかは君が決めてくれて構わないがね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 樫の女王

 

 

 

 

 

 はて、何やら良い匂いがする。ショウセイも馬鹿弟子も学園の合宿で居ない筈なんだが…? 旨そうな匂いに空腹を刺激されて寝ていられなくなった私は、ゆっくりと起き上がる。どうやら、カルテの整理中に眠ってしまったようだが…? 誰かがタオルケットを掛けてくれていたのか。確かに夏とはいえ、今日は少しばかり肌寒い。そして、それに気づけば今度は外から中々に激しい雨音が聞こえている事にも気づく。成程、この雨で気温が下がったのだろう。そこまで考えて、はて、と首をひねる。

 一体誰がここに来て、私にタオルケットを掛け、食事の用意をしているのか、と。考えられる候補は何名か出てくるが、さて、一体誰なのか…? 少しばかりの期待を抱きながら、厨房へと足を運ぶと、そこには私の部屋着であるトレーナーを羽織って、その上からエプロンを付けるというどう判断すべきか困る女性がいた。多分、この雨に降られて濡れてしまったのだろう。乾燥機が回っている事からも恐らく間違いは無いだろう。だが、何故私のトレーナーだけを羽織っているのか。後ろ姿でもわかる魅力的な太股とそこからつながるヒップ…うん? まて、何故生尻が出て…あぁ、下着の替えがなかったのか。

 普段とは違う、後ろに纏めた髪。それによって見えるうなじ。まだ水気が僅かに残っているように見える尻尾に、デカいという程ではないにせよ、十分安産型と言える綺麗な形のヒップ。そして良く鍛え上げた太股と…後ろから見える部分だけでもこれ程に魅力的な存在だというのはずるいのではないだろうか。いや、何に対してズルいのかよくわからんが。多分、今なら貴重なアイシャドウ無しの彼女の顔が見れるのではないか、と思いつつも彼女に視線が吸い寄せられてしまう。

 

 仕方ないじゃない、だってオスだもの。さいと。

 

 これで私が十代のオスであったならとびかかって蹴り飛ばされていたかもしれないな! いやまぁ、流石にとびかかりはしないが。だって厨房だから包丁持ってるかもしれないし、なぁ? しかし、彼女がココを訪ねてくるというのは実は珍しい事でもない。ショウセイが編入して以来、案外と世話になっていたりしたからだ。結果としてはだが、年長者として相談に乗ったりしていたら気づいたら捕まっていたのだ。これはもう、相手が上手だったと言う他無いと思う。決して私がどうこうと言う事では無いはずだ。多分。

 そんな事をつらつらと考えていたら、彼女が居心地悪そうに身じろぎしているのが目に入った。そりゃ、これだけ無遠慮に視線をぶつけていれば気づかれるよなぁ。気を取り直して、おはよう、と声をかけると、シャワーを借りた、着替えも、と返答が返ってきた。会話になってない気もしないではないが、意思の疎通は図れているので問題は無い。ふと、悪戯心が湧き上がり、誘われているのかと思って悩んでいたよと告げてみる。

 

 まって、流石にその流し目は色っぽ過ぎるからまって。あと、そうだと言ったらどうしてくれるのだ、このたわけが。なんて返された訳だが、これは誘われているのではないのか? あれ、手を出していいのか?? うん? いやでも、あれ? 卒業も近いといえば近いし、レースからは一線をひいてトレーナー資格取得を考えてるとか言ってたような…? いやいや、今はまだ学生だし…あれ? いやでも、ううん???

 そんな風に混乱していると、苦笑いを浮かべた彼女が、たわけ、先ずは食事だ。手を洗ってこい。なんて言うから言われるがままに手を洗った訳だが…。

 

 なんか距離近くない? なんで隣に座るの? なんで着替えてないの? ていうか箸出して無いからって何故あーんして食べさせようとするの???

 

 レース同様に鋭い差しで迫って来る彼女、、エアグルーヴの攻勢に頭がくらくらしてきた…。

 私は耐えられるだろうか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 猛馬注意

 

 

 

 

 

 人間、何時になっても、何歳になっても慣れないモノというものがある。例えば誰かに起こされる、例えばただいまを言う、例えば褒められる。これはもう、人それぞれとしか言いようがないだろうし、中にはくだらないと言われるようなものもあるだろう。かくいう私は誰かに寝具を剥ぎ取られて叩き起こされるのは慣れなくてね。まぁ、そんな起こし方に慣れてる人間のほうが少ないのではないかと思う次第だ。

 さて、何故長々こんな事を考えているかと言うと、だ。まぁ、妻がまたやらかしたのだ。寝具を剥ぎ取るようにふっとばして勢い余って私までふっとばすと言うね…。いや、ウマ娘の膂力という物はピークを超えると徐々に衰えるというがね? それでも並の人間では太刀打ちできないレベルで維持されるのだよ。全盛期の彼女たちは人間サイズの重機のような膂力を発揮するが、ピークを超えて衰えれば、精々が軽自動車くらいに落ち着く。それでも人間相手なら洒落にならないパワーなのだがね。あぁ、鍛えていないウマ娘の場合はもう少し大人しくなる。それでも鍛えた成人男子に腕相撲で勝てるくらいはあるんだが。余談だが、衰えたウマ娘相手に男は勝てないか、というとそうでもない。武芸を収めた人物ならそれなりに勝ち目があるのだ。

 

 ただし正面から殴り合える人類は今の所お目にかかったことはない。

 

 さて、話が盛大に逸れたが戻そう。妻にふっとばされ、換気のために開けていた窓から放り出された私は生命の危機を感じて意識が覚醒、ギリギリだがパルクールもどきをしながら勢いを減じて着地に成功したのだが…上の方から「またやっちまいましたわー!!」という叫びが聞こえて色々と察したというか、またか、というか…うん。

 妻に悪気が一切無い事も、彼女なりに気を使って私を起こしに来たのも理解出来るんだが、何故毎回同じ失敗を繰り返すのか…いや、反省してるのも理解しているんだがなぁ…。何より最初は烈火の如く怒り狂っていたショウセイと馬鹿弟子もすっかり慣れて平然としているのは如何なものかと考える次第である。というかご近所さんが今日は結構飛んだなぁとか、今日も時間ぴったりだねぇとか、これがないと朝が始まらないねぇとか…割と真面目に日常の一部に組み込まないで欲しい。これらの声が聞こえたとき、久しぶりにここは異世界なのだなぁとしみじみ思い返したものだ。

 そんな事を考えながら壁を蹴って上まで戻り、窓から部屋に入るとしょんぼりした妻が正座して待っていた。いや、ビルの上階から落下した人間が窓から帰ってくるのを待つというのもどうなのだろう、なんて考えながら妻を抱き寄せる。何時だって全力で一生懸命な妻は、これで失敗を気に病む方だ。なら、毎日の行いという訳ではないが慰めて笑顔を取り戻すのも甲斐性のウチというものだろう。

 と、何時もなら夫として年長者として優しくするところなのだが、少しばかり悪戯心というか…まぁ、うん。ちょっといじめたい気分というかだね? 今日の妻はアットゥシを着ているのだが、微妙に乱れていて色っぽいと言うかなんというか…有り体に言えば、そそるのだ。あぁ、因みにアットゥシというのはアイヌの民族衣装の一種であり、樹皮から作られる衣服の事である。北海道の日高辺りでは伝統工芸品と認められていたはずだ。

 ま、話を戻すが、やや着乱れた普段とは違う装いの妻が涙目でしょんぼりとしながら座っていれば、そりゃあ、ねぇ? これでも枯れた訳ではないのだ、啼かせたくなっても仕方がないのではないだろうか。うん、仕方ないな。

 

 さて、それではお仕置きの時間だよ、カワカミプリンセス。優しく躾けてあげよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日焼け跡

 

 

 

 

 

ばたばたと駆け回る音が聞こえる。元気よく挨拶を返し、弁当を渡す声も聞こえる。どうやら私は寝坊したようだが、何故起こされなかったのだろうか? いや、本業は療術院の方だから良いといえば良いのだが、妻と家族同然に過ごしている面々が忙しなく働いている時間に寝ているというのもきまりが悪い。いやまぁ、正直に言えばハブられたような気持ちになって少しばかり落ち込んでしまう。無論、彼女らにそんな意図は一切ないとは思うのだが、どうにも私は寂しがり屋でもあったらしい。

 手早く着替え、顔を洗って階段を降りてみれば、私に気づいた妻を筆頭に「おはよう」と声をかけてくれる。此方もおはようと返しながら手伝いを始めようかと思うと、常連客から旦那は寝坊か? などと誂われる。いやはや、事実だけに否定のしようもないなと苦笑いを浮かべていると、妻が「昨夜急患が出て遅かったから寝かせてやってたのさ、だから寝坊ってわけじゃないよ」とフォローを入れてくれる。常連も慣れたもので、良い嫁さんだねぇ、ウチのかーちゃんと交換してくれよ、なんて言い出すが、反射的に断固として断る、と言いながら妻を抱き寄せてしまった。

 それを見た常連は、弁当食う前にごちそうさんってなぁ、なんて言いながら笑い声を上げながら出ていく。うん、過剰反応してしまったなぁ。そんな事を考えていたら、抱き寄せた妻に「逃げやしないから離しなよ、まだ客もいるんだからさ」なんて言われてしまう。いやもう、このまま仕事を続けても良いのではないかなぁ、なんて馬鹿なことが頭をよぎるが、後ろから突き刺さる視線に屈して妻を開放する。

 視線の主であるマルゼンスキーとショウセイが、やれやれと言わんばかりの表情で「いちゃつくのは後で、私達も混ぜて」なんて口を揃えて言うのだが、流石に年頃の女性といちゃつくのは憚られるぞ? 君等は自分が年頃の美女である自覚を持ったほうが良いのではないか? 口に出せば蹴られる(既に何度か蹴られた)のは理解しているので口には出さないが、表情を読まれたのか「サイト以外には言わない」なんて言ってくるショウセイに、育て方を間違えたかなぁ、なんて考える。

 とはいえ、療術院の一角を区切った弁当屋…というか、惣菜屋というべきかもしれんが…この店は大変に繁盛している。出勤前の労働者、通学中の学生、近所のご老人等の客層がひっきりなしに訪れる。もっと言うならば、今の時間帯は行列が出来ているのだ。私も弁当を運ぶくらいは手伝わねばな。実のところ、注文と精算は私が受け持つ方が良いのではないかと思うのだが、私は料理もしない訳だし? そう提案しても何故かあまり良い顔をされない。解せぬ。

 ちょっと彼女らに粉かけようとした不逞の輩に殺気を飛ばしたり友人の探偵に頼んで裏を取ったり後々制圧出来るようにしただけなんだが。因みに妻をナンパしたヤツは出禁にした。なんなら裏に引っ張って次に見かけたら善意の臓器提供者になってもらう旨も伝えたら、快くうなずいてくれたので問題は無い。

 まぁ、基本的には善良な常連が自主的に解決してくれているようだ。より正確にいうならば、彼女らのファンクラブまであるというのだからなんともコメントに困る。いや、妻もマルゼンスキーもレースで活躍したから理解はするんだが、レースには出ていないショウセイにもファンクラブがあるというのがなぁ…いやまぁ、接客態度は微妙ではあるが、あれで愛嬌はあるし可愛らしいし料理も上手だしモテない訳がないというのは理解しているし自慢の娘枠ではあるんだがな。それとこれとは別というか…これが男親の気持ちというものなのだろうか?

 そんな事をつらつらと考えながら仕事を手伝っていると、行列も捌けて朝のラッシュは終わったようだ。一段落つくと、我が腹が空腹を訴える叫びを上げる。それが聞こえたのか、妻は苦笑いをしながら「朝飯前って言葉通りに働かなくても良いんじゃない?」なんて言いながら朝食の用意に動き出す。

 居住スペースの台所に立つ妻の後ろ姿に、ふと悪戯心が湧いてしまったのは…まぁ、私も健全なヒトのオスだという事だろう。ゆっくりと近づくと、背後から妻を抱きしめる。幸い、ショウセイもマルゼンスキーも店の方で仕込みをしているタイミングだ、騒がなければ問題無かろう。妻も慣れたもので、私が抱きしめても動揺一つしな…いや、耳と尻尾がパタパタ動いているのを見るに、それなり以上に反応はしたようだ。なんとなくその反応に嬉しくなりながら妻に口づけを落として囁く。

 

 なぁ、ヒシアマゾン。食前は今ので我慢するから、食後にデザートを貰えるだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スケッチブック

 

 

 

 

 

 紙の上をペンが滑る音がする。アルコールで鈍くなった思考を叩き起こしながら身体を起こすと、ぱさりと音を立てて何かが落ちる。酷く重たい瞼を持ち上げれば、私にかけられていたであろうタオルケットが落ちているのと、スケッチブックを抱えて私を見ていた…というか、状況から私を描いていたと思われる元患者君が見えた。

 元患者君や御令嬢や、他の面々にも囲まれて呑まされたのは覚えているのだが…はて、私は何故ここに? というか記憶が飛ぶようなモン呑まされたのか、私は。御当主達がやたらニコニコしながら勧めてきたのもあって呑んではいたが、こうやって記憶がトンで寝ていたのならば断って置くべきだったか。幸い、満腹感は薄れていないので吐いてはいないようだが、粗相をやらかしていないかが心配になる。

 そこまで考えた所で患者君が水差しから注いだ水を差し出してきた。ありがたい、と受け取って一息に飲み干す。患者君曰く、御当主達は新造された変身アイテムで上機嫌だったらしい。で、そのご機嫌のままにまー高い酒を注いでくれていた、と。値段も、度数も。急性アルコール中度にならずに済んだだけマシだったな、と今更ながらに汗がでる。

 元患者君達が私が寝落ちた後に抗議してくれたらしいので、今後はこんな事は無いだろう、というのは救いだろうか。出来ればこんな機会そのものが無いほうが私は楽なんだが。そこまで考えた辺りで表情から読み取ったのか、元患者君が「迷惑だった?」と聞いてくる。いやいや、迷惑だったということは無い、ただ、普段はアルコールなど摂取しないので加減がわからなかったのだ、と答えると不安そうな表情が和らぐ。

 うん、君は…君達にはそういう不安そうな表情は似合わないな。退院した時のような笑顔の方が似合うぞ。そう伝えるとパッと表情が明るくなったが、直ぐに「達?」と呟いたので、背後の扉を指差してやる。錆びついたネジを回すようにゆっくりと振り返る元患者君は、扉の隙間から覗いていた御令嬢一味とバッチリ目をあわせ…一瞬の間の後、駆け出していった。開け放たれた扉の向こうから、何はしたない真似してるのよ!だとか、貴方ばかりずるいじゃない!だとか、私がお世話してもよかったじゃないの!だとか…まぁ、随分と愉快なやり取りが遠ざかりながら聞こえてくる。

 元患者君が忘れていったスケッチブックは、つい放り出してしまったからだろう、ページが開いてしまっていた。盗み見るような真似は良くないと思ったが、好奇心には勝てず最初のページから見ていく。描かれていたのは色々な、本当に色々なモノだった。例えばメイドの働く姿、例えば執事と御当主の会話する姿、例えば主治医殿が注射をする姿、例えば家族達とのお茶会の場面、そして、先程まで寝ていた私の姿。

 正直にいえば、絵の上手い下手は私にはよくわからない。だが、どの絵からも暖かさというか、優しさというか、そのようなものを感じるので私は好ましいと感じた。まぁ、私の好みは関係ないだろうが、機会があれば伝えておこう。

 あぁ、しかし…まだ眠い。アルコールがまだ残っているのだろう、倦怠感と眠気に逆らえそうにない。重たいままの瞼を持ち上げている努力を放棄して、再びソファーに横たわる。折角寝かせていてくれたのだ、もう少しこの場所を借りて眠ってしまおう。そう考えたのが早かったか、意識を手放したのが早かったか…。

 

 スッと浮き上がるような意識の覚醒、ゆっくりと目を開ければ、先程とは別の部屋のようだ。この時点で背筋に何かが走るが、それ以上に何かを抱きかかえて寝ている感触に嫌な予感を覚えたが、視線をゆっくり傾ける。複数の髪色とウマ耳が目に入り、そのまま視線をおろしていくと、私は御令嬢達を纏めて抱きしめて寝ていたようだ。

 

 いや、なんでそうなる

 

 視線を彷徨わせると、扉の隙間から此方をニヤニヤしながら眺めている御当主達がいる。瞬間、悟る。コイツラ狙ってやがったな!

 私の寝相というか、癖? をどこからか仕入れて確信を持って彼女らを送り込んだな…! 私は寝ている時に近づいた相手が離れようとすると抱き込む癖? があるらしいが…くそう、こんな場面で発揮されなくてもいいだろう? いやそもそも保護者が率先して子供を送り込むなよ! そんな意志を込めた抗議の視線を向けても、彼らはどこ吹く風でニヤニヤしたままだ。というかスマホで写真や動画まで撮影してやがる…!

 しかし、下手に刺激して彼女らを起こしてしまえばどうなるかわからない…。これは、諦めて寝直すのが最適解、か? そこまで考えた所で非常に近い場所からの視線を感じた。感じてしまった。

 諦めて視線をゆっくりと御令嬢達に向けると、頬を赤くした御令嬢達が上目遣いで此方を見ている。そして、保護者一同がニヤリと笑って去っていく…あっ、鍵かけやがった!

 

 

 OK、話し合おう。私達に今必要なのは冷静で理性的な会話だと思うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機内缶詰

 

 

 

 

 

 

 トントン、と肩を叩く感触に目を覚ます。どうやら私よりも速く目を覚ましてしまったようだ。さて、今回の同行者である彼女は中々に強かな存在だ。出会いは偶然だったのだが、過去に出会った事があったと確信を持って行動し、結果としてそれを私に認めさせたのだから、そう評する他無い。というかだ、私の記憶にある限り何度か似たような場面があったので、多分あの子だろうなぁ、くらいしか当たりがつけられないのだが。恐らくは当時の友人達と一緒にライスとその友達を連れて遊んだ時だと思うんだが…当時の印象と随分と違うのが引っかかる。

 ま、そんな事を気にしても仕方ないか。過去に戻って確認が出来るわけでもないし、ヒトの記憶というのは脳の機能として補完されていくモノだからな。この目で見た、この耳で聞いた、これらの証拠能力が低いのはそういった補正が働いてしまうというのも一因だろう。つらつらと思考が横道へそれていくのを自覚しながら放置していたのだが、再び肩をトントンと叩かれる。上の空で考え事をするくらいなら自分を構え、という事だろう。

 振り向いてみれば、ややむくれた少女が居た。あぁいや、訂正しよう。美少女が居た。ウマ娘が種族的に美形が占めるとはいえ、彼女は自分がカワイイという事を自覚した上で磨く事を怠っていないからな、本人には絶対言わないが、美少女と形容すべきだろう。誇り高く、努力を厭わず、己の目指す場所に妥協せず。理解には苦しむが、尊敬できる人品の主であると言えよう。

 現在は検疫の関係で機内で足止めされているのだが…流石に三日目となると周りの人間にも疲れが見える。まぁ、検疫だけでは無かろうが、そこを深堀りしても意味はあるまい。幸いだったのは、この機がシャワーも備え付けているモノだったという事だろう。そうでなければ暴れだす客も居たかもしれないが、そういう機であったからここまで足止めされているとも言えるかもしれないのが難しいところだ。ビジネスクラスでもシートを倒せばベッドに出来るし、ファーストクラスなら更に良いモノらしい。まぁ、私達はビジネスクラスなんだがね。とはいえ、快適な空間であっても自宅ではない。自分のテリトリー以外で過ごすというのは、思っているよりもストレスになるものだ。疲れるものが出てくるのも仕方ないだろう。

 そんな事を考えながら、無意識で彼女の頭を撫でていた。というかウマ耳まで撫でていたので、流石にこれはいかん、と手を引っ込めようとしたら掴まれた。無断で撫で回してすまない、と告げれば、掴んだ私の手を自分の頭に引っ張っていく彼女。え、撫でろという事なのか? 「んっ!」とか言いながら撫でさせようと一生懸命なんだが、あざとい、という思いと可愛らしい、という思いがせめぎ合う。それはそれとして撫でるのは再開するが。

 「むふーっ」と御満悦な表情なので、まぁ良いかと撫で続ける。…機内で缶詰になってから精神年齢下がってないか? この子。年相応とも言えるんだが、なんだか意外というか、なんというか。同行者になったのもそうだが、やけにグイグイ来る理由が見えてこないのがなぁ…。突き放す事も出来ないし、抱え込む程この子の事を知らないというのもあって、困る。

 私の考えを読み取ったのか、偶然か、彼女は私に宣言してきた。「もっともーっとカワイイところを見せて夢中にさせちゃうからね」と。正直に言えば、彼女に寄せられる好意の源泉がわからないので戸惑いが先にくるのだが、嫌ではない。もしかしたら、今後そういう未来もあるのかもしれない、と思わせる程度には魅力的に見えたのも認めよう。

 

 だが、何故私のネクタイをくすねているんだね?

 

 こういうタイプは馬鹿弟子でお腹いっぱいなんだが、逃げられないんだろうなぁ…。ま、日常が更に賑やかになりそうだ。やや現実逃避気味にそんな事を考えながら、機から降りることが出来るようになった旨のアナウンスを聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 段ボール…?

 

 

 

 

 やけに騒々しい物音に意識が浮かび上がる。はて、身動きが取れないし何やら重たいような…? そこまで考えると噛みつかれた。三か所もだ。痛みに顔をしかめつつ目を開いてみれば、馬鹿弟子が私の左胸に頭を乗せている。コイツが噛みついたのは私の左手のようだな? 馬鹿弟子が自分の肩越しに回してまだガジガジと甘噛みを繰り返している。イラッとしたので馬鹿弟子の舌をつまんでやろう。

 反対側の右胸にはマルゼンスキーが頭を乗せている。馬鹿弟子と同じようにして私の右腕を回して、右手をがぶがぶと甘噛みしている。コレ以上噛まれるとムラムラしそうなので馬鹿弟子と同様に舌をつまんでやめさせる。

 そして私の腹の上に頭を乗せて特撮ドラマを視聴しているのはショウセイ、と…。いやな? 見るのは別に構わないんだが何故そこにポジショニングしたのかと。そして噛みついたのは上着を捲って脇腹に喰いついたのだろう。一度噛んですぐさま視聴に戻っているのは良い事なのか判断に苦しむが…まぁ、良しとしようか。

 

 さて、諸君。何故私の上に居座っているのか答えてもらえるかね?

 

 うん、ショウセイ。君は私の腹の上で回転するんじゃない。普通に痛いし重たいからな? まて、噛むな、落ち着け。今のは私の失言だったと認める。謝ろう。すまなかった。だから噛みつくのはやめなさい。

 そしてマルゼンスキー、君はショウセイに付き合ったのかもしれないが、出来れば今回のような悪乗りはやめて欲しい。私とて成人男子であるからな、君のような魅力的な女性が密着していれば間違いを起こしかねないのだ、理解してほしい。あと、舌をつまんだのは悪かった。流石に無遠慮だったな…。え? それは別にいいのか? お、おう。君がそう言うのなら私も気にしないようにしようか。

 馬鹿弟子は無言で悶えるなバカモン。一回本気で躾けた方がいいのかもしれんな? なぁに、痛い事も苦しい事もあまりしないさ。多分な。まったく…お前も大人しくしていれば十分に美女の範疇にあるだろうに、なんでこんなに残念なんだろうな? おいこら、何クネクネしとるか。褒めてない、褒めてないからな?

 

 うん、漸く起き上がれるというものだ。いや、別に嫌だったとか不快だったとかは無いから。そんなにしょんぼりするなよ、罪悪感が湧いてくる。しかし、今視聴しているのは以前も見ていたのではないか? 何? ベルトの試作品が届いたからまた見直していた? あー…確か熱心なファンレターで、是非とも成人が装着可能な変身ベルト等のグッズを作って欲しい、というのが一定数来ていたアレか。撮影に使っていたモノをベースに製造したらしいが…うぉ、マジか。外見は完璧だな…魔王と救世主と臣下のベルトじゃないか…ウォッチも揃ってるし…。

 ん? なんだ、三人で並んで…ほぁっ!? ウォッチのボイスもだがベルトの方もギミックバッチリじゃないか…!再現度高いなぁ。というか三人して完璧な変身ポーズとか…ショウセイが魔王で、マルゼンスキーが救世主、馬鹿弟子が臣下か…また、無駄に併せてるなぁ…あぁ、いや、完成度高いと思うぞ? え、今度学校でみんなに見せる…そ、そうか。まぁ、程々にな?

 

 あぁ、騒々しい日常だが…私は存外気に入っているのだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絆創膏

 

 

 

 

 

 誰かが駆け回る足音が聞こえる。恐らくは妻と娘がまた戯れているのだろう。娘はまだ幼い、と言っても小学生ではあるのだが…兎も角、幼いのだが、妻はそんな娘と同じ目線で泣いて笑って喜んで、と…まぁ、出会った頃からそこは変わらないというか、うん。そんな二人は、些細なことでも大喜びして駆け回るだろうから、何かちょっとした良いことがあったのかもしれないな。

 まぁ、たまの休日に家族揃って出かけた先で眠っていた私が言えたことではないんだが、マイペースだなぁ、彼女らは。因みに馬鹿弟子とショウセイは逃げた。娘を妹のように可愛がっている二人だが、野外でテンションの上がった妻と娘二人の相手は無理だと判断したのだろう。私もその判断は正解だと思う。現実として、パワー負けして力尽きて寝ていたのだ。夜のスタミナなら負けたことは無いんだがな、運動不足だろうか? 真剣に馬鹿弟子とショウセイのジョギングに付き合うことを検討したほうが良いかもしれない。

 あくびを噛み殺しながらつらつらと考えていると、起きた私に気づいた二人が駆け寄ってくる。うん、駆け寄ってくると言うか、ダッシュで勢いそのままに突っ込んできてるな…? 直前でブレーキを掛けながら、「どーん!」と二人で言いながら抱きついてくるのを辛うじて抱きとめた。本当に辛うじてなので、トレーニングを始めることを心にメモして二人に問う。何か面白いものでも見つけたのかな?

 ほうほう、犬を見つけた、と…捕まえようとした娘を抑えた妻、グッジョブ。何? ウマホで写真と動画を撮ってる? どれどれ…

 

 えっ…? これ、いや、まさか…ニホンオオカミ…? 確かにここは目撃情報のあった宮城県県境の山に連なった場所だけど…えぇ…?

 

 と、取り敢えずその写真と動画は然るべき研究機関に提出しよう、そうしよう。あ、私のスマホにもデータ送っといて。分散しておけば万が一ウマホが壊れたりしてもなんとかなるし。しかし、本当に狼ならこんな近い場所で撮影されたのは初めてかもしれないな…。

 そんな風に考えていると、私の腕の中に収まったままの娘が、「すごい?すごい?」と聞いてくるので、あぁ、本当に凄い事かもしれないぞ? と答えると目を輝かせて「やったー!」と叫ぶ。多分、内容とかじゃなく『凄い事』が嬉しいのだろう。まぁ、ちょっとシャレにならないレベルの凄いなのは目をつぶろう。

 取り急ぎ伝手に連絡を入れてデータを送信、後は専門家に任せるとして…あぁ、なんだか疲れた気もするが気の所為ということにするか。まぁ、それはそれとして妻と娘を抱きしめて癒やされるのだが。娘は嬉しそうにはしゃいでいるが、妻はなんだか苦笑いを浮かべている辺り、色々と察しているのかもしれない。彼女は存外ヒトの感情というものに敏感だ。そして、どんな相手にも寄り添える優しさを持っている。その優しさにやられた一人が私という訳だが…まぁ、うん。色々あったのだ、馴れ初めは。

 二人を抱きしめて気持ちが上向いた私は、娘を肩車すると走り出す。特に目的地も理由もないが、なんとなく走りたくなったのだ。偶にはそれでも良いだろう。頭上からははしゃぐ娘の声が、後ろからは楽しそうに笑いながら駆けてくる妻の声が。

 この二人と馬鹿弟子とショウセイ、他にも友人たちも含めて、良い出会いに恵まれたものだ。おかげで笑顔が常に傍らにあるような生活が出来ているのだから、人生わからないものだな、なんて思う。

 

 ウララ、コハル、楽しいなぁ。

 




 突発場外 おじさん(二十歳)とダスカちゃん(JS)






 ねぇ、スカーレットちゃんや。なんでおじさんの膝の上に座ってるのかな?

 「ばかね!アタシと一緒にホラー映画を見るおじさんが怖くないようにしてあげてるのよ!」

 そっかー、スカーレットちゃんは優しいなぁ。



 ねぇ、スカーレットちゃん。なんでおじさんの上着の袖をちょこんと掴んでるのかなぁ?

 「ばかね!アタシが一緒にお手洗いについていってあげるからよ!あとお風呂にもついていってあげるわ!背中もながしてあげるから覚悟するのね!」

 そっかー、スカーレットちゃんは優しいなぁ。(震え声



 ねぇ、スカーレットちゃん。なんでおじさんの部屋にまだいるのかな? 歯磨きも済んだでしょ?

 「ばかね!アタシが一緒に居て怖くないようにしてあげてるのよ!あっ、ベッドはちゃんと詰めてよね!アタシも一緒に寝るんだから!」

 そっかー、スカーレットちゃんは優しいなぁ。(嗚咽



 ねぇ、スカーレットちゃん。なんでおじさんのベッドに世界地図(穏当な表現)が制作されてるのかなぁ?(諦め

 「……ごめんなさい、怖い夢みちゃったの」

 そっか、それじゃあ仕方ないか。じゃあ、これはおじさんが掃除しておくからシャワー浴びておいで。





 ダスカちゃん、トレセン入学2年前の出来事である。(大嘘

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