ヒト>ウマ>ヒト   作:ゼン◯ロブロイ

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あかんて…

アンケートがデッドヒート過ぎて震える




平穏な1週間(強弁) 前

 月曜日

 

 

 

 何日目かではなく、曜日を記載することにした。まぁ、何となくなのでまた変えるかもしれんが、とりあえず今回はこれで行こうと思う。

 ショウセイは無事編入試験をパスし、寮に入る事になると思っていたのだが…マルゼンスキーと二人がかりでおねだりしてくるのは卑怯ではないだろうか?

 抵抗儚く、マルゼンスキーとショウセイの同居、というかシェアルームか? を認める羽目になった。学園側からの許可も取り付けてる辺り手回しがいい。

 その上で此方に朝から顔を出して朝食と昼食を用意する事を認めさせられた。これに関しては厨房を取り仕切るショウセイに私が勝てるはずもないので仕方がないだろう。

 だが、夕飯も作りに来て一緒に食べると言われると…それはここを出る意味があるのか? と思うのだが。これは決してやり込められた悔しさで言っているわけではない。

 因みに馬鹿弟子も一緒に引っ張っていこうとするショウセイと、必死に私の足にしがみついて抵抗する馬鹿弟子の対決は引き分けに終わった。主に私の足が持たないという理由でだが。

 ともあれ、先日マルゼンスキーの部屋にお邪魔して、ショウセイの荷物を運び入れた訳だが…何故かマルゼンスキーの荷物を一部ショウセイの部屋に置く事になったのは意味が分からん。

 そんな事を考えながら、カルテの整理と友人達から依頼された治療の経過報告書の作成を終わらせる。余り嬉しくない事だが、この手の作業は片手間に出来るようになってしまった。

 複数の名家やら有力者のバックアップがあるとはいえ、医師免許すら持たない私の療術院が存外忙しいのは想定外だったなぁ…。

 

 ショウセイが用意していた昼食を食べ終え、散歩がてら経過報告書を届けに歩き出す。もちろん、扉には外出中の札を忘れずに掛けておく。以前、この札をかけ忘れて御令嬢や元患者君に怒られたものだ。

 警察署前で連絡を入れておいた友人に封筒ごと手渡し、商店街へと足を向ける。探偵の分も入れておいたが、どうせ捜査協力をしているのだから構うまい。

 商店街をぶらぶらとしながら、顔見知りに挨拶をされ、挨拶を返す。日常というべき穏やかな時間は良いものだ…。そう考えたのがいけなかったのか、視界の隅に白毛がちらりと見える。

 時間的には居る筈が無い、そう思いながらも若者達に囲まれている白毛のウマ娘の元へ進む。近づくにつれ、少々…いや、かなり強引にナンパをしているのが聞こえてきて、イラッとする。

 

 何故イラっとしたのかは考えない。考えないったら考えない。

 

 ウマ娘に無遠慮に伸ばされた腕を掴んで、手首の関節を外しながら捻り上げてそのまま確保。そのまま二人目三人目四人目と立て続けに確保してから友人へ連絡。未成年者略取現行犯であると告げて場所を教えて通話を切り、絡まれていた白毛に向き直ると…。

 

 

 

 

 うん? 誰だ君は。もとい、無事かねお嬢さん。

 

 

 

 ははぁ、連れが迷子に、ねぇ。どちらが迷子になったのかは些細な問題だろう。二人がはぐれてしまったという事実だけが重要だ、という事にしておこうか。

 あぁ、先ずは挨拶を。 私はサイトという…まぁ、通りすがりのお節介焼きさ。 見ての通り少々胡散臭い怪しい大人だね。 え、別に胡散臭くはない? そうか、ありがとう。

 因みにその迷子になった連れの特徴等を聞いても? 探すにしてもある程度目星をつけた方が良いだろう。

 

 うん、うん。 うん? お嬢さん、その迷子はもしかして桐生院というトレーナーではないかね? あぁ、ちょっとした知り合いでね。 電話して呼び出すから少し待っていてほしい。

 

 

 

 

 あー、もしもし。 うん、久しぶりだね。 君が担当しているお嬢さんが君を探している。 そう、商店街の北口から入った、そう、そこの喫茶店の前だ。 早く来るように。

 

 

 

 お嬢さん、おそらく5分もかからずにここに来るだろうから待っていただけるかな?

 そうか、ところで名前を聞いても? ハッピーミークか、良い名前だな。

 

 

 随分とマイペースなお嬢さんだが、良い子のようだなぁ。 パトカーで迎えに来た友人に積み込まれてる馬鹿どもにも「もうしないように注意していただければ」とだけ言って被害届も出さないと。

 痴漢でも婦女暴行でも傷害罪でも積み上げられる相手なんだがなぁ、きっちり「オハナシ」してくれるように念押しして見送りながら気配を感じて、隣のミークの肩を抱いて一歩下がる。

 

 直後ヒーロー着地を決めるパンツスーツ姿の桐生院(バカモン) …いや、何故上から降ってくるかな?

 

 あぁ、急いでたので上ってたビルからスパイダーマンのように壁やら屋根やらを駆使して文字通り一直線にきた、と。

 そうか、うん、もうそれでいいか…それでは、ハッピーミーク嬢。 済まないがそのバカから目を離さないように帰るんだぞ?

 機会があれば、今度は喫茶店でゆっくりお茶でもしようか。 だが桐生院、テメーは駄目だ。 贔屓じゃない。 差別でもない。 区別だバカモン!

 

 

 

 

 火曜日

 

 

 

 今日は微妙な重さを感じて目を覚ます。

 恐らくは私の寝相というか、癖? で抱き込んだのだろう。 眼を開くとなんか黒いのを抱きしめていた。

 いや、黒いのというか、こう、ぼんやりとしているというか…透けてるというか、半透明というか…? どうやらいたずら好きな来客のようだ。

 「彼」と呼ぶべきか、見た目に従って「彼女」と呼ぶべきか少々悩むが、ここは「彼女」と呼んでおくか。 そういう扱いをしているわけだし。

 いまだに私の腕の中でねこけている「彼女」との初対面を思い出す。 出会いは突然で、偶然で、冗談のようなものだった。

 

 ショウセイと出会うよりも随分と前…この街に腰を据えた頃だったか。 まだここが真新しい匂いをさせていたある夜に、背後に気配を感じた私は咄嗟に捕縛を試みて腕を突き出したんだ。 ここにたどり着くまでに荒事も経験していたのもあって、自然とそうしていた訳だが、今考えれば不用心な事だな。

 

 

 結果は、「彼女」の慎ましい胸を鷲掴みにしてお互い固まっただけだったんだがな。

 「彼女」はまさか自分に触れられるとは思っていなかったし、私は多少なりとも気配があったせいで、正面から見てるのに良く見えない誰かを掴むとは想定していなかったんだよなぁ。

 お互い数分微動だにしない、但し傍目からは空中に腕を突き出してるだけの私という構図は、私が腕を引っ込めることで終わった。

 気のせいで片付けるにはしっかりと感触があったが、温度を感じなかったし、何かが流れ出しているような感覚で「何か」が居るのは確信していた。

 どうしたものかと考えていると、音ではない声? が頭に届いた…うん、聞こえたというよりは届いたという感じだな。 まぁ、困惑する声が届いた訳だ。

 そこで話し合いが出来るかと考えて、意思疎通を図り…なんか懐かれた? というべきだろうか。

 話を聞いてみれば、「彼女」は幽霊ではないらしい。 いや、幽霊は幽霊なんだろうが、少々毛色が違うというか。

 死後の魂を幽霊とするならば幽霊になるのだろう。 だが、死者の魂を幽霊とする場合は幽霊とも言い切れないという存在だというのが分かったわけだが、「彼女」は中々にロックだった。

 

 ウマ娘として生れ落ちる筈だった「彼女」は、宿る肉体が自分に耐え切れないと本能的に察して抜け出したのだという。 デタラメだなコイツ。

 そんな簡単に出たり入ったりできるのか? と問えば、「気に入らない運命には逆らう」の精神で成し遂げたのだそうだ。

 結果として残滓が残っただけの肉体には魂が宿って人間として生まれたそうだが、滅茶苦茶やるなぁ。 そして「彼女」は気の向くままにフラフラしていたが、とあるウマ娘に強く惹きつけられて一緒に居るそうだ。

 それは守護霊とか背後霊的な? と問えば、「いや別に? 一風変わった友人くらい?」と伝えてくる。 コイツ本当に自由だな。

 そのまま色々聞いてみると、何となく私が気になったので近づいたら乳揉まれたとか不名誉な事を言われたので、ギリギリ掴める胸板の子供が何を言うかと言ったら蹴られた。 解せぬ。

 まぁ、そんな風に意思疎通しつつ触れたり触れなかったりを繰り返してお互い気づく。 何か生命力的なモンが流れてると。

 私がその結論を出したのは頭悪い推測だがな! 身も蓋もなく言えば、触れる度にムラムラが収まって少し疲れたかな? という感覚を覚え、「彼女」の姿がほんの少しではあるがハッキリしてきたからだ。

 「彼女」は感覚的に理解したらしいが。 尚、私にハッキリ見える程度まで生命力的なモンを吸わせてみたが、少し疲れた以上の疲労感等もなかったので問題なしとした。

 

 途中で何度か配達員が来たが、「彼女」は全く見えていなかったのは間違いない。 だって対応してる時に私の頭に蝉みたいに「彼女」がくっついてたけどノーリアクションだったからな!

 

 そんなこんなで、お互い面白いと思ってしまった結果…まぁ、友人となった訳だ。

 私としては考えるだけで会話が成り立つ相手が面白かったというのもある。 一切の柵がない相手だったというのも無関係ではないがね?

 「彼女」はもっとシンプルに、面白いし生命力的なモンを補給出来る。 ド直球でそう言われたときは大いに笑ったものだ。

 そんな出会いだったが、「彼女」とはそれなりに長い付き合いになったし、面白い能力も見せられた…というか、体験させられた。

 

 まさか夢の中に引っ張り込まれるとは思わなかったが。

 

 ただの明晰夢、と言えればよかったのだが、夢の中から持ち出せたモノがあったり、夢を介してモノが持ち込まれたりすれば、なぁ。

 「彼女」が普段一緒に居る子の所からコーヒーを一杯持ち込んできた上に、飲み干した後のカップを夢経由で持って帰られれば認めざるを得ない。

 ま、折角なんで美味しいコーヒーだったとメモも持って行ってもらったのは…我ながら順応しすぎだろうなぁ。

 

 さておき、そんなこんなで付き合いが始まったんだが、「彼女」のいたずらやサプライズもあって退屈とは無縁だ。

 だがまぁ、唐突に夢を繋ぐのはやめてほしい。 私の側の不具合と言えるのだが、相手を思い出せないと目を覚ましてもちぐはぐな記憶になるんだ。

 夢を繋ぐ「彼女」の事を知っているのに思い出せないとか、相手を知っているのに思い出せないとか、知らない筈なのに覚えているが認識できないとか…数えるとキリがない。

 しかも、これらは夢のあと「彼女」と会話してやっとわかった事だったりするので、私自身が把握できていない事もあるんだろうなぁ…。

 そこまで考えて、着替えるかと起き上がり彼女を手放す。 考え事の最中は延々弄繰り回していたが、まぁ、大丈夫だろう。

 

 

 

 

 今日は随分と平穏というか、暇というか…静かな日中だった。 多分「彼女」の所為だが。

 あれで「彼女」はスキンシップ好きというか、構われるのが好きというか。 私としても下手にいたずらさせるよりは膝の上に載せて撫でまわしてる方が安心が出来るというものである。

 来客や急患が運び込まれれば自分が構われないと解かっている「彼女」は、不思議パワーで色々やっているらしい、詳しいところはわからんし聞いてもいないが。 因みにそれで消費した分は私から補充しているとのこと。 永久機関かな?

 満足したのか、尻尾? 多分尻尾で私をぺちぺちと叩いて離すように催促してきたので解放する。 ふわりと膝から飛び降りて背後に回った「彼女」は、何時もの様に私の頬にやんわりと噛みついてから離れていったようだ…。

 ま、こういう一日も悪くはあるまい。 私としても「彼女」が引っ付いてくれると溜め込まず(うまだっちせず)にすむからな。 マルゼンスキー達相手にトチ狂わずに済んでるのだから、一日費やすくらいは必要経費だし大変にありがたいものだ。 まぁ、それを抜きにしても「彼女」と一緒にいるのは気に入っているのは…「彼女」には内緒なのだがね?

 

 

 

 水曜日

 

 

 

 昨日は「彼女」のおかげ、というべきかな? で、実に平和だったな。

 私以外が居ると入り込んでこない「彼女」の事だ、「彼女」なりに配慮してくれたのだろう。 結果として今日は朝から連絡が一気に来たわけだが…。

 しかし、世の中狭いというか…マルゼンスキーやショウセイが桐生院のチームに所属しているとは、妙な縁があるものだ。 フランスで専属だったのは知っていたが、帰国してからは特に聞いていなかったからなぁ。

 というか、もしかしたら奴のチームに知り合いが集まってる可能性までありそうだな…いや、何の根拠もないんだが。 無いんだが、多分間違いないという予感が…というよりは直観かね?

 沖野や黒沼さんも苦労してるみたいだし、一度連絡を取って集まったほうがいいのかもしれんなぁ。 特に黒沼さんは困ってるらしいし。 沖野は嫁さん未満恋人以上が飛んできたから名家に囲い込まれるか微妙なラインだが…面白そうなんで見守るのもありか?

 

 つらつらと考え事をしながら仕事を済ませ、往診の準備を始める。

 往診、と言っても大したことはしないのだがね? 名目上は往診というほかないだけなんだが、問診と簡単な診察を済ませたらそのままお茶や食事を勧めてくるのはやめてほしい。 いや、好意なので断るつもりは無いんだが。

 若干名薬を盛ったりするのを警戒しなくちゃいかんのが面倒なんだ。

 ま、これも仕事だ。 最初は探偵達の所に行って、そこから近場を済ませていくか…。

 

 

 

 危なかった…まさか強硬手段を選んで来るとは。 最後の患者の往診も無事に済んだと思ったら、力尽くで事に及ぼうとするとか想定外だぞ、しかも野外で。

 偶然、本当に偶然にも愛車で通りかかったマルゼンスキーが居なければ危なかったかもしれない…。 勢い良くドリフトで突っ込んできたカウンタックに引っ張り込まれるとか何処のヒロインだよ私…。

 幸い? にも患者達も即座に離脱していたから怪我人が出る事も無かったが、真顔のマルゼンスキーがちょっと怖かったのは内緒だ。

 助かったのは間違いなかったんだが、その後がなぁ…。 何処か違和感を感じる笑顔のマルゼンスキーと夕食を取ったまでは良かったんだが、その、ご休憩に誘われるとは思ってなかった。

 彼女の好意は嬉しいし、魅力的なのも間違いないんだが…如何せん、学生の身分だからなぁ。 しかも世界的にも有名だから、下手は打てない訳だし。

 「彼女」が昨日来ていなかったら、或いは事に及んでいたかもしれないが…ギリギリではあるがなんとか理性が仕事をした。

 が、はぐらかすような真似も出来なかったので、ケジメとして…卒業までは抱くような事はしないし恋人にもならない。 そう伝えて、ビンタの一発も貰う覚悟をしたんだ。

 

 

 「じゃあ予約ね?」なんて言いながらキスされるなんて思ってなかったよ。

 

 

 いやぁ…あれは反則だろう? 前言を翻して襲わなかった自制心を褒めたいところだ。

 ま、直後に「予約の返事だ」と言って此方からキスをしかえしたのは仕方ないと思うんだ。

 

 お互いに顔を赤くしながら送ってもらい、別れ際にまたキスをしたのは親愛だからセーフという事にして頂きたい。 誰に言ってるんだ私は。

 この日の夢はどんな夢を見たのか思い出せないが…それはまた、別の話だな。

 

 少々長くなったので、一旦ここまでとしよう。




はい、筆が滑りました
いや、本当になんでこうなったの?

お気に入りが減っていくのをみて、求められているのは別の方向なんだろうかと思い始めた今日この頃、皆さんはいかがお過ごしでしょうか

私は元気です(仕事

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