ヒト>ウマ>ヒト 作:ゼン◯ロブロイ
ウチのラモーヌさんはキャラ崩壊してるって…?
まぁ、そうね。
つまり言い訳回ってやつさ。
短くなるが許して欲しい。
ぱちり、と瞼を開き完璧に目覚める。 ばぁやが入室のノックをする前に起き出すのは久しぶりかもしれない。 彼との約束の日を迎えて心を浮き立たせているのかしらね?
ノックの後に入室してきたばぁやに指摘されるまで微笑んでいる自分に気づかなかった程、と考えれば…えぇ、楽しみにしていたのでしょう。 ターフとレースに心を、愛を注いでいた自分にそんな稚気にも似た心が在ったことに喜びを感じる。
湯を浴び、身支度を済ませてからふと気づく。 今の私は世に言う「初デートに浮かれる学生」そのものではないか、と。
どうりでばぁやの眼差しに普段は感じない居心地の悪さを感じた訳だ。 記憶にある限り、私がこれほど浮ついた事は無かったように思う。 無論、レースを前にして高揚していた事は多かったが…それと同等以上の心を人に、それも異性に向けたのは今回が初めてだ。
成程、母よりも接する時間が長いばぁやにしてみれば感慨深いのかもしれない。 そう気づいてしまえば気恥ずかしくも思う辺り、『私も年相応な部分があるのだな』と他人事のように考えてみる。
だって、そうでも思わなければ頬を染める色に気づいてしまいそうだから。
ばぁやに送られて彼の住居前に到着した。 車から降りる前に今日の服装に不備が無いか、彼に見せる私に陰りが一点でもありはしないかと確認する。
あまりに真剣だったようで、クスクスと忍び笑いを我慢しないばぁやに「今日のお嬢様は今までで一番可愛らしいですから大丈夫ですよ」と言われ、気恥ずかしくも背を押された感覚を受けてありがとう、と答えた。
呼吸を一つ、落ち着いて降車して彼を迎えに歩き出す。 大丈夫、『今』の私はメジロラモーヌ。 ウマ娘なのだから。
でもね? 流石の私も上から貴方が降ってくるとは想定してないのよ?
歩き出した私達、少々ばつが悪そうな顔をして隣を歩く彼が居る。 過去に
何故上から降ってきたのか問えば、「ラモーヌさんが驚く所を見てみたかったのでつい…」なんてそっぽを向きながらこぼす。 貴方、なんであの頃と同じで子供みたいな思い付きを実行してるのかしらね。 異性への気遣いというモノは大事よ、と教えたでしょうに。
自然と高鳴る鼓動と沸き立つ心、貴方が子供のような自分を曝け出している事に喜びを感じている私に驚く事はない。 過去の貴方に重なる今に懐かしさすら浮かぶ。 だから私と貴方の間に距離を取ろうとする事は無粋と知りなさい?
彼の腕を取り、尻尾も摺り寄せる。 家の者にはもしかすればはしたないと思われるかもしれないが、私が愛を注ぐのだから仕方ないと諦めて? 魔性の青鹿毛と呼ばれていても、まだまだ小娘なのだから。
楽しい。 レースとは違う、ただ二人で普通の道を歩くだけなのに。
最初は夢の中に居た。 夢の私はケモノの姿で、彼もそうだった。
嬉しい。 彼がさりげなく私を気遣い、私に鼓動を高鳴らせているのが。
彼は13番目に私と子を成した相手で、不思議と心に残った。
悔しい。 彼のエスコートに慣れを感じる。 コレは私が初めてでない事に。
他の殿方と違って、彼は何度も会いに来た。
愉しい。 何となく身を寄せると頬を染めながら緊張する彼を見るのが。
ケモノの姿で人に世話されるイキモノだったのに、不思議と自由に見えた。
悲しい。 今この瞬間だけしか独占出来ない事が。
子供の様で、時々年相応に寄り添う不思議な子。
けれど、だからこそ、だろうか。
だからだろう、最後の泣き顔をどうにかしたくて…また会いましょうと伝えたのは。
私は彼と一緒に生きたいのだな、とすんなり思えた。
他愛ない話をした。 他の子の名前を出した事は…仕方ない。 水を向けたのは私だ、責めるのは筋が違うというモノ。
それに、彼が助力したウマ娘は少なくない。 それは、治療に限らず、だ。
例えばツインターボ。 彼女は私に平然と挑んでくる愛しい子だ。 競う度に何かの形で強さを掴んでくるから、とても楽しみにしている。 あの子には幾らかアドバイスをしたと聞いた。 ツインターボと競えば大概の者は10回走れば9回は勝つだろう。 けれど、私含めて勝てない相手と相対する時…ツインターボは必ず勝つ一回というモノを持っている。 まだまだ未熟だけれど、ね。
貴方には多くの愛し子が居るようね?
例えばナリタブライアン。 彼女はツインターボに引っ張られてくるのだが、レースに誘ってくる事も多い。 彼女はリハビリメニューをトレーナー側から相談されて助力したらしい。 躾のなってない獣のような振る舞いと気配、嫌いではないのだけれど…少々、勝手が過ぎるかしら。 私にそうは思われたくないでしょうけどね。
此方で出会ってからの貴方なら仕方ないのかしら。
例えばイナリワン。 彼女もツインターボに引っ張られてくる。 けれども、彼女の場合はその…私が言うのもおかしいのだけれど、保護者にしか見えない。 彼女は…中央移籍の時に彼が巻き込まれたとか…詳しいところは不明だけれど問題は無いでしょう。 尚、彼女と同じような保護者枠でイクノディクタス、ナイスネイチャ、マチカネタンホイザも偶に様子見をしている。
妬けてしまうわ、私は思い出してもらうのに時間がかかったようだし、ね?
例えばトウカイテイオー。 ルドルフのお気に入りでツインターボのライバル、と聞いたけれども…今のままなら、ライバルには成りえないかしら。 けれど、何度も私に挑んでくる気概は嫌いでは無いわね。 彼女の所属するチームトレーナーに彼が協力していた程度、ほぼ接点はないわね。
物心ついた時から貴方を求めていた私とは随分と違ったようね。
レースや挑んでくる子の事ばかり話しても、彼は嬉しそうに私の話を聞く。 他の誰とも違うと、私にそう思わせる。
実際にはそんな事はないのだろう。 彼もここではただの人だ、私の魂が特別視してしまっているだけなのだろう。
そう、特別。 レース以外では唯一と言っていいただ一人。 ルドルフですらそうではないというのに、彼だけは。 えぇ、えぇ…以前の私も走る事と母となる事を求められ、応えていた。
そんな私が知ってしまった彼を手放す等…ねぇ? 親子は一世夫婦は二世主従は三世なんて言葉があるけれど、私と彼が何世まで続いてゆけるのか。 主従も夫婦も踏み越える私と彼だけの関係、なんて…面白いじゃない?
ゆるゆると歩きながら彼に声を届け、彼の声を楽しんでいたら最初の目的地に到着…? ビリヤード場、ね。 私相手に勝負事かしら?
私のそんな思いを見て取った彼は、「軽く一勝負さ、ナインボールで如何かな?」なんて子供のような表情で提案してきた事に免じて許しましょうか、テーブルに隠れながら此方を伺う面々は。
私、負けず嫌いなのよ? そう呟けば、「忘れてない…いや、思い出してるさ。ちゃんとね。」と返す。 背景の方々は顔中に疑問符を浮かべているけれど、関係ない。 少しだけ嬉しく想いながらキューを手に取り、構える。 勝負事ですもの、お互いに真剣にね?
もう一度、もう一度とはしたなくもせがんでしまったけれど、嬉しそうに受けて立った貴方も悪いのよ? そう予定時間をオーバーしてしまった事に関しての文句をぶつけても、涼しい顔で「ラモーヌさんに求められたらそうもなるさ、俺だって男だからね。」なんて抱き寄せながら応える貴方をつねった私は悪くない。
軽くだったし、誰でそんな事を覚えたのかなんて嫉妬もしてません。 あと背景の御三方は器用にも静かに騒がないで頂きたいのだけれど。
別に不機嫌になっても、ましてや怒ってもいません。 そんな事をする時間も惜しいの、私達二人の時間なのよ? だから、次の場所へのエスコート…宜しくて?
再び彼と歩き出す。 身体を預け、腕も尻尾も巻き付けて。 魔性の青鹿毛を知る者なら眼を疑うかもしれないと一瞬過るが、今は心地よい彼の温もりを堪能するべきだと切り替える。
何処へ行くかも問わず、朝とは違って静かに歩く。
けれど、そんな些細な事に気を取られたりはしない。 精々が思考のノイズだ。 今を愉しまなければ勿体無い事を、私達は良く知っているのだから。
そうして二人でゆっくりと歩んだ先に在ったのは…喫茶店? ここで食事かしらと問えば、「きっと気に入ってくれると思うよ」なんて、また思い付きをする男の子のカオをしている…。
これも惚れた弱みというのかしら? 可愛らしいと思うし、楽しみだとも思う。 ちょっと押し倒したくなったわ。
さて、どうしたものか。
満面の笑みを湛えた正面の
まさか一斤丸々使用したハニートーストが初手で出されるとは思わなかったわ。
運んできた喫茶店の主と、その手伝いであろう白毛のウマ娘はカウンターから此方を伺っているのが見えた。 どうやらあの二人は、私の笑顔に怯えているらしい。 目の前の
一般論ならば、だけれども。 生憎と、私にとって気にすべき評価は彼からのモノだけなの。 つまらない雑音は耳障りではあっても、それ以上には気にしない、という事ね。
さておき、目の前のハニートーストはとても美味しそうだ。 メジロの屋敷で供されるモノと比べても負けず劣らずと思えるが、本当に些細ではあるが違和感がある。 これは、彼が仕込んだ悪戯…かしら?
悩みも迷いも、そんな事に時間を使うなんてつまらない。 なので、ここはひとつ面白くしてみようかと思う。 具体的には「あーん」とやらを所望してみよう。 アルダンが頬を染めながら読んでいたマンガにそんなシーンがあったのを憶えていたから。 それ以上でも以下でもないわ。 えぇ、ありませんとも。
「美味しそうな所を見繕って食べさせてくださらない?」
自然と微笑みを浮かべながらそう伝えると、一瞬頬を染めると咳ばらいを一つしてから「喜んで」と一口分だけを切り分けて差し出してくる。 素直に差し出してくれたのだから、私も素直に頂こう。
今更ではるけれど、無防備に目をつぶって口を開くというのは…想像以上に恥ずかしい気がする。 甘い蜂蜜の香りがゆっくりと近づいてきて、彼の「あーん」という声に併せてぱくり。
思わず眼を見開く程度には驚いた。 蜂蜜とパンは本物だが、他は違う。 普茶料理のようなモノ、かしら? 味のバランスが保たれているし、甘さもしっかりと感じるコレは…もしや。
「ねぇ、貴方。 この料理の意味を教えてくださらない?」
自分でも満面の笑みで喋れたと思うのだが、彼も満面の笑みで返してきた。 「あ、ビックリしただろ? ここのマスターは案外器用だからさ、レシピ用意して作ってもらったんだ! 味もちゃーんと美味しいだろ?」なんて、悪戯が成功した子供そのものとしか言えない表情だった。
えぇ、そうね。 貴方はそういう子よね。 それでも私の心は無いとは思っても裏の意味を想定して傷ついたのだから補償を要求するのも許されて然るべきだと思うの。
「ねぇ、貴方。 正面からよりも隣に来なさいな。 寄り添いながら食べさせて欲しいの。」
そう言いながら自分でも少し驚く。 私はこんな甘えたおねだりをする女だっただろうか? けれど、この自分に不快感は無い。 だから、きっとこれでよいのだ。
「それじゃあ失礼して」等と言いながらピッタリと隣に座って…私を抱き寄せながら、「あーん」と一口分をまた切り分けて私の口に寄せる。
抱き寄せる腕に、わたしの腕を重ねる。 尻尾も当然彼に絡ませる。 そうやって寄り添いながら口に運んだハニートーストは、先程よりも甘く美味しい気がした。
合間合間に珈琲も飲ませてもらいながら、ゆっくり時間を掛けて完食する。 その間、カウンターから此方を見ていた白毛の幼さが残るウマ娘はトマトよりも苺よりも真っ赤になりながら喫茶店の主にちらちらと視線を送っていたようだが、喫茶店の主はその視線に気づかないフリをしていたようだ。 どうやら、彼らも面白い関係のようだ。
彼が自分の分のホットサンドを頼んでいたので、今度は私が食べさせてあげると喜んでいた。 ああも無邪気に喜ばれると、今度は私が手作りしたモノを食べさせてみるのも良いかもしれない、と脳裏に記しておく。
先ずは練習からだろうが、簡単なものを教わり、それを愚直に作れば基礎は抑えられるだろうから…あぁ、これは後で考えるべきね。 今は彼との時間を堪能するべきね。
「御馳走様、とても楽しめたわ。」
喫茶店の主にそう伝えると、主本人よりも、それを横で聞いていた白毛の子が大層喜んでいた。 あぁも素直だと、子供も良いものだと思える。
そこで一つ気まぐれが頭をもたげる。 彼も悪戯してきたのだから、私も一つ驚かせてみよう。
「ねぇ、貴方。 あの子を見て思い出したのだけれど、エッジも貴方に会いたがっていたわ。」
寄り添ったまま喫茶店を出た彼の耳元でそう囁くと、盛大に咽る彼。 眼を白黒させながら「えっ、居るの!? 産んだの!?!?」とか言い出したのは減点ね。
「面白い冗談ね、貴方以外が私の肌を見れると思って? 分家の子として産まれていたのよ。 会えて嬉しかったけれど、産みたかったのも本当なのだけれど、ね?」
彼をつねりながらそう伝えれば、今度は真っ赤になりながら、「…そういうのは、その、ケジメをつけてから、そのですね?」なんて照れながらボソボソと漏らす彼は随分と可愛らしいと思った。
その可愛らしさに免じて待ってあげようかと思う。 今は。
あぁ、エッジが会いたがっているのは事実だけれど、私やアルダンの話を聞いて興味を持っているだけなのを言い忘れていたわね。
ひとまずはここまで。 午後はまた今度。
という訳で責任第一弾にござる。
筆が滑ったり止まったりでな、因みにこの世界のツインターボは強いときはクッソ強いのに負けるときは逆噴射という個性派にございます。
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