ヒト>ウマ>ヒト   作:ゼン◯ロブロイ

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そろそろ投げっぱなしで失踪するので初投稿です


説明(言い訳)が長いので飛ばしてもええんやで


私はカミサマを誤解していたようだ

 

 八日目

 

 

 

 うん、八日目の筈だ。

 何故こんな始まりなのか、というとキチンと理由がある。カミサマからの手紙が来ていたのだ。そして、それを受け取った…筈なんだが、手紙は何処にもない。

 無いのだが、内容は頭に入っている、というか、読んでもいないのに頭の中に手紙があるような感覚が落ち着かない。

 何より落ち着かないのは、私に認識できない記憶の欠落がある、と言う事である。

 日記を読み返すと、明らかにおかしいのだ。これを書き始めたのはカミサマに請われたからだと書き出しているのに、今生で繋がりは無いように書いている。だが、現実として私は自称カミサマと繋がりがあるのだ、記憶が弄られているのか、と疑いもしたが…

 記憶をどうこう出来る存在であるなら考えるだけ無駄であろうし、そうでないなら脳内に届いている手紙の中身に答えがあるのだろう。今日一日は記憶と知識の把握に費やす事になるかもしれないな。

 

 脳内に届いた手紙は読み終えた。

 整理するためにも此処に並べて行こう。

 

 まず、手紙は視認出来る形で届いていた。だが、私が触れた事で、手紙は私の意識下にしまわれた、らしい。しまうってなんだ、と思った私は感性が乏しいのかもしれない。

 次に、記憶の欠落と、それに関連してショウセイの存在についてだ。私が人として転生したのは、カミサマとしては想定外の出来事だったらしい。全知全能と云う訳では無い証拠が私自身というのは皮肉というか、何というか。

 

 兎も角、本来なら私という存在は漂白されて、次の生へと送られる流れが正常なのだそうだ。所謂輪廻転生というやつだな。だが、今回はそうはならなかった。

 その理由が、私が馬として生きて、結んだ縁に引き摺られたからだというのだ。つまり、元馬の存在、より正しくは、以前の世界の馬と縁の深い存在に引き込まれた形になっているのだという。

 

 いい加減正直に言おう、ウマ娘に続く因果を私が抱えていたからこの世界に生まれ落ちたのだ。そして、問題はそこだけでは無かった。

 本来ならば、この世界に合わせて私につながるウマ娘として生まれ落ちる。それがこの世界のルールである。だが、私は人の男として生まれ落ちた。つまり、ルールを捻じ曲げるだけの何かが、この世界にはある、と言う事になる。

 そして、その捻じ曲げた存在にアタリは付いていた。この世界の固有の存在、ウマ娘。そしてウマ娘が宿すウマソウル。ウマ娘はウマソウルを持っているが故に、馬のような速さで走り、此方で考えれば常識外れの力を発揮出来る。

 馬時代の知り合い…には限らないのだが、それらが私という存在を求めた事が引き金になったそうだ。

 例えるなら、此方側に篩を通して落ちるのがウマソウルだとすると、私の魂は篩を通らずにひっかかったモノが、篩をぶち破って引っ張り込まれた形、というべきか。

 

 手紙での説明によると、ウマソウル、という形でこの世界に落ちるのは所謂魂、ではないらしい。正確には魂からコピーされた情報と、何処かの誰か、ファンや関係者、世間的な認識…そういった印象や願いと言ったものが魂の情報を補強して出来上がるのがウマソウルらしい。

 つまり、生まれ変わっているのではなく、よく似た別人に馬側の因果等を内包したモノを受け入れた存在がこの世界のウマ娘、と言う事になる。

 それに対して、私は生まれ変わってしまっている。コピーではなく、私の魂その物に印象や願いによる補強が為された存在としてこの世界に落ちたのだが、ここで問題がある。

 

 ウマ娘は因果も内包しているのだが、私が関わった者達に私という存在が関わらない因果があるのか、と言う事だ。極端な話、私が無理を通して道理を蹴飛ばしたライスシャワーとサイレンススズカが生き残るか?ファインモーションに子供が生まれるのか?

 この世界では完全に一致するわけではない。つまり、因果こそ背負っていても、未来は常に変えられる世界でもある。で、あるならば其処にどんな結末が来るのかは解らない筈なのだ、が…

 ここでショウセイの問題が出てくる。彼女は私だ、と感じたのは間違いではなかったようだ。本来私のウマソウルを受け止める器として生まれた存在。そうでありながら私が別の存在として落ちて来た結果、彼女は彼女として成立した。してしまった。

 その引き鉄となったのが、私の死亡偽装にあるらしい。というのも、私も怪我をしていたのだが、その際丸一日意識不明になっていた、と聞いている。それもあって偽装をお願いしたというのもあるのだが、これは余談だろう。

 この時私の魂を補強していた願い等が、剥がれ落ちたそうだ。これに関しては記憶ごと剥がれ落ちたので問題ないとは言いづらいが、今後を生きる上では問題は無い、らしい。流石に記憶が欠けていれば、約束等を忘れていた場合致命的になりかねないのですんなりとは頷けないモノがある。が、それ以上に剥がれ落ちた私の欠片が彼女に辿り着いてしまった事が今の彼女を作った原因だと聞けば、罪悪感ぐらいは感じてしまう。

 見当はずれの罪悪感かもしれないがね…。まぁ、カミサマからの補足情報で何とも言えない気持ちにさせられもしたが。ショウセイとなる前の彼女は、所謂孤児であったそうだ。物心つく前に育児放棄をされ、預けられた孤児院はガチガチの教育主義。レースを走るウマ娘として教育され、基礎を文字通り叩き込まれ…。

 そんな彼女の境遇は馬の私と似て非なるモノであったが、私から剥がれ落ちた欠片が過去に遡って彼女に入った結果なのだという。碌なものではない、と思う。

 そして、彼女が何故私と出会ったのか。これも酷い。小学校の高学年であった彼女は、いずれは何処かのトレセンに、或いは中央に入っていたのかもしれない。だが、それは無くなった未来だ。

 年齢が上がるにつれ、彼女への教育は厳しいものになった。それはまだいい、だが、彼女への教育の一環で、身一つで子供を山の中に放り出すのはどう考えてもおかしい。おかしいのだが…この時、孤児院は火事で全焼。関係者も生き残りが居ないので、登録状況と死体の数を合わせた結果生き残りは居ない、との判断が下された。

 そう、誰かは不明だが、未登録の孤児が居た、と言う事になる。その辺の関係で火事になったのではと勘ぐってしまうが、真相は闇の中だ。

 そして、山中で彷徨っていた彼女は己の裡にある欠片の導きに従って私の許へやってきた、というのだが…山中で強く頭をぶつけた訳でもないのに記憶を失っていた。全身の毛色が真っ白になる、そんな精神的な衝撃を受けたらしい。

 元々が白毛であった可能性もあるが、馬の私が鹿毛だった事を考えると無い、と考えた方がいいだろう。では何だろうか?死の恐怖に晒され続けた?記憶を失う程の衝撃となると…候補は多くない。

 

 詳しく書かれていなかった、と言う事は知るべきではない。そう言う事なのだと、納得するしかないか…

 

 

 結局のところ、カミサマも三女神も全知全能なんて便利な存在にはなれなかった。これはそういう話なのだろう。

 

 

 

 九日目

 

 

 

 先日は長々と書いたが、纏めると…

 

 ウマソウル関連では普通は漉し餡なのに私は粒あんだったから人になった。

 粒あんから散った粒が原因でショウセイは今のショウセイになった。

 私が漉し餡ではなく粒あんになったのは此方のウマ娘の普遍的無意識に引っ張られたらしい。

 

 なんでこんな説明になったんだろうなぁ…私も混乱している、ということか。

 

 

 この際だ、私が闇医者紛いと称した理由と警察に関わっている事情も書き出しておこう。

 

 まず、警察と関りがあったのは両親の方だ。といっても、警察官だったわけではない。無論、犯罪者だったわけでもない。元警察関係者の民間協力者、という建前で動いていたらしい。詳しい事は聞いていないが、その結果があの最後だったというのなら、そんな事はしないでほしかった。生きていてほしかった…。

 話がズレたな、両親が死亡した事故が仕組まれたモノであった、という証拠とセットで私に伝えてくれたのは、両親の元同僚であった。それが事実であるかどうかは、正直どうでもよかった。私の感情をぶつける先があれば、それでよかったのだ。

 自称元同僚と、両親と関りがあったとある名家の協力を受けて私は死亡を偽装出来た。何故手伝ってくれたのか、憐みか、同情か、それとも私に利益を見たのか…。

 結果としては彼らにも利益は在ったのだろう。副産物として私自身も様々な技能を身に着けた。その中で使い道がありそうなものが按摩や整体、マッサージ、鍼灸…笹針。笹針に関しては我流というか、私自身の眼が前提になっているので技能というのは憚られるのだが…。

 これらの技能は資格を持っている訳ではない上に、笹針に至っては私以外に再現性が低すぎる。だが、効果は間違いなくある。しかもかなりの効果が。その気になれば針すら使わずに効果を出せる、というのも異常性に拍車を掛けたかもしれない。

 そして、効果を実際に発揮したのを彼らは直に見たのだ。名家に至っては、子女に施術を受けさせて健康体へと回復させたのだ…疑わしいと思っていたのならば、人体実験であるし、信用していたとするならば迂闊に過ぎるのではないだろうか。と、言えれば良かったのだが…本人の強い希望で行われた施術だったのだ。藁にも縋る、というやつだったのだろう。

 

 警察とは関係者を挟んでの関係だ。秘匿協力者、とされているらしい。荒事の絶えない職場だ、腕のいい医者、と同じような結果を出す存在は確保しておきたいというのもあったのだろう。何より回復の速度が病院より早いのだ。可能なら飼い殺しにしたかったのではなかろうか。

 名家側からの申し出で、警察関係者の次に優先して治療を受けられる権利。これを担保として私に援助をするという。病院ではないが、治療行為をする場所として塒も兼ねた建物まで用意された。

 患者に関しては、名家の子女からの紹介や、名家を通した依頼という形になると言うので、もうそれでいいかと申し出を呑んだ結果が今の私だ。

 警察関係者と名家に便宜を図ってもらい今がある、となると都合がよすぎるとも思うが、その都合の良い今の為に両親を奪われる理不尽があったと言われても納得はしかねる。ま、双方と友人と言える関係になったのは良かったとするがね。

 

 あぁ、そういえばカミサマは本来此方に干渉は出来ないらしい。私を生まれ変わらせたような、間接的な干渉までが限界だそうだ。この世界には三女神という神の座に至った存在の管轄らしい。が、この三女神も直接干渉するようなタイプではないらしい。最初の人生で知り得たギリシャ神話等の神々のようなのは居ない、との事。

 では何故この日記を書かせているのか。これは私を転生させた神にとっての実利にあたるそうだ。何故こんなモノが実利になるのか? ま、カミサマの考える事は私にはわからんよ…。

 

 

 

 十日目

 

 

 

 さて、日記に戻るか。幸いな事に先日までは患者が来ることもなかったし、依頼が飛び込んでくることもなかった。平和といってもいい二日間だった。ショウセイが私のベッドに潜り込んで来たから平穏とは言い難かったがね。

 この日はショウセイにこれからどうしたいか、というより…何になりたいか、と聞いてみた。学生になりたいというなら入学手続きをしよう。トレセンに入りたいならば編入なり入学なりの試験に備えて勉強を教えよう。手に職を付けたいというのなら伝手をフルに使って弟子入りでもかなえて見せよう。君がナニモノになりたいのか、そう問いかけたのだ。

 願わくば、誰かを照らす星の様に生きて欲しいとも考えたが、やはり己の意思で決めさせねばなるまい。まだ中学生にもなっていない…いない筈…恐らくは、なっていない子供に決めさせる事そのものが大人げないというか、保護者が必要な子供にやらせるべきか、とか考えてしまうが…。

 彼女の今に、決断が必要なのだと感じたからこそ…とはいえ、私が迷いを抱えていてはショウセイにも迷いを押し付ける事になりかねない。彼女よりも生きた年月が長いモノとして、何より男として見栄は張らねばならぬ。

 

 ショウセイは僅かに考えた後、訥々と答えた。「私に手を差し伸べた貴方の様に、誰かに手を差し伸べられるようになりたい。」彼女はそう言ったのだ。

 なら、先ずは私の助手として働きながら学ぶかね?彼女の瞳を見据えながら問う私に、一つ頷いて答えた彼女に、私は最大限の配慮をしようと考えていた。誰かに手を伸ばすのならば、引き摺り倒されない程度に己で立てなければならない。私はその基盤に繋がるだけの知恵と技能を教え込もう。

 それはそれとして、私の風呂と寝床に入り込もうとするのはやめてもらえないだろうか、と伝えたのだが、此方は拒否された。だが、私とて今となってはヒトのオスなのだ。己の頼りない理性を削るような肉付きではない、とはいえ…何時そうなるかわからないのがウマ娘という種だ。本当に、本格化というモノは謎過ぎる。

 話が逸れたな…ショウセイの事情もとか言われるし鑑みて、暫くは入浴は手伝う(私は着衣で)が、私の判断で打ち切るものとする。但し、今日明日で、等とは言わぬ事。寝床に潜り込むくらいなら、最初から添い寝を許可した方が幾らか健全であろう、が、此方も私の判断で打ち切るものとする。

 たったこれだけの約束を受け入れさせるのに一日がかりとなったのは…まぁ、仕方あるまい。自慢にもならないが、私に女心なぞ理解出来ないからな。

 小なりといへども女を侮るべからず。前世からの教訓である。いやもう、本当にな、理解出来ない場面で怒られたりするから、本当に困る。今夜も寝巻に着替えたショウセイが私の目の前でくるり、と一回転して見せたのだが、早く寝なさいと言ったらつねられた。解せぬ。

 

 

 

 十一日目

 

 

 

 今日は忙しかった…。それというのも、警察関係者から急患が出たので来て欲しい、と呼び出され。治療が終われば「ひとっ走り付き合えよ」と現場まで引っ張り出され、現場では「俺に質問するな!」と訳アリと思われる患者の治療に駆り出され…。いやね?友人が大慌てで私を引っ張ってきたのも理解できる症状だったが、もう少し説明が欲しかったと思うのは我侭だろうか?

 ともあれ、治療も終わりひと段落したら、今度は塒に置いてきたショウセイから連絡が来た。名家経由で患者が来たらしい。友人に送ってほしいと頼めば「速さこそ有能さの証明、最速で送り届けてやるぜ!」と荒い運転で送り届けられた。確かにかなり速く到着したが、警官としてこれはどうなのだろうか。

 そうして帰れば、患者とショウセイが睨み合いをしていたのだが、これはどんな状況なのだ…?

 

 話を聞くに、ショウセイの言い分としてはやたら偉そうな物言いに反発した、という所だろうか。そして患者の言い分では、良い腕だからと紹介されて態々来てやったのに本人はおらず、留守番も愛想が悪く帰ろうかと思っていた所だという。

 正直に言えば帰って頂きたいが、パトロンの紹介である。致し方なしかと宥めて話を聞くことにしたが、このお嬢さん…メンドクセェ、失礼、少々気難しいお嬢さんだった。名前を明かす必要はない、と前置きし、どのような症状で此方を訪れたのか、どのような結果を望んでいるのかを問診したのだが、骨折の影響が精神的にか肉体的にかは解らないが残っている。検査結果としては健常な筈だが、と言われているが僅かな痛みが気になる。ここまではいい、そういう症状というのは珍しいものではないからだ。だが面倒だったのはここからだ。

 

 彼女は男嫌い、というか男性恐怖症の一症状として異性に攻撃的になる面がある、そしてそれに引き摺られるように同性に対してもやや強く当たってしまうようだ。専門的なカウンセラーではないが、これぐらいは今までの症例からアタリが付けられるとはいえ…いやはや、難しい患者を紹介してくれたものだ。

 

 所で、何故彼女は私に対しては当たりが柔らかいのだろうか?いや、不満とかではなく。ショウセイに比べても普通に接してくれているが、問診の時の思い出しながらの説明では明らかに違った反応だったのに、ねぇ?いや、治療をするにあたって整体とカウンセリングで対応するつもりであるので、この反応はありがたい事はあっても嫌だとか不満だとかは絶対にないのだが。ないのだが、ただ、不思議である。

 

 名前は言わせてないが、もしかしたら何かの縁があるのかもしれない…いや、間違いなくあるな、このパターンは。流石に今までの経験でそれくらいは理解しているとも。

 ともあれ、先ずは整体で下半身の骨格を矯正。それからマッサージ等の自分でも出来るケアの伝達とカウンセリングといきますか…

 なんて思っていたんだが、彼女は思っていたより深く思い悩んでいたらしい。人目に晒される事に対して、というか、男性の視線を感じるのも辛いようだ。ウマ娘としてレースで走る者として、これはマズイというレベルではない。可能なら専門の医療施設での治療をお薦めする場面だ。真正面から断られたが。

 

 本当に、本当に嫌々ではあるが、名家に連絡を入れ、一週間の短期入院の予定を組んでも構わないか確認を取ってもらう。即答でOKが出た辺り、狙っていたなと思ったが、今更余所へ放り出す事も出来ない。我が身ながら、青臭い…が、仕方ない。後は当人に伝えて判断を待つか。あぁ、もし入院するなら準備もあるので、来週の月曜から日曜までの予定が最速だな。そう伝えたら、じゃあ月曜日に来るわね、よろしく。 …即決か。

 不機嫌そうなショウセイを構ってやりながら、患者に別れを告げて帰らせた。

 

 あぁ、今からショウセイの御機嫌取りを兼ねた夕食を用意しなくては…

 明日は入院させるための用意か。ここは病院ではないので入院という言い方はおかしいかもしれないが、細かい事はいいか…ベッドと病衣、献立とカウンセリング予定も立てねばならんのか…後は筋力低下等を考慮するとトレーニングルームも用意したほうがいいか…。

 そんな事をつらつらと考えていたら、名家側からリフォーム提案と見積書、搬入予定物品目録まで送り付けて来た辺り、やっぱり確信犯的にこっちに寄越したな…

 そう考えながらも、必要なのは間違いないのでお願いする旨を返信して、夕食の準備へ向かうとしよう。

 

 

 

 

十二日目

 

 

 

 昨日は大変だったが、今日は朝から騒がしい。昨日の今日でリフォーム工事が入ったからだ。このビルは丸ごと私に貸し出されている(事実上譲渡されているが、名家保有物件という事で諸々の経費などは向こうが払っている)モノであるから、リフォームが済むまで上階の居住部分に引きこもってもいい。いいのだが、ショウセイの私物も増やしてやりたい。なんなら家具も揃えても良いだろう。

 年頃の女の子の部屋としては殺風景に過ぎる部屋なのだ、この際色々と買い物をして女の子らしい部屋に変えさせてしまおう。そう考えて、買い物に出かける事を伝えて暫し待つ。

 先日購入したワンピースを纏ったショウセイと連れ立って買い物へ行くとしよう。あぁ、逸れても困るから手を繋ごうか。それと、そのワンピースは良く似合っているな。思ったよりもショウセイの髪色とあわさって綺麗に見えるぞ、と伝えたら上機嫌になった。

 不機嫌になられるより余程良い、そう考えながら出発したのだが…

 

 

 女とは、生まれた時から女なのだ

 

 

 私はそれを忘れていたようだ。ショウセイの買い物ナガァィ…もう夜だよ。合間合間で食事とかおやつとか食べさせましたがね?世の女性に付き合う男性諸氏もこのような苦難の時間を過ごして居るのだろうか??

 いやね?どちらの小物がいいかと悩んでいる姿や、家具の配置や色の合わせを考えている姿は、色々と楽しい経験としてショウセイの中に残って行っていると思えるんですよ。それくらいに上機嫌かつ笑顔でしたからね。

 ですが、子供とはいえ女性なのだから服の好みとか聞かれても、その、なんだ、困る。あとネグリジェはやめなさい、君にはまだ早い。そして下着を持ってきて見せるのもやめさない。店員さんの視線がヤベーヤツを見るものになってますからね?透明感のある白毛の子ウマ娘と誓って殺しはやってませんとか言いそうな風体のサングラス掛けたいかつい男の組み合わせってだけで色々マズイと気づいて?そこに追加燃料とかやめて??

 非常に居辛い空気を堪能させられたが、買い物は無事に終わった…家具の類と合わせて配達をお願いしたのでそろそろ帰宅するべきだろう。そう考えていたのだが、ショウセイが調理器具も欲しがったので最後による事にした。

 うん、そうだね。色々揃えるのが愉しいのは理解するが…いややっぱこれはわかんねぇよ。何で同じような調理器具を欲しがるのだ。用途別?何故色違いで同じものを並べる必要が…色で覚えておけば楽?包丁なんて万能包丁があれば…使い勝手が全く違う?あー…わかった、わかりました。全面降伏するよ、ショウセイ。もうやけだ、必要だと思うモノを一揃い買おう。それで良いだろう?何?一揃いでは足りないモノもある?わかった、それは買い足していいから、早く持って来なさい。

 まて、流石に業務用冷蔵庫は必要無いだろう…?うん?入院設備を整えるなら何れ必要になる?必要になってからでは遅い?

 ショウセイ、記憶を失う前の君は料理が好きだったのかもなぁ…これほどの情熱を持っているとは思わなかったよ…

 うん、トラック借りて私が運転するから。荷下ろしと搬入は手伝ってくれよ?お手伝いに店員のウマ娘さんも一人付いてくれるらしいし…さぁ、帰ろうか。

 

 この後汗だくになりながら買ってきた品物を搬入した。キツイ、シャワーで済ませて眠ろう…

 

 

 

 十三日目

 

 

 

 平穏とはこんなにも素晴らしいものだったのか…書く事が少ないが、実に良い一日だったと言える。

 今日は朝からマルゼンスキーが顔を出しに来た。出迎えたのがショウセイだったので少々驚いていたが、一目見ただけで気に入ったのか、ハグをしながらカワイイを連呼していたな。胸に埋まったショウセイはもがいていたが、面白かったのでしばらく見ていたら、段々動きが必死になって来たので救出した。

 救出ついでに、最近ウチの子になったショウセイだ。と紹介したら驚いた顔をしていたが、目を輝かせながら可愛がり始めた。なんだろう、前世の祖父成分が前世の孫成分に反応したのかもしれん。

 何の用で来たのか、と問うてみれば、膝の上にショウセイを乗せて撫で回しながら、近所に引っ越してきたからよろしくね、と言い放った。はて、彼女はそれなりに良い部屋を借りて住んでいた筈だが?そう考えていたのが顔に出ていたのか、良い条件が揃ってる物件が空いてたから、だそうだ。

 まぁ、カウンタックを駐車出来るガレージと、警備がしっかりしているマンション。そういう物件なら確かにこの近所にあるよなぁ、と…パトロン殿は名家だが、実業家でもある。もっとざっくり言えば、財閥の家門に連なる人だ。そんな人物の手が入った物件が幾つか並んでいるのだ、それ相応の条件が揃う物件もあるだろうさ。

 話が逸れたが、その新居に移ったのが今日で、近所になったから、と挨拶に来てくれたわけだ。派手に見える見た目に反して、あれで地味な事も厭わないし義理事も欠かさない律儀な娘である。

 

 折角来たのだから早々に追い出すのも悪い。ショウセイが買い揃えた調理器具を活かす為にも、食材の買い出しと昼食に誘ってみる。いや、食材の買い出しを私だけで済ませて留守番してくれて良いんだぞ?と言ったんだが、ショウセイから食材の良し悪しもわからないでしょう?と言われ、マルゼンスキーにはどうせなら三人で並んでいきましょうよ、と言われ…

 おかしい、気をつかった筈なのに気の利かない奴だなみたいな感じにみられている気がする。解せぬ。

 

 商店街で買い物を始めたんだが、なんか、こう、初々しい親子を見るような眼で見られている気がする。確かにショウセイは小学校高学年くらい?に見えるし、マルゼンスキーは私服だと女子大生くらいに見えなくもないくらい色気と落ち着きがあるから、まぁ、姉妹かギリギリ親子に見れなくもないかもしれない可能性は否定しない。だが、私が父親ポジションで見られている気がするのが納得できない。

 精々、三人横並びでショウセイを挟んで手を繋いでいるくらいのものだぞ?それぐらいでそう見えるというのだろうか…?いやまて、もしかしたら私の勘違い、自意識過剰かもしれん!

 

 いや、うん。流石になぁ…。まわりのおっちゃんおばちゃん店主店員が揃ってそんな目で見てるからな…幾ら私でも気づくよ、うん。一部の若い男女にまで微笑ましいモノを見るような眼で見られてたのが本当に…。

 ショウセイは気づいてない、というか気にして無いようだな。色々なモノを見るのと、勘違いでないならば、私達と出かけるのが楽しいのだろう。マルゼンスキーは気づいた上で上機嫌なようだが…そんなにショウセイを気に入っているのだろうか?案外と母性の強い奴だな。

 ともあれ、和気藹々と買い物を済ませ、男の甲斐性の一環として荷物も全部持っているわけだが…この買い物の間に滅茶苦茶仲良くなってるな、あの二人。ショウセイは何というか、幼い感じになっている。甘やかされてふやけたのだろうか?

 いやまぁ、記憶のない彼女にとっては、初めての母親との触れ合いに近い経験なのだろう。それに、マルゼンスキーとの付き合いは短いが、あれで他人の事をよく見ている。そして優しい娘だからな。あと単純に母性本能を刺激された線もあるが。

 

 仲良くなった二人にキッチンから追い出された件。

 私は元々自炊していたから料理出来るんだが…ショウセイはもとより、マルゼンスキーも料理出来るのか?と思って直球で尋ねたのが拙かったのだろうか…。私に出来るのは仕事をしながら彼女らの調理が無事に終わる事を祈るのみである。男とは無力な存在なのだな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は今、冷静さを欠こうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に並べられた食事だが、驚いたことに非常にレベルが高い出来上がりだった。店で定食でも頼んだのだろうか?そういうレベルの完成度なのだ。

 それは良い。非常に良い事だ。心配した黒焦げが出てくることも、怪しげな物体が出てくることも無かった。それだけでも素晴らしいと言っていいだろう。

 

 落ち着こう。落ち着くのだ私。

 献立を書き出していこう。

 

 まずはふっくらと炊き上がった白米。豆腐とわかめの味噌汁(合わせ味噌)はキチンと煮干しで出汁を取ってあるのもポイントが高い。あとジャガイモも入ってるのが嬉しい。これは完全に好みの問題だが。

 次にキャベツとアサリの蒸し煮。アサリから良い味が出ているし丁度キャベツも時期のモノで甘みもある。その上食卓の彩として緑が鮮やかで目にも楽しい。更には野菜を取りやすい、というのも良く考えてある。

 そして筑前煮、これは私の好物でもあるのだが、椎茸、蓮根、人参、筍、牛蒡、インゲン豆、蒟蒻に鶏もも肉と具沢山で野菜もたっぷり。甘辛く味付けしてあるのもあって、これはご飯が進んで仕方が無いだろう。

 その上みんな大好き鶏唐揚げまで用意してる。これはショウセイくらいの年頃は特に喜ぶだろうから、マルゼンスキーが気をつかったのだろうか?此方も良い出来だ、恐らくは二度あげしてあるな。コロモにも下味をつけてあるだろうから、このままでもおいしいだろう。

 だが、一つだけ納得いかないモノがある。そう、たった一つだけ、あるのだ。

 

 甘い匂いのする玉子焼きだ。

 

 私は、完全に個人の嗜好でしかないが、玉子焼きが甘いのが許せない派閥なのだ。私はほんのり塩味のする玉子焼きが好きなんだ。おにぎりと組み合わせるとなおいい。

 だが、流石に個人の嗜好で、折角作ってくれた料理に文句を言うのも人としてどうかと思う。というか、別に食べられない訳でも無いので…。口に入れると真顔になるだけで。

 

 さて、真顔にならないように気を付けて食べないとな。他はもう堪らなく美味そうなのだ。

 

 

 

 あー…いかん、駄目になる。食後に熱いお茶まで出してくれて、洗い物まで任せてしまったが…。

 

 鼻歌を口ずさんで尻尾をフリフリしながら洗い物をしているマルゼンスキーが堪らなく…いやうん、相手は学生、学生なのだ。落ち着け私。

 私も使う無地の白エプロンを付けて髪が邪魔にならないようにポニーテールに纏めて楽しそうに家事をしているマルゼンスキーを見て自分が新婚になったような錯覚を覚えてはいけない。いけないのだ。

 しかも私の視線に気づいてもうちょっと待っててねとか笑顔で返してくれるとか、あれ、これはもう嫁なのではなかろうか?

 

 

 

 危なかった、ショウセイと歯磨きを終わらせて座った時に、ショウセイが私の胡坐の上に飛び乗ってこなければマルゼンスキーにプロポーズしていたかもしれない。それくらい魅力的にみえてしまったのだ。

 何故冷静になれたかって?子供の体重とはいえ、股間に直撃すれば冷静にもなるさ。痛みで色々と吹っ飛んだが鋼の意思で顔には出してない、筈。

 

 良い時間になってしまったので、マルゼンスキーを送っていく。ショウセイも一緒に行く、と駄々をこねたので連れて行く。帰りには多分、背負って帰る事になるのだろうなぁ、と予感がしているが…まぁ、マルゼンスキーもショウセイも笑顔なのだ、それくらいは安いモノだろう。

 

 

 冷静に考えて客に夕食を作らせて洗い物まで任せてしまったのはかなり駄目なのでは…?

 

 

 

 

 十四日目

 

 

 

 本日は平穏無事、というか本気で書く事が特に無かった。

 強いて言うなら…キッチンがショウセイの領土になってしまった、くらいだろうか?

 朝食は私が用意したのだが、昼食も夕食もショウセイが用意する、と譲らなかった。料理が楽しい、というのもあるのだろうが、どうにもマルゼンスキーと一緒に料理をするのが大層嬉しかった、楽しかったようだ。

 次にマルゼンスキーと一緒に料理する時に、びっくりさせるのだ、とフンスフンスと意気込んでいたのはかわいらしかったが。

 こうなると私に出来る事はそう多くはない。仕方ないので仕事の書類等を片付け、レシピ本等を買ってきたらもう、やる事が無くなってしまった。

 日頃忙しく過ごして居た影響か、暇になると何をした物かと悩んでしまうのは、良い事なのか悪い事なのか。

 

 何?食材の買い足しに行く?よし、一緒に行こうか。

 

 

 

 本当に書く事が無かったのだが、今になって気付いた事がある。もしかして、暇を持て余している私を気遣ったショウセイが買い物を提案したのでは…?




筆が滑った(真顔

レース描写とか出来る気せーへん…

  • 飛ばしてもいいよ
  • サラッと誰かの会話に出る程度
  • 頑張れ♡頑張れ♡(頑張らない
  • 適当でいいよ
  • そんな事よりおうどんたべたい
  • イナリもスイープも出なかったから寝る

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