ヒト>ウマ>ヒト   作:ゼン◯ロブロイ

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じゃけん、失踪しても許してクレメンス


何だか、風向きが怪しくなってきた、のか?

 

 十五日目

 

 

 

 今日は朝から賑やかな一日になった。患者が入院してきたからだ。先週は問診程度だったが、今日は検査も進めていく。真剣に治したいという思いを抱えてここに来たのだ、半端な真似をするわけにもいくまい。

 だがショウセイよ、何故患者を威嚇するのだ?お前は人馴れしてないネコか?だが、そんな対応をしながらも食事の用意は君がするんだな…。何?私の料理を食べさせたくない?良くわからんが…今は君が我が家の、ひいてはこの療術院の台所を仕切っているのだ。私の料理を食べる機会が患者にあるとは思えんのだが…?

 そう伝えると何故か上機嫌になるショウセイ。やはり女心というものは理解出来ん。もう、こればかりは今まで生きて来た経験で理解できないモノと扱う他無いような気もしてくる。

 ともあれ、患者の検査も滞りなく済み、事前に用意していた療養計画書の説明を始める。本日は軽く運動をしてもらい、実際の状況の把握に努める。これで事前の想定と違いが無ければ、マッサージと整体の簡単な、自分で出来るモノを教える。この時触れても問題ないかの確認も兼ねる。本日はそれで終わっておき、明日以降は運動とマッサージと整体を繰り返して様子を見る。最終的には痛みの再発が無い事を確認出来れば退院、という流れが想定で、最悪転院や延長もありうる事も説明した、のだが。

 なんだか私が触れる分には問題ないとか言い出して困惑する。あれ?患者君?君知らない人に対する苦手意識から男性とか特に忌避感があるんじゃないのか?何?私以外はまだ無理、って…いみがわからん。

 解らんが、まぁ、治療には都合がいいと納得するしかないか。そう、自分を納得させているとふと気づく。彼女の手荷物からはみ出しているのは…スケッチブック、と…ペン?

 まぁ、深入りする必要もあるまい。気づかないフリをしておこう。

 

 予定に沿って、新設されたトレーニングルームで一通りのトレーニングをこなしてもらう。勿論、痛みが出た場合は即座に中止して申し出る事を念押しして、だが。

 意外といってはなんだが、トレーニングは順調に消化された。最後にランニングマシンを残すのみ、となった。順番としてはどうかと思わなくはないが、やはり脚部への負担を考えるとエアバイクの次に気を付けたかった、というのもあって最後に回していたのだが。ここまで問題が無い、となると精神的なトリガーが別の所にあるという可能性も考えねばならないか。

 そう考えていたら、患者がペースダウンをはじめた。額には脂汗が浮かんでいる、痛みも相当なものだろう。私は慌てて患者を抱き上げ、処置室のベッドに運び、足のチェックを始めた。多少熱を持っているが、触っても痛みがある場所、というのが無い。触る事で痛みが変わる事も無い、と言う事はやはり、精神的なトリガーがあるようだ。

 ともあれ、今は落ち着かせるのが先決か。やけに顔が赤くなっているが、熱発でも併発しているのだろうか?もしそうなら名家の主治医殿に伝手を紹介してもらわねばならないが…、うん?熱は無さそうか。となると、一先ずは私の方で何とか出来る、か?

 

 落ち着いた患者は気恥ずかしそうにしていたが、痛みに苦しむ者を救う事を躊躇う医療従事者は居ないだろう?だから、諦めて私に治療されろ。そう告げて足のチェックを再開し、念のためにレントゲンも撮る。やはり、肉体的な問題は無さそうだ…。

 長丁場にならない事を祈りつつ、整体とストレッチ、マッサージの仕方を伝えていく。やり方は難しい事もないので、すんなりと覚えてくれそうなのは幸いである。

 

 患者をシャワー室へ案内したら、私はカルテを書き記す。書く事がそもそも少ない事もあって、所感を追記して書き終え、一息つこうか、とおもったら頭の上に柔らかな感触と微妙な重さを感じる。抱き着いてきた馬鹿者を振りほどいて一言、今度は何しに来た、自称弟子。

 

 若干ぶーたれながら、私の対面に座って私のコーヒーを飲む不審者は、自称私の弟子の針師、安心沢刺々美だ。非常に不本意ではあるが、ある意味でこの馬鹿者が弟子を自称するのは事実と認めない訳にはいかない。なぜなら、私の針の技術を拙いながらも再現したのだ。勿論完全に再現できたわけでもない、が…この馬鹿者以外はまともに再現出来た者が居ないので、不本意ながら認めない訳にはいかないのだ。

 ある種の天才、と言えるのかもしれないが、私の技術を再現できるのならば、基礎をキチンと学べばその精度も上がるだろうに、何をトチ狂ったか、我流の私に弟子入りしたいと言い出したのだ。私と違って、キチンと学べるだけの機会があるのだから、そちらを選べばよいのに、それを投げ捨てる。そのような部分が少々気に入らない。

 有体に言えば、嫉妬交じりの感情でコイツを否定している、いるのだが…何故かコイツを嫌う事が出来ない。ふらっとやってきたと思えば、私に絡んでふらっと去っていく。まるで野良猫のようなヤツだが…。そうだな、前世で友人だったあの三毛猫を思い出させるからなのだろうな。いちいち仕草や表情が、三毛猫を思い出させる。

 わかっているのかいないのか、コイツもニャーとか言い出すし、扱いに困るのは間違いない。だがまぁ、友人の面影を感じる相手だからと無下に出来ないとは、私もまだまだ青いという事だろうか。

 さておき、なんでここに来たのか聞き出さねばなるまい。そう気構えて聞き出してみれば、近くに用事があったから顔を出しただけだという。コイツ、相変わらず自由だな…。

 若干ジト目で馬鹿者をねめつけていると、私が元気そうで安心した、と言い残し颯爽と窓から出ていく。いや、普通にドアを使えと何度言わせる気だお前は…。

 

 馬鹿者が出て行って1分もしないでショウセイと患者が部屋に入って来る。何故か二人してスンスンと鼻を鳴らして私をジト目で見てくるのは何故なのだろうか?と思ったら、どうやら馬鹿者の匂いで二人は機嫌が悪くなったらしい。何故かは理解出来ないが、説明だけはしておくとしよう。…自称弟子の不審者、と言うのは流石にあんまりか。さて、何と説明したものか…。

 

 一応弟子のようなモノが顔を出しに来ただけだ、という説明でなんとか納得してくれたようだ。何故か二人して私の隣に座っているのが不可解だが。というか患者君?君、なんていうか距離が近くない?私と君、今日と前回の二回しか会ってないよね?

 え?なんだか懐かしい感じがする?キノセイジャナイカナー。傍に居ると落ち着く?それもキノセイジャナイカナー。というかショウセイ、君も引っ付きすぎじゃないか?それに食事の準備があるんじゃ…あ、出来たから呼びに来たのね、じゃあ早く行こうじゃないか。まて、二人とも何故私の腕を取る。別に腕を組む必要は無いだろう?なぁ?おい?

 

 

 

 

 十六日目

 

 

 昨日は酷い目にあった…流石に食事の時は離れてくれたが、なぜああも引っ付いてきたのか、これが理解できない。というかしたくない。恐らく患者はウマソウルからナニカが伝わったのだろうなぁ、と思う。というか間違いないだろう。だが、ショウセイは何故引っ付いてきたのか…子供特有の独占欲か何かだろうか?

 ともあれ、肉体的に問題は無い患者の痛みのトリガーは、走る事にある、と思われる。実際、トレーニングでも直に走った事で痛みが発生したのだ。で、あるならば走る事の出来る状態にある、と患者自身が認識し、納得する事で解消できると思うが…。

 精神的な部分に関わるモノだからなぁ…幸い、というべきか、今の患者は私に対して信頼を持ってくれている。後は認識と納得か…。問題は、彼女が自信を持って走れるようになるか、かな。

 患者に今日の体調や痛みが残ってないか、違和感があるかと問診をすませ、朝食をとる。朝食の前に問診をしたのはまぁ、しっかり目を覚まして食事をとって元気いっぱいになった患者に抵抗出来る気がしなかったからだ。弱気だというなかれ、ヒトがウマ娘にかなうかと言われればNOだと答えるのが殆どだろう。まぁ、制圧なら出来なくはないのだが、それで患者に怪我をさせる訳にもいかない。

 さておき、食事が終わって患者にトレーニングをさせてみたのだが、やはりランニングマシンで痛みが出た。が、昨日程ではなさそうだ。が、何故か頬を赤らめてチラチラと此方を見ている…もしかして昨日のように運んで欲しいのだろうか?恐る恐る、といった感じで患者を抱え上げてみると抵抗も文句も無し。正解だったのか…?

 

 処置室のベッドに寝かせて、折角なので整体を済ませておこう、と説明をする。患者は頬を染めたまま一つ頷くと、いそいそと病衣を脱ごうとし始める。いやいやいやいや、別に脱ぐ必要は無いからな?なんで少し残念そうな顔をする、年頃の女の子がはしたない…。何?医者に肌を見せるのははしたない事はない?いやまぁ、それはそうなんだが…兎も角、脱ぐ必要は無い。そのままでいいから。…よし、良い子だ。では始める。少し痛いかもしれないが我慢してくれよ?

 

 

 …まいったな。表情には出していないと思うが、患者の艶めかしい声には参った。精神的に。流石に年頃の患者にエロい声を出さないでくれとは言えんしなぁ。本人は声が出てると認識してるかも怪しいし。というか、私はコレをあと何日か続けなくちゃいかんのか…?

 整体が終わって目の焦点が怪しい感じになっている患者に声をかけ、正気に戻す…戻って?戻って来いよ…おいぃ…。あ、正気に戻ったか。取り敢えずシャワー浴びてきなさい。上がったら昼食だ。

 

 なんだか不機嫌なショウセイを撫でて宥めて昼食を取ると、午後からは何をするのか、と問われたので自分で出来るストレッチと簡単な整体を教えて、今の足の状態の説明、それからトレーニングをしてからは夕食まで自由時間だ、と伝えた。

 また整体をするのか、と問われたので今日はもうしない、と伝えるとやや不満そうな顔をされたのはちょっと意味が解らない。もしかすると、本人は早く走れるようになるためにももっとしっかりと治療を受けたいのかもしれないが、何事にも適量というものがある。整体も一気にやるべきものと、そうでないものがあり、患者君の場合は後者である事、焦らずに今週一杯使うつもりで臨むべきだ、と伝える。

 

 何故か頬を染めて上機嫌になった患者が居た。余程走れるようになるのが嬉しいのだろうか?ともあれ、予定を消化していこう。手順をメモしたプリントを手渡し、実際にやらせてみながら覚えさせる。物覚えは実に良い患者だ、続けて現在の足の状態をレントゲンも交えて説明する。その辺は納得出来たのか、頷いていたが、では何故痛みがあるのか、と首をかしげているのは年相応でかわいらしいかもしれない。

 そこも説明する。ケガをした時の痛みがフラッシュバックしていると思われる、メンタル面で克服出来れば問題は無くなるだろう、と伝えると目に見えて萎れた。うん、打たれ弱いのかな、この子。

 私は君が走るところを見てみたい、だから頑張ってみないか?そう告げると、迷いを振り切るように両手を握り、胸の前で構えてフンス!といった感じで自分に気合を入れていた、のか?多分そうなんだろう。

 説明を終えて再びトレーニングである。無理をしないように見張るべきか、と思っていたら来客が来た。かつて治療をした御令嬢である。事前に連絡をしろとあれほど言っておいたというのに…。患者もキョトンとしているではないか、馬鹿者め。

 

 ともあれ、来たのなら役に立て、と患者のトレーニングを見守るように御令嬢に言い含める。何故か少々不機嫌そうだったが、了承の意を示すと、思い出したように書類をポーチから引っ張り出して手渡された。見てみれば、以前頼んでいたショウセイの戸籍の件のようだ。まっとうな戸籍を用意してもらえたのはありがたいのだが、それを御令嬢が持ってくるのは少々おかしいのではないだろうか?

 

 トレーニングを終えて、シャワーを済ませた患者と御令嬢が私の部屋に来たのだが、どうにも御令嬢はお見舞いに来た、と言う事らしい。何、君等知り合いなのか…?いや、聞きたくは無いが。では折角だ、夕食も食べていくがいい。と言ってもショウセイにお願いしなくてはならないのだがね。

 

 で、御令嬢。君は何をしているのかね?早く帰りたまえ。 何?泊まると言ってきた?まて、私はそんなことは聞いてないぞ! は?今言った?いや、そうじゃない、そうじゃないんだよ…あぁ、全く…。ご迷惑でしたか、って。あぁ、迷惑だね、あれほど事前に連絡しなさいと言ったのも無視するし、本当に困ったお嬢さんだ。だがね、夜道を一人歩いて帰れという程薄情でもない。仕方ない、今日は泊っても構わないから明日はちゃんと迎えを呼んで帰りなさい、いいね? 本当に返事だけは良いお嬢様だ。

 

 

 

 

 十七日目

 

 

 

 昨日は酷く疲れた気がするが、まぁ、問題ない。問題は今目の前にある。私と添い寝しているショウセイを見て、患者君と御令嬢の眼が怖い。

 

 

 

 なんだか記憶が飛んでいるようだが、ショウセイと患者君と御令嬢がなんか仲良くなっているので気のせいだろう。気のせいでいい。

 

 

 

 さて、ばたばたしたが、今日の予定を消化していこう。朝食を一緒にとってから御令嬢には御帰り頂いた。主治医殿に話を通しておいて本当に良かった…。本当なら患者君のトレーニングを見張らせても良かったのだが、ズルズルと退院まで居つく気がしたのでおかえり願った訳だ。今日は一通りこなした後、最後にランニングマシンを歩くところからスタートさせてみよう。徐々に早くしていくならある程度は走れるはずだが、さて?

 予想通り、ダッシュまで行くと痛みを感じるようだ。だが、昨日までとは見違えるほど痛みは小さいようで、顔をしかめる程度で済んでいたのは僥倖だろう。とはいえ、治療の一環だ、整体に移るとしようか?そう患者君に伝えると、なんだか期待した眼で見られている…これはもしかして、昨日と同じ対応を望まれている、のか?物は試し、と抱きかかえてみると何故か嬉しそうにしている。尻尾もばっさばっさと動いているので運びにくいのだが…まぁ、いいか。手早く運んで処置をするとしようか。

 

 …うん、これはいけない。整体を済ませたんだが、最中の声が、その、昨日より激しかった。なんだかイケナイ扉を開きそうである。なんとか今日も表情には出していないだろうが、患者君が中々帰ってこない。これ、大丈夫か?違う意味でヤバそうなんだが…。

 取り敢えずシャワーを浴びてくるように書置きを残して部屋に戻るか。しかし整体の効果はキチンと出ているので最低でもあと二回は施術しておいた方がいい、のだが…。患者君がどう判断するか、かな?

 お、シャワーを浴びて来たか。ところで患者君、明日、明後日と整体をした方がいいのだが、どうするかね? あ、やるのね。そうか…、あぁ、いや、別に嫌だとかそう言う事では無い。君の負担になっていないかな、と。 あ、問題ない?いや、結構大変そうだったんだが…あ、うん。わかった、わかったから落ちつきたまえ。

 さて、昼食も済んだ事だし午後のトレーニングをやろうか。それが終わったら自分でストレッチと簡単な整体の復習だ。問題ないようなら明日からは自分でやってもらう。

 

 

 問題なく予定を消化、大変に宜しいな。ダッシュは兎も角、軽く走るくらいなら問題は無くなったのは実に良い。明日の整体が終わってダッシュまで行けるように成れば…今週で退院も可能だな。

 しかし、ここでは自由時間と言っても暇だろうに。何かやる事でも…あぁ、成程。スケッチブックが趣味に使われていると言う事か。何を描いているのかはわからんが、健全な趣味のようで良かった良かった。

 夕食時も特に問題なし、平穏に終わりそうで助かる。

 

 

 

 

 

 十八日目

 

 

 

 今日は静かな始まりだった。ショウセイと患者君がなんか仲がいいが、私を巻き込まないなら存分に仲良くしてくれ。穏やかに問診を済ませ、問題がない事を確認。そのまま朝食を済ませる。そしてトレーニングへ…なのだが、今日は患者君が着替えて来た。昨日まではトレセン学園のジャージだったのだが、今日はそれとは違う、運動には問題ないだろうが少々薄着になっている。私服なのだろうが、なんというか、彼女の見た目と他人の視線が苦手な部分から、あのような露出が多い恰好をするとは思わなかった。ぶっちゃけるとタンクトップとホットパンツである。ジャージではわかりにくかった肉付きの良さがわかるようになっていて私に宜しくない、無いのだがそれを指摘するのも意識していますというようで憚られる。

 ともあれ今日も順調に予定を消化していくが、ランニングマシンは慎重に速度を上げながら走っていく患者君。今日は昨日よりも速度が上がっているな…想定より安定しているようで嬉しい誤算だな。見た所全力の8割くらいだろうか、痛みも強いモノではなくなっているようだし、順調だな。

 今日も抱き上げて処置室へ運び込む。というか、ナチュラルに抱き上げたが、嫌がられては…いないようだな、相変わらず頬を染めて私から目線を外しているが。

 さて、今日は服装も違うので表情に出さないように気合を入れて整体を済ませるとしようか。もういっそ脳内で般若心経を唱えながらやった方がいいかもしれんが、それは次回以降にやるかどうか考えよう。

 

 

 うん、今日の患者君はちょっと…いや、かなりヤバそうだな。声も大概だったが、今日はなんかビクンビクンしてるぞ、おい。流石に心配になるというか、何か持病でもあったのか?気付けをして目を覚ませばいいのだが……お、良かった、帰って来たか。

 

 

 帰ってきた患者君にビンタされた、解せぬ。

 

 

 いやまぁ、ハッとした顔で謝って来たから快く許したが。何故ビンタされたのだろうか?いや、流石に直接聞いたらマズイという事くらいは今までの経験から推測できるが。

 ともあれ、シャワーを浴びて着替えた患者君とショウセイと共に昼食を済ませ、午後のトレーニングである。午前とはうって変わって順調に消化、ランニングマシンも午前と同程度までなら痛みは無しと確認できた。

 この分なら、明日の施術で問題は無くなりそうだな…ま、賑やかな日々だったが、それももう少しか。悪くは無かったが、静かな日々が戻るのが待ち遠しい。

 

 

 

 

 十九日目

 

 

 

 今日は患者君が寝室のドアの隙間から覗いていたが、まぁ、平穏な目覚めだな。ショウセイとの添い寝もいつも通りだし。

 覗き見患者君には気づかなかった事にして、素知らぬ顔で問診開始。なんだかホッとした顔の患者君は気づかれてないと思ってるのならもう少し表情に出さない方がいいと思うのだが。ともあれ問題なし、朝食を済ませてトレーニングに向かう。

 うん、何となくそんな気がしていたが、患者君は昨日と同じタンクトップとホットパンツ姿だ。ぐらついてないぞ、ぐらついてなんかいないぞ私。今日も順調に消化していくが、やはり午前中のランニングマシンは慎重になっているな…。無理をされるよりは余程良いが。そしていよいよ全力疾走、なのだが…踏み切れないようだ。

 

 …患者君、今は脚の痛みがあったとしても私が何とかする。だから、踏み出してみたまえ。

 

 私がそう言葉を掛けると、迷いを振り切ったのか全力疾走に移った。フォームも綺麗なものだし、これはもう大丈夫か?と思ったが一分ほどで痛みが走ったのかフォームが乱れた。患者君、ペースを落としたまえ。処置室へ行くぞ。そう告げて小走り程度まで減速した患者君を抱き上げて運ぶ。この流れもすっかり違和感が無くなった気がするが、悪い気はしないのは不思議なものだ。世にいう役得のようなものだと私も感じているのかもな。

 

 

 今日の患者君は自分の声が随分と艶めかしい事になっていると気づいたようで、ハンドタオルを咥えてくれた。背徳感がヤバい気がする。落ち着いて施術を済ませるとしようか。

 

 結局、今日も患者君は痙攣しながら失神しているようだ。だが私も学習するのだ。気付けをしたらまたビンタが飛んでくるかもしれないからな、置手紙を置いて私は部屋に戻るのだ…?私の白衣の裾を患者君が握りしめている、なぁ。

 

 ビンタが飛んでこない事を祈りながら目を覚ますのを待つかな、気付けは危険だ。

 助けてラモーヌさん

 

 結果から言えばビンタは飛んでこなかった。飛んでこなかったが、顔を真っ赤にしてシャワールームに飛び込んで行った。これは、セーフ?

 シャワーと着替えを済ませた患者君が戻ったので、軽く問診をする。問題が無いようなので、昼食を取る。そして午後のトレーニングを消化して自由時間、と。午後は平穏というか、トラブルもなく進んでいくので楽だなぁ。

 

 

 

 

 二十日目

 

 

 

 うん、ちょっと意味が解らない。というか、何故?患者君がショウセイと逆側に添い寝している。というか私の腕を枕にしている。なんでこんな事になっているのかわからないが、共犯者の存在があると見た。ショウセイが手引きしたんだろうなぁ、何故それに乗ったのかは理解しかねるが。

 ともかく、起きてもらわねば私が動けない。ショウセイまで私の腕を枕にしているからだ。というか腕が痺れてたまらないのだが…?

 モゾモゾと動いていたらショウセイが目を覚ました。助かった、早く私の腕を開放してくれ。と言ったら二度寝しやがった!ショウセイ、君普段は寝起きが良いだろう!?頼むから目を覚ましてくれないかな?

 

 それから30分経過して目を覚ましたショウセイが、患者君も起こしてくれたから良かったが、腕の痺れがヤバい。腕をプルプル震わせながらマッサージしてどうにかこうにか動くように出来たが…こういうのはちょっと、もう一度は遠慮したいな。

 

 添い寝の事には触れずに問診を済ませ、そのまま朝食へ。それからトレーニングを消化していき、ランニングマシンは慎重に速度を上げていき、とうとう全力疾走でスタミナ切れまで走り切れた。距離にして2500くらいかな?汗だくになりながら、それでも満足そうな笑顔を浮かべている患者君は、今日までで一番の美しさだと感じた。

 シャワーを浴びて、自分でストレッチをしておきなさい、と告げてトレーニングルームから出る。後は自分の走りに自信を持ってくれれば、レースも問題なく走れるんだろうが、そこはトレーナーが考える所か。

 この後も問題なく食事を済ませ自由時間、明日は退院か…。早かったような、長かったような。だが、送り出せるとなれば喜ばしい事か。

 

 

 

 

 二十一日目

 

 

 

 はっはっは、何となくこうなるのは読めていたぞ?今日も両腕を枕にされている、再人です。だがね、患者君。ネグリジェで男の寝床に添い寝しに来るのはどうかとお兄さん思うなぁ?ショウセイはちゃんとパジャマだからセーフと言えばセーフか。だが、昨日の様に慌てふためくというのも何だな…開き直って寝直すか。

 

 再び目を覚ますと私一人だった。うん、セーフ。さて、さっさと着替えて問診と…?何やら視線を感じて目をドアに向けると、隙間が…覗き再びか。まぁ、私の着替えなんて見られても問題は無いか。さっさと着替えてドアに向かうとバタバタと音がしたが、気にしないでやるべきかねぇ?

 食堂に向かうと朝食を並べるショウセイと、やや息を荒げている患者君がいた。おはよう、と挨拶をすれば返事が返ってくるが、患者君はやや上ずった声で返答している辺り、自白しているようなものだが…まぁ、突っ込むまい。問診も問題なし、朝食を済ませてトレーニングに移ろうか。

 今日も今日とてタンクトップとホットパンツ姿の患者君。だが、なんだか胸元がいつもより…?どういうことだ??まさか下着を…いや、まさかなぁ。雑念を払いながらトレーニングを消化していく。ランニングマシンも問題なくクリア。取り敢えず現時点で出来る治療は終わった、と考えて良いか。

 汗を拭いながら、満足そうな笑みを浮かべる患者君は、実に魅力的に見えた。やはり、ウマ娘というモノは、走る事で輝くのだろうなぁ。そんな事をつらつらと考えながら、ストレッチ等を終わらせてシャワーを浴びたら診察室に来るように伝えて、トレーニングルームを出る。なんだか残念そうな顔をしていたが気にしない方がいいだろう。

 

 シャワーを浴びて着替えた患者君が来るまでの間に、主治医殿経由で名家側に連絡をしておく。ま、迎えを呼んでおくに越したことは無いだろう。

 細々とした用事を済ませて椅子に座ってコーヒーを飲んでいるとドアがノックされる。…関係無いが、患者君がドアをノックしたのは今が初めてではないだろうか?兎も角、どうぞ、と返答し迎え入れる。

 部屋の中に入ってきたのは、私服に着替えた患者君だった。ここ数日は病衣とジャージとタンクトップとホットパンツ姿だったから新鮮に見えるというのは不思議なものだ。今朝のネグリジェ姿は見なかった事にしたのでノーカン。

 

 さておき、施術は一通り問題なく済んだ事、現時点では足の痛みは再発はしないであろう事、後は実際にレースで走るまでは解らない、と言う事。その辺をつらつらと説明する。患者君も神妙な表情で私の話を聞いているが、何だかソワソワしているようだ。走れるようになったのが嬉しいのか?

 一通りの説明を終え、何か質問は?と問えば、食い気味にまたここにきても良いか、と問われた。はて?まだ不安がある、という事だろうか。心の問題でもあるから、突き放すべきではない、か。少し首をひねり、まぁ、良いかと考えて答える。ちゃんと連絡をしてから来なさい。曲がりなりにもここは医療施設のようなものだからな、と言えば、パァッと表情を輝かせて、また来ても良いのね!と言うので訂正を入れておこう。

 さっきも言った通り、医療施設のようなものだ、患者君に何らかの問題が発生したならば力になろう。だが、それ以外で私の所に来るべきではない。…だがまぁ、ショウセイとは友人になってくれたようだし、友人に会いに来るのを止めたりはせんよ。そう言うと、一瞬不安そうな表情になったが、直ぐに輝くような笑顔でうん!と返す。年相応というか、子供らしい面をはじめてみたような気分だ。

 それから一緒に昼食を取り、名家から迎えが来たので送り出す。なんだか、静かになったというか、寂しくなったというか…。まぁ、実に濃い一週間だったな。偶にならこういうのも悪くは無いがね。

 願わくば、彼女が無事にデビューして、レースを走りぬいてくれるとよいのだがね。さて、私も書類等を纏めて主治医殿に写しを送っておかないとな…。

 

 

 




…?

何故こんなことになってしまったんだ…?

あけましたねおめでとう、お年玉は

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