オレンジ色の空はすっかり黒に染まり、人のまばらだった食堂も今は活気にあふれてにぎわっている。
鎮守府正面海域を一望できる食堂のテラス席に軽巡シェフィールドは腰を下ろした。そしてこっそりポケットに忍ばせていたクッキーを取り出して「やはりおいしいわ」とその味を堪能していた時。
「くーまのっ!なにしてんのっ?」
トントンと肩を叩かれたのでシェフィールドは体をびくりとさせてから後ろを振り返ろうとした。すると彼女の肩にのせられていた誰かの手はその人差し指をあげ、シェフィールドの頬をぷにっとさした。
「ぃえーい!引っかかった~」
シェフィールドは一瞬時が止まったように感じた。そしてキャッキャッと喜ぶ声を耳にしながら、ぷにぷにと自身の頬をつつき続ける誰かの人差し指がとにかく気になってしょうがない。「いったい全体何なの!?」という思いを胸にシェフィールドは彼女の真後ろにいた人物をキッと睨みつけた。
「…ん?あれ?」
シェフィールドに睨みつけられた当人は想像していた反応が返ってこなかったことを不思議に思い、まじまじと自分が頬をぷにぷにしている相手の顔を覗き込んでみた。
「あっ」
そしてしばらく覗き込んでようやく気が付いた。今自分が人差し指でぷにぷにし続けている相手が全くの見知らぬ人だということに。
「…いいかげんやめてくれない?」
「あっ、はい…ごめんなさい」
シェフィールドの声は明らかに不機嫌さをにじませていた。おまけにギロリと光る彼女の目はその対象をじっと見据えて放そうとしない。一方で睨まれた方はシェフィールドの肩に置いた手をサッと引っ込めるとオドオドとあっちを見たりこっちを見たり…その視線が定まることはなかった。
射抜くような目ときょろきょろ泳ぐような目が重なることは一切なく…このまま居心地の悪い時間がゆっくりと流れていくのかと思われたその時。
「あら鈴谷、何してますの?」
意外にも膠着はすぐに解かれた。
「く、熊野…」
「どうしましたの?青い顔をして……あら、こちらの方は?鈴谷のお知り合い?」
この時に及んで初めてシェフィールドは眼前の二人が鈴谷と熊野という名であることを知った。そして歯切れの悪い重巡鈴谷をよそに、「こんばんわ」と会釈した重巡熊野をチラリとシェフィールドは一瞥すると…
「…ふんっ」
わき上がってくるモヤモヤとムカムカに任せてぷいっと顔をそらした。そして二人に背を向けて座り直し、食べかけだったクッキーを口に放り込み始めたシェフィールドに対し、熊野は「?」と首を傾げ、鈴谷は申し訳なさそうにその身を縮ませるのだった。