月明かりに照らされる中、大小異なる三つの黒い影が舗装されていない砂利道をザクザクと踏みしめながら進んでいく。
「あ!わたくし一足先に行って、外出届を守衛さんに見せて来ますわ!」
暗闇の中にぼんやりとオレンジ色の灯りを見つけて熊野はシェフィールドと鈴谷に声を掛けてから駆け出した。
「ん、いってらー」と鈴谷は軽く片手を挙げて熊野を見送る。そして自分の少し後ろを歩いているシェフィールドに歩調を合わせ、彼女の横に並んで歩いた。
「いや~、でも意外だったな~!鈴谷、シェフィのこと勘違いしてた!」
暗がりでよくは見えないものの、楽しそうな声が隣から聞こえてくることにシェフィールドは少々困惑していた。「ねえねえ、シェフィはさぁ…」といつの間にか親しげに自分をあだ名で呼び始めた鈴谷を横目に、シェフィールドは鈴谷との間に隔たっていた壁は一体いつ取り払われたのかと不思議でならなかったからだ。
「え、だって最初は行く気なかったじゃん!バレバレだったよ?でもまさか…ふへっ」
そこで思い切ってシェフィールドが鈴谷に理由を尋ねてみると鈴谷は途中で何度もふきだしながらそのわけを話した。
「熊野がさぁ、クッキーとかビスケットの話をし始めたらさ…途端に!途端に目の色が変わるんだもん!本当にお菓子好きなんだなって思ったし、案外怖くないじゃんって思った!」
「…怖いってどういうことよ」
ジッと鈴谷の方を睨んだが、おそらく暗くて鈴谷には見えてない。それに仮に見えたとしても今の鈴谷にはシェフィールドの睨みは最早効くことはなかっただろう。
時は少し遡り、正面玄関にて。鈴谷の言う通り、本当であればシェフィールドは適当に取り繕ってすぐにでも帰ろうとしたのだが
「…時に、もしかしてお菓子好きだったりしますの?」
唐突に切り出された熊野の質問にシェフィールドの体は思わずピクリと跳ねた。
実際、シェフィールドはお菓子が大好きだった。それで食堂のメニューにも目をくれず、クッキーを頬張っていたのだが熊野はそれを見逃さなかったのだ。
「おいしいですわよね~!クッキーはもちろんのこと…ビスケットにチョコレート、ケーキも捨てがたいですわ~」
両頬に手をあてて体をくねくねさせる熊野を鈴谷は少し冷めたようにジト目で見ていたが、シェフィールドは違った。
「わかるわ…!」
気が付いた時にはシェフィールドは熊野の両肩をむんずと掴んでいた。自分でも柄にもなくはしゃいでいるとは分かったが、どうにも興奮は収まりそうにない。
「パクパクですわ~」
シェフィールドが熊野と意気投合するのに時間はほとんどかからなかった。そして「コンビニには見た目も素敵なおいしいお菓子がたくさんありましてよ~」と話す熊野にシェフィールドは「ちょっとお財布取ってくる」と急いで来た道を引き返したのだった。
小さくなっていくシェフィールドの背中を目で追いながら、その一部始終を見せつけられた鈴谷は思わずふきだした。ふきだすに留まらず、おかしくておかしくてその場でお腹を抱えずにはいられなかった。
「おまたせ」
一分も経たぬ内にシェフィールドは戻ってきた。はぁはぁと息を荒くし顔を紅くしながらギュッとお財布を握りしめるシェフィールドの姿は、鈴谷の中で彼女の印象をすっかりと変え、簡単に自己紹介を済ませマブダチとなるのには十二分の役割を果たしていた。
「…ええ、そうですわね!大体、十時前には戻ってこられると思いますわ!それでは」
肩と肩が触れそうになるくらいまで距離を縮めたシェフィールドと鈴谷が鎮守府の外へと通じる門のところにたどり着く頃には熊野は守衛さんに話を通していた。
ゆっくりギギギと鉄の門が開かれ、後ろを振り返ると守衛さんが気を付けてと手を振っている。
いよいよ三人のコンビニへの旅路が始まったのだ。