トウカイテイオーは生徒会副カイチョー   作:橋本みちか

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トウカイテイオー、カイチョーと再会する

日本ダービーの翌日。勝利の女神に選ばれしただ一人のウマ娘は勝利の美酒に酔いしれた(アルコールの供給は禁止されている)ことだろう。そしてあまたのウマ娘はその涙で枕を濡らしたことだろう。

喜びと後悔。優越感と劣等感。栄光と挫折を複雑に孕んだ一日が明け、今日もトレセン学園の朝はいつもどおりに始まる。

 

今日は午後の授業やトレーニングを潰して、毎年1回の生徒総会が行われる。学園の運営方針や要望などを、生徒が生徒会、あるいは学園の運営側と直接議論する数少ない時間である。―まあ、大抵のことは既定路線というか、基本的に一般生徒は生徒会や運営の決定に異を唱えないのか流れではあるが。

 

生徒会に至っては午前中から講堂でその設営にあたっていた。

 

「ブライアン、そのテーブルは生徒会側の右端に設置しておいてくれ。―ああテイオー、その書類はこっちだ。あとそこの右のピンクのクリアファイルはフジキセキに、青いのはあとで私に渡してくれ。」

 

バタバタと動く寮長や役員に的確に指示をだしていくエアグルーヴ。その手に持っている分厚いファイルには会場のレイアウト図面とパソコンなど電子機器の配線図、そして振興に当たってのメモなどが雑多に纏められていた。

 

「おい、生徒会室のパソコン全部持ってきてやったぞ。どうすりゃいいんだ。」

 

ヒシアマゾンがその両手にパソコンを3台抱えてよたよたしながら講堂にやってきた。

 

「助かるぞヒシアマゾン。私のは真ん中、テイオーのはステージ演台の上、ブライアンのはそれの予備として演台の棚に設置しておいてくれ。電源まわりは私がやる。」

 

指示が早くて助かるぜ!というが否やステージ方向へ走り出すヒシアマゾン。―着々と組みあがっていく会場を見ると、なんだかエアグルーヴ自身、生徒会長として仕事をしている気になっているから不思議だ。自分の指示で、自分の思い描いたものをカタチにする。彼女はそれにある種の喜びめいたものを見出していた。

 

「―精が出るな、エアグルーヴ。」

 

テイオーはじめ役員たちの動きに目を細めていると、突然何者かに右肩を叩かれた。

 

「貴様っ!何や―つ―、?」

 

瞬時に身体を捻り反転。持前のキツい眼にそのチカラを目いっぱい込めて、敵を睨み付ける。果たしてその先に映るものとは―。

 

一瞬の間。

 

眼を真ん丸に見開いて驚愕するエアグルーヴ。

 

それだけの短時間ではあったのだが、彼女の肩を無粋にも叩いてきた―いや、お叩きになられたモノ、お方がどなたであったか、認識するのに充分な時間だった。

 

「かッ―、!!!」

 

あまりの驚きに言葉を発するに発せないエアグルーヴ。そう、今日この日、生徒総会を狙ってやってきた特大級の来賓。

 

URA事務局競技部、シンボリルドルフ。

 

腰ほどまであった長い鹿色の髪は肩のあたりでバッサリ落とされ、整髪料で整えられたキャリアウーマン風のスタイルからおなじみの三日月が誇らしげにその存在を主張している。

ぴっちりしたパンツルックのスーツの襟元には、URAのバッジと、競技部のシンボルである茶色と緑色で斜めに区切られた縦長長方形の襟章がついていた。

 

「やあ、2ヶ月ぶり―といったところかな。」

 

その深みのある茶色い瞳、落ち着きのあり懐の深い彼女の雰囲気は、学生という身分に囚われなくなってなお失われることなく、また磨き続けられていた。

 

「あーっ!カイチョーじゃん!」

 

エアグルーヴに指示を乞おうとして彼女を探していたテイオーにも、その姿は目に入った。いつものように、一直線にシンボリルドルフに抱き着きに行くテイオー。いつものように、それを受け止めるシンボリルドルフだったが、脚がその加速度に耐えられずに、2、3歩後退してしまった。―それを見てエアグルーヴは悲しい顔をつい表に出してしまう。ついこの間まで、皇帝と呼ばれたレースの鬼、7冠を戴きし近代競バ最強とされてきたウマ娘は、もはや名実ともに伝説になってしまったのか。以前ならばテイオーのタックルなど片手で受けられていただろうに。

 

「そんな悲しい顔をするな、エアグルーヴ。私も万能ではない。デスクワークばかりで日頃より筋肉を使わない状況になればこうもなる。」

 

心中察されてしまったエアグルーヴは顔を赤くし、

 

「い、いえ、そのようなことは―。」

 

と答えるに精いっぱいだった。

 

「それでカイチョー、今日は何しに来たの?」

 

シンボリルドルフの肩にぶらさがったままのテイオー。ぷらぷらと揺れるからだと同じようにして尻尾も揺らしている。すっかり上機嫌だ。

 

「ああ、今日はな、お前たちがちゃんと生徒会として動けているか見せてもらうと共に、我々URAからひとつ提案を持ってきた。それについては理事長と一緒に話がしたいんだ。そしてそれを今日の総会の議題のひとつとして盛り込んでもらいたい。―できるか?」

 

なんとも急、かつ横暴な要求だった。しかし肝心のシンボリルドルフは申し訳なさそうな様子をこれっぽっちも見せやしない。つまりは、自分はこの程度のタスクなど当たり前にこなすことができるが、お前たちはどうなんだということなのだろう。

 

そういう態度でモノを言われては、エアグルーヴとしては受けざるを得ない。

 

「―し、承知しました。幸い会場設営はほぼほぼ済んでいます。しかしながら全員は割けないため、私とテイオー、そして理事長で話をお聞きするという方向でよろしいですか?」

 

わかった。と一言。

 

「実は理事長にはすでにアポはとってある。至急、理事長室へ向かおう。」

 

シンボリルドルフ、エアグルーヴ、テイオーは脚早に理事長室へ。これから話されることが何なのか、エアグルーヴらは知る由も無い。理事長室へ向かう長い廊下が、往くほどに彼女らの不安を煽るのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「 待 望 ! よく来た!」

 

理事長室の扉を開くなり、その御方はいつもの席に鎮座しておられた。

 

「秋川理事長。ご無沙汰しております。」

 

シンボリルドルフが恭しく頭を下げる。偽りのないホンモノの敬意に溢れていた。

 

「顔を上げてくれルドルフ!君の活躍なしに今の学園の栄誉などない!もっと堂々としてくれていたまえ!」

 

シンボリルドルフのこれまでをねぎらう理事長。レースで、実務でその世界を拓き、引っ張ってきたふたりだ。おそらく互いの助けがあってこそ、この学園はここまで大きく、強くなれたのだろう。

 

「―まあ、昔話もこれくらいにしましょう。」

 

面を上げたシンボリルドルフ。その瞳には先ほどとは違う冷たい光が宿っていた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ええ―――!クラシックの撤廃ぃ?!」

 

シンボリルドルフが―、URAが持ってきた提案は、驚くべきものだった。エアグルーヴは目をめいっぱい丸く見開き、理事長は驚きのあまり扇子で口を覆ってしまっている。

 

「ああ。これは私がここに来た時からずっと思い描いていたことでな。正確には“皐月賞”、“日本ダービー”、“菊花賞”といった“競技人生でたった1度しか走れないレース”を無くすことだ。今まで私たち―お前たちも含むだろうが、先ほどのレースには所謂中等部に所属している期間のうち、どれか1年に絞って出走を試みる資格が与えられる。無論、その年に出走資格を満たせなかったり、仮に満たしていたとしても枠に入りきらなければその時点ですべてが終わりだ。そしてよしんば出走が叶ったとしても、そこで勝てなければ二度とそのタイトルを得るチャンスは無い。私はここに、競技者として不平等を見た。」

 

一息入れてシンボリルドルフは続ける。

 

「さらに無視できないのが、これらのレースを意識するあまり、またはレース中鍔迫り合いなどになったとき、勝利することに拘りすぎるがあまり、知らず知らずに己の限界を超え、己自身を破壊してしまうリスクがある。これは決して軽く見ていいものではない。限界を超えたウマ娘はそのひとつ先の領域へ進むだろう。私やここにいる皆もそうだ。しかし、皆が皆そうだとは限らない。大抵のウマ娘が、それに身体が、脚が耐えられず、壊れていく。競技に取り組んでいたもの、そしてその安全を守るモノとして、そういった類の出来事は断じて許されない。」

 

「しかしながら、クラシックから先ほどの競争を除いてしまえば、彼女らが獲るべき目標を見失ってしまうことは自明。そこで我々URAはそれに代わる競争を年始、有マ記念終了後に提案することにしたのだ。」

 

シンボリルドルフはカバンに入れていた資料を机に広げる。机いっぱいに広げられた紙、紙、紙。その表紙らしきページには、URAのロゴとともにレースらしきものの名称が印刷されていた。

 

「URA、ファイナルズ―?」

 

でかでかと記されたそれは、その規格そのもののタイトルのようだ。

 

「そうだ。ジュニア、クラシック、シニア各クラスの希望者で年末、有マ記念後に予選を行う。そうして最終的に勝ち抜いた18人で、その年のタイトルを争う。将来有望なウマ娘を学生の時分で故障してしまうリスクを極限まで減らし、タイトルを統一させることでその価値を明確化する。それが今回の我々の目的だ。」

 

波乱の予感は、生徒会最大の行事当日、それもその開催直前にやってきた。

 

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