トウカイテイオーは生徒会副カイチョー   作:橋本みちか

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トウカイテイオー、キレる

「―それで、毎年皆様がレースで獲得なさった賞金の0.5パーセントを学園の運営費、あるいは生徒会の活動費として戴いていますが、これが昨年度で入りが18億3000万7265円、出費が8億7255万9866円となっていますの。内訳は頒布してある資料に逐一記されていますが、大体の割合としては食費七割、トレーニング施設整備費、医療費1割といったところですわね。ちなみに、この制度が始まってからの総収入は247億2002万8796円。そこから食費、設備投資費、医療費等を引いて、現在手元に残っているのは144億7528万0024円となっていますわ。」

 

粛々と進行する“生徒総会”。もはや中盤、会計発表の番になっている。以前テイオーに頼まれそのあたりの計算をしたメジロマックイーンが、そのまま壇上にあがり、演台で生徒たちに説明をしていた。つとめて落ち着いた口調で言葉をつなぎ、必要に応じて身振り手振りで物事を強調する。とてもこれが初めてとは思えない、なんとも慣れたものだった。意識しているかはさておき、“ですわ、ますわ”口調が雰囲気と大いに合致している。―ちなみに、ここまで一般生徒にその是非を問うことが3度、4度あったが、そのいずれにしても具体的な返事は得られず、半ば流されるままに事は進んでいる。例年そういう風になるのだが―、今回については、それが意味するところはまた違う。

 

「すンごいね、マックイーン。喋り慣れてるって感じがするよ。」

 

テイオーが感嘆の言葉を呟く。常々彼女の近くにいて、お嬢様のような雰囲気を纏い、それでいて強かで、周りに歩調を合わせているようで、自分のプライドだけは揺るがない芯が通っている。“マックイーンは将来大物になるよ”と小ばかにしてからかっては、追いかけられて懲らしめられたりもしたが、まさかこれほどとは思わなんだろう。

 

「―以上になりますわ。なにか質問はございませんか?」

 

しん…となる講堂。誰も手を揚げようとしない。いや、きっと誰にも学園のカネの動きなどわからないのだ。よしんばわかったとしても、自分に直接関係のない話だから関心はない。ただ聞き流して時間を潰すという生徒が大半以上を占めているだろう。

 

―やはり今回も誰も反応を示さない。

 

「…では、私からは以上になりますわ。ありがとうございました。」

 

一礼し、美麗な仕草で袖に下がって生徒会サイドへ戻ってくるマックイーン。“緊張しましたわ―”と胸に手を当てて深呼吸する。その脚取りはそれに相反して自身に満ちていた。

 

「何言ってンのさマックイーン!最っ高だったよ!あれ以上にわかりやすいものなんて無いって!」

 

“あ、あなたにしては随分とホメてくださるのですね…”と顔を赤くするメジロマックイーン。耳がぴこぴこと動き、尻尾もばさばさと揺れている。つとめて冷静にしているつもりだろうが、そういったところで秘めたる感情がさらけ出されるのが、ウマ娘のウィークポイントでもある。

 

「―いやあ、ここまでホメておけば後全部マックイーンが読んでくれないかなって思って。」

 

でこぴんが飛んできた。ちょうどいい所に当たり、テイオーは涙目で額を抑えて、視線で抗議した。

 

「そんなことしませんわ。自分のことは自分でするのが、一流の証なのですわよ。」

 

まるでキングヘイローみたいな事を言う。―結局のところキングヘイローもメジロマックイーンも所謂“いいトコロ”の出なのだから、目指すところは同じ“一流”なのかもしれない。

 

「わかってるよ。ボクも目指す場所は、そういうところなんだからね。」

 

入れ替わりに資料をひっつかんで、今度はテイオーがステージに姿を現した。学園生活二度目の、生徒2400の眼前の演台。何度立ってもこの緊張感は慣れない。一呼吸置きたくて、講堂の端から端までを見渡してみる。講師の先生も、トレーナーも、生徒も。それが今日このときばかりは一堂に会して、ステージを―、自分を見ている。その事実を改めて実感した。

 

一礼し、ふうっ、と一度息を吐き切ると、一緒に緊張も吐き出した気になって、すこしだけ楽になった。スピーチとは読むことではなく話すこと。テンションはいつも通りに。

 

「ボクはテイオー。トウカイテイオー。生徒会副カイチョーだよ。」

 

原稿―もといネタ帳を握りしめ、テイオーは勝負の時間に入った。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「―だから、生徒会としては今後“メンタルケア”を専門とした医師や先生の雇い入れを学園に掛け合う“ことを約束するよ。あとこれは個人的な意見なんだけど、特定の誰かに対する言葉とか、併走の申し入れとか、そういうのはここじゃなくてさ、本人に直接言えばいいんじゃないかな。―どうしてもダメなときはボクたちを頼ってもいいけど。正直そういうのが多すぎてさ、ボクたちも機械じゃないから、その中にある本当に重要な意見を取りこぼしちゃうかもしれないんだよね。砂漠から一粒のダイヤを探すようなもんさ。だからまあ、好き勝手書くのはいいんだけど、投函する前に箱の前で自分の胸に手を当ててもう一度考えてほしいかな。もちろん、本当に頼みたいことならボクたちも協力は惜しまないからさ。そこんとこよろしくね。―ボクからはこれで終わりだけど、質問や意見はあるかな?」

 

やっぱり何も反応がない。しばらく待っても動きがない。

 

「―あのさァ。」

 

急に声のトーンが低くなり、テイオーはとうとうその痺れを切らした。眉間に皺をよせて口をへのじに曲げ、両手は腰に仁王立ち。今までは見せたことすらない、上から見下すような表情で今一度マイクを―スタンドがついているので握る必要がないのだが―あえて握りなおす。

 

「この学園で生活をしているのは誰?この学園でトレーニングを積んでいるのは誰?キミ達でしょ?あのね、ボクらにできることはキミたちからの要望を聞いて、それを調整して、じゃあ実現しましょうね、それがどこまで進みましたかっていう経過報告だけなの。キミたちからアプローチがないとボクらも動けないの。わかる?キミたちが“望んでそうなこと”は確かに考えられるよ、ボクたちだって生徒だ。でもそれはあくまでボクたちの目線にとらわれたものにすぎないんだ。キミたちだって普段からなにか思うことはあるでしょ?なんでそれを今ここで言わないのさ。何の為の生徒総会なのさ。こんなんじゃただの発表会だよ。やる意味無いよ。こんなの話し合いでも何でもない。今すぐにでも解散してトレーニングでもしたほうがみんなの為だよ。」

 

キレたテイオーの気迫に押されて一般生徒はみな耳を折って押し黙ってしまっている。

 

「さすがにさっきのマックイーンみたいなおカネの流れについて突っ込めとかは言わないよ。そんなんわかんないし、キミたちの生活に直接ただちに関係があるわけじゃない。でも今のこのボクの時間は、キミたちの生活にモロに関わってくるところなんでしょ?キミたちは今のままで本当にいいの?本っっっ当に全部100パーセント満足してんの?そんなわけないでしょ?大きなことでは芝の手入れが行き届いてないとか、ダートが荒すぎるからもっとちゃんと整備しろとか、トイレ汚いなーとか、風呂の掃除が足りてないとか、枕をもっと上質なものにしてほしいとか、そういうの無いの?今ここでそれ言わないでいつ言うのさ。―ははーん、もしかしてあれだな?一人だけ手を揚げて2400の生徒たちに見られるっていうので引いてるな?…じゃあ今ここにいるボクは何なんだよ!その2400の生徒の前でもの申すどころかキレちゃってるよ!… … …。―それでも何もないんだね。いいよ。わかった。それだけだ。前のカイチョーやエアグルーヴがどうだか知らないけど!ボクの目の黒いうちは、ちゃんと言葉か文章にして表された意見、要望、質問にしか対応しない!以上!」

 

ブツ、とマイクのスイッチを切り、荒い足音ステージ袖へ引っ込んでいくテイオー。それを頭を抱えたエアグルーヴと、いったいどうしたんですのとおろおろするメジロマックイーンが迎えた。

 

「言いたいこと言ってやったよ!本当にもう!」

 

控えの椅子にどっかと座りこみ、腕を組み脚を組み憤慨する。耳も尻尾もぶるんぶるんに動いている。彼女の怒りはそうすぐ収まりそうにはない。エアグルーヴはいまだに頭を抱えている。

 

「本当にお前は―。」

 

「悪かったとは思ってるよ、生徒会長。だから最後の例の件、よろしくね?大概言っちゃったから、もしかしたら反骨精神のある誰かから意見をもらえるかもしれないよ?」

 

この雰囲気でさらに重い話をさせられるのか、とエアグルーヴはさらに頭を抱えるのだった。

 

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