トウカイテイオーは生徒会副カイチョー   作:橋本みちか

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誰か追い込みのいい編成を教えてください。


トウカイテイオーVS電話

職員室の外線電話。テイオー、エアグルーヴ、ナリタブライアンはそれを重い表情で見つめていた。―シンボリルドルフにアポを取る電話を掛けるのだ。さしもの生徒会役員も緊張を隠し切れない。

 

「―で、誰が掛けるの?」

 

テイオーがまず最初に口火を切る。当然の疑問であると同時に、自らがこれを口にすることで自然と対象から自分を外すように運んだ。しかし、それに対しては誰も答えず沈黙が続く。

 

「―ボ、ボクはやっぱり学校代表、生徒会長のエアグルーヴがいいと思うンだけどなぁ。」

 

矛先を向けられたエアグルーヴの耳がぴくっと動いた。

 

「そもそもさぁ、本来まだ子供のボクがあんなとこ畏れ多くて掛けらんないよ。」

 

追撃。それはそうだ。テイオーは、色々、そう、色々と社会的経験がほかのふたりに比べて劣っている。先方から言われたことを的確に捉えられないかもしれないのだ。そして今に限ってはそれがテイオーにとってかなり明るい逃げ道になっていた。

 

「確かにそうだな。どちらかというのならばテイオーよりも私たち二人のほうが話は進めやすいだろう。そしてさらにどちらかというのなら、学もあり社会的経験豊富な女帝様の方が適任だと思うが。生徒会長だし。」

 

ナリタブライアンから二本目の槍が向けられ、女帝の尻尾もぴくりと動く。目を閉じ腕を組んではいるが、そこからは明らかに怒りの雰囲気がにじみ出ている。

 

「貴様ら…!」

 

「ほら、頼むよ会長。」

 

受話器を取ってさらにエアグルーヴを促すナリタブライアン。すでに彼女らからは電話する気など失せていた。

 

「たわけたことを言うな。“中央トレセン学園の誰々です、競技部のシンボリルドルフさんをお願いします”と言うだけだろうが。なぜたったそれだけのことが出来ない!」

 

至極もっともな反論である。今時小学生でも、急な用事があるときは両親の職場に電話を掛けて取り次ぎのお願いをすることができる。そういう見方から考えれば、今の彼女らの小競り合いは小学生以下ということになるが…。

 

「“たったそれだけ”っていうならもうやってよエアグルーヴ!」

 

意地でも電話を掛けたくないテイオー。

 

「そうだぞ。後輩に手本を見せるのも生徒会長の仕事だ。ましてテイオーは副会長でお前は生徒会長だろう。どうみても私よりお前のほうが適任だ。」

 

はなからエアグルーヴに押し付ける魂胆のナリタブライアン。

 

「くっ…。」

 

エアグルーヴが諦めて受話器を引っ手繰ろうとしたとき、職員室の扉がガラッと音を立てて開いた。その向こう側には、芦毛のウマ娘がひとり。

 

「失礼致します。メジロマックイーンですわ。先生に課題の提出を―、あら貴女たち、そんなところで何をなさっているんですの?」

 

エアグルーヴ、ナリタブライアン、そしてテイオーの視線が互いに絡む。意思疎通の時間をとるには、ほんの数瞬で充分だ。すぐさま三人は、さも電話に興味のないような立ち振る舞いをし、テイオーは入り口へ進み出ていく。ターゲットはもちろん。

 

「マックイーン、ちょっとだけいいかな。」

 

飛んで火に入るマックイーン。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

《rrrrr、rrrrr、rr―、お電話ありがとうございます。URA事務局でございます。》

 

「中央トレーニングセンター学園、高等部のメジロマックイーンと申しますわ。競技部のシンボリルドルフ様は今お手すきでしょうか。」

 

《競技部でございますね。少々お待ちください―。… …♪ずきゅん、どきゅん、走り出しぃ♪》

 

保留になった受話器から耳を少し外し、メジロマックイーンはため息をついた。

 

「まったく、生徒会役員ともあろうお方々が電話すらまともに掛けられないとは恐れ入りましたわ。今までどうやって連絡をとってきたのか疑問で仕方ありませんわ。」

 

にべもない言葉に誰もそれに返すものがない。テイオーが拝んで謝罪と感謝の意を示した。

 

「ホント助かっちゃうよマックイーン。ボクたちこういうの苦手だからさ。」

 

「それはよいのですけど。会長さんが出たらテイオーが話をするんですのよ?私では不自然ですから。」

 

「え゛ぇ゛っ?!」

 

驚きおののくテイオーとほぼ同時に、電話機の保留が切れて通話状態に戻った。

 

《―申し訳ございません。シンボリルドルフは外出中とのことでして、本日は夕刻まで戻らない予定となっております。》

 

「そうですか―。」

 

聞いたメジロマックイーンは返事をしながら三人に向けて首を振り、連絡が取れないことを伝えた。

 

《―競技部内にこのお電話を預かりたいというモノがおりまして、取り次いでもよろしいでしょうか?》

 

「そ、それは―、しょ、少々お待ちくださいませ。」

 

狼狽えた様子のメジロマックイーン。目線でこちらに助けを求めている。

 

「会長さんではないんですけど、電話を取りたいっていう方が競技部にいらっしゃるようです。どうしましょう―。」

 

2、3秒の沈黙。エアグルーヴが受話器を引っ手繰った。

 

「先方を待たせるわけにはいかん。―お電話変わりました。エアグルーヴです。可能ならお取次ぎ願います。」

 

《かしこまりました。少々お待ちください。―♪走れ競いゴール目指し遥か遠く響けmusic♪》

 

「相手が誰であろうとかまわん。私たちのやるべきことは一つ。アポ取りだ。」

 

コトの最中にテイオーが持ってきたコーヒーを啜りながら保留が切れるのを待つ。ずずず。

 

《♪あの日キミに感じた 何かを信じて 春も夏も秋も冬も超えて焦が―、はァい♡マルゼンスキーよ。》

 

受話器口から聞こえてきた意外過ぎる声に、エアグルーヴの耳が、尻尾が一瞬にして逆立ち、啜っていたコーヒーを思わず吹き出しそうになってしまう。

 

「な―!マル、…、え?!」

 

アタマの整理が追い付かずにまともな言葉を発せれていないエアグルーヴ。彼女は想定外のことに弱いきらいがあるのかもしれない。必死に落ち着くための呪文を心の中で唱えても、いちどバクハツして焼野原になったアタマはなかなか元の通りには戻らない。

 

《エアグルーヴじゃない、元気してたぁ?アタシも今ココに勤めてるのよ。驚いた?どうにもね、競技面で実績を残したウマ娘たちを積極的に採用していたらしいのよ。》

 

かろうじて受話器は耳元にあるものの放心状態のエアグルーヴ。一体何が起こったのか推測すらできない他の面々。カオスがあたりを支配しかけていた。

 

《―それで?ルドルフに何の用事があるのかしら。》

 

その言葉でエアグルーヴは帰ってきた。カクンと揺れ、瞳に光が戻る。耳も尻尾も落ち着きはじめ、ようやくまともに話ができるようになったようだ。

 

「え、ええ―。今会長が進めているアレの話なんですが、中央トレセン学園としての回答が揃いましたので、いつお持ちしようかと。」

 

《ああ、その話ね。―わかったわ。ルドルフには私から伝えておく。都合のいい日時をエアグルーヴにメールか何かさせればいいかしら?》

 

「いいえ。その連絡はテイオーにお願いします。今その中心にいるのは彼女ですから。」

 

《ずいぶんとテイオーちゃんのこと買ってるのね。―いいわ。そうしましょう。今日の明日なんて急な話になることはないと思うけど、あの娘思い付きで動く節があるから、いまいち信用できないのよね…。》

 

「お変わりないようで。」

 

苦笑する。どこに行ってもあの方はあの方だということらしい。

 

「では、よろしくお願いします―。」

 

会話を終え、受話器を戻す。とたんに緊張が解け、エアグルーヴは身震いした。

 

「マルゼンスキーさんだった。まさかあのヒトもURAに居たとは思わなかった。」

 

マルゼンスキーもその気になれば上のリーグでも戦える力を持ったウマ娘だ。なのにこうして裏方に回っているのは―、多分シンボリルドルフのことが大きく関係している。エアグルーヴにはそれが直感でわかった。

 

「―というわけで、今日の夕刻以降、会長からテイオーに日時が送られてくる。その時間に合わせて、我々はURAに出向き、この書類を会長に渡す。其れを以って、始まる。」

 

その言葉にテイオーは顔を引き締めた。

 

「とりあえず今日はこれで終わりにしよう。あとは各々の日常に戻ってくれ。」

 

それを合図に、各自職員室を出て、思い思いの道へ散っていった。

 

 

 

 

「まったく、課題を出しに来ただけでしたのに、とんだ役回りでしたわ。」

 

テイオーと並んで歩くメジロマックイーンは憤慨していた。

 

「だから悪かったってマックイーン!とっときのスイーツあげるからさ!」

 

スイーツという言葉にメジロマックイーンの尻尾が揺れる。

 

「そ、そんなことで簡単に私の機嫌がとれるとでも思っているのですか?!」

 

立ち止まってさらに憤慨するメジロマックイーン―のように見えて、尻尾はゆらゆらしている。

 

「あー、そんなこと言うんだ。いいよじゃあ。カイチョーが持ってきてくれたゴージャスセレブプリン。ボクひとりで食べるから。残念だったなあ。」

 

それをよそに、テイオーは歩みを止めない。立ち止まったまま逡巡するメジロマックイーン。ゆらゆら。ゆらゆら。

 

「お、お待ちなさい!あなただけで独り占めなど、私が許しませんわ!」

 

あの日いただいたプリンの味は二度と忘れることはありませんわ、と後日メジロマックイーンは興奮気味に語った。

 

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