トウカイテイオーは生徒会副カイチョー   作:橋本みちか

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※※※※このお話にはキャラクターを叱責する描写が含まれています。苦手な方は読み飛ばしたほうが良いかもしれませんが、今後の流れが掴みにくくなるかもしれません※※※※


頼らない強さ、頼られない苛立ち

秋の天皇賞を1週間前にして、シンボリルドルフはようやくその理想を完全なカタチにしようとしていた。真っ暗な部屋。彼女のデスクに置いてあるパソコンのみが明かりの役目を果たしている。白く輝く、テキストエディタの映された画面ににそのすべてを叩き込んだシンボリルドルフは思わず卓上に両肘をついて大きくため息を吐いた。

 

「さすがに堪えたな」

 

すっかり冷めてしまったコーヒーを啜る。冷めたことにより余計に味を感じ、その苦みに拍車をかけていた。誰もいない競技部競技課の部屋にひとり。ようやく学園の生徒会長であった頃からの宿願を果たす一歩手前までたどり着いたという達成感と、それに至るまでの疲労で、シンボリルドルフはその場から動くのも億劫だ。立ち上がるのすら面倒くさい。ぎりぎり日付は変わっていないが、作業ついでにもうこのまま会社で夜を明かしてしまおうか。給湯室の冷蔵庫に買い置きのサンドイッチか何かが入っていたはずだ。そう思って席を立ったとき、ふいに、ガラガラと扉の引かれる音がし、何者かが部屋に入ってきた。

 

その何者かが部屋の電気をつけたので、それがマルゼンスキーだということがわかった。忘れ物を取りに来たのだろう。マルゼンスキーは自らのデスクに駆け寄り、スマートフォンらしきものを手に取り安堵する様子を、給湯室から見ることができた。そのまま隠れてやり過ごそうと思ったが、マルゼンスキーの隣、よりによってシンボリルドルフのデスクのパソコンが起動したままになっているのに気付かれた。

 

「ルドルフ?いるの?」

 

きょろきょろしてその主を探すマルゼンスキー。観念したシンボリルドルフは、サンドイッチ片手に給湯室から姿を現した。

 

「あなた―」

 

実際に姿を現したシンボリルドルフを見てマルゼンスキーは大層驚き、シンボリルドルフの持っているものからして、まだ帰るつもりがないということを察した。

 

「もう日付が変わろうとしているのよ?残業代もロクに出ないのに、一体なにしてるの?」

 

すこし咎めるような口調で、マルゼンスキーはシンボリルドルフを詰める。

 

「言ったろ?秋の天皇賞までに私の計画を具体的なカタチにすると。まだ数日の猶予は残されているが、そろそろなんとかしておきたかったんだ」

 

だからといってもあまりに急な話である。昨日まで、いや今日マルゼンスキーが別れを告げるまでその素振りすら見せていなかった。頼ってすらくれなかったシンボリルドルフに。それを見抜けなかった自分自身に。マルゼンスキーは初めてシンボリルドルフに怒りの感情を向けた。机に戻ろうとするシンボリルドルフに詰め寄り、ずっと眠らせたままにしていた感情を、マルゼンスキーはついにゆり起こした。

 

「ねえ、どうしてあなた一人で全部抱え込むのよ。学園にいたときからずっとそう。エアグルーヴやナリタブライアンを従えているように見えて、結局のところはあなたが全部片づけちゃうじゃない。私はねルドルフ。エアグルーヴがあんなになっちゃったのは、全部が全部じゃないかもしれないけど、あなたが見せていた背中のせいだと思っているのよ。あの娘はあなたに従順だった。あなたの言うことならなんでも従ったわ。けれどあの娘自身でなにかを成したことはついにただの一度もなかったわ。自分の力で何かを成した経験がないままエアグルーヴはあなたと同じところまできてしまった。使われ方しか知らないあの娘が今の生徒会をどうしているのかわからないけれど。私にはテイオーちゃんが中心になっているように見えるわ。あなたの悪いクセよ。自分一人で抱え込んで、自分一人の力で全部片づけようとするの。もっと他人を信用しなさい。―そんなに私のことが信じられない?」

 

マルゼンスキーにここまで捲し立てられたのは初めてでシンボリルドルフもさすがにたじろいでしまい、返答が詰まってしまった。

 

「そ、それは―。すまない。もし私がなにか違えてしまえば、私に関係する人がみなそれを追及されると思って―」

 

「あなたに付いていくと決めた時点で、その覚悟はできているわよ。エアグルーヴも、ナリタブライアンも。もちろん私だって。どうしてそれがわからないの」

 

痛いところを突かれてしまい、シンボリルドルフは口を噤んで視線を逸らしてしまった。

 

「昔っからずっとそうやって何でもかんでもひとりで解決してきたものね、あなた。今更変われなんていうつもりもないわ。あなたでなければ今の私はなかった。それはきっと他のみんなも同じように思っているはず。―だけど、あなたはその弱みを決して見せない。いいえ、弱みを見せられるものはほんの一人しかいなかった。そうでしょう?けれど最後まであなたとあの人の関係は”ウマ娘とその専属トレーナー“というものだったし、今に至ってはそれすらもない、まったく接点のない人物なの。わかる?もっと視野を広げてみなさい。その弱みを見せてもいいな、なんて思えるヒトは、あの人以外にもきっと近くに居るはずよ」

 

一歩離れてシンボリルドルフに微笑む。子供をあやす母親のような微笑みだった。

 

「―じゃあ、私は忘れ物を取りに来ただけだし、帰るわね。」

 

もういちど、スマートフォンがちゃんとポケットに入っているか確認し、マルゼンスキーは扉の前で立ち止まる。

 

「じゃあねルドルフ。また明日」

 

何も返せないルドルフを2秒ほど待ち、マルゼンスキーの姿は闇の向こうへ消えていった。

 

「―あのバカ。なんで“手伝ってくれ”って言えないのよ」

 

怒りとも悲しみともとりがたい表情をしたマルゼンスキーは、ハイヒールの音を気持ち強くたてて庁舎を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園のグラウンドで、来週に差し迫った秋の天皇賞へむけて最後の追い込みをかけているテイオー。そのもとをエアグルーヴは訪れていた。

 

「テイオー、朗報だぞ。秋川理事長に公認を得たU-NIONだがな、樫本さんがいつものようにURAに報告を挙げたところ、競技部と環境部から諸手をあげて称賛され、なんと後ろ盾を貰うことに成功した。あいつらはどっちの味方をしているのかわからんが、これで私たちもより動きやすくなった」

 

エアグルーヴからもらったスポーツドリンクを飲んで水分を補給しながら、テイオーはその話を聞いている。

 

「え、そうなの?うーん、なんだかボク、カイチョーが心配になってきたんだけど」

 

腕を組んでエアグルーヴも考え込む。

 

「そうだな。まだURAは何も知らないという“体”でいるのかもしれないし。あの人の考えがどこまで及んでいるのか私にはわからない。URAが腹の中で何を考えているのかも謎のままだ。私たちはあれから、街頭や駅などの人通りが多い場所に数名のウマ娘を派遣し、よびかけやビラ配りをしてもらっている。これも理事長のお墨付きがなければ門前払いを食らうところだった。―あと、アグネスデジタルとメジロドーベルがとても協力的でな。プロが作ったといわれてもわからない程見事なビラを作ってもらったんだ。」

 

文字通り“ビラ”、という音をたててエアグルーヴがテイオーにそれを見せる。“クラシック撤廃反対”の見出しものと、これまでの経緯が詳細に書かれており、両者の意見を尊重したうえで学園としては反対の立場をとる、ということがよくわかる文章だった。大きく何かに立ち向かうトウカイテイオーのイラストが描かれているのは、さすがにちょっと恥ずかしいが。

 

「―これ、もう配られたの?」

 

「それはもう」

 

「どれくらい?」

 

「各施設300枚くらいは印刷してもらったから、それが全部配られたとして6000枚くらいにはなるな」

 

ええー、とテイオーは口を尖らせる。

 

「いや、いいんだけどさ。ちょっと恥ずかしいな、なんて…」

 

ははは、とエアグルーヴが笑った。

 

「そうだろうな。これから先、お前の行く先々で騒がれるかもしれんぞ」

 

もぉー、やめてよぉー、とゴネながらテイオーはエアグルーヴをぽかぽか叩く。そういう評判は、テイオーにとってはあまり必要ないものだった。しかし、テイオーのいう“カイチョーのようになりたい”とは、つまりはそういったカリスマ性も求められるということ。今回の件でうまくクラシックが存続するようなことがあれば、テイオーのウマ娘界隈での評判は著しく高くなるだろう。

 

「おいテイオー!いつになったらスタート地点に戻ってくるんだ!」

 

エアグルーヴと話し込んでいたので、いつまでスタート地点に戻ってこないテイオーを心配して―かは知らないが、トレーナーがやってきた。

 

「―なんだ、エアグルーヴと話していたのか」

 

「悪いな、練習の邪魔をして」

 

若干申し訳なさそうにするエアグルーヴに気を遣わせまいとトレーナーは笑顔で返した。

 

「気にすんな。どうせ生徒会がらみの話なんだろ。コイツは何かをしながら別の事するのが苦手だからなあ。ちゃんとチカラになれてるのか心配だ」

 

なんだよ、トレーナーまでぇ、とテイオーは頬を膨らませる。今日はなにかと弄られることが多い。

 

「ジョーダンだよジョーダン。お前もちっとは大人にならねえと、アイツみたいにはなれねえぞ?」

 

「―い、いいもん!ボクは走りでみんなに証明してみせるんだ!」

 

クラシックを望むウマ娘たちにとっての希望は、その夢を見せる為にスタート地点へ駆けていった。

 

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