各トレーニングセンター・学園各位
会長
(名前は擦れていて読めない)
謹啓
晩秋の候、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
平素より当協会の運営につきまして格別のご支援ご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、この度みだしの件につきまして、当協会の職員が本年度初めよりつい先日に至るまで、協会の承認を得る事無く、協会を騙り、クラシック制度の撤廃をもちかけていたことが発覚いたしました。また、現場の意思とは関係のないところでそれを強引に推し進めようともしていた事実もあり、関係者の皆様には多大なる御迷惑をおかけし、当協会に対する不信感を与えることとなり心より深くお詫び申し上げます。
上記クラシック制度の撤廃については当協会の意思にあらず、そのようなことは御座いませんので、まずはご安心いただければと存じます。
これを受け、当協会は当該職員1名を厳正に処分いたしました。氏名や内容の公表につきましては差し控えますことをご了承ください。
ウマ娘のために創立された当協会においてあってはならない事態であり、今後再発防止のために策を尽くす所存でございます。もしお気づきの点がございました折には是非ご叱正、ご指導戴けますよう、よろしくお願い申し上げます。
謹白
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各トレーニングセンター・学園各位
顧問
桐生院 (名前は擦れてい読めない)
拝啓
晩秋の候、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
平素より格別のご支援ご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、私ことこの度ウマ娘レース協会の顧問職を退任する運びとなりました。約30年間の長きにわたる在任期間中には格別のご厚譲をいただき、心より厚く御礼申し上げます。
今後とも、ウマ娘レース協会に格別のご支援ご厚情賜りますよう、お願い申し上げます。
略儀ながら書中をもちましてお礼かたがたご挨拶申し上げます。
謹具
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各トレーニングセンター・学園各位
競技部協議課
シンボリルドルフ
拝啓
晩秋の候、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
さて、私ことこの度ウマ娘レース協会を退職することとなりました。約半年といった短い間でございましたが、在職中には格別のご厚譲をいただき、心より厚く御礼申し上げます。
今後とも、ウマ娘レース協会に格別のご支援ご厚情賜りますようお願い申し上げます。
謹具
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「テイオー、これを見てくれ」
天皇賞から4日目。木曜日ということでいささかだらけてきている雰囲気に特大の爆弾が飛び込んできた。朝イチでURAからFAXが送られてきたのである。それを見たエアグルーヴは血相変えてナリタブライアンとテイオーを生徒会室に呼び出していた。
「うっわあ―、なにこれ。お詫び、挨拶、挨拶ってさあ」
「バカ者。ちゃんとよく読め」
テイオーは、とりあえず最初に送られてきたURAからの詫び状を手に取ってみる。
URAの認可なく独断でクラシック撤廃を謳い全国を行脚した職員がいたこと、ウマ娘の意思に関係なくそうしようとしたこと、その職員を処分したこと、クラシック制度撤廃は”無い“こと。そんなことが書かれてあった。
「―エアグルーヴ、これってさ…」
「ああそうだテイオー。クラシックは無くならない。一本のレースにすべてを懸けるウマ娘の輝きが失われることはない。ここに書いてあることから察するにURAもある意味被害者だ。少なくともこの件については意見が合致している以上、私たちの敵にはならない。―私たちの勝ちだ」
未来は守られた。―正確にはそのときになってみないと守られたかどうかはわからないが、とにかくテイオーたちは“ウマ娘の想い”を繋ぐことは繋いだのだ。
「あのときお前がひとりあの人に立ち向かわなかったら、きっとあの人の思う通りに事が進んでいたはずだろうし、U-NIONが結成されることも無かった。お前のおかげだ、テイオー」
「で、でもボク、何も…」
衝撃の事実に震えるテイオーのアタマをエアグルーヴはやさしく撫でる。テイオーは勝ったのだ。正直テイオー自身なにをしたわけでもないのだが、それでもテイオーを信じてウマ娘は動き、こうして“クラシックを続ける”という言質を書面で獲っている。
「本当に何もしていないのなら、皆から信じられる存在になどなれない。しかし現にお前はそうなっている。私やナリタブライアンですら届き得ない、“信じてもいい何か”をお前はどこかで手に入れたんだ。私たちはお前を信じて着いてきたんだ」
素直に撫でられているテイオーの瞳に涙が溜り、頬を一筋伝う。
「そっかあ」
言ったきりエアグルーヴの胸に顔をうずめて泣く。―バカ者、服が濡れるだろうが―と注意だけはするものの、邪険には扱わずエアグルーヴはそっとテイオーを抱きしめ、そのアタマをやさしく撫で続けた。
「でも、それで全部終わるのかっていうと、また違うのかもしれんな」
残った二枚をぴらつかせながらナリタブライアンが呟いた。URAからの書面では“処分を受けた者、辞任した者の公表は差し控える”とあったが、その書類に付随して、シンボリルドルフがURAを辞する挨拶と、桐生院と書かれた者が顧問を退任するというものが送付されている。これは暗にその“処分された職員”というのがシンボリルドルフで、おそらくその責任か何かを取る形で桐生院が退任したということがわかる。しかしながらあくまでURAとしては“差し控える”意向であるため、残りについては該当者が自主的に送付したということになるだろう。
「実行者とはいえ、直属の上司や幹部じゃなくヒラの職員まで処分するとは。向こうはそうとう揉めたらしいってのがわかるな。―まあ、対岸の火事として割り切れば、私たちには何の影響も無い」
それはそうだ。テイオーらにしてみればもうこの話は決着したのだ。クラシックはこれからず続く。それでいいのだ。
「そうだ、私たちは、な―」
テイオーのアタマを撫でながらエアグルーヴは遠い目で天井を見上げる。彼女らが気になっているのは、かつての君主だった。
ふいに校内放送が鳴る。
《駿川です。エアグルーヴさん、ナリタブライアンさん、トウカイテイオーさん。理事長がお呼びです。支給理事長室までお越しください》
「ほら、たぶん理事長も同じこと考えてるぜ?」
ナリタブライアンは席を立ち、エアグルーヴもテイオーを引きはがした(涙と鼻水は制服にこびりついている)。テイオーも顔を拭いて、三人一様に理事長室へ向かった。
「待望!よく来てくれた!」
扉を開けるなり、扇子全開で理事長が出迎える。そのまままっしぐらにテイオーのもとへ寄ってきた。
「結果クラシックは守られた!君のおかげだトウカイテイオー!改めて礼を言う!」
「い、いや、ボクはなにもしてないよ…」
恥ずかしくなってテイオーはエアグルーヴの後ろに隠れた。
「そんなことはない!みんなから信じられるウマ娘というのはとても稀有な存在だ!あのシンボリルドルフですらほかの者からは畏怖と尊敬の感情しか抱かれていなかったからな!ルドルフが一人で完結する存在なら、テイオー、君は様々なピースをそろえてより強いチカラとすることができる存在だ!誇りに思う!」
理事長直々に褒めちぎられるなどそうそうない経験なので、おもわず口元が緩む。
「そんな話をしに来たんじゃないだろ、私たちは」
ナリタブライアンだけは冷静に、その奥に座ってこちらを見ている一人のウマ娘を指す。スーツに身を包み、ボリュームのあったロングヘアはきっちりまとめられている。もはや学園にいた頃とは別人のようになったマルゼンスキーがそこに居た。
「久しぶりね、みんな。あのときの食事会以来かしら」
室内の円卓に並んで座る一行。全員の準備が整ったと見て理事長が本題に入った。
「彼女―マルゼンスキーから話があるそうだ」
す、とマルゼンスキーは立ち上がって、すぐにそのアタマを机にぶつかるかどうかというところまで下げた。
「ルドルフが迷惑をかけたわ。特にここには本人が直接謝罪に来るべきなんでしょうけど、今ルドルフはそういうことができる状態じゃないの。私で代わりになるかわからないけれど、ルドルフと共にあったものとして謝らせて頂戴。―わたしも、わかっていながらあの娘を抑えられなかったのは相当に堪えてるの」
先輩にアタマを下げられ、エアグルーヴが慌ててそれを制する。
「か、顔を上げられてください。私たちは迷惑などとは思っていません。ただ、理想と理想がぶつかり合っただけです。そこに善悪は存在しません」
本当に悪いと思っているわ、と続けて、マルゼンスキーはアタマを上げた。
「みんなのところにも届いているとは思うけど、URAから通達が来たわよね。ルドルフったら、“責任は果たすためにあるものだ”なんて言い出して、自分の退職の挨拶をほぼ同時に送っちゃったわけよ。そうしたらさ、それで“処分”されたのがルドルフだったってわかっちゃうじゃない。さらに間の悪いことに、桐生院の婆様もいい体で幹部の椅子を外されて、退任の挨拶をこれもほぼほぼ同時に送付しちゃってるのよ。そしたら大体のヒトはこう思うわ。この騒動で処分されたのはシンボリルドルフで、桐生院の婆様が何かしらの因果で椅子を外された、なんてね」
「あなたたちU-NIONの活動規模が大きかったので報道やマスコミも事の推移に注目していたわ。おそらくこの情報もどこかで誰かが掴むはず。そうなれば、ルドルフは今度は白日の下で不特定多数、世間から叩かれてしまうことになるわ」
そうだろうな、とナリタブライアンが相槌を打ち、エアグルーヴと理事長は難しい顔をしている。テイオーにはマルゼンスキーが何を言っているのかよくわかっていないようだ。
「ルドルフのやったことは仕方ないけれど、それにしたって謂れのない誹謗中傷を受けるのを黙ってみているわけにはいかないわ。だから無理を承知でお願いするんだけど―」
再びマルゼンスキーが理事長に向き直りそのアタマを深く下げる。今度こそ机に額がぶつかる鈍い音が聞こえた。
「どうかほとぼりが冷めるまでルドルフを匿ってはくださいませんか、理事長」