学園内の施設を、下記の通り占有されることを通告します。ついては、該当する時間、その施設に立ち入ったり、利用者を妨げる行動等をとらないようお願いします。
申請者:トウカイテイオー
日 時:12月〇日(水) 7:30 ~ 9:30
場 所:第1グラウンド内、芝コース(2000メートル用)
用 途:併走トレーニングの為
※上記利用時間はコース等の準備から片付け、清掃までの時間です。来たときよりも美しく、次の方が利用しやすいようにしてから去りましょう!
テイオーとシンボリルドルフが約束を交わしてから数時間。このような通知が突然各クラスに配られたので、申請者が申請者なだけに今度は一体なにをするつもりかと、上級生から下級生までざわつく事態となった。さらに、今朝の彼女らのやりとりを見ていたというウマ娘も現れ、今や時の人―時のウマ娘たるトウカイテイオーと、最強と名を馳せた卒業生、皇帝シンボリルドルフの一騎打ちが行われるという事実が白日の下に曝され、学園は大騒ぎとなった。
授業間の教室移動、トレーニング中のグラウンド、果ては生徒会室にまで、テイオーはとんでもない数のウマ娘とその話をした。特に秘密にするつもりもなかったのだが、およそ誰にもこの話をしていないので、ひっそりと行われると思っていたそれだったが、あまりにも騒ぎが大きくなってしまった。
「テイオー!あの張り紙はどういうことですか?!」
昼の食堂、テイオーを囲むウマ娘らをかき分けてメジロマックイーンがやってきた。
「どういうこともなにも、見たまんまだよ。明日の朝ボクは第1グラウンドの芝2000コースで併走トレーニングをする。それだけだけど」
すんなりとテイオーが事実を認めたので、群衆が軽くざわめいた。
「今朝、シンボリルドルフさんと不穏な話をしていたという話もありますわ。何か関係があるんですの?」
テイオーが座っているテーブルに両手を突き、半ば前のめりになって彼女を問い詰める。美しい髪と同じ色をした瞳が、テイオーのそれと交わった。
「たがかウマ娘ふたりが走るだけなのに大げさなんだよ、みんな。見たって何んにも面白くないのにさ」
明確な肯定ではないものの、話を進めたということは認めたも同然である。群衆のどよめきは更に大きくなった。“どうしてそうなったんですか”とか、“勝てるのか?!”とか、そんな言葉が飛んでくる。テイオーはいちいちそれに答えたりなどはしなかった。
「みんなさ、落ち着いてよ!もう面倒くさいからこの際言うけど、確かに明日早朝からボクとカイチョー…シンボリルドルフさんは併走―、勝負をするよ!だけどそれはキミたちが見ても楽しいもんじゃないし、きっと何の為にもならないよ!過去1年以上ロクにトレーニングを積んでいないウマ娘と、最近の戦績が秋の天皇賞13着のボク!決してレベルの高い競争にはならない、そうでしょう?」
「そうはいいましても、貴女、ご自分が今この学園でどれだけ名前が通っているか知らないのですか?!今や貴女は学園の“顔”に最も近いところにいる存在なのですわよ?!もう少し考えて行動しないと、こうなるのですわ!」
メジロマックイーンが手を広げて見せる。いつのまにか群衆はさらなるウマ娘を呼び、後ろで跳ねながらでないと状況がわからないほどにまで膨れてしまった。
「何をしとるか貴様ら!学園内での集会は禁止されているのを知らないのか!ましてこの人数…!目的は何だ!」
その群衆から、キレたエアグルーヴの金切り声が聞こえてきた。しばらくして、ようやく彼女はナリタブライアンを引き連れてテイオーの前に辿り着いた。ぜえ、ぜえと疲労と興奮で、肩を使って呼吸している。
「とにかくもう終わりだ!速やかに散れ!」
彼女の怒号にびびってしまったのか、蜘蛛の子を散らすようにしてウマ娘らは食堂から出て行った。十数秒後、中央の四人のみが食堂に残される。
「今までにない人数だったぞ。テイオー軍団など作って生徒会を裏切る算段でも組んでいたのか?」
「どうしてそうなるのさ!」
エアグルーヴにしては珍しい冗談だった。
「おおかた、今朝配られた通知についてだろう。まったく、ミーハーが多すぎる」
さすがに辟易として夜シンボリルドルフに泣きつくと、彼女は“有名税だな”と笑い飛ばした。
「本当だよ。ボク疲れちゃった」
まだ手も付けられていなかった昼食にようやくテイオーはありつく。にんじんチャーハンはすっかり冷めてしまっていた。
「食べながらで構わんぞ。―一体どういうことなんだ?今朝、会長はお前だけを部屋に残したように思える。あそこでなにかあったのか」
椅子に腰かけ、あたりを憚って、小声でエアグルーヴは喋りだした。
「そうだね。あのあとグラウンドに連れてかれて―、これからの話をしたんだ」
「これからの話?」
ナリタブライアンが訝しがる。
「うん。次の春からの話とか、いろいろね。ボクも覚悟決めなきゃなって、そんな話をしてたんだ。そしたら」
「そしたら?」
メジロマックイーンもテイオーに顔を寄せて続きを促す。
「カイチョーもこれまでの話をはじめた。結局のところさ、ボクたちの意見が通った、というよりはカイチョーの提案が撥ねられたカタチじゃん?それに、ボクたちとカイチョーが直接やりあったわけでもない。それにずっとモヤモヤ来ていたのと、ボクが決める覚悟の度合いを見たいって言って来たんだ。それを同時に達成できる方法を知ってるかって」
こればかりはエアグルーヴも閉口した。誰もが避けていた話ではあるが、事実はその通りである。テイオーサイドの意見、陳述が受け入れられてそちらを採ったわけではない。ましてシンボリルドルフと直接話し合いの機会を持ち、その場でシンボリルドルフを“折った”わけでもない。常にその生殺与奪の権はURAという第三者にあり、それがシンボリルドルフの提案を“蹴った”だけにすぎないのだ。要するにシンボリルドルフはこれまでに“決着”をつけたいのだろう。勝ち負けに関係なく、“これまでのシンボリルドルフ”と“これからのシンボリルドルフ”に線を引くために。
「―話はわかった。我々の方からも当日の朝はグラウンドに近寄らないよう改めて通達を出しておくことにしよう。あと、今日は生徒会の業務はいいから、明日に向けて身体を整えておいてくれ」
なるほど話の分かる生徒会長で大いに助かったとテイオーは思った。
「それで、お前の決めた覚悟ってのは何だ?」
しれっと自らも食べ物を頼んでいたナリタブライアンが、運んできてくれたウマ娘に礼を言いつつ、テイオーに問うた。
「そう、その話なんだけど―」
テイオーは真面目な顔になって3人を見つめる。
「エアグルーヴも、ナリタブライアンも、フジキセキも、ヒシアマゾンも、今年の春でここを出て行っちゃうじゃん」
相槌を打つ3人。
「そうしたら、今年ここに居たっていうメンバーがボクを除いて居なくなるんだよね。で、個人の事情を抜きにして考えると、右も左もわからないようなウマ娘を5人生徒会に引き入れても機能しないと思うんだ」
そうだな、と改めてエアグルーヴはテイオーに同意した。そしてそれこそが前会長シンボリルドルフの狙いだったということもすでに理解している―、いや、シンボリルドルフは最初からそこしか見ていなかったのだ。彼女自身がそれまでの“中継ぎ”にすぎなかったことも充分、わかっていた。
「だからね」
流石にこのメンバーを前にしてそれを言ってしまえばそうせざるを得なくなってしまう。ほんの少しだけテイオーは躊躇ったが、それこそ”覚悟を決めて“言い放った。
「エアグルーヴの想いを継ぎ、カイチョーを超えて」
「ボクは生徒会長になる」
「そうか」
覚悟を決めたテイオーの決意表明のわりに、帰ってきた返事は淡泊なものだった。
「ええー!どうしてさ!もっとこう、あるでしょ!」
わかりきってたことだからな、とナリタブライアンは黙々と目の前のごはんを片付けている。
「そんなことだろうと思っていましたわ」
メジロマックイーンもそれには同意のようで、エアグルーヴも、いずれテイオーがそれを言い出すことはわかりきっていたので何も言わない。
「なんだよもう、みんなしてさあ。せっかく思い切って言ったのに、なんだかシラけちゃったよ」
拗ねる。
「まあそう拗ねるな。それで?お前だけいても生徒会は成り立たんだろう。頼れるアテはあるのか?」
テイオーだけが生徒会長に君臨していても何にもならない。―前会長ならなんとかなっていたのかもしれないが、あれは稀有な例だ。思い出される顔を振り払い、エアグルーヴは訊いてみた。
「そうだね―、まあ、そのあたりはボクがちゃんと生徒会長になってから頼もうかなって思ってるよ」
「またそんな行き当たりばったりな!本当にそれで大丈夫なんですの?」
いい加減―にみえるそのやり口に納得がいかずメジロマックイーンが追撃。
「いいんだ、それで。すくなくとも“ひとり”はいることだしね」
にしし、と笑ってテイオーは席を立ち、テーブルを後にしていった。その“ひとり”が誰をしめしているのか、当人を除いて伝わっていたのか、困惑するメジロマックイーンと、順当にいけばそうだな、と納得するエアグルーヴ、ナリタブライアンの図に