トウカイテイオーは生徒会副カイチョー   作:橋本みちか

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逃げの育成がわかりません。スズカに追い込みさせたって悪かねえよなあ?!


トウカイテイオー、生徒の要望に応える

見回りの怪の翌日。放課後、テイオーはナリタブライアンから生徒会室に呼び出されていた。

テイオーが座る副会長の席には、ひとつの箱が置いてある。上面にポストのような差し入れ口があり、そこから何かしら入れるようだ。

 

それがここにあるということは、つまり、その何かしらに関わってくるというのはもはや自明だった。

 

「これって、あれだよね?下駄箱の前に置いてあったやつ。」

 

「そうだ。生徒からの要望を書いて挿し入れてもらう、いわば目安箱みたいなものだな。」

 

そういったものがあるということはテイオーも知っていた。この中に学園に対して言いたいことを書けば、きちんと返事が届くらしいと。テイオー自身がこれを使ったことはなかったが、周りのウマ娘たちがこぞって投函していたり、返ってきたものに一喜一憂する姿は珍しくなかった。

 

「それで、ここにあるということは?」

 

「お前が返事を書くんだ。」

 

「え゛。」

 

「この箱の中身を開けるのはひと月にいちど。その時の量にもよるが、見たり返事を書いたりするのは生徒会内で持ち回りで行っている。今回は私の番だったが、お前もいることだしちょうどいい。私が見ててやるから、やってみろ。」

 

単純な話だった。いままで要望を送り、それに対して応えてもらう側だったのが、要望に応える側になっただけのことだ。これも仕事と割り切り、テイオーはその箱をひっくり返した。

 

 

どさどさどさどさどさーーーーーーっ!!!!!!

 

 

逆さになった木箱からこぼれ出てくる紙、紙、紙。

 

50枚や100枚じゃない。それこそ山ができるレベルの紙が机の上に溢れる。

 

「え、多くない?」

 

さっそく出鼻をくじかれ、テイオーの額に冷や汗が一筋。

 

「有マ記念明けて初めての回収だからな。―まあ、書いてあることは大体想像がつくが。…中を見てみろ。」

 

うず高く積まれた紙の山からひとつを取り、開いてみる。

 

《トウカイテイオーの走りがすごかった!生徒会の力でぜひ並走させてほしい!》

 

何を言っているのかまるでわからなかったので、それほ放り投げて次の紙に手を伸ばす。

 

《あんな目にあったのに有マ記念に勝ったトウカイテイオー!話が聞きたいから集会かなにか開いてほしい!》

 

んんー?次だ。次こそまともなことが書いてあるに違いない。きっとそうだ。

 

《トレセン学園はトウカイテイオーグッズを製造販売すべきだ!》

 

ぽい。

 

《この伝説を記念してトウカイテイオー記念模擬レースがやりたい!》

 

ぽい。

 

《トウカイテイオーさんへ。いつか一緒に走りましょうね。》

 

開けば開くほど、テイオーのカオはげんなりしていく。

 

「ねえ、これホントに生徒会公認の目安箱なの?」

 

ナリタブライアンは鼻で嗤って見せた。

 

「はン。やはりそんなもんだろう。この時期はいつもそういうのでいっぱいになるんだ。今回はたまたまお前が自分自身に宛てられたものを見ているからまだいいが、我々としてみれば対応するしない以前の問題だ。特定の個人にあてるときはそいつに直接話すなり手紙を渡すなりしてくれって思うがな。」

 

まったくだよねーと、《トウカイテイオー!オレと走れ!》などと書かれた紙をぽーんと放り投げる。要望にもならない有象無象の紙がそこら中に散らばった。

 

「―それで?ボクはこれひとつひとつに返事書かなきゃならないの?」

 

すんごくイヤなんだけど、とまで出そうになったが、なんとかこらえた。

 

「いや…。さすがに酷いものというか、学園の運営に全く関係のないものは棄却してかまわさん。どちらかというとまともなモノを探すほうに骨が折れそうだな。」

 

ホントだよ、もー、と開く紙も大して取り合いのないモノ。ぴっ、と舞い上げたそれは―、

 

 

 

ちょうど生徒会室にやってきたエアグルーヴの鼻をかすめて床に落ちていった。

 

「… … … … … … 。」

 

目を閉じ、腕組み、仁王立ち。シンボリルドルフ顔負けの威圧感のまま固まるエアグルーヴ。ひくひくと動く彼女のこめかみが、今の心情を表している。

 

「―や、やあエアグルーヴ、今日はは、早いんだね、イヒヒ…。」

 

なんとか話題をそらしてこの場を切り抜けたいテイオー。

 

「―あ!すまないテイオー、私は今日今から用事があるのだ!あとは頼んだぞ!」

 

すべてをテイオーに押し付け、エアグルーヴの横を抜けて生徒会室から出ようとするナリタブライアン―の、首根っこは既に抑えられていた。

 

「おぅっ…。」

 

身体が前に投げ出され、ナリタブライアンは観念した。それでもエアグルーヴは口を開かない。

 

「… … … 。」

 

まるでゲートインからスタートの間のような緊張感。誰もその場から動くことができない。するとエアグルーヴが《すう――》と息を大きく吸った。ふたりは、これから起こりうる凄惨たる予兆に身震いさえし、少しでもその被害を抑えるために、耳をたたんだ。

 

「 貴 様 ら あ ― ! 」

 

黄昏の生徒会室に響いたエアグルーヴの怒号は、外を走っていたウマ娘たちにまでも聴こえたという。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「そこに直れバカ共が!なんだこの惨状は!特にナリタブライアン!貴様は私や会長がそれを整理しているところを見ていなかったのかッ?!いつも別に箱を用意してそこに仕舞っていただろうが!なぜそれができない!?貴様もだテイオー、こんなたくさんの紙、ちらかしたらこうなることは明らかだろうが!なにか別途入れるものがないかとかそういう発想はないのか!!!」

 

くどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくど。

 

エアグルーヴの姑のような説教は続く。文章にするとあまりにも長いので省略する。

 

「はあ、はあ、ふう…。わかったか貴様ら!今度同じようなことがあったら覚えていろ!」

 

「ずびばぜんでじだ…。」

 

怒り狂い掛かりに掛かった彼女のあまりの剣幕に圧倒され、テイオーは半泣きになってしまった。

 

「まったく!不愉快だ!私は理事長と行事の打ち合わせに行ってくる!そのあとは見回りまでここには戻ってこない!いいな!」

 

あいよ、お疲れえ。完全にやる気をそいだナリタブライアンの生返事を背に、エアグルーヴはかつかつと早脚でどこか去っていった。

 

「―しょーがない。片づけちゃわないとね。」

 

「まあな、こうなった以上、遅かれ早かれ片づけはするもんだ。奴もそれにいちいち目くじらたてて怒り猛ることなんてないのにな、まったく。

 

たぶんそれは片づける手間に怒ってるんだよ。とまで言いかけてテイオーは慌てて口をふさいだ。

 

「ん?たぶん―なんだ?」

 

「だ?た、た、たぶんナリタブライアンが大好きなんだよ!」

 

我ながら訳のわからんセリフだと思った。が、これに対してナリタブライアンは照れもせずに

 

「何を今さらそんなことを。奴と私。生真面目な奴とパッと見やる気なさげな奴。組織に必要なメリハリってやつさ。陰と陽みたいなものだ。同じ副会長のふたりが全く同じじゃつまらんだろ。なんだかんだ私は奴を信頼しているし、事実助かっている。しかしそれは奴も同じだと思うぞ。もはや当たり前すぎて口にすることすらなくなっているがな。」

 

はえー、と生返事しながら紙束をゴミ箱へ投げ入れるテイオー。さすがにこの量はうんざりだ、というところだろうか。

 

「だからなテイオー。奴が生徒会長になった今、副会長はお前と私だ。だから今度はお前が奴以上の逸材になって、私の信頼を勝ち得てみせなきゃならんな。」

 

そうだねー、と紙束をあさり続ける。

 

「―あ!ナリタブライアン!あったよ!まともなの!」

 

際限なく出てくる有象無象に埋もれたひとつの宝。やっとそれが日の目を見た。

 

《レース前のメンタルケアをトレーナーのみならず専門家にも頼みたいので学園でなんとかしてほしい》

 

というような内容だった。ナリタブライアンに手渡し、内容を精査してもらう。

 

「―ふむ。これは妙案だな。それには返事を書いていいぞ。奴の検閲を通ったら―、正面玄関の脇にあるコルクボードに貼っておけ。」

 

特定の個人ではなく生徒会として回答したことになっているので個人名は出せないが、これがテイオー最初の、誰かのためになる活動だった。

 

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