トウカイテイオーは生徒会副カイチョー   作:橋本みちか

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私の日本ダービー編
持たざるものの意地


「それにしてもみーちゃん。ここにきて登録名を変えるなんて思い切ったね」

 

日本ウマ娘トレーニングセンター学園。通称トレセン学園。ウマ娘ならばほとんどが憧れ羨むエリート中のエリートが進む道、すなわちその中央の学園に私は入学した。

 

我ながら思い切った選択だと思う。

 

トレーナーもすぐに見つかり、メイクデビューや◯勝クラスに至ってもトントン拍子に事は進んだ。

そしてこの度クラシックに足を進められることになった―、なる旨の通知をトレーナーから貰ったところだ。

 

それを友人に報告がてら食堂でランチ。

 

「ンまあね。私もクラシックになるし、色々思うことはあるんだよ」

 

「生徒会長絡みじゃなくて?」

 

「うるさいな」

 

中央競バのG1を走るには、必ずしも中央の学園に入る必要はない。地方か、あるいはその辺にあるウマ娘クラブだって、ちゃんと能力が伴えば走ることが許されるのだ。

 

私も当時はそこから日本ダービーを走ることを考えていたが、ある契機を以てそれは変わった。

 

《トウカイテイオー》

 

競技に関わるウマ娘、あるいはそれに携わる者たちならば知らぬ訳は無い。かつてシンボリルドルフが推し進めたクラシック競走の撤廃という《新たな道》に真っ向から反抗。今後の競技ウマ娘に関わる様々な歴史を残してそれを退けた。

 

あのとき、まだ10歳(人間換算)程だった私の拙い訴えにも耳を傾けてくれて、応えてくれたことは記憶に深く刻まれている。

 

気がつけば私はトウカイテイオーに夢中になり、憧れを持ち、いつしか

 

《彼女の眼前で日本ダービーを獲る》

 

ことが目標になった。

 

姉も中央に在学していた、というのも理由のひとつではあるが、私としては

《クラシックを守り通したヒーロー》

と同じ釜の飯を食いたかったのである。―どうしても。

 

さっきトントン拍子と言ったけれど、謹んで訂正させて欲しい。お詫びはしないものとする。

 

本当はここに入る前も、ここに来てからも、血ヘドを吐くほど努力したし、している。動きたくないと喚く身体を無理やり動かしてきた、動かしている。折れそうになる心を何度も奮い立たせて走り続けた、続けている。

 

オーバーワークと言われても構わなかった。私があそこを走るチャンスは、当然他のウマ娘たちにとってもそうだがたったいち度しかない。

 

そのたったいち度を、絶対に、何が何でも、死ぬ気で―いや死んでもいい。それで日本ダービーに手が届くのなら私は悪魔に魂を売ったっていい。

 

そういう思いでここまでやってきた。それを表に出さなかっただけだ。

 

しかしそれでもどうしたって勝てないのも居た。上には上がいる、この世界では至極当然の事であるけれど、その事実は《ダービーを獲れない》現実を突きつけられているに等しい。だから私は、負けないためにそのウマ娘とは走らなかった。

 

私は日本ダービーを走る権利が欲しい。トライアルレースで確実に結果を残さなければならない。だから、そんなウマ娘と―、私より速いのとレースすることだけは極力避けることにした。

 

私より遅いウマ娘たちしか居ないレースでメイクデビューし

 

私より遅いウマ娘たちしか居ないレースで◯勝クラスを勝ち進み

 

ホープフルステークスでいい感じの順位に入り

 

今こうしてクラシックへ足を踏み入れたわけだ。

 

「名前はかっこいいと思うんだけどさー。なんか今までのみーちゃんとは違う印象だよねー」

 

特濃はちみーを吸いながら友人がぼやく。いつも思うけれど、こいつはどういう吸引力でこれを吸って―液体と呼べるかもはや怪しいが―、いるのだろうか。

 

本人がいうには《トウカイテイオースペシャル》らしいのだが、これだけは私は身体に入れることができない。

 

「いいじゃん。名前がかっこいいウマ娘は強い。かのシンボリルドルフやカツラギエースたちがそれを証明してるでしょ?私もそれに倣うことにしたの。それに、《ミカド》の《みーちゃん》はそのままでしょ?」

 

私はクラシックへ入ると同時に名前を変えるとずっと決めていた。憧れの生徒会長トウカイテイオーの隣に並ぶに相応しい名前をずっと考えていた。

 

―しかしそれは《勝てない》ウマ娘が居たことで現実のものとはならなかった。私はダイヤモンドではなかった。

 

それでも、《そうあろうとする者》という意地を込めて私は今日からこう名乗る。

 

ミカドグラファイト。

 

原子番号6、つまり炭素。同じ元素を持ちながら輝くことを許されなかった、日陰者の意地である。

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