トウカイテイオーは生徒会副カイチョー   作:橋本みちか

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トウカイテイオー、皐月賞を観る

菜の花が咲き、その上を蝶が躍る四月初旬。春の中山は例年通り超満員。本日のメインレースは皐月賞。クラシック級三冠制覇を目指すウマ娘にとってスタートであり最初の関門である。

 

一昨年前の覇者はこの人トウカイテイオー。中山競バ場そのものは昨年の有マ記念に出走したとき以来だったが、皐月賞というとまるまる一年ぶりということになる。むろん今回は出走ではなく、エアグルーヴのお付きとして、生徒会副会長として同学園の生徒達のレースを見に来たのだ。

 

別に関係者席から見る必要もない。特定の個人を応援するほど入れ込んだ後輩も居ない。一般のシートを(予算で)購入し、エアグルーヴ、ナリタブライアンと肩を並べ通路を進む。周りが騒ついているが気にもしない。彼女らの席は、ゴールゲートほぼ正面といったところだった。春の陽気に照らされた芝がまぶしい。

サイレンススズカだったら堪らず飛び出して走り出してしまいそうなほど。この季節だけは、青臭いはずの芝の臭いが、ちょっとだけいいものになっている。テイオーはそれを充分に堪能し―、気持ちが昂ってしまった。

 

「ねぇねぇブライアン、誰が勝つかなァ。」

 

尻尾を振り回し、耳をぴこぴこ動かし。テイオーははしゃぐ。やはりウマ娘、レースを前にして気持ちを抑えていろ、というのが無理な話か。遠くではやはりサイレンススズカが動き出そうとしているのをチーム総出で必死に止めている。

 

芝の魔力とやら。

 

「言っておくが、賭けるなよ。」

 

エアグルーヴの視線が突き刺さる。

 

「我々生徒会たるもの、常に公平な視点から物事を見るべきだ。特定の誰かに肩入れすべきではない。」

 

「ふぉあえ、ふぉれ、ひんぼりうどうふのあえでひえんおあ?(お前、それ、シンボリルドルフの前で言えんのか?)」

 

どこで買ってきたのか。いや、いつ買ってきたのか。焼きそばを頬張るナリタブライアン。つまようじに取り付けられた紙旗にはへったくそな字で「ゴルシ印」と書かれていた。

 

「やかましい。居ないモノの話をするなとあのとき言ったのはお前だろう。その言葉、そっくりそのまま返させてもらうぞ。」

 

へえへえ、と聞き流す。ずずずずっと最後に残った麺をすすり、咀嚼して飲み込む。ご馳走様、と一言。

 

「アタシはミホノブルボンかな―。」

 

ぼそりと。ほんの十数秒前にやるなと言われたその言葉を、ナリタブライアンはやすやすと口にした。

 

「あ―!そうなんだ!ボクもね、名前がかっこいいからホクセツギンガを応援したいところなんだけど、やっぱ冷静に考えるとミホノブルボンちゃんが頭一つ抜けてるかなーって思うんだよネ!次いでマチカネタンホイザちゃん、ライスシャワーくらいかなって!」

 

ああ、そうだな、全く同じ意見だ―と二人わかりあうのを、震えながらエアグルーヴが睨んでいる。今にも爆発しそうだ。ストレスでどうにかなってしまいそうだ。

 

「貴様ら!だから言っているだろうが!賭けるなと!」

 

「ああ?アタシたちゃ最初から誰にも賭けちゃいないよ。こうしてテイオーとふたり、誰が勝つかなーって、誰が強そうかなーって話をしているだけだ。そうだろテイオー?」

 

うんうんと首を縦に振るテイオー。エアグルーヴ落ち着こうよ、という目で彼女を見ている。

 

「た、たわけ!そんな言い分通るか!」

 

「通るんだな、これが。現にアタシたちゃ一枚もバ券なんてものを買っちゃいない。もしかしたら帰りの晩飯を奢る奢らないの話になるかもしれんが、それはあくまで互いの自由意志に過ぎない。別にこれから起こることとは何の関係もない。そうだろ?」

 

ぐ…、と唇を咬みナリタブライアンを睨み付けるエアグルーヴ。二の句を告ぎたいのに、あまりにもきれいに筋が通っている為、反論のしようもない。大―――きく深呼吸し、自らの座席に座りなおす。

 

「―わ、私は、ライスシャワーだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―夜。中山競バ場からの帰りに、三人はレストランを訪れていた。

 

「… … … … …。」

 

眉間にしわを寄せ、片手で頭を抱えるエアグルーヴ。

 

にっこにこのテイオー。

 

勝ち誇った顔のナリタブライアン。

 

「大変お待たせいたしました。ご注文のお料理でございます。」

 

礼儀正しいウマ娘のウェイターから、それぞれに料理が配られていく。

どん、どん、どん、と、あきらかにヒトの食べる量ではないそれが皿に盛られていた。

 

デミグラスソースがきらきらと輝き、ほどよい焼き加減に調整された肉の芳醇な香りが食欲をそそる、特上にんじんハンバーグ。

材料の産地から製法にまで拘った、料理長渾身の一品だそうだ。

有り得ない大きさのハンバーグが3枚積まれ、これまた有り得ない大きさの人参が突き刺さっている。

 

「セットのライスでございます。」

 

これもまた漫画かと思わんばかりに盛られた阿呆みたいな量の飯が、これまた3つ、それぞれの眼前に置かれた。粒が立って、炊き立てのいい香りが鼻をくすぐる。

 

「ライス…シャワー…。」

 

ぼそりとエアグルーヴが口にした言葉をテイオーは聞き逃さなかった。

 

「あんまりおもしろくないよ、エアグルーヴ。」

 

「やかましい。会長なら間違いなく言っていたはずだ。」

 

「まァたカイチョーの話してる。今の生徒会長はエアグルーヴじゃん。」

 

親離れ出来ない子供か。とナリタブライアンもバカにしてかかる。このふたりに囲われてから、エアグルーヴの威厳が形無しだ。煽られ、弄られ、からかわれ、遊ばれている。

 

「「「いただきます」」」

 

一様に手を合わせ、目の前の料理を食べ始めた。

 

レースの結果としては、ミホノブルボンが勝利を収めた。他の追随を許さない強い強い逃げを披露し、そのゴールをくぐる瞬間まで2バ身さに詰め寄ることすら許さない。さらに終盤へたるかと思いきや、そこからさらに伸び脚を使えるほどのスタミナ。サイレンススズカに続く希代の逃げウマ娘が誕生するのか。非常に今後に期待が持てるレースだった。速さだけではない、レースに勝つための強さも、彼女は持ち合わせている。彼女はレースに必要なものを理解し、その時々で必要とされる出力を調整できているのかもしれない。

 

「しかしすごかったなあ。ミホノブルボンの逃げ方。」

 

「ホントだよネ。かなりのハイペースだったにも関わらず最後まで逃げ切って見せた。なによりほかのウマ娘を完全にだまし切っていたことに感服するよ。」

 

なあ、どう思うエアグルーヴぅ?とナリタブライアンが煽る。心底悔しそうな顔で睨み返すが、もはや俎の上の鯉。ミホノブルボンが皐月賞を獲ったのは確固たる事実。何を言ったところで、結果は覆らないのだ。

 

「ま、まあ…、確かに、ミホノブルボンの戦法は立派だった。しかしながら、勝利を収める為にはある程度のリスクは許容して臨まねばなるまい。彼女はその賭けに勝っただけのこと。日本ダービーや菊花賞ではどうなっているかわからんぞ。」

 

ずずいっと、テイオーとナリタブライアンは身を乗り出してエアグルーヴに詰め寄る。このうえないほどニヤけたツラで。

 

その“賭け”にい~?

 

負けたのは~?

 

誰でしたっけねェ~♪

 

煽る。煽る。ひたすら煽る。テイオーなど気持ちよくなって歌いだした。

 

「ぐ… …、くぅ―… … …!」

 

それがエアグルーヴの顔を茹蛸のように赤くさせる。怒りと悔しさと情けなさに震えるが、抗弁もしようのない。それをみてニヤつくテイオーとナリタブライアン。きっとふたりにはエアグルーヴの考えていることがすべてわかっているのだろう。一見あまり接点のなさそうに見えるふたりだが、こういうところだけ息の合った動きを魅せる。ほかのところ―、例えば仕事でもおなじようにしててくれ。と彼女は再び頭を抱えた。

 

「やっぱり皐月賞を勝ったボク達は着眼点がちがうね!」

 

「そうだなテイオー。何せ私“たち”は皐月賞ウマ娘だからな。これくらいはわかっとかないとダメだよま。」

 

「貴様ら、次は覚えてろよ…!」

ちなみにこの中で皐月賞を獲っていないのはエアグルーヴだけである。もろもろの諸問題でティアラ路線に進んだため別の道といえば別の道だが、今はその分とその相手が悪い。

結局考え込んでもろくな言葉は出てこずに、月並みな捨て台詞を吐き捨てるだけに終わった。なお、ここの食事の支払いは、すべてエアグルーヴがもった。

 

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