[胸糞注意]転生特典は不幸とトレードオフだった件 作:ラディスカル
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主人公が酷い目にあって765プロのみんなを曇らせていきます。
今回は千早編の導入です。
可憐は歌が好きだった。どんなジャンルの曲も好き嫌いせず勉強し、スコアに書き起こし、歌って、弾いた。家族と毎週カラオケに行ったし、14歳で事故で両足と右腕を失っても左手だけでギターを弾いた。人差し指から中指までの3本で弦を抑えて、薬指で弾くのだ。必然的にコードを使わないリードプレイになるし、和音は2音が限界だった。幸い、現代にはイーチューブなんて便利なものもあり、「片腕だけどOO弾いてみた」シリーズは平均30万再生で登録者も10万人を超えていて、小遣いには不自由しなかった。ただ、事故で腎臓を2つとも失い、父から移植された腎臓もすぐに悪くなったため、大学卒業目前でこの世とお別れすることになった。
ここは病院から舗装されていない小道を挟んだ手入れのされていない神社…というかほこらである。
「あそこには輪廻転生の神様がいるのよ。」
と、同室のおばあちゃんに教えてもらったのだ。教えてもらったその晩はいつも以上にいびきがうるさかったおばあちゃん。朝気がつくと静かになっていて…
「おばあちゃん、今日は起きるのが遅いのね?お昼にはお母さんに頼んで例のほこらにいってみるよ。来世は五体満足の美少女にしてって頼むんだ。ね?いい考えでしょ。」
「・・・」
「おばあちゃんも
「・・・」
「おばあちゃん?」
私はベッドの横の鏡のない化粧台みたいな机から、猫のぬいぐるみを取り、おばあちゃんのお腹の上に放り投げた。
「・・・」
「おばあちゃん?」
「・・・」
私はナースコールのボタンを押して、それから・・・
それからはよく覚えていない。慌ただしくしている看護師や医師を脇目に窓から空を見上げ・・・入道雲のシルエットに同室のおばあちゃんの影を見た気がした。
「次は私の番・・・か」
看護師たちも慣れたもので、ストレッチャーで連れて行かれたおばあちゃんは帰ってくることもなく、すぐに静かになった。
一眠りしてお昼になった。見舞いに来たお母さんに車椅子を押してもらって祠までくる。
わたしは賽銭箱に私が歌った動画や耳コピしたスコアの詰まったSDカード。西芝の1TBのSDカードを放り込んだ。この思い出は来世に持っていきたい。その一心だった。
財布から500円玉を取って投げると、手を合わせて念じた。
「・・・」
「何を祈ったの?
「来世では五体満足で、高身長のナイスバディな美少女で、・・・五体満足で、自分の足で歩けて、五体満足で走って、笑って、学校行って、・・・・いっぱい、いっぱいお願いしたの。」
「ごめんね可憐ちゃん。わたしが死ねばよかったのに。」
「違うよ、お母さん。あのときお母さんを突き飛ばしたことを、お母さんを庇ったことを誇りに思ってる。だから胸を張って!私は自分の命でお母さんとの残りの5年を買ったの。それほど素敵なお母さんなんだよ。それだけ娘に愛されたの。そんな顔が見たくてこんなことをしたんじゃないの。」
「でも、可憐ちゃんが死んじゃうんだもの。」
「ねえ、お母さん。・・・聞いて?」
「うん。」
「最後の言葉は決めているの。」
『お母さんだーいすき』
最後の言葉とかカッコつけていたけど、そんなすぐには死ななくて・・・
3日後の夜。就寝前にお迎えはやってきた。
「あれ?看護師さん?電気消さないで・・・」
「え?電気ついてるよ?・・・可憐ちゃん?」
パタパタと看護師さんが走り寄ってきた音が遠くに聞こえる。
鳩尾から胸の奥に冷たい何かが上がってきて、血管を這い回るような激痛が走った。自転車のペダルに脛を打ち付けた時くらい痛い・・・足を切断した時よりマシだなぁ、なんて考えていると、心地よい睡魔に襲われて・・・
「お前は最後の信者じゃ。」
目の前に現れたのは後光を模したトゲトゲの装具をつけた着物美人で・・・
「お前を閻魔のところには行かせんよ。さあ、望みを言え。お前の徳と釣り合う分の来世を約束しよう。」
ああ、彼女はあの祠の神様なんだ。
「来世は五体満足がいいです。」
「先天的な障害がないことは約束できる。だが、生まれた後は補償できぬ。どれだけの代償を払っても不可能じゃ。」
「じゃあ、長身美人で、声の綺麗な女性に生まれたいです。」
「うむ。容易いことじゃ。」
「それで現代日本で、日本一のアイドルになりたいです。」
「ううむ、生まれた後のことは補償できぬのじゃが、最も可能性の高い生まれにすることは可能じゃ、ただし・・・」
「ただし?」
「お前は若くして死んだからな。罪も小さいが功も少ない。総合的に徳が不足している。」
「どんな代償を払っても構いません。だから、最も日本一のアイドルになりやすい生まれにしてください。」
「うむ、承った。行ってくるが良い。」
次に自我に目覚めたのは・・・転生してから4つになった頃だった。
「どんぐりころころどんぐりこ〜」
マイク型のラムネ菓子の容器を片手に歌うのは如月千早ちゃん。私の今のご近所さん。
「どんぶりこだよちはやちゃん」
そして絶世の美幼女はこの私、ご存じ!!
「どんぐりこ〜」
(だめだこりゃ。)
千早ちゃんは歌が大好きなのだ。大きくなったら歌手になるらしい。
「きゃーきゃっきゃっきゃ」
彼は千早ちゃんの弟優くん。私の真似をして千早ちゃんの歌に手拍子している。リズムは出鱈目だが千早ちゃんも優くんも、後ろで見守る千早ちゃんママも幸せそうだ。ああ、神様は願いを叶えてくれた。
おまけにお賽銭がわりに入れたSDカードの中身は全て完璧に思い出せる。なにやら書いた覚えのないtxtの記憶があり。中には『おまけじゃよ』の6文字が書いてあったと鮮明に記憶に浮かんだ。
それから私はピアノを習ったり、ギターを習ったり、作曲の勉強をしながら、前世で耳コピした曲をスコアに書き溜めたりしていた。この世界は前世とは若干ずれていて似たような楽曲はあっても前世と同じ曲は1つも見つからなかった。さすがにこれで金を稼ぐ気にはならないなあ。
「国歌まで違う。」
私たちは10歳になった。小学校に通いながら、放課後は千早と一緒の歌の教室に行き、週に3日ずつはお互いの家に泊まるくらいの仲になった。
その頃には神様との契約のことなんか忘れていて、この幸福の代償の重さを知るのはそれからすぐのことだった。
放課後、高学年になると集団下校もなくなって、千早と2人で手を繋いで帰る毎日。幸せな日常は突然終わりを告げた。
「マイク凹んじゃったから新しいの買いたい。」
千早の十・・・十何代目かのマイクを買いに駄菓子屋へ寄り道した私たち。東京都の西の方は駅から離れると畑も多い。通学路から外れて人気のない道を歩いていた私たちは、まだ明るい夏の夕方、何一つ警戒することなく、徐行するミニバンを立ち止まって見送った。一段低くなっている畑に落ちないように路側帯の車道側に立っていたため車は本当にギリギリのところを老人が歩くような速度で通り・・・過ぎなかった。
後部座席のドアが開くと男が前を歩いていた千早の頭に土嚢袋のような固い袋をかぶせたのだ。
「きゃあ!」
私は千早ちゃんの腕を咄嗟に掴み、畑に引き倒すように引っ張った。自分ごと畑に落ちるつもりだったのだが、男は千早ちゃんにかぶせた土嚢袋を離さなかった。
土嚢袋が首に引っかかり、私と男で千早ちゃんを綱引きする形になった。千早ちゃんは黒板に爪を立てた音をさらに3倍おぞましくしたような悲鳴をあげる。
「っぎいい!」
(このままじゃ千早ちゃんが連れてかれる!)
私は男の頭に猿のように飛びかかった。千早ちゃんを足蹴にして畑に蹴り込むのも忘れない。驚いた男は千早ちゃんを離したらしく、ドサリと畑に落ちる音が後ろから聞こえた。私はそのまま男と一緒に車の中に倒れ込んみ、逃げる間も無く車は発進してしまった。
すぐに車を飛び降りようとした私は、髪の毛を掴んだ男に車内に引き倒された。
「クソガキが!」
車は2人乗りで後部座席が無いタイプだった。私は荷台に放り投げられ、男が馬乗りになってきた。
(思い出した。これが神様の言っていた代償ってことね。)
額がくっつく距離でXシネマに出てきそうな強面おじさんに凄まれる。
「泣き喚いたらどうなるかわかってるな?」
前世で片手両足を失っても腐らなかった私、死の恐怖を乗り越え安らかに眠った私でも心の底から震え上がった。これはベクトルの違う恐怖だ。涙で強面おじさんの顔が歪む。負けてたまるか。
死んでたまるか!
「わ、えぐっ、わたし、えぐっ、ゆうことききます。なんでも、えぐっ、ひっく、なんでもします。ころさないでください。」
私が選んだのは・・・男に恭順することだった。
大丈夫・・・絶対に助けは来る!
東京都とはいっても西の方は農村みたいなものである。チヨは農家の嫁に来て42年。夏の日差しに参ってきた夕方、ひと段落したところで木陰のに積んだ古タイヤに腰掛けていた。何とは無しに、左方の路地を見ていると2人の女児が歩いてきた。よく見かける女児だった。赤が基本なのにお揃いの青いランドセルを背負っていたし、いつも手を繋いで歌を歌いながら歩いていたかわいい女の子。仲の良い姉妹かしら、とチヨは考える。畑の隅で取れるプラムをプレゼントしたこともある近所の子供だった。たしか・・チハヤちゃんとカレンちゃん。たしかに可憐な女の子だった。そんなふうに孫を見るような気持ちで眺めていると、通りすがったミニバンの後部ドアから男がおそいかかった。咄嗟に手近にあったナタを手に取って、駆け寄ろうとするチヨ。62になるチヨが火事場の馬鹿力で走ってもたかがしれていた。前を歩いていた女の子が袋をかぶせられたが、背の高い方の女の子が男と格闘するも、チヨが追いつくことなく連れ去られてしまった。
チヨは畑に落ちてしまった女の子に駆け寄り、肩をゆする。
「・・・」
返事がないことに焦るも土嚢袋を取ってやると、胸が上下して息をしていることを確認した。そこからはチヨもよく覚えていない。娘に持たされていたカンタンフォンなるケータイ電話で110番し、パニックになりながらあーだこーだと問答しているうちに救急車とパトカーがゾロゾロとやってきた。
警察署で事情聴取、といっても応接室のような明るい部屋で質問するのは婦警さんだった。チヨがパニックになるたびにお茶を進めたり、菓子をすすめたり、あるいは背中をさすったりしながら状況を根掘り葉掘り聞いてきた。やがて見たこと全てを3度は語り尽くした頃、可憐の両親がやってきた。机を挟んでチヨと婦警の対面に警察官2人にサンドイッチされる形で可憐の両親は座った。婦警と年配の警察官が事件の概要を説明し、チヨに同意を促せばそれに返事をするという形で、認識に齟齬があればたどたどしくチヨが訂正していった。父親の方は静かに聞いていたが、母親の方はさめざめと泣いていた。千早の危機に可憐が立ち向かったくだりになって、母親の嗚咽は限界に達した。婦警と共に退室する母親を見送ると話は再開された。白くて大きな車、ナンバーはわからないこと、千早の怪我が軽いこと、犯人は180cmくらい・・・淡々と告げられる事実をチヨはただ首肯した。
最後に父親がチヨに礼をいったタイミングで、チヨの良心の呵責は限界に達し、泣き喚きながら助けられなかったこと、ナンバーがわからないこと、ありとあらゆる『もしも』を謝罪した。気が付いたら、婦警に連れられオフィスの隅、自販機横のベンチでココアを持たされ背中をさすられていた。
夜もふけきった頃、夫が警察署に迎えにきたチヨは夫と2、3言会話すると疲れ切ってどろのように眠った。
後味悪くかけたら嬉しいです。