[胸糞注意]転生特典は不幸とトレードオフだった件 作:ラディスカル
千早曇らせその2です。
千早のSAN値が削れていきます。
如月優は1年生だ。物心ついて2〜3年の彼には誇りがあった。
優には色気が分からない。だが、可憐という女が自分のものだと6歳にして理解していた。それには誰にも内緒の根拠があった。
「ねえ、カレンねーちゃん。」
「なに?」
「おおきくなったらけっこんしよー」
保育園を卒業して、『お兄さん』になったと自覚した彼は、姉の友人に告白した。「ちょっとテレビリモコン取って」と頼むくらいの気やすさであった。
羞恥というものがよく分からない年齢の優にとってみても大胆な告白だった。しかし、6歳にとっても、結婚は『男女が死ぬまで一緒にいる』くらいの意味は理解できた。
その覚悟もあったのだ。
3月になっても微妙に肌寒いので、
優は特に期待はしていなかった。保育園で同級生に求婚してもどの女の子も恥ずかしがってキャーキャー言った後、『大人になったらね』と誰もが決まり文句を言った。将来を近いあったその女の子は次の日には優の告白を忘れて他の男の子とオママゴトで夫婦を演じていたりする。そうして悟ったのだ。
(やっぱりコイツらじゃねえな)
だから、優は期待しない。ボケに対する決まり文句のツッコミのように、「大人になったらね」と可憐が返すのと思っていたくらいだった。
可憐をチラリと見やると、目をパチクリと瞬かせて・・・ニッと歯を見せて笑った。優の心臓がドキリと高鳴った。生まれて初めて、とてつもなく恥ずかしいことを言ってしまった気がした。
優は羞恥を知った。
「いいよ!」
可憐はニヤニヤと悪戯した子供のような笑みを浮かべて、優の顔を覗き込む。
千早は干し柿をモグモグしながら拍手している。何がそんなに嬉しいのか、優には分からなかった。ただ、姉に見られるのが恥ずかしかった。
「お、おう」
目を合わせることが出来なくなった優は、顔を真っ赤にして俯いた。
「じゃあ、キスしよっか?」
可憐は弟分の可愛い告白に軽いトランス状態に入っていた。だからこそ、ついうっかり一線を超えて
「いやだよ!きたねーもん!」
優は色気を理解できる年齢ではなかった。
「けっこんするんだもん!ちかいのキスでしょ!」
かわいい親戚の子に意地悪するくらいの気持ちで可憐は優にキスを迫った。
興奮しすぎた千早はコタツの減りを膝で蹴り上げて涙目で悶絶している。
姉の助けを望めない状況に軽く絶望する優。
取っ組み合いになった優と可憐。最終的に優のオデコにキスした可憐は満足して、優を解放した。
オデコをゴシゴシと拭いながらも、この誓いのキスは優にとって最大の誇りになった。結婚する男女はキスをするものだ。それだけは幼い優にも理解できた。
優には色気が分からない。ただ、可憐という女が自分のものだということ。それだけは理解していた。
小1の夏のあの日までは。
千早にとって可憐は自身の半身のようなものだった。1日おきに互いの家に泊まって、必ず一緒にお風呂に入り、一緒のベッドで眠る。
習い事も一緒だし。クラスは離されたけれど、休み時間は一緒にいた。
その日も一緒に下校していた。
何でもない1日のはずだった。
急に袋をかぶせられ、視界が暗転すると首を強く圧迫された。
意識がなくなるその瞬間まで可憐と繋いだ手は離さなかった。
気がつくと病院で両親に抱きしめられた。
「可憐ちゃんは?」
何となく可憐に助けられたのは分かっていた。意識を失う瞬間に遠いところで可憐が誰かと争う声が聞こえたから。
「可憐ちゃんは大丈夫よ。別室に入院してるわ」
嘘だと分かった。母は目を合わせない。キッと母親を睨みつける。
父は母の肩に手を当て、
「隠せないよ。本当のことを教えよう。」
「可憐ちゃんは連れ去られてしまった。千早のために戦って、それで…代わりに連れていかれたのよ。」
ああ、やっぱり…可憐はもういないんだ…
どこにも…いないんだ。
可憐のことをクラスメイトたちに聞かれるのが嫌だった千早と優は学校に通わず、日中は千早の母と可憐の母、2人に引率されていく街々でビラを配り聞き込みをしていた。
ビラを配り始めて3日目、どこから聞きつけたのか千早たちの前にカメラを持った男たちが取り囲んだ。マスメディアだ。
「君、睦月可憐ちゃんと一緒に襲われた子だよね?千早ちゃんだっけ?」
「そうですけど」
「子供にカメラを向けないで!」
母親たちがマスコミたちと揉めてるうちに、大人から引き離されてしまった千早と優。母親たちとのほんの5mが果てしない距離に感じた。
「どうかな?お友達が攫われてどんな気持ち?自分は攫われなくてよかったよね?」
「そんなこと思ってません!」
優を背後に庇いながらカメラマンとリポーターに威嚇する千早。
「へぇ、でもさ。攫われたら死んじゃうかもしれないんだよ。お友達じゃなくて、千早ちゃんが死んじゃったかもしれないよ。それは嫌でしょ?」
「そんなことない!私が!私が死ねば良かったんだ!可憐じゃなくて!私が死ぬはずだったんだ!」
千早はカメラに掴みかかるようにして腹の底から叫んだ。
「でも、助かったんだから嬉しいでしょう?」
キッとレポーターを睨みつける千早。
「お前もおんなじだ!お前みたいなのが可憐を連れてったんだ!人の気持ちが分からないから!だから可憐ちゃんを見せ物にできるんだ!」
「おいカメラ止めろ」
カメラマンの後ろからそんな声が聞こえる。千早は怒りに任せてギャーギャーと喚くが、テレビマン達は退散していった。
この場面はテレビ夕日の昼のニュースとして放送され、この横暴なリポーターとテレビ局には抗議が殺到した。
夕方以降からとその後の連日のニュース番組では、友達を攫われた幼女が『自分が死ねばよかった』と慟哭する場面だけが切り抜かれ繰り返して放送された。
このニュースは世間の注目と同情を大きく買うことになった。
事件から1週間が経った頃に一通の封筒が如月家に届いた。同じ封筒は
千早の母が封筒を開ける。茶封筒は結構な重量があり、過剰な切手が雑に貼り付けてあった。
何度も見た娘の友達…
睦月可憐の筆跡だと直感した。
「なに…これ?」
封筒の中身は20枚ほどの写真だった。
ムシれた畳の上で一枚ずつ服を脱がされていく可憐。
顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
振りかぶった拳に怯えて、顔を庇うように腕でガードする写真もある。
可憐は風俗嬢が着るようなスケスケのネグリジェに上からファーのついたコートを羽織らされ、雑に口紅を塗られていた。
グラビアアイドルがとるような卑猥なポーズを取らされる可憐の写真が何枚か・・・
可憐が男に組み伏せられるところまで見て、背後の気配に気がついた。
千早が後ろに立っていた。
ダイニングのテーブルに座っていた千早母、当然130cmしかない千早の目線でも写真を見ることができた。
「可憐ちゃん!」
千早は母親から写真を強奪するとトイレに駆け込み鍵をかけた。母親が叫びながらドンドンと戸を叩いている。
可憐は男に乱暴されながら、目を腫らした顔でカメラ越しに笑いかけている。それは千早や家族へ向けたメッセージに思えた。
「早く見つけてあげなきゃ」
トイレのドアは外からでもコインで回せるタイプで、千早が写真を見終わって決意を固める頃にはこじ開けられた。何事かと父と弟が遠巻きに見る中、千早は母親に怒鳴られた。
「こんなもの見ちゃダメでしょ!こんな
千早は決意の宿った鋭い目で母親を射すくめる。その意志の強い眼差しに母親はたじろいだ。
「可憐ちゃんは、私なの!本当は私がこうなるはずだったんだよ!だから見なきゃ!可憐ちゃんが何をされたか全部知ってなきゃ!」
涙がとめどなく流れる中、千早は叫ぶ!
「でも、こんなの千早には知ってほしくない!汚れてほしくないの!」
母親は千早からこの世の地獄の煮詰まった写真を・・・娘が辿るかも知れなかった悍ましいIFの世界を遠ざけたかった。
「見ただけで汚れるですって!?取り消してよ!謝って!私が汚れるんだったら、可憐ちゃんはどうなるの!?可憐ちゃんはこんな目に遭っても、私たちに笑いかけてくれてるんだよ!心配しないでって!」
突きつけられた可憐の写真に
「う、でも」
父親は優を連れて玄関から屋外へと出ていった。小1には早すぎる話だからだ。
「可憐ちゃんは綺麗だよ!かっこよくって、男の子にも女の子にもモテモテだし!私の大事なお友達なの!」
千早母は、娘が遠くへ行ってしまったように感じた。まるで映画の登場人物だ。娘からは夫ですら持っていないような気高く、強い意志を感じる。
「あの日、あの瞬間誰が助けてくれた?お母さんも、お父さんも、警察も!法律も!テレビの人たちも!後から来て偉そうに!助けてくれたのは可憐ちゃんなんだよ!可憐ちゃんが1番凄いんだ!1番綺麗なんだ!だから、可憐ちゃんを最後まで見ないと!可憐ちゃんがされたこと、1つたりとも見逃さない!全部忘れてやるもんか!犯人を見つけて、私がこの手で!もっと酷い目に遭わせてやる!」
千早母は悟った。娘が壊れてしまったことを。娘はもう自分の物では無く、歪んではいるものの自分の足で立ち、自分で道を歩んで行くのだと。
千早はもう子供ではない…と。
世界は、世間はこの娘たちに子供であることを許さないのだと。
「分かったわ。千早。ごめんなさい。その通りよ。闘ってるのは私たち大人じゃなかった。貴女と、可憐ちゃんだったのね。もう子供じゃないんだね。」
「私も可憐ちゃんも子供だよ。だから次はお母さんが助けて!何をしてでも可憐ちゃんを見つけて!」
「ええ、一緒に探しましょう。」
その夜、優を寝床に追いやってから、父と母、そして娘の千早、3人で写真を見た。
何か可憐からのメッセージは隠されてないか、近しい自分達だけにわかることがあるんじゃないかと議論をした。警察に渡す前にコピーを用意し、気づいたことは何でも紙にまとめた。
写真は
議論には可憐の良心も加わった。翌日も翌々日も、可憐の両親と千早の両親、そして千早の5人で写真を机の真ん中に置き、それを挟んで議論する。
千早は可憐とのありとあらゆる秘密を話した。2人して可憐の母の化粧品を勝手に使ってることから、低学年の男の子にもカブトムシやクワガタを50円で売ってること。(採取するのは優の仕事である)
優と婚約していること。可憐は食事で出る人参は食べたふりして近所の畑の隅に埋めてること…。
可憐に初潮が来てないことを確認してみんなで安堵したり、千早のおばあちゃんの2万円する口紅を鉛筆削りにかけたことに千早母が怒ったり。千早の語る可憐の小さな武勇伝に大人達の心は温まり、それは同時に犯人への憎悪へと変わっていった。
可憐の暴行の写真。その話になると可憐の父は10分おきにトイレに吐きに行くし、間に合わず如月家の廊下を汚したこともあった。
それを女3人で
この集会は千早の演説で終わるのが暗黙のルールになっていった。
「可憐ちゃんは今も闘ってる!私たちがどんな小さなことでも可憐ちゃんのメッセージに気づいて見つけてあげるんだ!私たちが可憐ちゃんを助けるんだ。絶対に!私の命を使ってでも!」
10歳の女児にこうまで言わせて奮起しない大人はここにはいなかった。
千早の宣誓に呼応するように目で合図し合う両家族。
可憐の父だけはバケツに顔を突っ込んでいるが、ともかくここで5人は団結を強めた。
1週間が経ち、またポストに封筒が投函された。
可憐の表情に涙の跡はなく、裸同然の格好は変わらないが、ゲームで遊んでいる写真。お酒の缶に囲まれて顔を真っ赤にしている写真。男2人に組み伏せられている写真も有れば、男に跨っている写真もあった。
それを見てバケツに頭を突っ込む可憐の父。
可憐の写真に共通していたのは、その表情だ。可憐はいつも家族や千早、そして優へと向けるのと同じ、花のような笑顔を浮かべていた。いや、いつも以上ににこやかで幸せそうな表情だ。どの写真も男達に媚びている。
可憐の父はそれから写真を見ることができなくなった。
「・・・」
千早の父も、元より無口な性質だったが、より一層喋らなくなった。
「殺されることは無さそう」
怒りと悔しさで頭がどうにかなりそうなのを我慢して、前向きに前向きに考える千早。
「こんな可憐ちゃん見たくない。もう嫌だ。助けてよ。助けて…」
嗚咽混じりに可憐の母が助けを請う。
「助けて欲しいのは可憐ちゃんなんだよ。」
千早は可憐の母を冷たく突き放す。
(私が可憐ちゃんを助けてあげるんだ!)
一部の写真。特に男の首から下が写ってるものは犯人につながる資料としてマスコミに公開された。
10歳の女児が暴行され続けているという残虐性。
何より、両親や助かったもう1人の被害者宅に写真を送りつける異常性に日本中が或いは激怒し、或いは恐怖した。
特に子供を持つ家庭の衝撃は凄まじく、全国の小学校は全学年一斉下校になり、中学でも班編成をした集団下校になる地域も出た。
毎週、届けられる写真。暴行は激しくなっていき、中には千早が堪らず嘔吐するものもあった。しかし、可憐の待遇は暴行の激しさに反比例して向上しているのか、服はアブノーマルであるものの上等なものに変わったし、化粧も綺麗になっていった。日本人にしては鼻筋の通った彫刻のような顔、人形よりも美しいとすら千早は思っている。そんな可憐が、コンビニに陳列されたちょっとエッチな雑誌の表紙の女の子よりも妖艶に微笑んでいた。
ゲームでもなんでも欲しいものは与えられているのか、背景に映る部屋には物が増えていった。その雑多な背景の中に、千早がいつも買っていたマイクのラムネを見つけて、千早の涙腺は決壊した。
「可憐ちゃんは私を待っているんだ。」
写真という物証がありながら捜査は難航し、1週間が経ち、2週間が経ち、1月が経った頃。
写真が届く4日前に行方不明になっていた少女。桐菜ちゃん12歳が
物言わぬ姿になって写っていた。
子供らしい白いワンピースを下腹の辺りから血に染めた桐菜ちゃん。
青白いマネキンのような顔色をする桐菜を抱きすくめた可憐が、カメラに向かってピースサインをしていた。
可憐の顔に
笑顔はもう無かった。
さて、次回は可憐ちゃん視点で書きましょうか。
犯人からのアンケート。「桐奈ちゃんを死なせたのは誰?」*注意一番回答の少なかったものが選ばれます。凶悪犯ですから。
-
可憐ちゃん
-
Xシネマに出そうな強面おじさん
-
運転手のおじさん