鏡境ヘリックス   作:夢現図書館

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プロローグ・黒

 

 

——日常って、何時迄も続くと思ったか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄闇に染まる自分の部屋。カーテンの隙間から差し込む日光の光。そして静寂に包まれた部屋にて唐突に鳴り響く目覚まし時計のアラーム。布団から腕を伸ばしてアラームを止め、のそのそと布団から這い出る。

 

「……午前7時半、か」

 

 アラームを止めた時計を見てそう愚痴る。昨日は随分と夜更かししてしまった気がする。眠気覚ましに洗面所で顔を洗いその鏡に映る自分自身の顔を見る。華奢な童顔とも言える中性的でツリ目な顔立ち、整って居ると言えば整って居る。コレで性別が女ならば、外面的には違和感が無かった事だろう……無論、そう言う方面に興味なぞ無いのだが。

 

「……生まれ持った顔に文句を言うのはお門違いだな」

 

「何、鏡見て変な事を言ってんのよ。アンタは」

 

 姿見である鏡に映る人間は2人、自分ともう1人。彼の背後には黒髪に眼鏡を掛けた少女が立っていた。

 

「杏……何で居るのさ」

 

「私が居ちゃ悪い? 文理」

 

 杏と呼ばれた学生服の少女はこの家の合鍵が付いた束を指で回しながらそう答える。文理……崩空 文理。それがこの家(と言うよりもアパートの306号室)に住む少年の名前であった。

 

「……アンタの両親。何時も仕事で家を開けがちでアンタは半ば一人暮らし状態。不安だって良く言われてるじゃない」

 

「……杏しか言ってねぇぞ、それ」

 

 文理の両親は共働き、と言うか職場が一緒。職場で出会い其の儘、結婚して文理を産んだ。その職場に関しての詳細は知らない。と言うか文理が中学生頃から殆ど帰って来ない放任状態が続いている。顔なんてもう覚えていないレベルであった。親不孝者と言われたらそれまでな気もする。

 

「時間、遅れるわよ。さっさと着替えて来て頂戴。2人揃って遅刻なんて嫌よ」

 

「……いや、普通其処は先に行くか適当な場所で待っとけよ」

 

——何処の世界に家にまで上がり込む幼馴染が居るんだ。

 

 文理は彼女、王生 杏とは幼馴染の間柄であった。合鍵を持っている事から完全に『勝手に家に上がって良い』とまで公認されているレベル。着替えて用意を進める最中、気付けば風呂を使われた形跡があった……どうやら朝風呂まで使われたらしい。

 

「……勝手知ったるか。もう慣れたけどよ……アイツ、変な所でズボラなんだよな」

 

——放ったらかしにするのは止めてくれない?洗濯すんの俺なんだけど?

 

 『干すのは私よ』と言う声が聞こえたが気の所為だと信じたい。いいや、本当に信じたい。半ば呆れ気味のまま、文理は後の事は後に回す事にして、家を出た。

 

「……先に行かなかったのかよ?」

 

「最後まで付き合うわよ。悪い?」

 

 アパートの階段を降りた先の駐車場近くの電灯の下、其処で杏は鞄を手に持ち背中には棒状の袋を背負って待っていた。そして、其の儘2人で通学路を歩いて行く。その間、特に何か話したりする事は無かった。

 

「じゃあ、また放課後」

 

「ああ」

 

 お互いのクラスは別々であり廊下で分かれて教室に入る。

 

「聞いた?今日、転校生が来るんだって?しかもこのクラスに」

 

「聞いた聞いた、名前は……結構難しい読みだったよね?」

 

「いや、このクラスにも難しい読み方の人、居るじゃん」

 

「そうだけど、転校生も初見だと充分読めないよ?」

 

——朝の教室には先に登校して来た生徒達の他愛の無い談話が耳に入ってくる。何て事のない日常、幼馴染が割と俺の家に入り浸りだったりする事もまた俺の中では日常だった。転校生と言う存在も日常のワンシーンに過ぎないだろう。

 

 でも——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、私の名前は京 六夜。と言います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——『運命』なんて言葉。こんな他愛の無い日常には必要ないモノだと、思っていた。でも、彼女の……銀色の髪の少女の目は、それを否定している様にも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

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