鏡境ヘリックス   作:夢現図書館

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変わる視界

 

 

 

 

「そんなアホな光景、ある訳無いよな」

 

 翌日。自分の部屋で起き抜けにそんな言葉が思わず溢れた。何故、そんな言葉が出て来たのかは分からないが何となくそんな言葉が思わず出てしまった。

 昨日の出来事が未だに夢だったんじゃ無いのかと未だに思っている自分が居る。鏡の向こう側の世界やら奇怪な姿をした存在やら、人間が武器の姿に変貌するなど全て引っ括めて全部、妄想の夢の産物なのだろう。現実としてあり得ない筈だ。理論や論理や必要肯定の全てが無視されて科学的にも有り得ない。

 

——京 六夜……。真面目に何者なんだ?

 

「呼んだ?」

 

 その時、抑揚が薄い声が聞こえた。少なくとも良く朝には来ている杏の声では無い。

 

「ッ⁉︎」

 

 思わず跳ね起きた矢先に視界に映ったのは銀の色。眼前に自分に跨る様に座って居るのは京 六夜本人であった。学校の制服では無く見た事も無い制服らしき服をその身に纏っていた。

 

「……起きた?」

 

 六夜は小首を傾げながら灰色の双眸で文理を見つめて居た。少なくとも彼女に自分の家の所在地を教えた覚えは無い。となれば考えられる事は一つ。

 

「……明晰夢の類か。眼前に京が居る筈がない」

 

 目を擦りつつ睫毛を引っ張って見る。何も起こらない、いや起こって堪るか。

 

「何、してるの?」

 

 その様子を見て六夜は不思議そうな目で見ている。それでも認めたくない、コレは夢だと。現実では自分は昏睡状態の方が何倍も現実的な理論だ。

 

「夢なら寝るに限る」

 

「寝ないで、現実だから」

 

 二度寝に移行しようとした時、六夜に腕を取られて否定論を否定される。

 

「いやだって君に俺の家を教えた覚えとか無いんだが……」

 

「大丈夫、調べれば分かる事だから。住民票とか、学校に登録されている名簿とか」

 

 六夜はそう言い明らかにアブノーマルな調べ方をした事を明かした。思えば昨日、別れる時……彼女は校門の方角へ歩かなかった。恐らくではあるが職員室の方で住所等の情報を漁ったのだろう。

 

「あのな……そう言うのを世間では犯罪行為と言うんだが」

 

——ダメだコイツ。天然を通り越して非常識の方向へ片足を突っ込んでいる……。並のストーカーの方がまだマシな調べ方をするぞ。

 

 その事実を察した文理は彼女の未来が少し心配になった。少なくとも武器に変身する彼女が人間社会に馴染めるのかの疑問も浮かぶ。最初は良いかも知れないが時間が経過すれば自ずと悲劇が待って居そうな気がする……。

 

「ああもう、分かった分かった。認めたくないがコレは現実だと理解するよ……。それで、何故……此処に居るんだ?」

 

「昨日、説明は明日以降にして欲しい、と言っていたから……」

 

 言った。確かに言った。いやでも、こんな光景は流石にどうかと思うのだが……。

 

「……確かに言ったが時と場所を考えたか?と言うか今、何時だ?」

 

——午前……5時じゃないか⁉︎ こんな朝っぱらから如何考えればこんな状況になるんだ。

 

「うん、考えた。そうしたら、夕方からだと遅いと考えた」

 

「如何言う意味だ、それは」

 

「ん。私の口から説明するより、説明し易い人の方が、適任……だから」

 

 六夜は自分が説明するよりも説明するに適任の者から説明した方が早いと考えた様だ。現時点での彼女の為人を見れば自分で説明するのは得意では無い様だ。

 

「成程……ってまさかと思うが今からその人物の所に行くとか言うのか?」

 

「ん。大丈夫、根回しはしてあるから。流石に丸一日、開けるのはどうかと思ったみたい」

 

「根回しって何だ、根回しって……」

 

 少なくとも個人で動いては居るが何かしらの組織が関与していると考えては居た。如何やらその線は当たっている様である。

 

「それよりも明日以降とは確かに言ったが随分、急な話だな……」

 

——見た所、既に本人はその気みたいだしな。はぁ、仕方ないな。

 

 此処で言い争いをしても仕方ない。自分で言った手前、折れる事にした。恐らく彼女の天然行動に今後も振り回される気がしなくも無いが……。

 

「はぁ、分かった分かった。着替えて用意すっから……降りてくれ」

 

 跨っている彼女に降りる様に促して文理は起き上がる。随分と急な展開ではあるがもう仕方ないと割り切る事にした。既に踏み込まれている以上、何を言っても仕方ない事だった。

 

「出来た?」

 

「ま、特に用意するもんなんて無いからな。それで、何処に行こうってつもりなんだ」

 

「……私()が所属している組織。特異現象研究対策機関AUTEUR。通称、オトゥール」

 

 マンションから出た先には黒いリムジンと呼べる車が玄関口の前で横付けにされる形で停車していた。その光景には流石に面食らった。

 

——……おいおい、マジかよ。リムジンなんて生で初めて見たぞ……⁉︎ と言うか黒服グラサンなんて服装の組み合わせも実際に存在していたのかよ⁉︎

 

 その光景に文理は唖然としていたが六夜は特に気にする事も無く歩き出す。黒服の男性は無言でリムジンの扉を静かに開ける。

 

「……乗って、簡単な事は移動しながら説明するから……」

 

「ああ、分かった」

 

 

 

 

 

 

 

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