「失礼します」
「……失礼します」
六夜の後に続く様に文理も司令室に入る。その先に広がっていた光景はと言うと。
「ぬわぁぁぁぁ⁉︎ 150連爆死だァァァァァァァ‼︎ この世の終わりだァァァァァァァァ‼︎‼︎」
灰色の絨毯に木目調の壁。その奥にあるは大型のモニター。その前で頭を抱えて絶叫する男性の姿が見えた。
「「…………」」
——……何つーか、居た堪れない気分になるな。俺、ゲームの類しねぇからその気持ちはイマイチ分からんけど。
内容は分からないが恐らくソシャゲの類の闇に翻弄されている大の大人の姿を見て文理は目を逸らした。
「長官……。只今、戻りました」
相変わらず抑揚の無い声で六夜はそう告げると絶叫している男性の動きが止まり頭だけ振り向いた。
「あ、あれぇ? 六夜ちゃん、もう帰って来たの?」
「……今日、連絡を入れました」
「あ、書類処理に忙殺されちゃっていたからまだメールの類は見ていないや。いやー、ごめんごめん」
その男性は六夜の姿を認めてテレビの電源を消して佇まいを正すが既に酷い光景を目の当たりにしたので威厳もへったくれも無かった。
長い髪を後ろで纏め眼鏡を掛けたインテリかホスト見たいな外見の長身の男性だ。何というか先程の光景もあってか余計に残念そうに見える。
「さて……ふむふむ。へぇ〜……」
——また空間にウィンドウみたいなのが出て来た……この機関だけ技術が先行している気がするな。
その男性は手元に空間投影された半透明のウィンドウらしきモノを見ている。その内容を興味深そうに見ながら目を細める。数分程で見終えたのかウィンドウが掻き消えた。
「今、六夜ちゃんの報告書を読んだけど……君、中々興味深いね。初日で鏡面世界に迷い込んでスティグマである六夜ちゃんを振り回すなんて……中々、思い切りが良いね。うん、実に面白よ」
「……あの時は相当必死だったんですがね。訳分からんままに展開を進められちゃヤケクソになる」
「はっはっはっ‼︎ 土壇場で振り翳す蛮勇もまた勇気の一種さ。と言うか普通、死に掛けていたのにどうして中々……こうも肝が据わって居るのも珍しいだろう。さてと、前置きはこの程度にして……。初めまして崩空 文理君。私がこの特異現象対策機関AUTEURの長官。通称オトゥール……この機関を代表して君を歓迎しよう」
「此処に来るまで検問の類は見ただろうから察しは付くと思うけど、この機関は超秘密組織だ。政府からの資金提供を受け鏡面世界に纏わる調査を行っている。無論、我々の機関関係者や鏡面世界やその世界に棲まう超常的生命体、ボイドの存在は公にはされず極秘扱いとなっている」
「……だろうな。事情があるから明かさないんだろ」
「まぁ、第一にパニックになると言うのが理由の1つかな。それに人間と言うのは自分と違う存在を認めはしない。その中で共存は非常に難しいだろう。君は隣人が兵器に変貌する光景を見てどんな感情を思い浮かべる?」
「……確かに、人間から見れば恐怖するのが容易に想像出来る」
そう問われて文理はその理由を聞いて納得する。銃火器を持っているだけで忌避されるのは当たり前だ。それが常識の埒外ならば尚更だ。
「……言い方は悪いけれど表裏一体はお互い認知しない方が良い。余程、切羽詰まる様な事態では無い限り、ね」
——その言い方だと今は然程、緊急を有する状況では無いと言う事か。
「さて、前置きはこの程度にして……君は何処まで六夜ちゃんから聞いているんだい?」
「殆ど上面くらいだ」
「成程、基礎的な内容だね。まぁ、いきなり事細かに説明されても理解が追いつかないだろうね」
「昨日の時点でパンク気味だったっての。まぁ、聞きたい事がある。何故、俺なんだ?『フィアンセ』絡みの表現は兎も角、何故……俺がスティグマとやらを扱える? その基準は何なんだ?」
「……」
文理が1番に気になった内容。それは何故、自分がスティグマを扱えるのかと言う事。
「……成程、其処から来るか。いやいや、いきなり切り込んで来るものだ。うん、確かに気にしても仕方ないだろう。逆に疑問も無く受け入れる様な能無しでは無くて何よりだよ。其方の方が極めて危険だからね」
「臆病さが無ければ……早死するからな」
恐らく長官の言葉は本心だろう。その理由も察してはいたので罵倒染みた言葉は否定しなかった。
「正直に言えば基準は分からない。そもそもスティグマ自体、研究途上と言って良いんだ。それに鏡面世界やボイドの存在も何故、発生したのかも明確な結論が出ていない。調査過程の真っ只中さ。六夜ちゃん達が武装に変身出来ると言う事も正直な話、どう言う基準なのかさえも定かでは無いんだ。無論、その番となる君の様な存在も明確な基準は不明だ。
「……そもそも自然発生する様な事なのか?」
「今の所、双方ともに先天性である事が判明している。でも、血筋には関係性は見られない。皆、バラバラだからね。ただ」
「ただ?」
「……殆どの場合、スティグマの娘達は孤児なんだ。戸籍を与えようにも基準とか他にもある理由で満たせない為に与える事が出来ないんだ。その辺はややこしいから省かせて貰うよ」
「…………」
「その言い方だと俺以外にもスティグマを扱える奴が居るんだな?」
——……出来て真新しいと言う訳では無さそうだしな。成程、研究過程と言う訳か……。
「察しが良いね。でも、スティグマに比べると明らかに人数が少ないのが現状だ。10年くらい前は4、5人居たけれど、此処最近は君を含めてたったの2人しか居ない。正直に言ってワーカーホリックにならざるを得ない」
「おい……」
「……スティグマの能力もそうだけど鏡面世界が確認された同時期にその存在が確認されたのは事実。言い方は悪くなるかも知れないけれど……何かしら関係が有るのでは無いかと僕は考えているよ」