「……スティグマの能力もそうだけど鏡面世界が確認された同時期にその存在が確認されたのは事実。言い方は悪くなるかも知れないけれど……何かしら関係が有るのでは無いかと僕は考えているよ」
「…………」
長官は顎の前で手を組みそう答える。その理論には一理はあると言えるだろう。スティグマの観念は正直な所、自然発生するとは思えない。そして鏡面世界の存在もまた自然現象で起こるとは考え難い。ともあれ、双方の観念は関連して居ると考えるのが妥当。
「さてと、個人的には六夜ちゃんが『フィアンセ』だっけかな? パートナーたる存在を見つけて来るって言って飛び出して僅か1週間で見つけ出した事に関しては結構驚いたよ。本音を言えば半年以上は掛かると思っていたし、見つからないとも考えていた」
「取り敢えずその表現は誤解を招くんで勘弁して欲しいんですがね……」
「ハッハッハ‼︎ 別に良いじゃないか、その方が面白そうだし」
——面白がるんじゃねぇよ、この野郎‼︎
内心、長官に毒吐く。素直にその表現方法は誤解しか招かないので勘弁して欲しかった。
「歓談はまた別の機会にして真面目な話に移ろう。君の立場、についてだ」
長官は先程までの良い加減な雰囲気から一転。その若さから離れた冷徹な態度を持って文理に射抜く様な視線を向ける。
「……立場、ああ、やっぱそうなるか」
「うん。状況はどうあれど、君はスティグマを扱う事が出来る存在……。我々から見ればスティグマもそうだけど、その使い手の確保は急務とも言えるんだ。武装はあっても使える者が居なければ話にならない。また逆も然り……」
武器を用意出来ても使い熟す事が出来なければ無用の長物。双方揃って真価が果たされる。
「……それに先も言った通り、君を除けば1人しか居ないし……今は落ち着いて居るがこの状況が続く保証も無い。
崩空 文理君、君の力が必要だ。故に君を我々オトゥールに迎え入れたい、如何だろうか?」
長官はそう言い右手を差し出して握手する事をを促す。だが、文理はその手を取らずに口を開く。
「……疑問がある」
「答えられる内容ならば答えよう。何かな?」
「何故、判断を俺に委ねる? 言い方は悪くなるが超法規的な秘密組織。その内情を片鱗と言えど知った以上、脅迫なりして協力を取り付けるか……一層の事、口封じに消すかの2択の筈だ。口約束や誓約書の類も怪しい限りだろうよ? 今時、情報の拡散力は計り知れないからな」
機密組織であり該当事項は全て機密情報。一切の情報漏洩は許されない。何せ非現実的な概念故にその全ては公にされる事は無い。万が一の場合……物理的な排除も視野に入るだろう。
「ハッハッハ。言ってくれるね。確かにその2択を突き付ける事も視野に入る事だろうね。寧ろ、其方が常套手段だろう」
文理の指摘に長官は肯定の意を返す。
「……だがその場合、君はどう言う反応を返すのけ予想出来ない訳ではない」
「?」
「無理強いで強引なやり方で事態が好転する事が確証を得られるのであれば目を瞑るべき犠牲なのかも知れない。少なくとも上層の連中はそう考えるだろうが、僕はそんなやり方は採択したくは無い。
彼らは危機的状態に立ち向かって居ると主張するけど現場の者達の事は数字上でしか見えていないさ。現実問題、鏡面世界での活動は君達だけが頼りだ。それなのに危険な事を無理強いしてやらせて傍観するだけの者達の為に戦えるのか?と言う疑問がある」
その言葉に文理は口角が吊り上がる。何だコイツはと言う印象が持てた。
「……長官。アンタ、結構貧乏籤を引くタイプじゃ無いですかい? 少なくともそんな台詞を言う立場じゃないでしょう?」
少なくとも長官の立場ともなれば『人類の為』だの『民衆の為』だの、大義名分を掲げて発破を掛けて差し向ける行為をするべきだ。
そもそもその対象が高々、10年程度にしか生きていない少年少女だ。特異な力を得ての救世主願望が膨らみやすい多感な時期。煽動させるのも容易い。
「ハッハッ……確かにそうかも知れない。で、仮にその様な言葉を君に投げた時、君はどう返した?」
「『巫山戯るな、馬鹿野郎』。って言うだろう。何処ぞの魔法少女のラノベじゃあるまいし」
「第一印象から君はそう言うだろうと思っていたよ」
文理の返答に長官は予想通りだと言わん顔でそう告げた。寧ろ、殆どの人が困惑して回避性の返答を返す事だろう。文理の様に真正面から拒否する者も当然現れる。
——スティグマは孤児が多い、とは言っていたが……語弊があるな。確証は持てないが、戸籍云々も怪しい所だな。
文理は堂々と拒否権を行使。無くても拒否する。と言うのも第一理由として信用出来ないのが挙げられる。鏡面世界関連は事実としてもその関係者の
「だからこそ、君の自己判断に委ねる事にしたのだよ。事後承諾と言うのは問題の先送りで関係を大きく拗らせる。我々は宗教団体でも無ければブラック企業なんかじゃない」
「…………」
政府も絡んだ状況。国家権力が絡んだ問題ならば話のスケールは個人でどうこう出来る問題を超越している。常套手段では無くあくまで決定権を此方に委ねるあたり、その辺はこの長官の独断なのだろう。
「……そうだね。いきなりこんな事を言われて即答出来る筈も無い。こうしよう‼︎」
「……?」
長官は手を叩いて文理と六夜を一瞥する。
「六夜ちゃん。文理君を連れてこのオトゥール本部を案内してやってくれないかい?」
「はぁ⁉︎」
その言葉に文理はいよいよ、この目の前の長官の言葉に理解が出来なくなった。それは諸刃の剣を通り越したリスク
オトゥールは機密組織。即ちその存在全てが秘匿され公にはされない事を意味する。そんな状況で
「……正気とは思えない」
「君の目で直に見て判断して欲しいんだ。そしてその最終判断は君だけがするべきであって他の人間が決める事じゃない。君の人生を大きく左右する分岐点となる決断となる。本音を言えば受けて欲しいのだけどね。でも結局は自分の意思で決めて欲しい。
本当はね、こう言う超常的な問題も全部プロの軍人等で何とか対処出来て然るべきなんだ。なのに何の為の自衛隊だの警察かってね……。でも、現状は君達の様な若い子に頼る他に道がない。情けない話だよ。ああ、後半は泣き落としじゃなくて僕の本心だよ」
「…………」
長官はこの施設を見て周りそして判断を下して欲しいとの事。どの様な決断であれ後の事は如何にかするとの事で話が終わった。