鏡境ヘリックス   作:夢現図書館

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佩く者

 

 

 

 オトゥール本部に到着するなり、六夜の案内でトレーニングフロアへと案内される。

 

「トレーニングフロアはトレーニングルームのほぼ真下に位置しているの」

 

——名称がややこしいと考えるのは俺だけなんだろーか。まぁ、言っても仕方ないか。

 

 そんな説明を受ける傍ら曲がり角を曲がろうとしたその矢先に、死角になっていた曲がり角の陰から小さい少女が唐突に飛び出して来た。

 

「ッ⁉︎」

 

 その少女も一瞬、遅れて気付いたらしく立ち止まろうとしたが止まり切れず文理の背中に激突した。幸い衝撃は大した事は無かったが、反動で少女は後方に転んで尻餅を付いていた。

 

「悪い、気付かなかった。大丈夫か?」

 

「あ、は、はい。大丈夫、です」

 

 尻餅を付いた少女は、六夜て同じく銀髪の髪色。小柄な体格同年代とは言い難く年下と思われる。気弱そうな雰囲気で庇護欲を掻き立てそうな少女だ。……断じて自分はロリコンでは無い。

 

「……赫黎さん。そんなに急いで、何処に行こうとしていたの?」

 

「え、えっと。長官さんが、トレーニングフロアに集まる様にと通達が来てまして……」

 

 六夜が手を伸ばしながら尋ねるとその少女は立ち上がりながらそう答えた。トレーニングフロア。それは自分達の目的地でもあった。

 

「なら一緒に行けば良いんじゃないか?」

 

「私達が行かないと始まらないから大丈夫だと思う」

 

 因みにその少女は五六 赫黎と名乗った。自分達もそうだが、如何して知り合う相手は誰も彼も難しい名前なのだろうか……。

 

 トレーニングフロアは白いマス目状の床が仄かに発光しそれ以外は何も無いシンプルな構造だ。昨日見たトレーニングルームと違い此方は恐らく実技訓練が行われる場所なのだろう。

 

「やぁ、待っていたよ。文理君、六夜ちゃん」

 

 そのトレーニングフロアにて、長官が飄々とした笑みを浮かべながら待っていた。トレーニングフロアの壁際にはスティグマの少女達が見学のつもりなのか集まっているのが見える。赫黎も其方へと移動して隅の方で見ていた。

 

「眼前で見るつもりなのか?」

 

「いやいや、大の大人が画面越しで踏ん反り返ってて君達は良い気分かい?」

 

——見た目は軽薄そうなのに結構、現場主義なのかも知れない。

 

「いや、失言だった」

 

「おや、謙虚だね。それもまぁ兎も角……早速、始めて貰おうじゃないか」

 

 その言葉の後に規定の位置に着いて欲しいと言われる。改めて人前で展開するとなるとそれなりに緊張が走る。

 

「始めてくれたまえ」

 

 視界の正面の壁際に寄った長官の声が聞こえる。その言葉の後に文理は六夜の手を握った直後、その姿は一瞬にして針が纏う長槍へと変貌を遂げた。毎回、あの様な台詞を言わなくても良いと言うのは有り難かった。

 

『ん』

 

 壁際から感嘆の声が聞こえてくる。彼女達もその様子を見た事が無かったのかも知れない。

 

「いやぁ、本当に久しぶりに適合者がスティグマを扱う姿を見たよ。折角だし、的を用意するから破壊している姿を見せてくれないかね?」

 

 長官はそう言うや否や、文理の周囲に光の粒子が集結し、柱状の標的が出現する。

 

『武器を振るう姿が見たいって』

 

 脳裏に六夜の声が聞こえる。

 

「あいよ」

 

 即座に槍で周囲に展開された柱を薙ぎ払って破壊すると、直ぐに次の的が展開され、少し距離があった為に半ば流れる形で砲撃し、反動で後方へとバク転の要領で跳躍し振り向き様に薙ぎ払って後方に立っていた柱を破壊した。

 

「其処まで‼︎ いやぁ、軽く見せて貰ったけど2回目とは思えない流れる様な動きだったよ」

 

 長官は軽く拍手しながら近付いて来る。終わりだと判断した為に六夜は人間の姿に戻り文理の近くに降り立った。

 

「普通はあそこまでキレのある動きは出来ないと思うよ。槍術や剣術までならまだしも、砲撃の反動を計算に入れるとね」

 

「……んー、気付いたら身体が動いていたって所だ」

 

——自分でも此処まで動けるのは不思議でならない。どう説明したら良いのか分からないのが本音だ。

 

「ほほう。それはまた興味深い事だね……」

 

——やべ、何か変な期待を持たせちまったかも知れない……。

 

「……そうだね。1つ、期待しても良いかな?」

 

「ん? 今度は何だ?」

 

「『適合者』1人につき、スティグマは1人しか扱えない。それが定説だった。その理由は2人以上のスティグマを使える適合者が現れなかったからだ。

 当然だ、元々適合者の絶対数が少ないから検証しようが無い。……もしかしたら、君なら可能かも知れないと思ってね」

 

「言うのは簡単だが、相性があるんだろ? 他にも人間性の相性もあるだろ。早々に上手く行くとは思えないぞ……」

 

「君の言う事も一理ある。これは『もしかしたら?』の話だ。現状は不可能と見做される話だから仮に出来なくても気落ちしなくて良い」

 

 でも、と長官は一拍を入れてから口調を改めて告げた。

 

「……数少ない『適合者』。私が見て、知って、聞いた中で君は特異だと思って居る。試しにやってみてくれないかな?」

 

 やるだけなら問題無い。分からないままよりもやってから言うのも遅くは無いだろう。

 

「……まぁ、やれと言われたらやるしか無いだろうな。でも、六夜以外に知って居る人なんて居ないんだが……?」

 

——つー事は人前であんな小っ恥ずかしい台詞を言わなきゃいけねぇって意味かよ⁉︎ 其方の方が精神的にクルんですが⁉︎ 後、ついでに隣の六夜が何とも言えない視線が突き刺さって後が怖い……‼︎

 

「そうかな? 丁度、此処に来る前に1人顔を合わせたみたいじゃないか。赫黎ちゃん、ちょっと此方に来なさい」

 

「ひゃ、ひゃいっ⁉︎」

 

 名前を呼ばれた赫黎はビクッと肩を振るわせた後、恐る恐ると言った形で部屋の中央に近付いて来る。

 

「それじゃあ、私達は一旦、離れよう。タイミングは任せるから心の準備が出来たら始めてくれ」

 

 そう言うや否や、長官は六夜を連れて距離を取った。

 

——いや、この流れでこの状況に放り出すとか案外、鬼畜だよな⁉︎ 長官‼︎

 

 上がりつつあった長官への評価が急降下し始める瞬間だった。明らかにこの空気を如何にかしてくれと言いたくなった。

 

「ふ、不束者ですが……よ、宜しく、お願い、しま、す……‼︎」

 

 赫黎は突然、呼び出された所為か注目が浴びる中は苦手なのかガッチガチに緊張して瞳もフルフルと震えていて小柄な体躯もあって小動物感が強調されている。更に初対面の時は見逃していたが、小柄な割には胸が豊満、すわ殺気⁉︎

 

——つーか、また誤解を呼びそうな言葉が⁉︎ 素直にパートナーかバディとか言う表現は無かったのか⁉︎

 京もそうだけどさ……。本当に誰だよ、そう言う婚前みたいな表現を吹聴している奴‼︎

 

 大方、予想は出来そうだが口には言わない。盛大なカウンターを貰いそうだ。兎も角、やると言った以上、この状態で継続するしかなかった。

 

「え、えーとだな……。無理なら、無理って言ってくれて良いからな……?」

 

「い、いえ……‼︎ 身寄りの無い、私を拾ってくれた長官の為……。スティグマとしての役目は、果たさなきゃ、いけません、から……‼︎」

 

——うわぁ、覚悟決まっちゃっている。

 

 本人がそう言う心構えなら此方も応えるしか無い。その覚悟は無碍には出来ない。向こうも覚悟を決めて居る以上、此方が気落ちしては失礼だ。

 

「分かった」

 

「で、では……貴方に伝える言葉を」

 

「復唱すれば良いんだろう?」

 

——……内容は違うのかも知れないな。

 

 彼女の小柄な体躯故、文理とは身長差がある為、少し屈む。赫黎はとてとてと一歩二歩踏み出し、耳打ちする程の距離にまで近付いてその言葉を伝えた。

 

「わ、私の言葉の後に、続いて、ください」

 

 一歩、後退した赫黎はそう告げる。先程の泣きそうな緊張したような顔色のままだが、芯のある様子が窺い知れた。

 

「私は霜刃。貴方の剣尖。そして、貴方は私の鞘。番う鞘と刃は心技一体也」

 

 六夜と同じく赫黎の双眸が赤く染まった。

 

 

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