鏡境ヘリックス   作:夢現図書館

19 / 26
刃達は、発光す

 

 

「わ、私の言葉の後に、続いて、ください」

 

 一歩、後退した赫黎はそう告げる。先程の泣きそうな緊張したような顔色のままだが、芯のある様子が窺い知れた。

 

「私は霜刃。貴方の剣尖。そして、貴方は私の鞘。番う鞘と刃は心技一体也」

 

 六夜と同じく赫黎の双眸が赤く染まった。

 

「其は双刃。番う鞘は1つに有らず、連理の契りは遍く雷花の如く‼︎」

 

 そして彼女に教えて貰った言葉を告げると同時に、眩い閃光が煌めいたかと思えば両手に質感を覚える。

 

「……ッ‼︎」

 

「……成功、した。やはり、彼は特別なのかも知れないな」

 

 両手に握られていたのは反りが非常に浅い一対の日本刀。拵は機械式で峰には銃身が備わっているのが分かる。見た目の構造から恐らく散弾銃系統のようである。その弾道を阻害しない為にも内反りに近い形状になっているようだ。

 

『え、えと……どうなっているのですか……?』

 

 当初の理論上では検証例が無く不可能だと思われていた。しかし、現実として実現していた。

 

「あ、ああ……一対の日本刀の姿だ」

 

 頭に響き渡るのは赫黎の声。本人としても変身したのは初めてなのか、少し困惑している様である。

 

——……スティグマによって武器の種類が違うのは予想出来ていたが、やはり近接武器+射撃武器のキメラかも知れない。

 

 遠近両用の構造武装。見た目は異質な合体武器と言われれば使いこなすのに両方の技術が求められる。しかし、人為的に造られた場合『どんな思考で造ったんだコレ⁉︎』と言えるのだが、先天性での変身能力だと反応に困る。

 

「赫黎ちゃん。もう充分だから、元の姿に戻りなさい」

 

『あ、はいっ』

 

 長官が前に出て来てそう告げる。すると、双刃が光の粒子と化して集結し赫黎の姿を再構成されて、床に降り立った。

 

「ふむ。……試しに言って見るモノだね。文理君、身体の具合は如何かな? 2人以上、適合出来たケースは初めてだ。以前も言ったようにスティグマや適合者にはまだまだ未解明の部分が多いからね……」

 

「いや、特に何も無いかな……。えーと、五六も身体に違和感とか無いか?」

 

「あ、はいっ。だ、大丈夫ですっ」

 

 赫黎自身にも特に問題が発生した訳では無さそうである。

 

「ふむ。理論上、2人以上のスティグマが扱えるとなると……戦略の幅が増えるだろう。六夜ちゃんは如何しても大柄な武器だからね。槍は貫く形状だけど、叩いたり斬ったりと言うのは不得手だからね」

 

「成程……」

 

「……もしかしたら六夜ちゃんや赫黎ちゃん以外にも、それこそこのオトゥールに所属しているスティグマ達、全員と適合出来ちゃったりするんじゃないかな?」

 

「……側から見ればトンデモないスケコマシ野郎に見えると思うんだが」

 

「ハッハッハっ、良いじゃないか。男の夢だよ、ハーレムって言うのは」

 

 多数の女子に囲まれていると言うのは確かにモテない野郎から見れば羨ましい限りだろう。それが容姿端麗ならば尚更と言える。

 

「そう言う問題じゃねぇだろ……」

 

「……言い方は悪くなるけど、スティグマの娘達も君も『普通の世界の住人』じゃないんだ。

 確かに現実の世界では常識と言うモノは履行されるべきであり尊重して然るべきなんだ。

 でも、その常識に囚われ過ぎだと此方の世界では少し危ない」

 

「………………」

 

 その言葉に反論出来る材料が無い。相手は此方の視点では非常識の塊……。

 

「まぁ、この事実は共有するとしよう。それから、今回の件はまだ君はオトゥールに来たばかり……まだ他の娘達も君の事を知らないから、紹介を兼ねていたんだよ。論よりも実際に見た方が早いだろう?」

 

「色々、纏めてやったって事か……」

 

「そう言う事だネ。じゃあ、今回の件はコレにて終了だ、解散しようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、今日は何かと精神的に疲れる日だな」

 

——この後、如何しようか。六夜を始めとしたスティグマ達は本部付属の寮棟で暮らしているらしい。一旦、帰ったんだろうな。

 

 トレーニングフロアを後にした文理。この後は特にやる事が無い。……オトゥールを案内して貰ったが特別、今現在何かをする訳では無いのだが。

 

「おい、ちょっと良いか?」

 

「……ん?」

 

 背後から声が聞こえて振り向くと其処には1人の同年代の少女が居た。半色の髪で眼鏡を掛けており、白衣を羽織っている。

 言うまでもなく彼女もスティグマの1人だろう。……白衣を羽織っている理由は知らない。

 

「先程のアレ。見させて貰った。実に悦ばしい晴天の霹靂だった……。私はお前の様な奴を待っていた……‼︎」

 

「あの、何方様?」

 

「……此処で話すのも不粋だ。少し、付き合って貰うぞ」

 

「暇していたから、まぁ良いけどよ」

 

——随分と個性的な喋り方するなぁ。

 

 キツい口調は杏で慣れていた為に彼女の口調もすんなり受け入れる事が出来た。

 

「そうか、助かる。では、ついて来い」

 

 唐突に声を掛けてきた少女の後に続き案内されたのは円形の部屋。やはり見た事の無く流線型の機械が幾つかあり、空間投影されたウィンドウが展開されているのが分かる。

 

「では、改めて自己紹介しよう。私は二 黎芽。我々が直面している鏡面世界やスティグマ、適合者と言った超常現象を研究している。無論、私もスティグマの1人だ」

 

「鏡面世界の研究……? マッドサイエンティスト?」

 

「科学者=キチガイと言う方程式はナンセンスだ。元々、常人には理解出来ないからこそ、ズレた感性が求められるモノだ。……兎も角、先の光景は実に興味深い、私の研究も捗ると言うモノだ」

 

 目付きが悪い上に悪どい笑みに見えてしまう。……スティグマと言うのはイロモノが多いのだろうか?

 

「やっぱ、2人以上に適合出来た例が無いからか?」

 

「無論、それもある。が、それ以前に適合者自体少な過ぎるから、実証も検証の機会が皆無だった」

 

「あれ、以前にも1人は適合者が居たんじゃねぇの?」

 

「……ああ、奴の事か。……本音を言えば役に立たんから記憶する必要が無い。そもそも陰キャと呼ばれる奴で適合者でありながらスティグマの誰とも波長が合わなかった。故に知るだけ時間の無駄だ」

 

「普通に考えて鏡面世界で化け物相手取れる奴は希少だろ」

 

 そう言う意味で前任(と言うのは語弊があるのだが)の適合者には同情する。

 

「その点、お前は実に理想的な存在だ。それに加えて、理論上不可能と言われた2人以上のスティグマと適合を実現して見せるとは……。ああ、この興奮は抑えきれん」

 

——とてもそうには見えない。コレが彼女の気質なのかも知れない。

 

「オトゥールに蓄積されたデータよりも、お前から得られるデータは何倍も有益だ。

 それにスティグマの研究には私自身のデータも必要不可欠。スティグマとして武装に変身しても担い手が居なければ無意味。

 以前の奴はとても使えん輩であった。だが、お前は全く気質の違うスティグマと適合して見せた……期待せずには居られん‼︎」

 

——スティグマの研究をして居るのは分かるが、具体的に何するのか分からんが……。

 

「長官殿はお前なら複数人のスティグマと適合出来るのでは無いか?と発言していた……現に、2人は出来ている……不可能とは言えまい」

 

「……だが、やはりいきなり出来るモノなのか? 六夜と五六の場合は唐突だった気がするし……やぶれかぶれで偶然出来たと言う線も無くは無いんじゃないのか?」

 

——六夜は『肉体的なスキンシップ』……いや、コレは絶対に違うと思うが。

 

「ふむ。……確かにお前の疑問は最もだろう。適合者とスティグマの相性が関係している点は知っているな?」

 

「ああ、スティグマが変身する武装の扱い方を理解出来るかの相性。それから人間関係的な相性」

 

 日本刀や槍を扱うにしても技術が必要。だからこそ流派が生まれた。

 

「……基本的にその2点の相性が合致しなければ扱えないとされている。……後者の場合は俗に言う信頼、信用だな。

 過去にも2、3人のスティグマに信頼、信用された適合者がいたが、結局1人のスティグマしか扱えなかった」

 

「……1つ気になった質問があるが良いか?」

 

「ああ、構わん。何だ?」

 

「適合者無しに変身したらどうなる?」

 

「如何もこうも、数秒も持たん。変身したその姿を写真に収めるのも一苦労だ。仮に収めても変身する際の光が強く全容がハッキリと確認出来ない」

 

——そうなると先に武装に変身して誰かが振るう……と言う訳にも行かないと言う事か。

 

「話を戻す。私が考えるに、スティグマが適合者に伝える『詠唱』が必要なプロセスだ。先の適合者と3人のスティグマも、1人だけ『詠唱』を伝える事が出来たが、他の2人は『詠唱』が思い浮かばなかった」

 

「……伝える事が出来た?」

 

「幾ら信用や信頼を寄せても『詠唱』が分からなければ意味が無い。最も、側から見ればプロポーズに近い印象だ。長官は面白がってフィアンセとか言う表現を使っているがな。

 面白い事にその言葉はスティグマ本人には唐突にその内容が思い浮かぶとの事だ」

 

「その場で思い浮かぶ、ねぇ……」

 

「何かしら、まだ知らない条件があるのかも知れん。単純に相性と言う問題だけでは無いかも知れん。コレばかりは本人に聞くしかあるまい」

 

「これ以上、状況をややこしくされると面倒なんだがなぁ」

 

「その点に関しては、同感だ。そう言う訳だ。私は鏡面世界もそうだが、スティグマの解明に尽力している。だか」

 

「……俺は何故、適合者になっていたのか、それを知りたい。故に俺は長官の誘いに乗った」

 

 文理は黎芽の言葉を遮ってそう告げた。自分がオトゥールに加入した理由である。

 

「……ほう、如何やらお前とは気が合いそうだ。私も何故、スティグマとして産まれたのか、それを知りたいと言う感情が行動の原点だ」

 

「……鏡面世界の先とかに行けば答えはあるだろうか?」

 

「……確固たる結論はまだ無い。だが、鏡面世界の調査の果てに解明出来る可能性はあるだろう。何だ、実に行動的な理由ではないか……‼︎ 気に入ったぞ……。今この瞬間に、思い浮かんでくれても構わんのだぞ? 私の頭脳よ‼︎」

 

「物欲で浮かぶモノなのかね、そう言うの」

 

——恐ぇよ。色んな意味で。

 

「……ゴホン。今日は実に有意義な一日となりそうだ。定期的に私の研究に付き合って貰うぞ?」

 

「時間があったらな」

 

——何つーか、変な奴に絡まれる日だなぁ。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。