翌日。何時も通り六夜に対する告白祭からの玉砕して死屍累々が積み重なる光景を目の当たりにして放課後。学校から少し離れた場所に待機していた機関所有の送迎車に乗り込む。
「で、長官殿。当日なのだから行先くらい教えて貰っても?」
後部座席に座るや否や、2人の眼前に小型の空間投影ウィンドウが表示された。
『その街から少し離れた位置にある水族館だ』
「水族館、ね……。近くにある水族館と言えば数年前に行方不明事件があったな」
—— 確か不可解な行方不明事件で騒がれていた記憶がある。
『ああ、水族館内で行方不明……。我々オトゥールはその水族館内に鏡面世界の入口が発生していると見ているんだ』
「デートに託けて、入口の調査って訳か」
昨日、六夜と話したがやはり予想通り、デートを名目にした調査と言う訳である。
『簡単に言ってしまえばその通りだよ。鏡面世界の入口は鏡だけとは限らない……。そして我々、オトゥールは世間には伏せられた秘密組織。関係者意外には知られちゃマズいからね。だから表立って調査は出来ないんだ』
超機密組織は伊達では無い。そう言う意味では動き難い組織とも言える。権力にも種類がある。
「その癖、ボイドには俺達しか相手取れない。調査するまでは良いが……万が一、鏡面世界に引き摺り込まれたら生存は絶望的だろう」
未知の世界で生死を掛けた鬼ごっこ。それは心臓に悪い光景だ。
『察しが良くて助かる。その通りだよ。だから『あるのでは無いか?』と言う疑念はあっても適合者も居ない状態じゃ迂闊に手は出せなかったんだ。君が現れて漸く鏡面世界の調査が再開出来ると言う訳だ』
「…………それで、どう動けば良い?」
『取り敢えず民間人から見ても恋人同士である事を装って水族館内を見て回って入口を突き止めて欲しいんだ。
君達は適合者とスティグマ……普通の人間と鏡面世界の入口の見え方は違う、君達が違和感を感じた場所に入口がある筈だ』
「違和感、ねぇ……」
——学校のトイレの鏡に写り込んだボイドとか、か?
「突入はしないんですか?」
『前回はある意味。突発的な事故だった。突入するにしても準備してからの方が良い。
発見してすぐに何の準備も無く鏡面世界に突撃しろだなんて私とて言わないよ』
——六夜さんや、君、結構脳筋なんだね。
発見=突撃と言う脳筋みたいな事を言い出す六夜に文理は内心呆れた。
『デートも兼任しているんだから楽しんで来なさい』
「デートか調査か、何方が大事なんだ……」
『何方も重要さ。じゃあ、後は2人に任せて報告を待っているよ』
そう言い残してウィンドウは消滅した。兎も角、水族館を回りながら入口を探す事になった。長官曰く違和感が鍵の様である。
「あ、文理。そろそろ到着するみたい……」
六夜の声に引かれて窓の方を見てみると件の水族館が見えてきた。数年前に不可解な行方不明事件が起きた場所……。鏡面世界に迷い込んだと仮定するならば、生存率は絶望的と言える。
「取り敢えずぶらりと回って見るか。俺達にしか分からない違和感ってのが引っ掛かるが……見落とさないようにしないとな」
「ん」
送迎車から降りて水族館の入場口へと向かい、入場料を払って中へと入る。平日の夕方だからか人は疎ら(行方不明事件が起きたのも理由かも知れない)であった。
「んっ」
入場口を抜けた直後、六夜は腕を伸ばして文理の腕を絡めて密着してきた。デートと言う名目とは言え、かなり密着して来た。
「あのー……六夜サン?」
「デートだもん。ならそれっぽく」
仮にもデートと言う名目があるので、否定し辛いので振り解くと言う手段は潰えたので、此の儘にしておく事にした。
「……文理、何処から回る?」
入口があるらしい。とは言うが見当はまだ付かない。
「そうだな。取り敢えず、先ずはこの水族館の目玉を見に行くか」
——……その後に行方不明事件が起きた場所を探るか。その原因となった場所は伏せられていたからな。
学生の男女と言う組み合わせの為にそれっぽく振る舞えば何も問題ない。との事で、最初にこの水族館が推している生き物の水槽へ向かう事にした。
「……水中トンネルの形式みたい」
通路は大型の水槽の下にありくり抜いて通路を形成する形になっている。つまり、天井も壁も水槽のガラスであり下から見上げる形で鑑賞出来る構図の様である。
「普通なら通路の横に水槽を置いて壁で仕切る形式が一般的だな」
天井の先の水槽には多種多様の魚が泳いでいるのが見える。壁際から見える水槽の底には岩砂利が敷かれ蛸や鱓と言った生物が見えた。
海の自然の光景を演出しているのだろう。巨大水槽を抜けた先は熱帯魚や小型の生物の水槽の区画だった。
「文理、チンアナゴが居る……‼︎」
小さい水槽にはチンアナゴが多数、砂利の中から顔を出していた。その様子を六夜は無表情ながらも食い気味に見ている。
——…………意外、と考えるのは失礼か。
学校では彼女は基本的に無表情であり、淡々としていて周りから見れば深窓の令嬢やクールな印象を与える。
そして、関わってまだ日が浅いと言う事もあり文理も六夜の事は殆ど知らない。
「文理、あっちにクマノミがいる……‼︎」
更に興味は熱帯魚の方へと移り、組んだ腕を引っ張られる。彼女も案外、可愛いモノが好きなのかも知れないと考える文理であった。