「で……事の経緯を教えて貰いたい」
時間も遅いとの事で杏を家に帰らせた(本人は大変不服そうであったが、流石に向こうの両親に対して申し訳が立たない)後、文理は突然、家に押し掛けて来たターリアに対して質問を投げ付ける。此処にはオトゥールの関係者しか居ない為、部外者を気にする必要は無い。
「簡単に言い切ってしまえばオトゥールの連絡要員」
ターリアは簡潔に経緯を説明する。
現在、文理と六夜はオトゥールの管轄外の公立校に在籍している。彼女には連絡を入れるのは可能なのだが、文理に関してはその連絡手段が無かった。
「だったら、普通に連絡先を交換した方が早かったんじゃねぇのか?」
「通信関連で探知される恐れがあるのよ。何から何まで警戒をして情報漏洩を未然に防ぎたいの。私達が使っている通信機器も完璧と言い切れない。だから、非効率的であっても人伝にしているのよ。幸い、今のオトゥールは適合者がアンタしか居ない以上、必然的に暇人が多い状況だしね」
「……流石、超機密組織。守秘的に徹底しているんだな」
——こりゃますます、杏には言えないな……。
「そしてアンタも警戒心が強いでしょ? まだ見知っていない奴が現れても信用しない。だったら、一目でもアンタが見た事のある奴を遣す方がまだ良いでしょう?」
「……成程。しかし、家事代行って肩書って……良くそんなんで押し通せたな」
「それは長官の用意した設定よ」
——他に無かったのだろうか? ……いや、俺も思い付かないな。
「……で、その、わざわざメイド服なのは?」
「コレは私の趣味だけど? 家事と言えばメイドの仕事でしょう? 何処にも不審点は見当たらないじゃない」
ターリアは無い胸を張って堂々と言い切った。いや、言い切られても……。
——六夜も大概だけどスティグマって変わった奴しか居ないのか……? いや、境遇が特殊だから思考も奇異な方向に向くのだろうか……。
「……オトゥール内とかなら通るかも知れねぇけど、此処は庶民のマンションで家にメイド服を着た女子を置いている家庭は皆無だし、かなり目立つんだよ」
「……世知辛い世の中ね。他にはオトゥールの制服しか持って居ないわ」
——それ、私服なのかよ。まぁ、あの長官だから面白がって認めたって可能性もあるな。
あの長官は国家機関としては独断的な所がある。その方針には理解は出来るし好感は持てるので、文句を挟む余地は生まれていない、今は。
「そう言う訳で、今日から宜しく。えーと、アンタの事はやっぱりメイドらしく『ご主人様』って呼んだ方が良いかしら?」
ターリアは腰に手を当てて如何考えても揶揄っている風にそんな呼び方を提案して来た。
「絶対に止めてください。杏からの追及、物理的な攻撃を凌ぎ切れるか不安になってくるから」
ただでさえ六夜の件で、杏から軽蔑目線を向けられている上にターリアの件が加わればいよいよ、首が刎ねられかねない。
「一層の事、彼女も引き入れれば? 長官に相談すればスティグマじゃなくても通信部なら枠は割けれる筈よ」
ターリアも短い時間ながらも杏が文理に対して何かしら友達以上の関係だと察している。
更に六夜からもある程度、情報を受け取っている。幼馴染故にその追及により此方の事情がバレるのは時間の問題だと考えてもいる。
ならば一層の事、明かしてオトゥールの目が届く場所に置いておいた方が良いかも知れないと提案する。
「……初対面だから知らないと思うが、彼女は如何考えても後方で大人しくする性格じゃない。100%刀担いで前線に出て来るタイプだ。事情の認知の可否問わず……関わらせたくない」
生身でボイドに対抗するのは現状、不可能だ。
それに文理自身、杏を危険な場所に来て欲しくないと言うエゴがあった。
「そりゃ、人命的な意味でも避けたいわよね。ボイド相手に生身の人間じゃ敵わないし……」
「ああ……。時には六夜の行動でバレないかヒヤヒヤさせられる」
「あー、六夜はある意味、天然だし……。そりゃ困ったわね」
今はバレては居ないが『何か隠してる』と思われているのは確実だ。決定的な所がバレたらもう隠し通すのは無理だ。
「出来るなら、此の儘……隠したい所なんだよなぁ」
そう考えるとターリアの介入はオトゥールとしても悪手だったと言えた。
「……だとするなら私が此処に来たのは確実に悪手だったって訳……?」
「言い難いが、そうなるかな。六夜だけなら何とか誤魔化しは効いたんだが……。倭文も加わって来ると、どうなるか分からない」
「……ぐ、な、なっちゃったモノは仕方ないわ。何とか押し通すしか無いわね」
ターリア自身に悪い所は無い。
ただ、タイミングや状況が悪かっただけだ。
「一応、俺の両親の伝で来たって言う設定なんだろ? 今更、騙った事に関しては文句言わないからそれで押し通そう」
「ええ……。分かったわ」
起こってしまった事は変えられない。