杏から六夜の件で怪しまれていると言うのにターリア(メイド服姿と言うオマケ付き)と言う自走式地雷がやって来て更に精神的かつ胃が痛くなって来た文理。
流石に彼女は公立の学校にまでは出しゃばっては来ない。来たら来たで色んな意味で終了しそうだ。……学校生活と言う社会的にも杏と言う存在により物理的にも。
「付き合って下さい‼︎」
「ごめんなさい」
「ぐわぁぁぁぁぁ‼︎ 何故だァァァァァァァ‼︎‼︎」
——まーたやってるわ、あの馬鹿共。良い加減に学習したらどうなんだ……。
もはや恒例となりつつある六夜に対しての告白祭。最初は1文字しか言わせて貰えなかった経験からか何とか簡潔に言い切るもそれでも轟沈報告が立て続けに飛び交っている。学習する箇所を間違えているとしか思えない。
「何故だ……何がいけなかったと言うんだ……‼︎」
——告白祭が横行していると言う事は、一応は俺と六夜とは付き合っていないと信じているのか或いは認知されていないからの何方か……まぁ何方でも結果は一緒か。
一応、六夜の天然な行動により、文理と六夜は何かしらの関係があると思われているのだが、文理は学校では六夜とは其処まで会話している事がほぼ無い為、『まだ其処までの関係』では無いと判断して告白を敢行する男子生徒諸君で溢れている。失敗してもめげない態度は立派なのだが、いかんせん口説い気もして来た。
——六夜も六夜で鉄面皮だな。ほぼ無表情で全部去なしてやがる。まぁ、本人にとっては無関係な奴と交流する気は無さそうだよな。
『オトゥール』に在籍している以上、守秘義務から関与たりえる存在では無い限りその口は固く閉ざされている。
その為、何の関係性も無い相手に対しては必要最低限程度の関係しか築かないようであった。逆に思いっきり関与する事となった文理に対しては干渉しまくっているのが実情と言えた。
「くっ、やはりあの帰宅部の野郎とデキているって言うのか⁉︎」
「……そう言えば以前の答えを聞いていなかったな? 一体、どう言う関係か聞きたい所だ」
「『挨拶』の内容を全部吐いて貰おうかぁ?」
そして案の定、殺意が此方に押し寄せて来た。半ば予想出来た展開と言える。
——さて、どうしたモノか。六夜の天然発言で色々な意味で拗れた噂が成立しているしなぁ。
「……文理。こっち」
説得云々が通じそうに無い中でこの馬鹿軍団を全員薙ぎ倒す事も視野に入れ始めていた矢先、六夜は席を立って文理の手を取って其の儘、教室の外へと連れ出した。
「あ゛ぁ゛ッ⁉︎ やっぱり『そう言う関係』かよ、テメェ⁉︎」
「こ、この天才が、あの凡愚に劣る、だと⁉︎ こ、コレは何かの間違いだ‼︎ 彼女の様な高嶺の花にはこの天才たる私に相応しいのに‼︎」
「ふ、ふふふ……馬鹿な。こんな事があって良いモノか……‼︎ ラノベや漫画ではモブF程度の存在が主人公に躍り出るなど断じてあってはならない‼︎」
後方から怨霊もかくやと言わん怨嗟が聞こえてくる。ヤベェ、接触したくないくらいの憎しみが伝わってくる。モテないのは自身の問題だろうに。
「……あの環境下で授業とか学校生活とか送りたくねぇな」
——ラノベだとなぁなぁで省かれているけど、現実だと批難囂々って奴だ。メッチャ居辛いな。
「文理、流石に
文理の手を取って廊下を小走りで走る六夜はそう言う。本人もあの環境で長居は出来ないと分かっていたらしい。
「それに、私達と、あの人達の世界は違う。隠さないといけないから、理解出来ない」
生きる世界が違う。
その世界に自分が入っている事を暗に言われている。それもそうだろう、もう自分は向こう側の住人となったのだから。
「…………」
「後の事は長官に任せよう。だから、
「は?」
六夜はそう言いながら校舎から飛び出して校庭を横切り校門から外へと飛び出した。当然、文理の手を取っている為に道連れだ。
「ちょ⁉︎ おい、何処に行くつもりなんだよ⁉︎」
——天然と言うか無茶な事してないか⁉︎ この後、何をするのか予想出来て来たんだけど⁉︎
校門を抜けると小走りから普通に走り始める。手を取られている為に文理もなし崩しに走る事となった。暫く直進した後、路地裏に隠れる形で見覚えのある黒塗りのリムジンが停車していた。
六夜と文理の姿が見えた事を見計らってリムジンの客室側の扉が開かれ、半ば飛び込む様な形で乗り込んだ。
「お願いします……‼︎」
六夜がそう言うや否や、リムジンは静かに学校から遠ざかるように走り出した。走り出したのを見計らってからふくよかなソファ席に腰を降ろした。
「……あのー、六夜さんや。コレ、どう言うつもりなんだ?」
『その質問は私が代わりに答えよう』
彼女の突拍子も無い行動に振り回されたが、一応はその真意を質問した矢先、彼女の返答を遮る形で眼前に空間投影ウィンドウが展開され長官の顔が見えた。
「あー、一応……粗方の予想は出来るんだが、お願いします」
『そうか。では、結論から話そう。超法規的措置に則り君を件の公立高校からオトゥール管轄下の学校に転校させる。
その為の手続を現在進行形で進めている。……事後承諾と言うのは極力使いたくは無かったのだけど、結果的にそうなってしまうね』
「……やはりそう言う事か」
自身が公立校に通っている事による弊害の問題は長官と触れた事がある。何れはそうも言ってはいられないとは理解はしていたが想像以上に早かったらしい。
『で、そうせざるを得ないと判断した理由はね。六夜ちゃんが自分が原因で君が傷付くのを見たくないって相談を受けたからなんだよ』
「…………」
長官の言葉に文理は六夜(相変わらず隣に座っている)の方に視線を向けた。
『公立の学校内では六夜ちゃんはかなり告白されているみたいだね。しかし、六夜ちゃんは文理君を選んだし、スティグマである為に悉く断った。でも、君との関係が匂わされる事態になっていた為にその矛先が君に向きかねない。そうなると君もその学校には居られないだろう』
「そう、っすね。はい」
『オトゥールとしても君が無関係な市民相手に暴力事件に発展する様な問題が起こす展開は避けたい。仮にもオトゥールは機密組織だからね』
確かにあのまま事態が進行すれば遅くとも明日には暴力事件に発展していた事は否定出来ない。
現にあの連中を黙らせるには肉体言語しか手段が無かった。言葉で説明しても聞き入れやしないだろうから。
『故にかなり急な事ではあるのだけれど、君には先も言った通りオトゥール管轄下の学校に編入して貰う運びとなった。重ねて言うが、半ば事後承諾に近い形となった事は申し訳ない。……仮にも君にも友人がいるのに半ば強引に離れ離れにさせる事となってしまった。どう言う形であれ君の『日常』を壊してしまった。そう言う意味でも申し訳ない気持ちでいっぱいだ』
「…………文理、ごめんなさい」
六夜は萎れそうな声音で謝って来た。
ある意味では文理の人生を大きく狂わせた元凶である六夜だ。結果的に彼の『日常』を破壊してしまった。
文理の『世界』は変わってしまったのだ。紛れもなく六夜との出会いによって。そう言う自責の念もあったのだろう。
「いや、俺にも不備があった。俺の立ち回りが下手だったから招いた事だ。……だが、杏に謝罪の手紙くらいは出したい」
——彼女との出会い方は不可抗力だった。もし、あの時に彼女と出会わなければ死んでいた。……後、杏の親父さんに殺されるかも知れないな。
『ああ、勿論だ。挨拶も無しに行方不明になっちゃ後で根回し等が大変だからね』
「……感謝する、長官殿。ただ、1つ、要望が言っても良いか?」
『何かな?』
「もし、杏が自力でオトゥールを突き止める事が出来たら、可能な範囲で良い。便宜を図って欲しい」
『……君は、彼女を我々に関わせたくは無かったんじゃないのかい?』
「今もそれは変わらない。ただ、こうなった以上、杏が黙って日常を過ごすとは考え難いからだ。彼女に王手を突かれたらもう両手を挙げて降参するしか無いさ」
『成程、分かった。出来る範囲でそうしよう』
「じゃあ、これまでの話は終わりだ。コレからの話をしてくれ。水族館の件は今、どの段階なんだ?」
文理は辛気臭い話は打ち切り、未来の話をする様に促した。引き摺っていても仕方がない。杏が心配なのは『スティグマでも無いのにこんな超常現象に首を突っ込まれて死なれるのは夢見が悪いから』だ。住む世界が変わった以上、関わらせたくないだけだ。
『切り替えが早いね。うん、過去を引き摺らず気持ちに整理を付けて切り替える。言い方は悪くなるけど、理想的な子だ。では要望に応えてその話に入ろうか』