送迎の為のリムジンはオトゥール本部へと到着した。そして、毎度毎度面倒な3段パスワードをパスして本部へと入る。
「……六夜。管轄校とか寮棟は何処に位置しているんだ?」
「本部の北部にある」
本部の管轄施設が近いのも極秘組織故に都合が良いのだろう。距離が遠ければ初動が遅れる事に繋がる。
「寮棟は……本部施設内にある。貴方の部屋までは分からない」
「あの長官の事だから、何か良からぬ事をしている気もするんだが」
普通にあり得そうで怖い所だ。それは兎も角、今後の居住に関する場所は早い所に把握した方が良いだろう。
——そうと決まれば先に長官殿に顔を出すべきだな。車の中で粗方は聞いたが細かい所は直接出向くべきか。
「あ、六夜にご主人様じゃない。今、帰って来た所?」
長官の執務室へと向かおうとその方角へ足を向けた時、正面からターリアが歩いて来て声を掛けて来た。私服と言い張る通り、白と黒のコントラストが印象的なメイド服を身に纏っていた。
「……その呼び方は止めてくれ。そもそもそんな関係じゃないだろ?」
「へぇ〜。私が侍るのがそんなに不満なワケ?」
「そう言う意味じゃなくてだな……。小恥ずかしいんだよ……色々と」
本人が悪戯気味に片目を閉じる。他の面々もこんなノリだとするのならば勘弁願いたい所だ。
「ターリアも今、帰って来た所なの?」
「ええ、ついさっきよ。あ、ご主人様の私物類は宛てがわれる寮部屋に運んでいる最中よ」
「もう決まっているのか?」
「ええ、長官が言うには既に決めて居たそうよ。場所に関しては長官から聞いてくれないかしら? 私はコレから着替える必要があるから失礼するわね」
「うん、また後で」
ターリアはそう言い残して文理達とすれ違い廊下の向こう側に歩いて行った。
「取り敢えず長官殿の所に顔を出すか」
そう言うと六夜も一緒に行くと言い出した。
「フィアンセだから」
彼女はそう言って憚らない。赫黎と言う少女も居るのに其処は譲るつもりは無いらしい。断る理由も無く本人がそう言い出したので一緒に連れ立って長官が待つ執務室へ向かう傍らであるモノが目に入って来た。
「ありゃ休憩スペースか?」
視界に飛び込んで来たのは吹きソファが乱立する広間であり壁には埋め込み型のモニター、と言うテレビの番組が映し出されている空間だった。其処には現在、数人の少女達が屯しているようだ。
「うん。本部内には、幾つかの場所にああ言ったフロアがあるの」
「つまり、それだけ広いって事か……」
軽く案内して貰ったが全て見て回った訳では無い。オトゥール本部の出入り口も2つあり今回は別の玄関から入って来たから休憩スペースが目に入ったのだ。
「それよりも、彼女頑張ってるみたい……」
「ん? 彼女?」
「モニターで映っている、あの人」
今現在、モニターで映し出されている番組は歌番組なのかライブの映像が映し出されており、そのステージの上では1人のアイドルが多数の観客の前で歌を披露している様子が中継されていた。
「知らない?」
「いや、芸能関係の話題は疎くてな……。大体が、ロクな話を」
「だーれだ?」
その直後、視界が真っ暗になった。目元近くと背中に温もりが感じられ背後から聞き覚えの無い声が耳に入って来た。少なくとも知らない少女の声だ。
「……えーと、何方様?」
声の主は答えない。当てるまで此の儘のつもりなのだろうか?
「芹那……。何故、此処に居るの?」
「六夜。つまらない真似しないでちょうだい」
六夜が呆れた様な声音でそう言うと言われた声の主は尖らせた口調のまま、離れてくれた。改めて背後に向き直る。
桜色の長い髪を髪留めで纏めた美少女が其処に立って居た。可愛らしい顔立ちでじっとコチラを見ている。その顔立ちに見覚えがあったような。
「ん?……んー」
咄嗟にライブ映像が映し出されているテレビの画面へと目を向けた。その番組で歌を披露しているアイドルと完全に一致していた。
「……何その反応。私の事を知らなかったの?」
文理のその反応を見て目の前の桜色の少女は半目で責める様な声音で問うて来た。
「文理は、そう言うのに疎いから……」
「それならそれで好都合かも。変な先入観が無い方が有利ね」
六夜が釈明するも聞き流してその少女は勝手に納得した。好都合だの有利だの、不穏な言葉が交ざっていた事は気になる。
「ええと、君は誰なんだ?」
「……本当に知らないんだ。じゃあ、改めて初めまして。私は靏喰 芹那。芹那って呼んで。
それで貴方が件の文理で間違いない? 六夜や赫黎から『誓いの言葉』を受け取ったって言う」
「……『誓いの言葉』?」
「スティグマから伝えられる一節の事よ。長官とか機関はネーミングセンスが壊滅的なのよね。だから、私がそう改名したのよ」
——アレをそう名付けられると、余計その気にさせる面子が増えそうなんだけどさ。
「それに『適合者』って呼称もダサいから、もっとカッコいい名前の方がやる気が出るでしょう?」
「そう、言われてもな……」
——長官殿のネーミングセンスが壊滅的て。
名前のセンスに関して問われても当初は『そんなものか』と言う印象しか無かった為にそんな事を言われても反応に困ってしまう。
「ちゃんとした名前を考えておくから、期待して待っていなさい。……もう少しお話ししたいのだけど時間が押しているの。また、時間が出来たらお話ししましょう?」
芹那は片目を閉じてウィンクしながらそう言い残してそそくさと言ってしまった。
「何と言うか……スティグマって台風みたいな娘しか居ないのか?」
六夜もそうだしターリアもそうだった。あの芹那って人も言うだけで言って行ってしまった。彼女にも振り回される日が来るのだろうかと思うと先が思いやられる。
「皆、張り切っているんだと思う」
「…………」
兎も角、長官殿の執務室へ向かう事にした。