鏡境ヘリックス   作:夢現図書館

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日常に入る罅

 

 

 昼休憩。騒がしい教室から逃れた文理は校舎の一室にある新聞部の部室に来ていた。別に文理は新聞部では無いが此処が1番、静かな場所である事は言うまでも無い。

 購買部で買った昼食(普通にマズい)を取りつつ、新聞部に置かれていた新聞を読んでいた。今時、スマートフォンでニュースを見れる為に新聞紙は衰退しつつある情報媒体だが、こう言うアンティークなモノは嫌いにはなれない。過去があったからこそ現在、そして未来があるのだから。

 

「……全く、朝からその転校生の話題で持ち切りね。しかも常識知らずって噂も流れているわ」

 

 新聞部の部室。其処には人混み嫌いでもある杏が根城にしていた。杏も美少女の類に入るが近寄り難い雰囲気を常に張っている所為か浮ついた話は全くの無縁。その癖、実家が刃物店。その娘なので幼少から我流剣術(何故か自分も巻き添え)を嗜み並の野郎じゃフルボッコや去勢の末路が待っている。剣道部から誘いが来たらしいが全員纏めて叩き伏せた上で断ったらしい。故に彼女に寄り付く男は皆無な為、静かなのである。

 

——……新聞部の部員、纏めて追い出したって言う噂はマジかも知れないな。

 

「珍しいな。杏が他人の騒動に興味を持つなんてな」

 

「周りがそれだけ騒げば嫌でも耳に入るわよ。然も、アンタのクラス……。容姿も日本人離れしていて、随分と持て囃されているそうじゃない」

 

——何を怒ってるんだ?

 

 杏は氷の様に無機質な声音ではあったが幼馴染で付き合いの長い文理は杏が不機嫌である事を察した。しかし、何が理由で怒っているのか迄は分からなかった。

 

「……らしいな。然も爆弾発言までしやがった。何考えて生きてんだ、あの転校生は」

 

 『フィアンセ』と言う言葉。高校生にもなればその言葉の意味は分かって来る。天然な行動としても突飛過ぎる。

 

「つーか、どうしたんだよ?機嫌が悪いのか?」

 

「……アンタ、知らないの?」

 

「何が?」

 

——そもそも赤の他人の噂話なんて陸なモノじゃねぇってのによ。

 

「……その人、アンタ(・・・)を見て、そう言ったらしいわよ」

 

——は?え?Really? オレノオサナナジミハナニヲイッテイルンデスカ?

 

 杏の言葉に文理の思考回路は見事にフリーズ。

 

「は?おいおい、何かの聞き間違いじゃないのか?」

 

「……伝聞だし、途中で曲解された噂として広まって居る線も無くは無いわ。もしかしたら偶々視線が其処に向いていたって可能性もあるし、そもそも教室には文理以外にも愚かな塵連中が犇いていたからそのゴミの誰かって線もあり得ない話じゃ無いわね」

 

 捲し立てる様な勢いで杏は自己完結に至った。途中で同級生達を罵倒する事も添えられていた。如何やら件の話題に知り合いが付随して気になっただけの様だ。出る杭は打たれる、それが世の常であり、自身も体験した事であるが故に心配になった、そんな所かと文理は考えた。

 

「……しれっと同級生連中を貶してるな」

 

「弱い癖に願望が強いロクデナシに要件は無いわ。身の程知らずの度胸は認めてあげても良いけれど」

 

——一躍、有名人になった者に関する噂話。それもまた、日常的な光景の1つと言えるだろう。何の他愛もない会話。TVを見てタレントやミュージシャンや俳優に関する報道を見てあーだこーだと言い合う。そんな心境だ。

 

 何て事の無い日常風景。だからこそ人は日常に何かしらの変化を齎す刺激を求めるのだろう。転校生と言う一種のイベント、それが美少女ともなれば騒ぎ出す事になる群衆を見て遠巻きに見る者達。変わり映えのしない日常に入った罅はやがて大きな亀裂になるかも知れないしならないかも知らない。

 

 だが、その当事者達は逆にその日常風景と表現する光景を見てどう思うだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

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