鏡境ヘリックス   作:夢現図書館

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月桂の刃

 

 

「……コレから、私の言う通りにして。そうしたら、切り抜けられる」

 

——…………絶対に色々と知っている側の人間だな、コイツ。まぁ、右も左も分からない状況柄……道案内してくれるんなら、頼む他無い。

 

 未知の世界に進むなら信頼できる案内人がいればこれ程心強いモノは無い。文理の状況としては正しく、その状態だ。

 

「分かった分かった。好きにやってくれ」

 

——……手札が限られる以上、追加のカードを切れるなら頼むしか無いからな。完全に向こうの動きに付き合わされる形だが、生還できれば御の字だ。

 

 文理の前に佇む六夜。文理の了承を得た彼女は小さく頷き一歩前に踏み出す。ボイドはすぐ近くにまで迫って来ている。猶予は然程、残されていない。

 

「私は刃。貴方の刃。そして、貴方は私の鞘。鞘と刃は番で無ければならない」

 

 六夜の瞳が赤く染まった気がした。元々、アルビノの人だと思っていたが、唐突に変化するとは思っては居なかった事に面食らった。

 

「……驚かないで。今の状況で、驚く余裕はある?」

 

「自分の常識と相手の認識を統合して考えるのは止めてくれ……」

 

——少なくとも俺はお前の居る世界の人間じゃ無いんだ。端折っての説明だと疎通が出来ない。

 

「……大丈夫。直ぐに分かる。手を繋いで」

 

「あ、ああ。こうか?」

 

 六夜の右目の眉が僅かに揺れたが気を取り直して手を繋いで欲しいと指示する。文理は言われるままに彼女の手を握った。皓く細い掌は今にも折れそうな感触が伝わってくる。

 

「……今から伝える言葉を復唱して」

 

 更に一歩踏み出し耳打ちする位の距離にまで接近。ほぼ、密着する形となる。そして、六夜は文理の耳にある言葉を紡いだ。その言葉を聞いた文理は思わず目を見開いた。

 

「お、おまっ⁉︎」

 

 その時、迫って来たボイドが直ぐ側にまで接近して来た。一刻の猶予も無かった。六夜は期待する目で此方を凝視している。拒否権は無かった。

 

——ええい、こんな芝居掛かった小っ恥ずかしい台詞、人前で言えるか、こんちくしょう‼︎

 

「我は鞘。汝は刃。番となりて現夢を穿たん‼︎」

 

 六夜から直接、紡がれた言葉を復唱した時、教室の扉を突き破って薔薇のボイドが侵入を果たした。

 

「ッ‼︎」

 

 一閃。皓銀の閃光が走る。終、教室の廊下側の窓ガラス含みの壁に大きな穴が穿たれていた。砲弾が直撃したかの様に崩れた壁は反対側の中庭側の壁も貫通して破壊されていた。

 

「…………は?」

 

 その光景に思わず間の抜けた声が漏れた。自分自身の見た光景が信じられないのか無意識に後退った。

 

——何これ、何が起きたと言うんだ⁉︎ って、何だこりゃあ⁉︎

 

 何故か右腕が重い為に其方に視線を向ければ自身の手に握られていたのは機械式の大槍の貌が覗かせて居た。先端部の刃の根元付近に螺旋を巻く様に細く小さな針が付随して旋回している。状況から見て自分がやった、と言う他に考えられる要素は見られない。

 

「……俺が、やったと言うのか?」

 

——……槍で壁、2枚ぶっ壊すとかどんな威力だよ⁉︎ と言うか、何処からこの槍現れた⁉︎ さっきの薔薇野郎は何処に……つーか、吹っ飛ばした?

 

 更なる混乱する事態に陥った文理は自問自答の深みに嵌る。此処に来て割とシャレにならはい破壊活動。此処が形容し難い世界じゃ無ければ大騒ぎになって居た所である。

 

『うん、ほぼ反射で、ボイドを砲撃で、粉砕した。フィーリング、上手……』

 

 その時、又しても頭に六夜の声が響き渡る。しかし、何処を見渡しても本人の姿は見受けられない。つい先程までは隣に居た筈なのに見つからない。

 

「……いや、幼馴染の親父から一通り、我流で叩き込まれた。じゃなくて、君は今何処に居るんだよ?」

 

——……此処まで大振りの槍を持つのは初めてだ。でも、何故か使い方が分かる気がするんだよな。

 

『此処、貴方の持っている槍。それが私』

 

「え?」

 

 六夜は自分自身が文理が今手に持つ大槍だと告げた。その言葉に文理は何度目かに目を見開いた。

 

『私はボイドに対抗出来る、武器に変身する能力を持っている。でも、変身しても自力では無力』

 

「武器が勝手に動く訳じゃないと言う事か。使い手が必要と言う事か?」

 

——付喪神みたいに動き回られる光景は中々、ホラーだ。仮にそうだとしたら、こんな回りくどい真似はしないだろうし、早々に暴れている筈だ。

 

『うん。私は、私の鞘になってくれる人を、探しに来た。この町に、来れば……見つかる。そんな気がした、そして、見つけた。それが、貴方』

 

 まいったな。と文理は思わず後頭部を掻いた。色々と状況の変化が大き過ぎる故に理解が追い着きそうに無い。この世界と言い、ボイドとか言われても即理解とは言わない方が普通であった。

 

「フィアンセってのは?」

 

『刃と鞘が一緒に納まるのを、そう呼ばない?』

 

「言わねぇよ。何処で覚えたんだ、そんな使い方」

 

——完全に間に受けて使ってる。天然か? フィアンセってのは婚約者って意味なんだがな……完全に誤解を生むっての。

 

 六夜が世間知らずな気がするのは気の所為では無さそうだ。

 

「……取り敢えず、色々と整理が追いつかない。早い所、こんな世界からおさらばしてぇよ」

 

『流石に一度に説明、しても、混乱する……取り敢えず、この『鏡面世界』から脱出、する』

 

 今ならば逃げ回る事をせず正面突破で切り抜けられる。そう考えれば気が楽と言えようか……。

 

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