殺し屋(ヒットマン)と呼ばれたトレーナーと悪役(ヒール)と呼ばれた幸福の雨 作:tarousei
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ただ、勝たせてあげたかった。
汗に塗れて、泥に塗れて、ぐちゃぐちゃになりながらも必死で走り続けるその娘の姿を見ると、なんとしてでも勝利の景色を見せてあげたいと、そう誓った
そのためだったら何だってしてあげようと思った、どんな手伝いでもしてあげようと、だからその娘の体の事をひたすらに調べ上げた、どの走り方がその娘が1番好きな走り方なのか、逃げなのか、先行なのか、差しなのか、追い込みなのか、調べ上げた結果。その娘は先行が一番気持ちよく走れるタイプだった。
だからこそ徹底的に先行向けのトレーニングを集中させた。相手を見定めて、ギリギリまで我慢、相手の一瞬の先を突いて一気に追い抜く、それが一番勝てるタイプの娘だったからだ。 ありがたい事にその娘は未熟な自分の指導を要領よくこなしてくれる賢い娘だった。
彼女は自分のできることは全てやり残す事はないと、自信をもって言えるほどの仕上がりを見せてくれた。 本当によくやってくれたと心の底から思った。
そして迎えたレース本番は、逃げタイプの相手にギリギリまでマークし、終盤から相手のスタミナが削れたところに一気にブーストをかけ追い抜いた、相手の能力も調べ尽くした結果、体力切れによるペースの乱れも作戦通りであり、完璧なタイミングで差し切った。 文句の付けようがない、見事な勝利だった。
だが、その頃の自分は余りにも若すぎて、レースで勝つことより大事な事を知らなかった、実力と策略を駆使してようやく追い抜いたその相手は、将来を期待されていたスターウマ娘だった事と、それを追い抜いたのが、これといった成績をだしていない、酷い言い方をすれば地味なウマ娘だった。
その娘がどれだけ頑張ったのか、どれだけ必死でやってきたのか、それを何も知らない観客からしてみれば、訳のわからないウマ娘が、偉業を成す歴史的な瞬間を空気を読まずに妨害したように見えたのだろう。 ゴール後のレース会場で、罵声とブーイング、伝説を成し遂げる偉業の立ち会い人になれなかった事を惜しむ声、挙句の果てには、勝利したウマ娘を大歓声で労うウイニングライブでさえ、その娘の名前を呼ぶものは、自分とその関係者以外、誰もいなかった。そのレースのために全力を尽くしてきた彼女には、あまりにも残酷すぎる結末だった。
全てがおわった後の彼女の表情が、今でも自分の頭から離れない、その時の言葉が、頭に焼き印のように、二度と忘れる事のないように、しっかりと焼き付いている。
「トレーナーさん、、、、」
その言葉が、離れない、忘れる事もできない。 むしろ、忘れる事は絶対に許されない。 これから何があろうと。 この事は頭の中に刻み込む事になるだろう。 だからこそ、この娘にできる事は、自分自身に実力をつけ、経験を積み、甘さを払拭するしかない。そしていつか、彼女を、本当の勝利ウマ娘にするために、勝たせることしかないと思った。 今から思えば、何を思い上がっていたのか、何を勘違いしていたのか、後悔の山だ。 彼女が本当に勝利のみを求めていたのかを、一切考えずに、勝たせる事がその子のためなのだと、非道い思い上がりだった。
そんな事を繰り返してる内に、自分にはおかしなあだ名がついた、、、
「暗殺者(ヒットマン)」
勝たせたい一心でその娘と必死で努力してきたつもりがこの結果と、不愉快なあだ名と、これから先の結末なのは、なんとも皮肉な話だろうか。
とりあえずトレーナーは目一杯曇らせる