殺し屋(ヒットマン)と呼ばれたトレーナーと悪役(ヒール)と呼ばれた幸福の雨 作:tarousei
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(どういう事だ、、、!?)
トレーナー観戦席、ウマ娘のレースを一番良く見える席で正志はライスシャワーの出走を待ち侘びてた、だが、突然流れた衝撃的な放送に、正志は驚きを隠せない。 ライスシャワーが出走しない、何かあったのだろうか?レース前日のライスシャワーを見た所では、体に異常がある訳でもなく、肝心の精神面でも多少レースの緊張は見えたものの、選抜レースへのやる気は充分だと思えた。 そんなライスシャワーがなぜレースに参加していないのか? まさか事故か何かにでもあったのだろうか? 病気にかかったのだろうか? とにかく、何かが起こった事は確かだった。
(、、、、詳しく話を、、、そうだ、、運営係の人なら何か聞いているかもしれない、、、)
そう思い立った正志は即座にトレーナー観戦先を飛び出し、運営席の方へと向かった。
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ーーライスシャワーが出走しない?、またか、彼女は大体そうだよ。 まぁ、確かに彼女は素質としては良い物を持っているかもしれないが、そもそもやる気がないんじゃないか?レースに出ないウマ娘なんて聞いたことがないよ。本命の次の次位には考えていたが、あれじゃあな、まぁ特に問題はないだろうーーーーー
ーーそれより今はミホノブルボンだ!、彼女は確実に未来の大スターになる!、伝説を作るぞ!、あちら側の条件は全て受け入れる!、なんとしてもミホノブルボンをスカウトするんだ!!ーーーーー
「、、、、、」
運営席へと向かう途中の道には、そういう言葉ばかりが聞こえる、ミホノブルボンを是が非でもスカウトしようと躍起になる物ばかりだ。 逆にライスシャワーに関しては、彼女はいつもそうだと、レースにすら出走しない。 そこまで気にかける程のウマ娘ではないと言う声ばかりだ。
(勝手な事をごちゃごちゃと、、、)
ライスシャワーに走る意志がない、よく知りもせずにそんな事を言えた物だと正志は頭の中で憤る、彼女はこのレースの為に必死に努力をしてきた筈だ、理由はわからないが、必死で練習をこなしてきた彼女の顔を見れば、レースへの強い思いは誰にも負けてはいない。 何かの目的のためにあれだけ努力できるであろう彼女が、レースに出る気がないというのは考えられない。 何か理由がある筈だ、そして、その努力を身近で見ていたからこそ、彼女に何があったのか知らないと気がすまなかった。
そう考えていると、気がつけば運営席へとたどり着いていた。 何やらざわついているようだが、要所要所に「ライスシャワー」や「またか」という言葉が聞こえて来る。 嫌な予感を感じて運営席の一番近くにいた実行委員らしき人に思わず詰め寄った。
「すみません、トレーナーの久場正志と言う者ですが、ライスシャワーの出走取り消しとはどう言う事ですか?」
「え? ああ、トレーナーの方ですか。 ライスシャワーさんはレース直前になっても控室にも姿を現さなくて、、、本人に連絡した所、繋がったのですが、どうにも走れるような精神状態ではなくて、、、」
「走れるような精神状態、、、ですか?」
「ええ、、、ごめんなさい、私は選抜レースに出れません、、とだけ、困りましたよ、彼女は同じ様に何度かレースを辞退しちゃってましてね。 このままだと、成績不十分という事でトレセン学園を退学する事になってしまうんですよ。」
「退学、、、、」
あんなに努力をしていたのに、、、レースに出ることなくトレセン学園を去ってしまうのか? 確かにトレセン学園は競走ウマ娘を育成するための施設、そこへと集うウマ娘達は全てレースに勝利するために皆努力している者ばかりだ。 レースに出場すらしないウマ娘など、問題外だろう。何も間違っていない、ただそれがこの世界のルールなだけだ。それを守れないウマ娘など、この学園にはいる資格はない。わかっているつもりだ。 だが、それでも、あの娘は、ライスシャワーは、本当にレースに出場する気がないのか?
そんな訳がない。
「あの、、、申し訳ありませんが、ライスシャワーさんがどこにいらっしゃるかはご存じですか?」
「い、居場所ですか?、いやーそこまではわかりませんね、、」
「そうですか、、色々とありがとうございました、、、」
ダメもとで聞いてみたが、予想どおり期待していた答えは得られなかった。しかし、項垂れている暇はない、とにかく彼女を探さなくては、一度しっかりと話をしてみたい。しかしどう探し出す? トレセン学園はかなり広い、その中でどこにいるかわからないウマ娘を探し出す事は難しい。彼女がいそうな場所をしらみ潰しに探してみるか?
(こうなるんだったら彼女の電話番号を聞いておくべきだった!!)
スカウト前に連絡先を入手するのは、制度違反になるため禁止されている、正志は大人しくそれに従ったが。 今はその行動に対して後悔しかない。 彼女のレース生命に関わってくるなら、制度だのどうのだの四の五の考えている暇などなかっただろうに、もっと話しておけば、多少なりコミュニケーションを取っていればよかった。 何度も何度もトレーニングを見せてもらったのに、思えばまともに話したのは殆どなかった。 違反になるかもしれないと都合の良い逃げ道を言い訳をしていたが、本当は自分から歩みよろうとしなかっただけだ。 距離を近づけるのを怖がっていただけだ。
(俺はこうどうしていつもいつも、、、)
自己嫌悪に陥る自分を気力で奮い立たせながら彼女が居場所を突き止める為に思考をフル回転させる。 ライスシャワーは過去に自分が担当していたウマ娘に良く似ていた。 人並み以上に努力をしつつも、自分に自信がなく、肝心な所で不運に巻き込まれ、余計に自信を無くしていた。
そして何かが起きた時、彼女は決まってどこか特定の場所で黄昏ていた。そういう時は、どこか静かな所で一人になりたかったのだ。 そしてその場所は、久志も良く知っている場所だった。
(闇雲に探しちゃ間に合わない、、、、もしライスシャワーが彼女と同じ様に、どこか一人でいられる場所を決めていたのなら、、数箇所は思い当たる、、、、行ってみる価値はあるか?)
ぐずぐずしていては、ライスシャワーの心意を聞ける機会を逃してしまう。 思い悩む考えを一気に捨て去り、正志はしらみ潰しに探すべく向かった。正志にとっては、自分の始まりであり、一度心の折れた原因となってしまった場所へと。
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「はあっ、はあっ、はあっ、、、、」
目的の場所はいくつか回ったが、今のところ全て外れてしまっていた。辺りはすっかり暗くなってしまっていた。残った可能性の場所は一つ、そこにライスシャワーがいなければ、もはや八方塞がり、なすすべはないだろう。
(最後は、、よりにもよってここか、、、)
運命の悪戯というには余りにも趣味が悪すぎる、この世に神さまという者が実在するのなら、自分はよっぽど神様とやらに嫌われているのだろう、嫌われるような事をしてきた自覚もある。 それにしても、少しは加減をしてほしいと正志は思わず思った。
校舎裏の切り株のある広場。偶然にも、そこは初めて元担当の彼女と出会った所、全ての悲劇の始まりの場所だった。
「、、、、いた、、、」
その切り株の根元に、ライスシャワーは座り込んでいた。
「う、、、グスッ、、うわああああん!」
彼女は座り込みながら項垂れて、子供のように泣きじゃくっていた。自分の全てに絶望しているような声音だった。その痛ましい姿に、見つけた高揚感は即座に消え去り、思わず駆け寄ってしまっていた。
「、、、大丈夫か?」
「え、、、あなたは、、、、、、こ、こないで!!」
衝動的に声をかけた正志にかけられたのは、拒絶の声だった。思っていたよりも強い口調に、正志は思わず寸前で立ち止まる。
「、、、すまない」
自覚がない内に、随分と嫌われてしまったようだ。
「あ、、違、、、そうじゃないんです、そういう意味で言ったんじゃ、、、」
「、、、、?」
「私の近くに来ちゃったら、あなたも不幸になっちゃう、、、だから、、、」
「何言ってるんだ」
正志はライスシャワーの静止を振り切る様に近づいていく、少々強引なやり方になってしまったが、今の彼女から話を聞くにはそれくらいの思い切りが必要だと判断した。
「あ、、、、」
「ほら、近づいたけど、何も起きないだろ? 僕は大丈夫だ」
そしてライスシャワーの隣にたどり着いた正志は、そう声をかける。
「、、で、、でも」
「大丈夫だ、君のせいで何かが起こる訳じゃない。とりあえず、無事で良かった。」
錯乱気味の彼女を落ち着かせるために、何か気の利いた言葉をかけようと思ったが、いかんせん思いつかない、そのぶっきらぼうな言い方が、正志なりの慰め方だった。
「、、、まぁ、まずは落ち着こう、、な?」
「あっ、、、はい、、、、」
正志の行動に面食らった反動が、逆に落ち着きを取り戻してくれた様だ。 自分でももっと上手いやり方はなかったのかと思ったのだが。 とりあえずは冷静さを取り戻せたらしい。 ライスシャワーを見る表情は結構な真顔だが、そんな表の表情とは違い、内心は心底安堵する。 良かった、体に何かあった訳ではないと。
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「、、これ、飲むか?」
しょぼくれるライスシャワーをつれ、学園前の自販機前のベンチへと移動した。 正志は購入したライスシャワーの分のホットココアを渡そうとする。
「え、、、でも、、」
「気にすんな、よければ貰ってくれ」
他人からの厚意に慣れてないのか、ライスシャワーはそれを受け取るのを一瞬躊躇うが、せっかくの厚意を無下には出来ないと気を遣ったのか
「、、ごめんなさい、いただきます。」
そう答えておずおずと受け取り、そのまま勢いよく一気に飲み干した。 寒さで体が冷えていたのか、それとも泣きすぎて喉が疲れていたのか、、余程喉が渇いていたのだろう。その姿に正志は驚く。
「良い飲みっぷりだな。」
「、、、ブフッ!、ゲホッ、、ご、ごめんなさい。」
貶したつもりは一切なかったが、何か驚いたようにむせかえる。そこまで驚くとは流石に思ってはいなかった。
「いや、別に悪い意味で言った訳じゃない。 そんなに美味そうに飲んでくれたなら、買った方も嬉しいもんさ。 もう一本飲むか?」
「あ、、大丈夫です、ありがとうございます。」
ライスシャワーは緊張で上手く喋れないように見える、こんな時は年上の正志が上手く緊張をほぐしてやらないといけないのだろう、正志もそれは理解しているが、人付き合いが苦手な正志には、緊張をほぐす上手いやり方がわからなかった。 こんな奴がよく数年トレーナーがやれたものだと思うが、それでもなんとか数年持ったのは、昔の担当ウマ娘を含めて人に恵まれていたからだろう。それもまた昔の事への後悔だ。だからこそ、次は正しい道を選びたかった。
「どこか、体に悪いところはないか?」
「え、、、、あっ、、、ごめんなさい」
何故レースに出れなかったのか、直球で聞くのは彼女の心情的にもハードルが高いだろう。 少し遠回しに聞いてみたのだが、彼女は予想より勘が良かったのか、今の一言で何故正志が自分を探していたのか察したようだ。 一言謝って、また俯いてしまった。
「、、、別に君に怒っている訳じゃない、ただ、不思議だったんだ。」
「不思議、、ですか?」
「ああ、君のトレーニングは何度か見せてもらったが、君のトレーニングへの真摯な取り組みを見ていると。レースへの思いがない様には見えなかった。 むしろ、他の娘達と同じように、いや、それ以上に向き合っていると思った。そんな君が、レースに中々出られないのは、何か体の調子とは別の問題があるんじゃないかなって思ったんだ。」
「、、、、」
感情任せに言ったせいか、言葉数が多かったようだ。だが、これが正志のライスシャワーに対する正直な気持ちだ。 これ以上もこれ以下もない、その理由を知りたいからこそ、彼女を探していたのだ。 ライスシャワーは何か言いたげだが、まだどこか遠慮しているのだろうか。
「言いたくないなら、無理をして言わなくてもいい、けど、君は多分、辛いんだろ? レースに出れないのが、じゃなきゃ、あんなに辛そうに、一人で泣いたりなんてしない。胸の内を少しでも吐き出せたら、少しは楽になるかもしれない。 君にとって、僕はなんの関係もないトレーナーかも知れないけど。よければ聞かせてくれないか?」
「、、、ッッ、、」
よく見ると、彼女の目には再び涙が浮かんできている。それがなんの涙なのか、知らない人間から知ったような事を言われる不快感からなのか、急に自分にずかずかと踏み込まれる恐怖からなのか、そう思われても仕方ない。 ただ、そんな強引な手段を意外に、彼女の心境を聞ける策は、正志は思いつかなかった。 ただ、自分にできる精一杯のやり方に賭けただけだった。 例えこれでライスシャワーから嫌われてしまったとしても、他にもやり方はあったとしても、正志は、このやり方しかできなかった。
「、、、私、レースには出たかったんです。」
「?」
「そのために、頑張ろうと思ったんです、トレーニングも必死で頑張ろうって、トレーナーさんに初めて出会った頃に言われた事も、嬉しくて、私のせいで何度も不幸な目にあったのに、トレーナーさんは何も言わないで、気にしないでって、逆にそれをいい方向に変えてみようって、、トレーニングの方法まで教えてくれました。」
(、、てっきり姿だけ覚えていたものだと思ってたが、そんな事まで覚えていてくれたのか。)
「それを試してみたら、次の日から体調が凄く良くて、トレーナーさんって凄いんだなって、、これなら、こんな私でも頑張れそうって、、、でも、、レースの日になると考えちゃって、、、またいつもの不幸が起きたら、、、トレーナーさんがせっかく教えてくれた事や、、、頑張ってきたことが、、、全部無駄になっちゃうって思うと、、、私に良くしてくれたトレーナーさんをがっかりさせちゃうって思うと、怖くて足が動かなくなるんです、、」
「、、、、」
「私は、、駄目な娘なんです。子供の頃によく見たかっこいい競走ウマ娘さん達みたいに、かっこよくて、、キラキラしてて、、、みんなを笑顔にさせるウマ娘みたいになりたいって、、、そんな競走ウマ娘になりたいって思って、ここに来たんです、、頑張ったんです、少しでもみんなに幸せにできる私になろうって、、、でも、、もし頑張っても出来なかったらって考えると、、幸せどころが、悲しくさせちゃうかもしれないって考えると、、、そんな事、、せめてレースに出てから言えばいいのに、、、それすらできない、、、ライスは、、ダメなんです!!、何も出来ない、頑張ったって、結局みんなに不幸にさせちゃう事しかできないら、、ダメダメなんです、、、」
話立てる内に、我慢していた感情が爆発してしまったのだろう。 正志への敬語を使うのも忘れながら、彼女は顔をぐしゃぐしゃにし、大粒の涙を流しながら、吐き出すそうに自分の気持ちを吐露してくれた。
「そうか、、、」
正志は、彼女の言葉を一文一句聞き流す事なく、真剣に聞き入れた。話を聞くたびに思い出すのは、やはり過去の担当ウマ娘、姿形こそ違うものの、やはり似ている。 だからこそ、あの時一番彼女にかけてあげたかった言葉を送ろうと思った。
「君は、駄目な娘じゃない。」
「、、、え?」
「少なくとも僕はそう思う。君は自分のせいで他人を不幸にしてしまうって思ってるかもしれないけど、僕は、君に出会えて、元気をもらえた。」
「そんなこと、、、だってあの時もライスのせいで、、、」
「でも、そのおかげで君と出会う事ができた。」
「、、、ライスのせいで、あんなに不幸な事が起きたのに?」
「あんなのは不幸のうちには入らない。それよりも、僕が何で君について知りたくなったのか、今なら合点がいった。」
「合点?、、、」
「かっこよかったんだ。」
「か、、え!?」
「自分を変えるために、あれだけ努力をしていた。 見ず知らずのトレーナーの訳の分からない助言も、真摯に受け入れてくれた、役に立ったって言ってくれた。とても嬉しかった。 君の走りへの誰よりも真剣な姿は、僕には誰よりもかっこよくて、キラキラしていたんだ。」
そうだ、、、自分は過去の担当への贖罪の気持ちでしか、トレーナーを続ける理由はなかった。似ていたライスシャワーをその娘に重ねて、無事に育て上げることで自分を納得させたかった。 今でもその気持ちはない訳ではない。ただ、ライスシャワーの話を聞いて、何故ここまで彼女に執着していたのかが、少しわかった気がする。
「そんな、、、、こと、、」
「信じてくれって気軽に言えるほど長い付き合いじゃないけど、本当だ。」
「あ、、」
ライスシャワーは正志の言うことにはまだ半信半疑のようだ。だが、今の言葉が嘘偽りない事実だ。それを伝えた所で、彼女の自分への自信が上がる訳ではないだろうが、さめて、それを伝えたかった。
「本当ですか、、、、?」
疑いの目を向けながら、今にも消えてなくなりそうな声で弱々しく訪ねてくる。
「本当だ。」
正志はそれに真っ直ぐに応える、今の彼女に必要な言葉は、彼女の行動に救われたという言葉だ。 彼女に救われた自分が、それを伝える事で彼女が周りに不幸を与えてばかりの駄目な娘なんかではないと、真っ直ぐに伝える事しかない。
「あまり大っぴらに話す事じゃないかもしれないけど、僕は君に幸福を分けてもらったんだ。僕が幸福になれたんだ、君は他の人にも幸福を分け与える事ができるだろう、少なくとも、僕はそう信じている。だからこそ、僕は君の助けになりたい。」
「、、、、え?」
「ライスシャワー、僕を君の担当トレーナーにしてほしい。」
数秒の沈黙、言われた事に頭が追いついていないのか、完全にフリーズしてしまっている。
「え?、ええ!?、な、なんで!?」
そしてその後の驚愕。この話の流れで言われるとは思ってなかったのか、心底驚いたようだ。
「さっき言った通りだよ、君に救われた、その恩返しをしたい、でも僕が君に返せるものと言えば、トレーナーになる事ぐらいしか思いつかなくてね、余計なお世話かもしれないけど。」
「でも、、、本当に、、本当にライスでいいの?」
「君がよければ、是非。」
最初からスカウトするつもりでここまで来たが、この会話を通して決意はより固くなった。
「また、、、迷惑かけちゃうよ?」
「それもトレーナーの仕事の内だ。君が僕にしてくれたみたいに、人に幸福を分けれるんだったら、君が本当にそう望むんだったら、そうなれるように僕は全力を尽くす。」
「、、、ううっ」
ふと聴こえてくる嗚咽の音、一瞬そんなに嫌だったか?と言う考えが頭の上に浮かんだ。
「、、ライス、変われるかな?、、、駄目な子じゃなくて、、、できる子になれるかな?、、、みんなを不幸にするんじゃなくて、、、笑顔に、、、幸福にできるかな?、、」
「ああ、君にその気持ちがあれば、きっと変われる。 一緒に頑張ろう、ライスシャワー」
「、、グスッ、、、ありがとうございます。宜しくお願いします、、、えっと、、、」
「久場正志、好きなように呼んでくれていいよ、これから宜しく頼む。」
「、、、、はいっ、ありがとうございます、久場さん!!」
涙を拭き、さっきまでの悲しみと自己否定に塗れた鬱屈した表情から一転、輝くような笑顔で礼を言うライスシャワー、その表情はとても優しくて、可愛らしくて、見ている正志も幸せになれる、そんな笑顔だった。
(やっぱり、こっちの方が良いな。)
彼女の笑顔を見て、今の自分が本当にやるべき事を、師匠が担当ウマ娘の前で、いつも笑顔でいたのか、今心から理解できた気がした。あの人がいつも笑顔でいたのは、周りのウマ娘に笑っていてほしいからだったのかもしれない、いつも笑顔でいてほしいなら、まず自分から笑わないといけない、笑顔は幸福を呼び、泣き顔は悲劇を呼ぶ、トレーニングを教える前に、まずは担当を幸福にさせなければ、トレーニングをさせる以前の問題なんだと言う事を、答え合わせはできないが、多分、理解する事ができた。
思えば、昔の担当トレーナーの心からの笑顔を見なくなったのはいつ頃からだろうか、それすら思い出せないあの時の自分は、本当にトレーナー失格だ、トレーニングの密度や、その娘の体調、レースの作戦に目を向けるのに必死で、その娘が一番何を求めてたのかに目を向けていなかった。結果、末期の頃は、笑顔なんてものは殆ど無く、辛い表情しか見ていなかった。 あの娘を失って、絶望の中もがいて、足掻いて、そしてライスシャワーに出会って、笑顔を見て、担当を笑顔にする事が、何よりも大事な事に気付けた。
もう、同じ過ちは二度と繰り返さない、多分、これからも同じ事を何度も何度も思うのだろう。 ライスシャワーを立派に育て上げるまでは、自分の罪を償うまでは、この決意を消す事は許されない。 ライスシャワーには、自分に幸福を分けてくれたこの笑顔で、人を幸福にしてくれるこの笑顔でいてほしいから。 二度と、同じ過ちで、彼女の笑顔を消すことのないように、全力で育てる。 正志はそう深く決意を固めた。
「ともにレースを走っているときは無我夢中で気がついていなかったが、振り返ってみればみるほど、馬というものが、人間には計り知れないものを、どれほどいっぱい持っているのかを、ライスシャワーは僕に教えてくれたような気がする、彼に出会う前の僕が、もしそうしたことをもっと分かっていたら、もっといい接し方をしてあげることもできたかもしれないと思う」
的場均