・この作品は、十咎ももこと、水波レナのカップリング描写(ももレナ、レナもも)が中心になっています。
・マギアレコード本編とはほぼ関係ない。パラレルワールドです。
オリジナル設定や、オリジナルの人間関係がメインになっていますので、本編の知識はアニメ版と、それぞれの魔法少女ストーリーくらいでOKです。
・ももレナ以外のカップリング(なぎかり、やちさな等)が入ってくる可能性があります。その場合は、前書きに注意を入れます。
・必須タグにクロスオーバー、通常タグに多重クロスや、他作品ネタとありますが
この作品は別で連載中のクロスオーバー小説のスピンオフとなっています。
そちらの知識は必要ありませんが、その関係上、マギカシリーズ以外の登場人物が数名出てきます。
作品名をタグに記載していないのは、その作品の要素が薄いため、その原作を目的に見に来てくれた人の混乱を招くかなということで記載しませんでした。
ただし1エピソードだけ、がっつり絡ませるつもりなので、その時に改めて原作名を前書きで記載しようと思ってます。
・連載ということになってますが、短編集みたいな感じです。更新は爆遅いです。
上記の要素がありますので、苦手な方は我慢してください(´・ω・)
オリジナルの設定や人間関係が、割と説明なしで進むところがあるので、まあニュアンスで楽しんでってください。
「事件です! お客さんが来ませんっ!」
自信満々の新作、オムケーキの発表日であるというにも関わらず、ぜんっぜん客が来ないのである。
ここは見滝原。
人通りの少ない路地を抜けたところに西洋建築のレストランがひっそりと存在していた。
名前は『ウォールナッツω』、神浜にある本店に負けず劣らずをモットーとした、知る人ぞ知る名店である。
「味は最高だし、バズっちゃう要素もいれてるのに! なぜ!?」
ちらほらと客は来るのだが年齢層が高く、ケーキが出たのはたったの一回だ。
名前の通り見た目はオムライスではあるが、実は玉子の部分はクレープ生地になっており、ケチャップはイチゴとベリーのソースにして、中はチキンライスではなくスポンジとクリームとイチゴである。
見た目はオムライス。でも食べれば甘くて美味しいスイーツ。
「我ながら完璧だと思っていたのに……!」
あまりに暇なので対人戦のソーシャルゲームで遊んでいるとボコボコにされた。
相手の名前は『閑古鳥ウェイ太郎』。試合終了後にフレンド申請が来てみたので、開いてみたら、たった一言。
『弱すぎて草』
「なッ、何が草ですか! まなかの炎ですべて焼き尽くしてやりたいくらいですぅううああ!!」
「おちついてください料理長!」
シェフの一人の
「今日は駅前に新しい喫茶店が二つもできたみたいで。そのキャンペーンでとっても安いみたいなんですよ」
新しい店というだけでなく超割引。
さらに一つは年齢層が上向け、もうひとつはティーン向けと、お客がすべて流れているらしい。
「というわけでレナさん。今日はお店はいいので、若い人たちに人気が高いほうの喫茶店視察をお願いします!」
「はあ!? なんでレナが!」
店に降りてきた
「これで店内の様子を撮影してください」
「でもいいのか? そんなこと勝手に」
出前から帰ってきた
「はい。公式アカウントで確認しました。バズらせるのが目的で、今日は店内の撮影をすべて許可しているようです。今も動画サイトでは多くのマギチューバーたちがライブで食事風景が配信しています」
「はぁー、時代は変わったんだなぁ」
「ももこ、それやだ。おっさんクサイ」
「わけぇもんの考えるこたぁ、わからんわい」
「それじゃあ、おっさんじゃなくて爺ですよ」
するとレナは、涼しげな顔でまかなからデジカメを受け取る。
「いいわ。行ってあげるわよ。どんなもんかちょっと興味あるしね」
「助かります。ももこさんも一緒に行ってください」
「ももこも?」「え? アタシも?」
「はい。というのもですね、今日その店に入れるのは、カップル限定となっておりますので、レナさんだけでは無理なんです」
「へー……」
「………」
「「………」」
………
「はぁああああああああああ!?」
「うるさいです」
「ちょ! まッ! は!? えぇ!」
「うるさいです」
「カップルだけって! なによそれ!」
「うるさいです」
「え……!? いやッ、え? は! 聞いてないわよ!」
「うるさいです!! なにか問題でも!?」
「あるに決まってるでしょ! ももこ! アンタも言ってやってよ!」
「へ? アタシはべつにいいけど?」
「はああああああああああああ!?」
「うるさーい! ですから! フリでいいんですよ! わかりますかレナさん!」
「フリって……ッ、だからってなにも、レナとももこッ、で、なんて」
「まなかたちは調理場を離れられませんし、仕方ないですよ」
「でも、でもっ!」
「気になるのならば魔法を使えばいいじゃないですか」
「え?」
「津上シェフ、だれかいい人はいませんか?」
「そうだなぁ。実在する人だと変な誤解が生まれる可能性があるし、かといって空想の人物だとレナちゃんも混乱するし……。あ、そうだ!」
しばらくすると翔一は一枚の写真をグループSNSに送信する。
そこには一人の男子高校生が写っていた。
「知り合いのバーのマスターの若い頃なんですけど、これだったらいいんじゃないかな?」
「確かに。これなら誤解も受けませんし、レナさんもイメージしやすいでしょう?」
「………」
レナは10秒ほど写真を見つめると、固有魔法である『変身魔法』を使って男性をコピーする。
瞳の色以外は完璧だ。
「よーし、じゃあいきますか」
「………」
ももこがニヘラと笑ったのが、ちょっとムッとした。
「おー、まあまあ並んでるんだなぁ」
「………」
自撮り棒にデジカメをセットして、ももこは行列を撮影する。
それはリアルタイムで、まなかのスマホに映像が送られていた。
『カップルチャンネルというものが一部の若者に人気みたいですからね。それとは別に純粋にデートのお出かけ先として立ち寄る人が多いのでしょう』
「意外とみんなミーハーなのかもな。お、また列が進んだ。もう入れそうだな。任せとけよまなか、ばっちりレポートするからさ」
『食レポ、お願いしますよ。SNSを見る限り、意外と食事が美味しいようなので』
「帰る」
「おお、もうすぐ入れ……、ん?」
『はい?』
「レナ、帰る」
そういってレナは列を抜けてトボトボと歩いて行った。
「レナ!」
『ちょちょちょ! ももこさん! 今抜けてしまったら並びなおしですよ!』
「でもっ! 体調が悪いのかも!」
『二億パーセント違います! ヘラちゃんモードになってるだけです! 今すぐ津上シェフを向かわせますので、そこで待機しておいてください』
「そういうわけにもいかないよ! ごめんな、まなか!」
ももこは一旦、カメラを止めると、自分も列を抜けてレナを追いかけた。
路地裏に入ると、レナは変身魔法を解除して背中を向けていた。
「大丈夫かレナ?」
「あんたって本当にタイミング悪いわよね。もうちょっとで入れたのに」
「レナが抜けちゃうからだろ~?」
「……いいの? 追いかけてきちゃったりして。まなかに小言、言われるわよ」
「あー、まあ、あはははは……」
ももこは少し困ったように頬をかくと、そのままレナを後ろから抱きしめた。
「はぁ!?」
「レーナ! どうどう」
「やめてよ人を動物みたいに! 離して!」
「それは無理」
「うッ! うぅぅぅ! 怪力すぎるでしょ! ゴリももこ!」
「よせよこんな美少……、やめた。恥ずかくて冗談でも無理だな」
恥ずかしそうに笑うももこ。レナも頬を赤くしてもがく。
しかし、やがて徐々に大人しくなっていき、それを確認すると、ももこはレナの頭を撫でた。
「どした? 言ってみな?」
「なんでもない」
「本当に?」
「本当になんでもないから」
「嘘だよ。なんでもないならどうして列から抜けたんだ?」
「うざい! 本当になんでもないって言ってるでしょ! アンタ日本語もわかんないの?」
「意地張らない、意地張らない。前に言っただろ? 覚えてる?」
「………」
「アタシの前では全部さらけ出してよ。さっきは周りに人がたくさんいたけど。今はほら、こんな路地裏、誰もいないし。誰も見てないって」
「………」
「どうして追いかけてきたのかって、そんなの決まってるじゃん。レナと一緒に入りたかったからだよ」
「………」
「嬉しかったんだけどさ。ちょっと照れ隠しっていうかなんていうか。ウォールナッツじゃ、どっちでもいいみたいに言っちゃったけど、本当はよっしゃー! って思ったよ? 仕事サボってレナとデートなんて最高じゃん!」
「………」
「あ、今ドキってならなかった?」
「は、はぁ!? なってないわよ! バカなんじゃないの!」
「そっかぁ。でもさぁ、勘違いだったらごめんだけど。もしかしたらレナも楽しみって思ってくれたんじゃないの?」
「………」
「もうそうだったらアタシめちゃくちゃ嬉しいんだけどなー! どう……?」
「……レナも」
「うん?」
「レナも、うれしかった」
「よっしゃー、へへ、同じ考えだなアタシたち」
ももこがレナの頭をくしゃくしゃと撫でると、レナはすっかり大人しくなって、ももこの腕にキュッとしがみついた。
「よしよし。それで? どうしちゃったんだ?」
「嫉妬、しちゃった」
「そっか。ごめんな」
「謝らないでよ。レナが最悪なだけなんだし」
「謝るよ。ごめん気づいてやれなくて」
「そういう優しさ本当にうざい」
「レーナ!」
「……ごめんってば。また。うん、だから、その、レナ、男の人に変身してたでしょ? 周りから見たらももこがあのお店に入っていくのは、その人と一緒にってことじゃん。それがなんだか凄い……、嫌だった」
「そかそか。じゃあ一緒に行こうよ。レナの姿で」
「でも、その……、いいの?」
「何が?」
「だから、なんていうか。そういう人たちしか入れないお店なんでしょ」
「んー、まあ今どき珍しくないんじゃない? 並んでる時に店内見たんだけど、女の人同士もいたよ? 黙ってたらバレないって」
「でも――!」
「なんだったら手でも繋いで並んどくか?」
「ッ、そういう意味じゃなくて!」
「へ? なにが?」
「……はぁ、さいあく」
「えぇ!? ご、ごめんッ」
「もう、いい。大丈夫だからいこ。ほら、手を繋ぐんでしょ」
「お、おお」
こうして、二人は最後尾から並び直すことに。
「いやぁ、ごめんなー、まなか」
『べつに、かまいませんよ。どうせ今日は暇ですし』
「……ごめん」
『お、レナさんが素直に!』
「てか、ももこ、手汗やばい」
「うっ、ごめんごめん。で……」
でもレナだって凄いぞ。
それを言うとまた列を抜けるハメになるのでやめておいた。
それに心なしかレナが嬉しそうだ。水を差すのはやめてあげよう。
「はぁ、それにしても並びすぎでしょ」
「それだけ愛が育まれてるってことだからいいんじゃない? それに列が長ければレナとたくさん話せるし、ラッキーじゃん」
「……きもちわる」
「あはははは」
レナからは悪態をつかれたが、繋いでた手に力が入った。
ぎゅっと、レナは強く握ってきた。まるで離してほしくないといわんばかりに。
ももこは嬉しくなって、繋ぎ方を指を絡ませる恋人つなぎに変更してみる。
「調子乗ってんじゃないわよ」
パッと、手を離された。
「うーん、むずかしーなぁ……」
しかし確かに周りを見てみると、それぞれのカップルは楽しそうにお喋りをしている。
それはレナとももこも同じだった。
「昨日のミュージックボンバーのやつさぁ、やっぱ、いーちゃんは声がいいよなぁー」
「わかる! あんなにかわいい顔なのに、喋るとすっごいハスキーで、ユニオンジャックのサビとかやばかったよね!」
「そうそう。先月のテレビスパイス見た?」
「あのインタビューでしょ! 見た見た!」
「あんなに素敵な声なのに、本人からしてみればコンプレックスだったりするんだなぁ」
「まあちょっとわかるけどね。レナたちだって、そうでしょ」
「あはは、確かになぁ」
「いくちゃんは凄いよ。魔法少女にならなくても克服できたんだから」
「まあそこは優劣なしにしようよ。アタシたちだって魔法少女だったから出会えたんだし。今もこうして、こんなことができる。アタシは魔法少女になって心からよかったなって思えるけど?」
「………」(すぐそういうことを言う)
「でもさぁ、あのインタビュー、やたら豚骨ラーメンに言及してたじゃん?」
「ん! 食べたくなったよね!」
「なったってことは我慢したってこと? アタシ思いっきり夜のラーメン屋に繰り出したんだけど……」
「ぷふっ! なによそれ! 全然気づかなかった!」
「ま、まああれだよな。アタシらよく動くし戦うしセーフだよな」
「……知らない。ふん!」
「え? なんで不機嫌になるの?」
「……誘いさないよ」
「え? あ、ごめん。でも行ってた?」
「行くわけないでしょ。夜にラーメンなんて食べたら太るじゃない!」
『めんどくさい女ですねー……』
「ちょ! は! まなか聞いてたわけ!?」
『ずっと聞いてましたよそりゃ。ライブ切ってませんからね。ところでユニオンジャックってなんですか? イヤホンジャックみたいなもんですか?』
「んなわけないでしょ! 曲名よ! アクトレスってグループ知らないの!?」
『さっぱりです』
「なんかムカツク。今度CD貸してあげるから聞きなさいよね!」
『お気持ちはありがたいのですが、まなか、音楽は携帯で聞く派なのでプレイヤーが……』
「カス! レナの貸す!」
『一番最初のカスは悪口のトーンでしたねっ』
「ははは! まあまあ、とにかくさ、そのグループのいくちゃんって子がすごくてさぁ」
アイドル話に花を咲かせていると、やがてレナたちの番になる。
女二人ではあったが、特に何事もなく窓際の席に案内される。
『メニューはどんな感じでしょう?』
「ちょっと待って。ほら、どう、見える?」
『はいはい。なるほど。まあ価格はそんなもんですか。コーヒーのバリエーションは少ないけど紅茶が豊富ですね』
「うわっ、何このメニュー」
『どれどれ? あー、ははは……、これはさすがにですねぇ』
レナが示したのは巨大なピンク色に着色されたソーダなのだが、見た目がすごい。
グラスが巨大なハート形をしており盛り上がった二つの部分からストローが出ており、要はカップルが見つめ合ったまま飲むようなのだが――
「ばっかみたい。こんなの頼むわけないでしょ」
『い、いいんですかレナさん。周りにいたらどうするんです!』
「いないわよ、いるわけないでしょこんなモン頼むバカップル」
『なんですか? "永久のラブ誓っちゃいました超ラブラブソーダ"って、ぷぷぷ! 商品名も凄いですね。これを店員さんに口頭で注文できる度胸のある人間なんてそうそう――』
「え?」
ももこの前に、ドン! と置かれた永久のラブ誓っちゃいました超ラブラブソーダ。
「ちょっとマジ! アンタなんてもん頼んでんのよ!」
「喉乾いてたから頼んだんだけど……、まずかった?」
『て、提供時間はや! これは素直に見習わなければなりませんっ!』
「っていうかいつの間に頼んだのよ!」
「いやぁ、二人が話してる間に」
『しょ、商品名言ったんですか。口に出して』
「う、うん」
『ぶほっ! ぷひひひひ!』
「ももこアンタねぇ! これっ、は、恥ずかしくないワケ!?」
「いや……、おいしそうだったし。大きい割には値段も安かったし……。飲まないの?」
「飲むワケないでしょ! そんなの飲むのバカだけよ!」
「えぇー……」
レナはメニューに視線を戻した。
しかし次第に表情が暗くなっていく。
どんどん、どんどん、時間とともに悲しそうな顔になってくる。
レナはチラリと、気づかれないように、ももこを見た。
彼女は目を閉じて無表情でラブラブソーダを吸っている。
しかし、のどが渇いていると言ったわりには減りが遅い。
(そりゃ、そうよね。二人で飲むものなんだもん)
まあ今でもあんなものを頼むセンスは理解できないが、それでも真正面から否定してしまった手前、何を言っていいのかわからず、無言の時間が過ぎる。
レナはメニューを見ていたが、メニューを見ていない。
それを理解しているようで。
まなかも何も言わず、それが結果的に無言を強調してしまう。
(……ももこのやつ、もしかしたらレナと一緒に飲みたいって思ってくれたのかな? それなのにいらないなんて。不快に思っだろうな……)
レナは悲しくなった。悲しいので、楽しそうな顔なんて全然できなかった。
(ただでさえ一度列から抜けて、時間を無駄にさせたのに。今またこうして勝手に不機嫌になって。ももこは全然楽しくないだろうな。嫌われたかも。うん、絶対そう)
気分は最悪最低だった。
(せっかく楽しみにしてたのに。レナがいじっばりなせいで……)
ももこに嫌われたらどうしよう。
でも仕方ない。こんな卑屈で意地っ張りで面倒なヤツと一緒にいて楽しいわけがないんだし。
ももこは優しいから今までは付き合ってくれてたけど、さすがに愛想を尽かしても仕方ない。
仕方ないのに、悲しい。
自分が悪いのに、寂しい。
ももこに、嫌われたくない。
だってももこは――
………。
短気、ウザい、上から目線、人が傷つくことを平気で言う。
水波レナはそんな女である。
なのでそういう女を見ると、みんなは不愉快になる。
だから弁当にジュースをかけたりもするのだ。
「なにすんのよ!」
「そっちから喧嘩売ってきたくせに!」
そうなのか?
そうなのかもしれない。ずっとそうだった。
どの学校でも似たようなことを言われた。
その日の夕方もトイレの個室にいたら、外から聞こえてきた。
「水波って本当ムカツクよね」
「わかる。だいっきらい! この前も挨拶したのに無視されたし」
ああ、あれは自分に挨拶していたいのか。
そうだとわかっていれば、返したのに。
レナは一瞬だけ飛び出していこうかと思った。
「でもいるじゃん。どうしようもなくコミュニケーション取れないやつって。そういうのなんでしょ」
「病気なんだろうね。あはは」
「変に関わらないほうがこっちの身のためかもね」
声が遠くなっていく。
レナはへたり込むように便座に座った。
別に気する必要なんてない。ニコリと微笑んでみる。
いつもそうだった。いつものことだ。
べつに、こんなことで心を浮き沈みする必要なんてない。
そう思って、家に帰った。夜のテレビは特に面白くなかった。
次の日、クラスの真面目そうなヤツに怒鳴られた。
「いい加減にしてよ水波さん! あなたがどれだけクラスの雰囲気悪くしてるかわかってるんですか!」
「は、はぁ!? なんで私だけ。向こうだって注意しなさいよ!」
「貴女だけなんですよ! クラスの出し物の手伝いをしてくれないのは! 彼女たちはなんだかんだ手伝ってくれるけど! 水波さんは黙って帰ってばっかり!」
「う……ッッ」
視線が痛い。
クラス? なにが? 嫌いなのに手伝えって?
「うっさい」
「はぁ!?」
「う、うるさい! うるさいってば! アンタに何がわかんのよ! 馬鹿ッ!」
「馬鹿は貴女です! いい加減に自覚しろ!」
レナは逃げるように教室を出て行った。
もういいよ、あんなの放っておこう。その言葉がレナにはなぜか救いだと勘違いした。
だからその日のお風呂。レナは嬉しくて笑っていた。
放っておいてくれるらしい。それはありがたい。今後が楽になる。
クラス発表会では私以外が頑張って。
私以外が苦楽を共有して。
体育祭とかがあれば私以外が頑張って、応援とかしたりして、一緒にお弁当とか食べたりして。
文化祭では楽しい思い出とかいっぱい作ったり、恋とかしちゃったりして。
とてもいいことじゃないか。
とても素晴らしいことじゃないか。
私以外でぜひ青春を謳歌してもらいたいものだ。
花火大会とか、お祭りとか、紅葉見に行ったり、寒い日はみんなの家で集まって、新年は初詣とか。
楽しんで、たくさん笑って。
レナは、ちっとも笑えないけど、それでも、それで……
「……ぅぁ」
ポタリと、お湯に波紋が広がった。
「うぅぅう! ぐっす! ひっく! うぇぇええ……!」
ポタポタと、お湯に涙が落ちていく。
「どうじて……? レナ、何にもわるいごとっ、じてないのにぃ」
きっと他のクラスにも悪評は届いてるし、中高一貫だから、まだまだ孤独は続く。
修学旅行とかは適当に休めばいいのか。でもそれで両親が心配したらどうしよう?
バレたくない。余計な心配をかけさせたくない。
いじめられてるなんて、知られたくない。
「………」
風呂を出て、自室。
泣いたから疲れた。疲れたから酷い顔だ。
レナは鏡を見て項垂れた。
この顔が悪いのかな?
この態度も今さら変えられない。
リセットボタンがあったら押したい。
キャラメイクをはじめからやり直したい。
「でもそんなことできるわけが……」
『できるよ。魔法少女になれば』
幻聴が聞こえた。
レナには一つ、希望があった。大好きなものがあった。
それは『アイドル』だ。
男性アイドルよりは女性アイドルに惹かれることが多かった。
彼女たちはとてもキラキラしている。それはレナにとって縋る希望であり、憧れであり、そしてなによりも大きな絶望だった。
愛される彼女たちの表情はとても素敵だ。魅力的だ。キュートで仕方ない。
でも鏡の中にいる自分はとっても嫌な目つき。
アイドルに勇気をもらっても、悪態をつくことにしか利用できない。
アイドルに元気をもらっても、それが敵意に食いつくされていく。
アイドルに光をもらっても、暗くて惨めな自分の影ができるだけ。
顔も嫌い。声も嫌い。名前も嫌い。身長も嫌い。体重も嫌い。
水波レナが、大嫌い。
『ボクと契約して、魔法少女になってよ』
わかった。
「別人に変わりたい。別人に変わる力を、レナにちょうだい」
でも、それでも何も変わらなかった。別人になれる力をもらったとしても。
だけど一つ、とっても嬉しい出来事があって……
その日、水波レナは怒っていた。
大好きなライブでゴタゴタなんか起こしたくなかったのに。
座席のトラブルで男の人と揉めた。
最悪な気分だったけど、助けてくれた人がいて――
「あの! どうかされましたか!」
それが、十咎ももこだった。
「いや~、あーいう大人にだけはなりたくないね。なっ?」
「へ!? えぁ!?」
「えあ?」
「ぇ、……ぁ、はい。あの、ありがとうございました」
「おー、どういたしまして!」
今までは助けてくれる人なんていなかったのに、ももこは違った。
いろいろ話してみると、いろいろ同じで。
「え! 一緒一緒! なんか感激だぁ!」
「本当も本当! 出てきた頃から、さぁちゃん一筋だから」
「私もっ!」
アイドルが好きで、推しも一緒で、同じ魔法少女。
おっせかい焼きで、明るくて、優しくて、でもいろいろタイミングが悪くて。
その後、一緒に魔女を倒した。
「番号、教えてくれる?」
「え……?」
「?」
なんだかどうやら、苦しみまで一緒らしくて。
「アドレスでも、いーけど……」
「あっ!」
普通聞かないって。
それに聞いたとしても、そういうのって社交辞令じゃん。
でもももこは本当に連絡してきてくれた!
『水波さん! 久しぶり! この前の話の続き、できないかな?」
「へあ!」
『……部屋?』
「ぁ、じゃなくって、う、うん。大丈夫」
『やったぁ! じゃあ――』
それも一回じゃないの! 何回も!
「――ってことがあってさ、結局会場入れなかったんだよ~」
「なによそれ、バカなんじゃない?」
「……ほへ?」
(あっ! き、嫌われる……!)
「ぷっ!」
「……へ?」
「ぷははは! 確かにバカだよな! あははっ!」
「う、うん……」
「ナイスツッコミ! いやー、バチっと欲しい言葉をくれた感じがして気持ちいいね!」
「え、えと、うん」
「もっと水波さんと仲良くなれた気がする」
「仲良くって……、ほんと?」
「うん? 本当だよ? だからもうさ、これはさ、レナって呼んでもいいかな?」
「ぇあッッ! あ、うん! いい、けど。べつに。うん、いいけど」
「そっか。じゃあレナって呼ぶな。ところでレナ!」
「な、なに?」
「え? あ、いや、今のは景気づけに呼んでみただけ」
「なによそれ! ふざけてんの!」
「はははは! ごめんごめん。お詫びにさ、アタシのことも、ももこって呼んでいいから」
「え、でも……、先輩だし」
「中学生も高校生も中身そんな変わんないからいいんだよ。な? レナ」
「う、うん。も、ももも……」
「桃藻?」
「ももこ!」
「おお! なに?」
「……べつに。なんでもない」
「おお! 明日はどうする?」
「え? 明日って? 明日も会ってくれるの?」
「うん? そうだけど、用事あった?」
「ないけど、お、お金とか……払うんだっけ?」
「……は? なに? なんの話?」
「あッ、いや、違くて。違う! うん! 会う! 会う!」
その日の夜。
レナはニヤニヤと笑っていた。
ベッドの上で携帯のディスプレイ、『十咎ももこ』の文字を見てニタニタと笑みを浮かべていた。
本当に本当に本当の本当に久しぶりにできた――
「レナの、お友達……!」
十咎ももこ。
家族以外ではじめて追加された名前と番号だった。
「あっ!」
ある日のこと、それは偶然だった。
たまたま、ももこに貸そうとした推しの特集が組まれた雑誌を落としてしまったのだ。
しかもそれをクラスメイトに見られてしまった。
「なに? 水波さんってこういうの好きなの」
「ち、ちが――ッ!」
「水波さんが推してるってことは、たいしたことないんだろうね」
「!」
「ちがうちがう、逆でしょ。水波さんみたいな人が推してたら呪われて引退か自殺でもしちゃうんじゃない?」
普段はなんともなかった。なんともないと思っていた。
なのに、その時だけは、なぜか、心が折れる音が聞こえた。それこそソウルジェムが真っ黒に染まる程の。
しかし奇しくも、その音が、ももこの叫びにかき消されたから。
なんとかレナは踏みとどまった。
「アタシの大切な友達に! なにしてんだって聞いてんだッッ!」
どうやら、ももこは本気で怒っているようだった。
長身で、しかもそれなりの修羅場を潜り抜けてきた女の気迫は、なかなかに響いてくれたようで、意地悪な少女たちの足が面白いようにガクガク震えているのがわかった。
「ご、ごめんなさいッ!」
「アタシに謝るな! レナに謝れ! 彼女がどれだけ痛かったか、お前に想像できるのか!?」
ももこは激怒していた。
「この子はちょっと不器用なだけで優しい子なんだ! それをなんだお前ら! だいたい誰かが必死に応援してる気持ちを馬鹿にするなんて、どういうつもりなんだ! 大切な思いを踏みにじって! 人の心がないのかよお前らは!」
「は、はい! み、水波さん、あのっ、本当にごめんなさぃ!」
「まだだ! 二度としないって言え!」
「は、はい。もう絶対……! しません! い、いこ!」
「う、うん! 本当にッ、ご、ごめんなさい!」
クラスメイト達は逃げるように去っていく。
ももこは怒りが収まらないのか、しばらく肩で息をしていた。
「ったく!」
「……ももこぉ」
「大丈夫だったかレナ! なんッなんだよアイツら! 本当に性格が最悪だ! さすがにブチギレたぞ!」
「ぶっっ!」
「……え?」
まさに一瞬。涙が引っ込んだ。
憤った勢いというのか、ももこの鼻から焼きそばが出てる。
歯にもいっぱい青のりがついている。
ももこはしばらくポカンと目を丸くしていたが、レナの視線で理解したのか、真っ赤になって後ろをむいた。
「くそ! タイミングが悪いよなぁ。人が焼きそば食べてる時に……」
「ぷふっ!」
「?」
「あはは! あはははは!」
レナは笑った。
ももこも、釣られて笑っていた。
それからいじめが、ピタリと止んだ。
「よかったじゃん」
「ビビってるだけでしょ。誰からも話しかけられなくなっただけで、陰口はきっとまだ続いてるわよ」
「あ、あー、ごめん? いや、でもなぁ」
「べつに。こっちのほうが遥かにマシ。うざったい連中と話さなくて、せーせーするから」
「まあ、その、ごめん。もっといい解決方法があったと思うんだけどアタシ、本当に、あの時は頭にきて」
「もういいってば。むしろその……、ありがと。本当に来てくれて」
「あたりまえだよ。友達なんだから」
「………」
親友じゃないんだと、ちょっと胸がチクっとした
「まあでも、別にいいんじゃない」
「え?」
「クラスメイトなんて、ただ一緒の箱の中に入れられた人でしかないんだから。しばらくしたらもっと広い場所に出られて、そこで気の合うヤツが出てくるかもしれないし」
ももこの表情は少し暗い。その言葉は自分に投げかけているようにも思えた。
ももこが契約したのは好きな男の子に告白するためだった。でも彼女はとてもタイミングが悪くて、だからその恋は成就することがなくて。
とにかく、ももこは落ち込んでいた。泣きそうだった。っていうか少し泣いていた。
だからレナは言ってやったのだ。
『これからはもう平気。ももこのタイミングの悪さなんて、ぜーんぶッ、レナがフォローしてあげる!』
『レナ……! っ、うぅ、ぐすっ!』
『ほら! もう! いつまでも掴まってないでよ、重たい!』
あの言葉はきっと、ももこに響いたはずだ。
なんだったら響きすぎて、もうレナなしでは生きていけない体になっている説はある。
なんて、思ってみたり。
そんなことを考えていると、ももこが口を開いた。
「実際アタシとだって箱の外で会えたんだから。な? レナ」
「そうよ。うん。そう」
「運命だと思ってるよ。同じ魔法少女で、好きなものも一緒で。変わりたくて、変われなくて」
「……レナも」
「ん?」
「レナも、そう、思ってる」
友達になってからも、ちょっとした事件はあったりもした。
レナがちょっと、いやかなり激しい嫉妬のせいで迷惑をかけたりもした。
でもなんだかんだ。ももこは、離れないでいてくれる。
その優しさには甘えたいと本気で思ってしまっているし。
だからこそ、ももこが何をしても離れない。そう思ってもみたり。
「あーあ! でもクラスの連中、マジでもったいないな。本当のレナはこんなに可愛いのに」
「はぁッ! なに、いきなり!? ばかなんじゃないの!」
「あはははは!」
「もうッ! ばか! ばかももこ!」
「照れんなよー、別にいいじゃんさ」
「……ッ、でも、レナが悪いところもあるのは、その、事実だから」
「なら、まあ、とりあえず、それに気づいてればいいんじゃない? アタシがレナに惚れたのは何も良い子だったからってわけじゃない。いい所があって、その部分が好きだからだよ」
(惚れた!? いいい今ッ、惚れたって!)
「レナ?」
「あ、いや」
「とにかく悪い部分もアタシにしてみれば可愛いし。もっと嫌な奴は見たことあるし。それに比べりゃあさ、レナはやっぱり、うん。可愛いよ」
(か、かかかか可愛いって!)
「レナ?」
「……ばか」
「えぇー、なんでぇ……?」
「ばかももこ。あー、やだやだ本当。ももこのセクハラおやじ」
「????」
「ま、無駄な力だと思ってたけど、契約してみるもんね」
「……変わったことで気づけたんだよ。そしたらそれは儲けモンじゃん?」
ピースがはまった気がした。それは、お互いだ。
「ま、そんなわけでさ。これからもよろしくな。相棒」
「………」
「ありゃ? なんか不満顔?」
「べつに」
「相棒は嫌だった?」
「そうじゃないけど」
「じゃあ、親友として?」
「………」
「お、笑った。これが正解ってわけですね。レナお嬢様」
「きも」
「えー……」
「なんか、ちょっと」
「?」
「………」
ただ、一つ。
あまりにも大きなミスを、レナは犯してしまったと思っている。
どうにも、完璧にはき違えてしまったようだ。
感情を。
人間、忘れるものと忘れないものがある。
たとえばずっと昔に読んだ小説の展開とかは忘れてしまうかもしれないけど、自転車の乗り方とかは、なかなか忘れないものである。
たとえば昔、遊んだ友達の家の場所を忘れてしまうかもしれないけど、『田』とか『火』とか『水』辺りの漢字は忘れない。
このように、まあ人それぞれ、忘れてしまうものがあるのだ。
レナの場合、それは友情だった。彼女にとって友愛とは『忘れてしまうもの』だった。
あまりにも長い間、心を覆っていたドロドロの殻が友情という概念を隠してしまったのだ。
だから久しぶりの高鳴りを、はき違えてしまった。
最大のミスだったと、今でもわかってる。
でもやっぱり友達ってどういうものかを忘れてしまったから、友愛から『友』が飛んでいってしまった。
そしたら、まあ、なんとも困ったことに。
「………」
レナは自分の部屋で携帯を眺めていた。
画面に映っているのは、微笑む『十咎ももこ』だった。
『好きだよ、レナ』
「………」
ほんの短い動画だった。
本当は長いほうがよかったけど。いろいろ辛くなるから、残念だけど、これ以上は長くない。
『好きだよ、レナ』
一番最初に撮った時より、上手くなってる。
『好きだよ。レナ』
「……ァも」
口パク。母音。え、あ、お、う……
「……き、も」
レナは携帯をベッドの上に投げた。
「キモい」
喜びなんてない。あったとしてもそれは、あまりにも儚い刹那。
次からはもっと大きな嫌悪感が訪れる。
(それでも……、レナは)
なんて、思ったこともあったっけ? まあでも、もう悩む必要はもなくなる。
だって現在、ここは喫茶店の中。
全て、もう終わりなのだ。終わったのだ。
レナはメニューをぐッと握りしめる。
『あ、あの、すいません。あの、レナさん。貴女だけですよ? このお店でこの世の終わりみたいな顔してるの』
無言になっている間、何を考えていたのやら。まなかにはわからないが、なんとなく察することはできる。
どうせ、ももことの出会いを思い出し、ももことの終わりを妄想してセンチメンタルな気分に陥ったのだろう。
(これはいけません。ももこさんに連絡して、レナさんに――)
まなかが携帯を手にした時だ。
「レナ、どう? やっぱ一緒に飲んでみない?」
ももこがニコリと笑った。
レナはパァアっと嬉しそうな表情に変わり――
「ばかじゃないの? いらないって言ったでしょ! フン!」
『冗談みたいな女ですね。嘘でしょ……? まだ? まだ張れる意地が残って……? えぇ……?』
「ふふふ、まあまあ、ここはひとつ任せてみてよ」
いらないと言われたが、それでも、ももこはグラスを差し出してみる。
「ほら!」
「………」
「ほらほらぁ!」
「……っ」
「ん!」
「……うん」
「よし!」
レナはストローを咥えてソーダをチューっと吸い込んだ。
【なるほど。時には北風も有効ですか】
まなかはレナにバレないよう、ももこだけにメッセージを送る。
【そもそも、わざと飲むスピード、遅くしてましたよね?】
【まあね。お姫様がいつ心変わりしてもいいようにさ】
【でもどうして無言だったんですか? おかげで思い詰めていたようですが】
【たまにはね。あんまり優しくしすぎても嫌みたいだからさ】
【参りました。今度、説明書を作ってもらいたいくらいです】
「ちょっと、ももこ、スマホみるのやめてよ」
「へっ? あ、いやっ」
「誰? レナと一緒にいるのに、誰とやりとりするっていうの? 教えてもらおうじゃない!」
「えーっと」
「それはレナとお喋りするよりも重要なのかって聞いてんのよ」
『めんッッ! どッッ! くゥッッッ!』
「まなか!」
『黙りましょう』
「おい! 助けてくれよまなか!」
「助ける……?」
「いやいやッ! つ、津上さんだよ。料理の味はどうかって」
「ふーん」
「もう教えたから。はい終わり。さあ、携帯をしまうよ。見てて。はい、はい! しまった! じゃあレナ、お喋りしようぜ。なに話す? こういう店なんだもんな。恋愛のことについて話そうよ」
「……え」
「好きな人とかいる? 実際。なんて、あはは……」
「………」
「あれ? なんだその顔。アタシなんか地雷踏んだ?」
「……ももこ。変身してあげよっか。あの人に」
「っ!」
「ちょっとだけでも……、そしたらバレないでしょ。ここは見滝原なんだし、それにそもそもここは――」
「いいよ。そんなこと……、しなくても……」
「ッ、ごめん! レナ無神経なこと……! で、でも本当に変な意味じゃなくて、ももこへのお礼がしたかったっていうか! わがままたくさん言ったッ、お、お詫びがしたくて……ッ!」
慌てふためくレナを見て、ももこは苦笑する。
「へぇ。じゃあ、まあそうだな。そういうことなら変身してもらおっかな」
「……うん」(やっぱりレナじゃ満足できなかったんだ。そうよね、バカみたい……)
「水波さんになってよ」
「南さん……? って、だれ? それ、レナの、知らない人……」
「ふふふ、そんなまさか」
「え……? あ、え? もしかして水波さんっ!?」
「そう。ふふ、笑顔の水波レナになってくれたら最高なんだけどな」
(やばっ、泣く……!)
するとももこは白目をむいて変顔をしていた。
「ればー! ばやくぅー!」
「なにそれ、逆に冷める」
「……ガチ?」
「はい」
「?」
「これでいい?」
にっこりと、レナは、最高の笑顔を見せた。
「ん。完璧。なんだよー、やればできるじゃん」
「当たり前でしょ。アンタと一緒にいるんだから」
「よし! じゃあもっとなんか頼むか! せっかく来たんだしね!」
「甘いもの!」
「……たこやきはないのかなぁ」
「あるわけないでしょ!」
『ありますよ』
「あるんかい!」
その後、料理とスイーツをたくさん注文した。
レナとももこは笑いながら、それをバクバク食った。
「まあでも大きな声じゃ言えないけどオムライスはウォールナッツの完勝だな」
『当然です! まなかの魂がそう簡単に敗れるわけがありません!』
「あ! これおいひぃ!」
「本当か!? ちょっとくれ!」
「やだ」
「ひどっ!」
「もういっこ頼めばいいじゃん」
「そんなにはいらないんだよ」
「じゃあ、はい、食べ過ぎないでよ」
「バクバクバクバクッッ!」
「ももこ! アンタっ、さいてーッ!」
「あはははは!」
「……ふふ」
『楽しいですか?』
「もちろん。なあレナ」
「………」
なんだかムカツクので、答えなかったけど。
ももこも、まなかも、レナの表情を見て理解した。
レナでさえ、自覚している。
(あぁ、楽しい)
この時間が、永遠に、続いてほしい……!
とはいえ、そんなレナの願い虚しく、時間はあっという間に過ぎ去った。
もう帰らないと。ももこが言ったのでレナは渋々、頷いた。
二人がレジに向かうと、そこにはウォールナッツωのバイトリーダー、マナティー先輩が!
「リーダー! こんなところで何を!?」
「何をって、もちろんバイトだよ」
「いくつ掛け持ちしてんすか!」
「ふふ、それがリーダーたるものなんだから! さて、お会計でしょ? 実はね、このお店、すっごい割引方法があってねー」
「はぁ」
「なんと! 今ここでキスしてくれたら、半額オフ」
「はぁぁあ!?」
レナは身を乗り出してバイトリーダーを睨む。
「正気!?」
「ウン、だって、それがルールなんだもん」
「だからって、そんなの――」
レナは、頬に、刺激を感じた。
くすぐったいような、ぞくっとするような、そんな感触だった。
やわらかい湿ったマシュマロに、無数の細くて小さな棘があって、それを押し当てられたような感触。
チクっとしたように錯覚したのは、わざとらしく音を立てるため吸い付いたからだ。
チュッと音がして、ももこの唇が、レナのほっぺから離れる。
「これでどうっすか?」
「わお、熱いんだからー。じゃあ半額にしとくね」
「サンキュー、リーダー」
「………」
「レナ?」
「ばかももこーッッッ!」
「レナーッッ!!」
レナは陸上選手みたいなフォームで、一気に走り去っていった。
『ももこさんってば罪な女。またヘラりますよ? 他の子と一緒に行ってたら、その子のほっぺにも同じことをしていたのかー! とかなんとか』
「えー?」
『絶対です。まなかは、お夕飯のハンバーグを半分賭けます』
「レナだからやったんだけどなぁ。まあ、いいか。それで拗ねるのもレナらしいし。でも、よっしゃ! その勝負乗ったぁ!」
ももこは呆れたように、それて少し申し訳なさそうに笑った。
若干の後悔も、心には残しつつ。
「はい」
「なんですか?」
「お土産」
まなかの前に、ラスクが置かれた。
「あぁ、なんか買ってましたね。クラウチングスタートの前に」
「やっぱあげない」
「ごめんなさい」
「………」
再びまなかの前に、ラスクが置かれた。
「それで、これは可奈たちに」
たまに助っ人で来てくれるスタッフのため、レナはお土産のクッキーを置いた。
「翔一にも、はい」
「お! ありがとうレナちゃん。どれどれぇ、ラスクかな? クッキーかな?」
「粗塩」
「これは予想外だ」
翔一は、塩を持って下に降りていく。
「?」
まなかは気づいた。
レナが、もじもじしている。
やたら、もじもじている。
一度、止まって、また、もじもじしている。
「なんですか? おトイレならどうぞ」
「違う! い、一回しか言わないから!」
「はいはい。なんですか?」
「……今日は、ほんと、ありがと。まなかが提案してくれなかったら、今日の楽しい時間、なかったから」
「いえいえ。いつも頑張ってくれている看板娘にお礼をするのは当然ですので」
「まなかは、その、いないの? 好きな人」
「いません! いるとしたらお客様が恋人ですとも! 愛した人に振る舞う料理ほど最高なものはないのですから!」
「ふ、ふぅん。まあ、忙しそうだしね」
「そういうことです。ただそういう意味では、まなかの料理の虜にさせたいという意中の相手はいるかもしれませんが……」
まなかは、ちらりと窓際に飾ってある聖書を見た。
「まあ、それに」
「?」
「……いえいえ。今度、お土産のお礼にあんぱんをご馳走しますよ!」
「本当! やったぁ! こしあんじゃなかったらギタギタにしたあと八つ裂きにしてメタメタに引き裂いてやるんだからっ!」
「負のパート多いですね。後半の闇がテンションとあってないですね。なんなんですか」
「……つい、うれしくなって。察してよ」
「東大受験より難関ですよそれ。ふふふ、くぷぷぷぷっ!」
「ぷっ! あはは、あははははは!」
釣られてレナも笑う。
やはり、恋人はまだ当分いいやと、まなかは思う。
(忙しいし、料理の腕をもっと磨きたいし、なによりもこんなにも面白くて一緒にいて飽きない友人たちがいるんだもの!)
「なに、ジロジロ見て」
「いえいえ。頑張ってくださいねレナさん。まなかは応援してますよ!」
「………」
「なんでこの流れでまた地獄のような顔になるんですか!」
「ちょっと思ったんだけど、ももこって、レナ以外の子と行ってても、最後ああやってチューしてたのかな……?」
「やりました! まかな! 大正解っ!」
「ももこならやるよね……、みんなに優しくて、みんなに好かれて、でもレナは――」
「黙りましょう! さあさあ、夜のハンバーグの仕込みがありますので、手伝ってください! じゃないとレナさんのハンバーグも半分たべちゃいますよっ!」
「は、はぁ!? なんでレナのを! 翔一のにしときなさいよ!」
レナは嫌そうにしながらも、まなかと一緒に下の調理場に降りて行くのだった。
ももこのきょとん顔、めちゃくちゃ好きなんですよね。
マギレコとか、ソシャゲの二次創作って結構、深いと思ってて。
たとえばキャラクターの解釈とか印象も結構人によって変わってくるのではないかと。
亜里紗のキャラクターストーリーでレナの掘り下げがあったりするので、どこから始めたか、誰かを持ってるか、誰から引いたかで、誰をパーティに入れたかとかで、いろいろな幅があると思うんですよね。いろり。
特にマギレコは石はくれるけど、とにかく確立が低いんで、狙ったキャラじゃなくて謎の星4が来るみたいなこともあるのではないかと。
私も持ってないキャラクター山ほどいるんで、今回は再構成という形で、概念のみをぶつけようと思いました。
まあ本当にマギレコは石くれるし、ガチャもめちゃくちゃ回させてくれるんで、気になったらやってみてください(´・ω・)b