ちょっとシリアステイストかも
「事件です! まなかは今日、人類の歴史を変えてしまうかもしれませんっ!」
自信に満ち満ちた笑みを浮かべながら、クロッシュを取った。
「できました! まなか特性ベーターフードです!」
『ほう』
「牛肉をお野菜の旨味たっぷりのスープでトロトロになるまで煮込みました。これを食べればインキュベーターも改心して魔法少女を増やそうだなんて思わなくなる筈です」
『………』『………』
「どうですか? 美味しすぎてほっぺが落ちちゃいそうでしょう?」
『んー、まあ美味いと思うぜ。感想はそれだけだ』
「………」
『頬が落ちるわけないよ。頬に深い傷があって、咀嚼の振動で肉が剥がれ落ちたとすれば理解できるけれど。そんな状況で食事を楽しめるわけがない。どうして人間はそういう表現を美味のたとえに使ったんだろうね?』
「………」
『確かに味付のバランスはいいようだけど、一定値を超えれば人間は誰もが美味しいと認識するから、そこから優劣の差をつけるとすれば人間ひとりひとりの好みというものになるだろう。ボクにはよくわからないけれど、美味しいという感情。それが宇宙延命の大いなる指名を放棄するに足りえるものだとキミは本当に思っているのかい? 胡桃まなか。だとすればそれは愚かな考えだよ』
『テメェが使った食材の合計金額はおそらく一万にも満たない。高級食材でもてなすとすれば、まだ理解できるが……』
『そうだね。それにキミはボクらの説得に牛肉、つまり牛を使っている。命を守ろうとしているのならばその一貫性のなさが引っかかるのはボクだけではな――』
「やかましいこの白ダヌキに泥ダヌキめがッッッ!!! ロマン一つもわからない無粋な連中はさっさと帰ってください!」
『なんで泥なんだよ。先輩が白なんだから黒でいいだろ』
「やかましい! ほら! ほれ! えぇい! まだいるか!」
まなかは妖精たちを追い出すと、大きなため息をついた。
ジュゥべえを見て思う。あれは黒、黒色だ。あの時もそうだった。
着なれない喪服が窮屈で、幼いまなかは外に出た。
煙突があって、そこから煙が上がっているのを、ぼんやりと不思議そうに見つめていた。その後、骨だけになった遺体を見る。
その部屋には独特の『におい』があって、しばらく鼻から消えてくれなかった。
『現在』
見滝原グランドホテル。
ツインルームで四人の少女たちが楽しそうにはしゃいでいた。
チーム名は、ネオ・ブロッサム。
彼女らはいずれも『MPD SAUL』と書かれた桜の紋章がついたバッジを身に着けている。
扉が開くと、同じものを身に着けた長身の青年、『
彼は刑事だった。
「ご苦労様です!」
バッと立ち上がり、ビッと敬礼を行ったのは、ネオブロッサムのリーダーである『
正義の象徴である警察に憧れているからこその行動なのであって、他のメンバーは寝ころんだり座ったままだったり、ゆるーい感じで氷川を出迎えていた。
「おかえりなさい。どうでした?」
「ええ。問題はないようなので、休憩を頂きました」
下のホールでは要人たちのパーティが開かれている。
その護衛にと招集がかかったのだが、そもそも脅迫状の類があったわけではない。
それに魔法少女がたくさんいるわ、ちはるの魔法である『悪意探知』にも引っ掛からなかったわで、危険性は低いと判断されたのだ。
とはいえ、万が一という可能性もある。
ずっと気を張っていたために、それなりに疲れた。
氷川は椅子に座ると、目の前にズラリと並んだお菓子に手を伸ばした。
そうだな。
まずはあのピンクのマカロンでも食べようか。
手を伸ばす。氷川の指がマカロンに触れようとした時、マカロンがひょいと持ち上げられて、『
「ふゆふゆ。おいしいねぇ」
「……それは、もう。有名なパティシエがいるみたいですから」
氷川は腕を引っ込め、僅かに沈黙。
すぐに手を伸ばし、隣にあった緑色のマカロンを取ろうと――
「こっちも美味しいよ? かえでちゃん」
緑色のマカロンが、
氷川は、かえでの口の中に消えていくマカロンを見て、何度か頷いた。
マカロンはまだあと一つある。氷川はバッと身を乗り出して黄色のマカロンを掴もうとしたが、思い切り空を切った。
かえでが既にマカロンを手に取っており、このみの口に押し当てていたのだ。
「このみちゃんも食べてぇ。美味しいでしょ?」
「うん。とってもね」
笑いあう二人を見て、氷川もニンマリと笑った。
いいことじゃないか。三つのマカロンがあったおかげで、美しい友情が育まれたのだ。
お菓子はまだたくさんある。氷川は気を取り直して、ジャムがたっぷりと掛かった美味しそうなクッキーを――、取ろうとして、見る。
ちはるがクッキーを鷲掴みにして一口で頬張っていた。
「あぐあぐあぐ!」
「………」
育ち盛りの少女が食欲旺盛なのは大変よろしい。
だったらと氷川が隣にあったケーキを取ろうとすると、ちはるはケーキをむんずと掴んで一口にする。
「あむあむあむあむ!」
「………」
氷川がポテチを取ろうとすると、ちはるがポテチの袋に顔を突っ込んでバリバリと一気に口の中に運んで行った。
「たっぷり食べて栄養を蓄えておかなくちゃ! 今はまだ悪意の気配は感じないけど、どうなるかわかんないもんねっ! わたしはいつでも戦えるようにしておかなくちゃ!」
「………」
「氷川さんも何か食べますか!?」
「いえ、僕は結構……」
「ふゆぅ、ひとつも取れなくて可哀そう……」
「う゛っ!」
氷川が固まっていると、彼にシュークリームが差し出された。
「これ、どうぞ。もらったヤツを残しておいたんです」
「これは、わざわざ……、すいません」
夏目書房という本屋の一人娘である。以前、そのお店が放火にあって全焼してしまったのだが、その際に事件を担当したのが氷川刑事であった。
しかし犯人は見つからず。その間に、かこは店を取り戻すために魔法少女になった。
今はもう氷川も魔法少女の秘密は知っている。
もしも自分がもう少し早く犯人を捕まえていれば、かこが魔法少女にならずに済んだかもしれない。
そうすれば彼女がいずれ魔女になるという運命を防ぐことができたかもしれない。そんなことをたまに思ってしまうのだ。
まあ尤も、氷川が犯人を捕まえていたとしても店は戻ってこなかったのだから、遅かれ早かれ、かこが契約していたかもしれないが……。
いずれにせよ、そんな彼女と、その友人が集まってネオブロッサムが結成されたわけだ。
こうなってしまえばということで、警察と協力して魔女や凶悪犯罪の対処に当たっているのである。
ちなみに『夏』目、『秋』野、『春』名、ち『はる』のダブルスプリングといったように、名前に四季が入っているのが特徴だった。
氷川も、冬を連想させる"氷"の字があるのでなんとなく纏まりもある。
多少強引ではあるが……。
「それにしても、本当に素敵なホテル! ベッドだってこんなにフカフカなのはじめて!」
このみはピョンと跳ねてベッドに飛び込んだ。
「私も!」
かえでは、このみの隣に寝転ぶ。
二人はクスクスと笑いあうと肩を並べて天井を見つめた。
「本当にフカフカだねぇ。眠っちゃいそう」
「いいよ寝ても。なんなら一緒に寝ちゃおっか」
このみは、かえでを抱き寄せると、優しく体を撫で始める。
「あ、このみちゃん。その撫で方、好き……」
「ふふふっ、本当? そう言われるとちょっとドキドキす――」
「おばあちゃん、思い出すなぁ」
「―――」
このみは白目を剥いて動かなくなった。
「ふゅ、もう寝ちゃった……! このみちゃん疲れてたのかなっ?」
「と、トドメを刺されたようにも見えるけどぉ……」
かこは困り顔でオロオロとしている。
一方、隣ではちはるが、フンスと鼻を鳴らしていた。
「でもでもっ、こういう高いところって悪い奴らの幹部が潜んでそうな感じだよね! 下にいる人間を見下してニヤリと笑って! ううぅ、まなかちゃんたち大丈夫かなぁ?」
真下のキッチンでは、『ウォールナッツω』の面々がキビキビと働いているのだ。
実は今回のパーティの主催者が料理人を直々に指定しており、それが、まなかたちだったというわけだ。
ホテルにも話は通してあり、調理場を使わせてもらっている。
まなかはホテルで働いているシェフたちにも物怖じすることなく、指示を飛ばしている。
一流ホテルのシェフたちははじめこそ、中学生のまなかに従えと言われて怯んだものの、すぐに彼女の実力を把握して指示に従っていった。
そんな中、隅のほうでレナはムスっとした顔で皿を洗っていた。
「どーしてレナがこんなこと……ッ!」
「だってレナさんホール出れないでしょう?」
「出れるわよ! ナメんじゃないっての!」
「えー? ではちょっとやってみますか? おいキミ、シャンパンを注いでくれ」
「は!? そんなもん自分で注ぎなさいよ!」
「………」
「まあ、そういうこともあるわよね」
レナは以後、何も言うことなく皿を洗い続けた。
そうしていると、料理を運ぶスタッフに選ばれたももこがやってくる。
「まなか。お呼びみたいだよ」
「了解です。では皆さん、少し外しますので」
まなかはホールのほうへ移動する。
というのも主催者の女性が、来賓たちに、まなかを紹介したいというのだ。
挨拶をすれば、みんな驚く。
こんな幼い少女が、あんな完成度の料理を作っていたのかと。
そのリアクションを見て、主催者である
「私はヴィーガンですが、動物性の食品を使わないという一点に縛られて味が疎かになる無能なシェフを何人も見てきました。しかし彼女は見事にその点を妥協することなく、私や皆様の舌を満足させてみせたのです」
来賓たちの拍手が向けられる。
まなかは、その中で堂々と胸を張ってみせた。
やがてパーティがお開きになり、来賓たちが帰っていく。
それを見送りながら、まなかは深海の隣にやってきた。
「今日は我らウォールナッツを指名していただき、本当にありがとうございます。おかげで、お店の評判も上がるでしょう」
「優れた存在が正当な評価を受けるのは当然のことだわ。またお願いね」
「もちろんでございます!」
そこで、まなかは笑顔の種類を変えた。
「それにしても、どんな方々の集まりだったんですか?」
「心配性の富豪たちよ。あなたのおかげで胃袋を掴めたわ。資金提供は期待できそう」
「……あまり、ハメを外しすぎないようにお願いします。どんなに美味しいものでも、食べ過ぎると体に毒ですよ?」
「確かにお腹がいっぱいになってしまっては破裂してしまうわね。けれど胃袋が大きければ、何も問題はないでしょう?」
含みのある言い方だった。
とはいえ付き合うのに疲れたのか、まなかはストレートに聞いてみる。
「どんなものを作ってるんですか?」
そこで、グッと深海のもとへ近づいてくる魔法少女たち。
皆、煌びやかなドレスを身にまとっており、広げた翼の上にアルファベットの『G』が書かれたバッジをつけている。
彼女たちは深海の仲間だった。
かこたち、ネオブロッサムが警察と協力関係を結んでいるように、らんかたちは深海が所属している自衛隊と手を組んでいるのだ。
感じる威圧感。まなかは思わず後ろへ下がるが、深海が構わないとジェスチャーを送る。
「暁美ほむらが開発したマウリッツエンジンを搭載した守護者たち。ガーデンシリーズは、日本という庭を守る最強の盾になるわ」
「はぁ」
深海は腕を組んで鼻を鳴らす。
一瞬、幼い時を思い出した。
火災。崩落。死体。浮かぶワルプルギス。泣いている深海がそこにいた。
彼女は笑う。笑い、まなかを見下した。
「近頃の魔法少女は閉鎖的でいけないわ。自分たちの存在を隠してどうなるというの? 世界発展は魔法少女なくしては成立しなかったもの。もっと胸を張って日本のために魔法を使ってほしいものね。やがて来たるワルプルギス討伐のためにも」
「………」
「安心しなさい。ウォールナッツもまた庭の中にある財産。私がしっかり守護してあげるわ。フフフ……! ホホホ! オーッホホホホホ!」
普段はクールそうな深海だが、スイッチが入ったのか、ゲラゲラ笑い始める。
しかも伝染するのか、控えていた魔法少女も笑い始めた。
「くふふふ! ふはははははは!」
「あはっ! あはははははははは!」
「ハーッハハハハハハ! ヒハハハハハ!」
「でありますありますあります!」
「一人だけ無理してる人がいますよ」
あと、テンションが上がったせいなのか。深海はケラケラ笑いながら傍にいた都ひなのの頭を撫でくり回しているが、本人にとっては不愉快極まりないのかバシッバシッと何度も弾かれている。
それでも深海は、ひなのの頭を撫でようとして、弾かれていた。
まあいい。こういう人たちとは長い時間は関わらないほうがいい。
まなかは営業スマイルを浮かべたまま、さっさとキッチンのほうへと戻っていった。
その途中で、まなかはグッと拳を握ってガッツポーズをとる。
料理が評価されたのは、彼女にとっては素直に嬉しいことだ。
自分でも成長を感じる。
まなかは長い廊下を歩く中で、昔を思い出した。
【過去】
洋食ウォールナッツ。
神浜という町にあるレストランだ。
かつてはセレブたちがわんさか集う格式高い人気店だったが、土地の情勢変化や、リーズナブルなメニューで多くの人に洋食を楽しんでほしいと試行錯誤した結果、セレブたちはより高級な洋食店へ、ファミリー層はよりリーズナブルなファミリーレストランへと、客が離れてしまった。
その結果、閑古鳥が集う店となってしまったのだ。
とはいえ、店の味が落ちたわけではない。
まなかは尊敬する父から料理を学び、みるみるうちに上達していった。
しかし学べば学ぶほど、現状がもどかしくて苛立ってしまう。どうしてこんな素晴らしい店なのにお客さんが来ないのだろうか?
まなかはなんとかしてウォールナッツがかつての栄光を取り戻すように広報活動にいそしんだ。
結果、少しは客の入りもよくなったが、それでもまだ足りなかった。
この時期から、まなかはキュゥべえから魔法少女にならないかと勧誘を受ける。
ただし、まなかには一つのプランがあった。
怪しげな妖精の手を借りずとも、大口のリピーターを増やす計画があったのである。
それが名門・白羽女学院の受験である。
超お嬢様学校に合格して、そこで宣伝を行えば、生徒たちはもちろん、その家族、さらにはそこから広がって、多くのセレブたちが来てくれるだろうと。
まなかは必死に勉強して、その結果――、落ちた。
非常に残念だったが、第二志望の聖乙女学園には合格できた。
一時期は落ちぶれたとまで言われたが、こちらも非常に歴史のある学校だった。
交流パーティもあるみたいだし、まなかはそちらで広報活動を頑張ろうと誓ったのだ。
『なります。なればいいんでしょう? なってあげますとも!』
二か月後、まなかがキュゥべえに向かってそう言った。
結論を言えば広報活動はうまくいかなかった。
交流会には他のレストランが選ばれ、それぞれの少女たちも行きつけの店が既にあったのだ。
甘かった。まなかはそう思ったが、一方で食べてさえくれればという考えは消えていなかった。
だからキュゥべえに願ったのだ。店の味を知ってもらえる機会がほしいと。
料理と、お店の名前を広めるチャンスを与えてくれと。
そして、胡桃まなかは魔法少女になった。
交流会にウォールナッツが選ばれ、まなかは見事、己の実力のみで、そこにいる生徒たちの胃袋を掴み、虜にした。
ウォールナッツの評判は瞬く間に広まり、お店にたくさんの人がやってきた。
弁当を作って売っていいと許可が出るやいやな、まなか特性弁当はあっという間に売り切れた。
みんな美味しい美味しいと言っていた。先生も並んでいた。
まなかは充実していた。
魔女との戦いは神経をすり減らしたが、それでもとても楽しかった。
まなかは、これといった親友がいなかったが、みんなとそれなりに上手くやって、楽しい学園生活を送った。
クラスメイトたちは料理が上手なまなかを尊敬していたし、認められるのは気分が良かった。
みんな、まなかに料理を習いたいと口にしていた。
誰一人として本当に習いに来る者はいなかったが、それでもまあ問題はなかった。
ある日、弁当を売っている時、一人の女生徒が気になった。
『まなつ』という女の子で、優しそうな雰囲気だった。
しばらくして、彼女がクラスメイトであることを思い出した。
引っ込み思案な性格なのか、クラスでは本当に目立たない地味な子だった。
休み時間はいつも隅のほうにいて、ご飯の時間になるとフラリと教室から出ていく。そんなものだから、まなかと会話したことなど、ほとんどなかった筈だ。
なにやら彼女はオロオロとしていた。
(ははあ、まなかのお弁当が食べたいんですね!)
とはいえ、だ。
特性弁当は大人気、いつも奪い合いになる。
強引に前に出ていく勇気がないのだろう。彼女はいつもしょんぼりと肩を落として帰っていく。
それは仕方ない。食べたいのは皆、同じなのだ。
「………」
今度、一つだけ取っておいてあげようか。
まなかはそう思ったが、翌日まなつは現れなかった。
翌日も同じだった。
その次の日は、まなつは学校を休んだ。
体調が悪いらしい。特に何とも思わなかった。
その次の日もまなつは学校を休んだ。
その次の日、まなつが自殺したと教師が言った。
正直、どうでも良かった。
友達ではないし、可哀そうだとは思うが、それだけだった。
しかしそれでも、ふと、何だかとても悔しくなってきた。
せめて特性弁当を食べてほしかった。
死ぬとしても、食べてから死んでほしかった。
あんな名残惜しそうな目で見つめたまま逝かないでほしかった。
通夜や葬儀は近親者のみということだったので、生徒たちが行くことはなかった。
まなつは友達がいなかったので、特別誰かが悲しんでいるという様子もなかった。
一週間後、まなかは、なんとなく。本当にただの気まぐれで、まなつの家に行ってみた。
出迎えてくれた母親は本当に嬉しそうだった。まなかが、初めて来てくれた生徒らしい。
友達かと聞かれたので、そんなところだとお茶を濁した。
まなかは小さな仏壇に特性弁当を供えた。
母親はお礼を言った。ひどくやつれていた。
シングルマザーでたった一人の家族だったらしい。とても悲しいと呟いていた。
まなかはなんだか腹が立った。
誰に対してかはわからない。しかしとにかくムカムカしていたので、図々しく聞いてみた。
「なんで亡くなったんですか?」
いじめが原因であると教えてくれた。
そう遺書に書いてあったらしい。
「知りませんでした」
「いいんです。気にしないで。あの子、貴女のことは好きだったみたい」
「は?」
「いつもご飯の時に行ってたんです。おいしそうなお弁当を持ってくる子がいるって。いつも売り切れちゃって、いつか食べてみたかったって……」
まなつは洋食が好きだったらしい。
まなかは、なんだか、とても苛立った。だったらなおさら――
「今にして思えば、あの時に様子がおかしいって気づくべきでした」
母親は酷く疲れていた。
まなつが、疲れたから休みたいと言った時は、そういう時もあるのだろうと疑問には思わなかった。
だから、まなつが小さな時から大好きだったボロネーゼを作ってあげた。
まなつはこれが大好きだった。
これを食べると、まなつはいつも幸せそうに笑った。
まなつは一口ボロネーゼを食べた。
その時の表情が、明らかにおかしいと、母親は気づいた。
次の瞬間、まなつは腕を払い、テーブルにあったボロネーゼを床に落とした。
「おいしくない」
「え……?」
「おいしくない……!」
声を震わせた。
「おいしくないッッ! 全ッッ然! おいしくない! まずい! まずい! 作り直して! 作り直せ!」
その時はまさか、まなつがそんなに苦しんでいるなんて知らなくて、だから激しく怒ってしまったと、母親はそう言った。
「せっかく作ったのになんてことするの? 食材を無駄にして。 もう二度と、ご飯を作らないからって……、そう強く怒ってしまったんです」
そしたら次の日、部屋で首を釣っていたと。
「優しい子でした。私の誕生日にはプレゼントを用意してくれて……」
それは、割と普通のことなのでは?
そう思ったが、ボロボロと泣いている母親を見れば何も言えなかった。
遺書を見せてもらった。
いじめられている。苦しい。助けて。ごめんなさい。
そんな内容のことがふんわりと書かれていたが、抽象的すぎてよくわからなかった。
誰の名前もそこにはなかった。
まなかは学校を辞めた。
弁当を売っている時にふと思ったのだ。
この群がっている人間の中に、まなつを死に追いやった人間がいるのかもしれない。
そいつが自分が作った弁当を美味そうに食って、それが栄養になって、延命の原因になる。
あまり良いことのようには思えなかった。
もちろん、まなつの嘘だという可能性もある。
勉強とか、将来のこととか、恋愛とか。まあこの時期にはいろいろあるのだと、いろいろな人間が言うので、そうなんだろう。
何となくわかる。
でもそれはきっとあまり格好よくないので、みんな偽ろうとする。
まなつも、そういう風に嘘をついただけなのかもしれない。
でもやっぱり、まなかは、まなつを信じた。
同時にわからなかった。なんで美味しくなかったんだ。どうして不味かったんだ?
わからなくて、気持ち悪くて、まなかは学校を辞めた。
そこに、いたくなかったからだ。
父は何も言わなかった。
学校を辞めたいと言ったら、わかったと言った。それだけだった。
まなかは中学生だ。私立を辞めれば公立に行く。
そんな手続きは行ったが、まなかは学校に行かなかった。
まなかは料理の修行したいと言った。父はわかったと言った。
まなかの父はより一層、力を入れて、まなかに料理のノウハウを教えた。
まなかは時間がある限り料理を学んだ。洋食だけではなく、和食や中華、マナーのことについても必死に勉強した。
学べば学ぶほど勉強する時間は増えていった。料理のことを考えて何度も徹夜をした。
魚を捌くのが上手になって。
野菜を見ただけで料理が何パターンも浮かんで。
肉を美味しく焼ける時間をタイマーなしで把握できた。
でもそういう技術的なことが上手くなる一方で、『美味しい』がわからなくなってきた。
得意料理のオムライスを味見したとき、もっとできることがあるのではないか? これで妥協していいのか? そんなことばかりが頭に過るようになった。
不味くはない。なら美味しい? いや。でもこれはたぶん、それなりに美味しいだけだ。
そうなると、たぶん、満足感は薄い。
これではきっと、誰かの人生を変えることなんてできない。
それなりは妥協される。食材に限界があるのか? しかし高ければいいというわけでもない。
しかし高いとそれなりに美味い。でも高いと簡単にいくつも作れない。
高すぎると誰も買わない。
それに高いものを使って作っても意外とこんなものかと思ったことが何度かある。
いつもの卵より二倍もするものを使ったが、二倍美味しくなったわけではなかった。
何が足りないんだ? わからないから勉強して、参考にして、しかし疑問は尽きない。
こんなもんなのか? これが最高に美味いのか?
これを食べればどんな人間でも美味しいと笑えるのか?
わからない。自信がない。
食べ過ぎたのか、卵が古かったのか。
まなかは気分が悪くなった。
ある日、まなかは一人の少女が目に留まった。
後にわかるのだが、名前は"水波レナ"。
その日、彼女は家族と一緒にウォールナッツに来ていた。
まなかが出来上がった料理を運んだのだが、そこで彼女の家族と少し会話をした。
珍しい話ではない。やはり、まなかみたいな子供がコックの格好をして働いている光景は目に留まる。
ここで働いてるの? 凄いね。偉いね。そういう言葉をよく投げられるので、いつの間にかほどよい感じに返すテンプレみたいなものが頭の中にあった。
その日も、まなかは愛想笑いで、ほどほどの言葉を並べていく。
そこで気づいたのだ。レナの家族たちは笑みを浮かべていたが、レナだけはそっぽを向いてムスッとしていたのだ。
わかりやすいほど機嫌が悪い。それは料理を食べても同じだった。
まなか渾身のオムライスを口にしてもレナはつまらなさそうで、半分程食べたら弟にあげていた。
その際に聞こえたのだ。
「もういらない」
まなかはレナが嫌いだった。
厨房で舌打ちをしたのは初めてだった。
会計もまなかが行ったが、ご馳走様や、ありがとうと言葉を投げかけられる中、レナは何も言わずにさっさと店を出ていった。
二度と来るな。まなかはレナの背中を睨んで、そう思った。
しかし、ある日、まなかは目を丸くしていた。
レナがまた店に来たのだが――、一瞬、別人かと思った。
それはレナの表情だ。笑顔で、饒舌で。
まなかがオムライスを運ぶと、無言ではあったが会釈はされた。
レナはオムライスを美味しそうにバクバク食っていた。
全部、ペロリと平らげて、彼女はデザートとジュースを注文した。
何がどうなっているのか? しかし、まなかはすぐにわかった。
レナと一緒に来ていた人間が原因だ。まなかはしばらく、厨房からジッと、"十咎ももこ"を見つめていた。
ある日、まなかは父に連れられて見滝原に出かけた。
初めての見滝原だった。
まなかは父に勧められて適当に買い物をした。パズルとぬいぐるみとキャンプ料理の本を買った。
帰りにご飯を食べていこうとなった。父が選んだのは、エスニック料理店だった。
洋食を中心としていたまなかは、そういう類の料理を知ってはいたが、ちゃんと食べたことはなかった。
トムヤムクンや、ガパオライス、有名どころを抑えて、聞いたことのない料理もいくつか注文した。
料理を待つ間、まなかは店の中をキョロキョロと見まわした。
異国情緒が漂う内装はまるでテーマパークみたいだ。甘いような香りがする。
洋食ではなかなか使わないため、まなかはパクチーを食べたことがなかった。
苦手な人が多いらしいが、もしかしたパセリの代わりなんかにしてみたら上手いこと相乗効果が起こって、アレとかアレとかアレが良い感じになるかもしれない。
そんなことを考えているとワクワクしてきた。
そうしていると料理が到着する。
まなかはすぐにスプーンでガパオライスをすくった。
すぐにトムヤムクンを飲んだ。甘みと酸味が引き立つ、洋食にはない味付け。
パクチーの独特な香り。すべてがまなかにとっては新鮮で、そして何よりも――
(おいしい……!)
だから、また、食べようと思ったところで、手が止まった。
長い沈黙があった。
父は何も言わなかった。
ポタリと、雫が落ちた。
まなかは泣いていた。それは、ご飯が美味しかったからだ。
そうだ。
レナはきっと、楽しかったのだ。だからあんなに美味しそうにご飯を食べることができた。
楽しいと、美味しい。おかわりがしたくなる。
楽しくないと、美味しくない。
美味しかったものが、美味しくないと理解してしまった彼女は、きっとすごく美味しくなかった。
悲しいほど不味かったのだ。
このみちゃんは、結構好きな魔法少女の一人なんですが、永遠の友情を誓った相手が、それぞれの別のチーム所属っていう悲報みたいなところがね。
ただ冬服ストーリー見ると、意外とこのみ×かえでもありでんな思いましてな。
メタ的なところでいうと、かこちゃんに冬服がなかっただけなんでしょうけど、綺麗な景色を見せてあげたいと誘って来たのが、かえでだけなところに、ちょっとレーダーが引っ掛かったというか。
ホーム画面でも、かえでちゃんのみ単体で触れてるしね(´・ω・)
あと個人的に、ちょっとおねロリみを感じる組み合わせが好きなんですよね。
まったく関係ないけど、ウマ娘のBNWだったらハヤヒデとタイシンの組み合わせが好きみたいなところあるからね。
まあとにかくね、このみちゃんは、ドッペル解放もあるので良かったですね。
一番最初のほうににマギレコやってた時、ちょっとパーティに入れてましたんでね。
ただあの時は、システムを理解してなかったんで、マチビト馬にボコられて詰みかけてました。
ごめんな、このみちゃん(´;ω;`)