まなかはポカンとしていた。
無理もない。しかしそれは事実なのだ。
「転生……、という言い方は違うかもしれません。わたしは約600年の時を経て再び産み落とされたのです」
生まれ変わりではなく、同じ人間として生まれたのだ。
つまり600年前に戦っていたジャンヌダルクと指紋も同じだし、DNA検査をすれば同一人物であると結果がでるだろう。
「な、な……!」
まなかは驚いたが、すぐに察した。
偉人の中に何人か魔法少女がいたというのは既に聞いている。
ジャンヌダルクがそうであったとしても、なんら不思議ではない。そしてこの世界にはいくつもの奇跡がある。
「魔法少女の影響っていうことですか?」
「はい。少し、複雑なのですが……」
すべての始まりはペレネルという魔法少女と、その夫であるニコラ・フラメルが生み出した『賢者の石』というアイテムが原因だった。
「この世にはIF
もしもの世界。それを賢者の石は具現できるのだという。
だからこそジャンヌダルクが現代に再臨するなんて無茶が通ったのだ。
もちろんそれだけではなく、夢の世界を現実にできる『オーバーロード』と呼ばれる存在や、世界を創生できるほどの力が手に入る知恵の実、『白銀の果実』というアイテムなど、とにかくいろいろあったらしいが、その説明は省かれた。
重要なのはここいる少女こそ正真正銘、紛れもないジャンヌダルクであるという点だ。
「ですので、本当にごめんなさい。自分では平気だったつもりなんですけど……」
まなかは一瞬、なぜ謝られたのか理解できなかった。
しかし悲しげに微笑むタルトを見て、すぐにわかってしまった。
ハンマーで頭を殴られたような衝撃が襲い掛かる。そうか、そういうことか、まなかは真っ青になって目を逸らした。
手が震えて、カチャカチャとカップが皿にぶつかる。
とんでもないことをしてしまった。だから逃げるように店を出るしかなかった。
家に戻ったまなかは、すぐにジャンヌダルクの映画を見た。
そして、その壮絶な最期を目にしたのである。
彼女は処刑された。火刑であった。
「――っ」
まなかはキュゥべえの名を呼んだ。
『どうしたんだい?』
「ジャンヌさんについて、教えてほしいのですが……」
キュゥべえがいうには、火にあぶられていた際、タルトは意識があったという。
まなかは焦った。だから、直視しなければと焦ってしまう。
よくない行動だったとは思う。
焼死体の画像を検索し、それを見た。
まなかは嘔吐した。
その夜、まなかは初めて父が作った料理を残した。
分厚いステーキだった。
「ん」
二日後、レナが店にやってきた。
母親の買い物の付きそいで近くの服屋に来たのだが、とにかく母が選ぶのに時間がかかって暇だったから、アイスでも食べに来たのだと。
「よ!」「……ん」
さらに、その翌日。ももことレナが店にやってきた。
「これはこれは! お二人揃って! どうぞ、いつもの席は空いてますよ」
「サンキュー! お腹ペコペコでさぁ。ガッツリいきたいからステーキ頼むよ」
まなかは少し眉を動かしたが、笑顔のままで頷いた。
「お任せください! では――」
「ここにいてよ。どうせ暇でしょ」
「むっ!」
反論しようと思ったが、どうやら今日も閑古鳥である。
さらに厨房には父と、修行をしにきた津上シェフがいるので、まなかは言われた通りレナの隣に座った。
「………」
「………」
「………」
沈黙が続く。
しかし、明らかにレナとももこはアイコンタクトを行っていた。
そうしていると、レナが深呼吸を一つ。
「ねえ、まなか」
「はい?」
突然のことだった。
レナは無言で両手を広げると、まなかを抱きしめる。
「あのー……、これは?」
レナは無言だった。
すると、ももこが困ったように笑う。どうやらレナのコミュニケーションレベルではこれが限界のようだ。
「なんかあった?」
「え?」
「いやぁ、レナが言うんだよ。様子が変だから見に行こうって」
「レナさんが?」
「うん。そう。レナはさ、結構敏感なんだよ。本人は鈍感だと思ってるみたいだけど」
「ちょっと、ももこ! 余計なこと言わないでよ」
人と仲良くなれない割には、顔色の変化は些細なものでも感じ取ってしまう。
そんなレナは、まなかの変化に気づいていたようだ。
だから食事を運びに来た彼女の父親に、こっそりと事情を聞いてみた。
すると、まなかが肉料理を作らなくなったと教えてくれた。
事情はサッパリだが、ステーキやビーフシチューの調理となると、適当な言い訳で丸投げしてくるらしい。
さらに露骨に食事の量が減って、特に肉を残すようになったとも教えてくれた。
その日だって、朝からほとんど何も食べていないらしいことも。
「ごめん、それ、ももこに話した」
「はぁ、そうですか……」
「レナだけじゃ、その……、どうすればいいかわからなかったから」
だから、とりあえず、ももこの真似事をしてみる。
たとえば辛い時に、頑張って辛いと伝えてみたら、ももこはよく抱きしめてくる。
浅いことだとは思いつつ、なんだかとても安心するので、レナはそれが好きだった。
だからきっと、ももこにできるのならば、少しくらいレナにもできる筈なのだ。
「……嫌だった?」
「いえ、ありがとうございます」
まなかはレナを抱きしめ、背中をポンポンと叩いた。
「まなかには友達がいないので、染みます」
まなかはポツリポツリと、タルトとの出来事を口にしていった。
光をもたらすために戦った彼女の末路は、不公平な裁判によって打ち出された最悪なものだった。
「……タルトさんは、とても痛かったし、熱かったに違いありません」
火葬場で嗅いだあの臭い。決して遠くはない筈だ。
彼女だって、きっと臭いが記憶を刺激したからステーキに手を付けなかったんだ。
「私は、とんでもないことをしてしまいました……!」
まなかは声を震わせ、目からはポロポロと大粒の涙が零れ落ちた。
「まなかのせいじゃないよ!」
「そ、そうよ。だってッ、そんなのわかるわけ……」
「ちゃんと事前に調べていればわかったことかもしれません。ましてや聖乙女の生徒は宗教の関係で肉を食べるのを渋る方も多いと聞きました」
まなかは、せいぜいアレルギーがあるかどうかしか事前に聞かない。
そこまでが父に教えられたことだったし。
コースというのは、自分では食べないような料理がでるのも魅力だと思っていた。
食べてみたら美味しい。あるいは食べたことなかったけど美味しい。そういうのも楽しいと思っていた。
とはいえ、それは無理解の理由にはならなかった。
改めて父と話してみると、父はきちんと宗教上の関係で肉が食えないかどうかを調べたり、客の好みを調べていた。
まなかはベジタリアンやヴィーガンを自称する人間を、正直あまりよく思っていなかった。
そんなものは好き嫌いの一環であると思っていたのだ。
しかし父からそれは違うと言われた。
大切なのは理解することだ。
料理人の役割は、食べに来てくれたお客さんを幸せにすることだ。
価値観を変えたりするのは、あくまでもおまけでいい。
タルトは優しい子だ。
だから多少は無理をする。しかしきちんと事前に食べられないものをちゃんと聞いておけば、もしかしたら肉料理を除外していたかもしれない。
まなかは飛行機に乗ったことがなかったが、どうやら機内食でこう聞かれることがあるらしい。
ビーフ・オア・チキン? どっちがいいか? そういう選択肢を客に与えるべきだった。
タルトを苦しめてしまったことはもちろん。そもそも、料理人としての未熟さを突き付けられた気分だった。
「それに怖い画像を見てしまいました。まなかは、もしかしたらもう……」
ももこはそこで、良い匂いがするのに気付いた。
「無理に食べる必要はないんじゃない?」
津上シェフがももこのステーキを持ってきた。
「この世界にはいっぱい美味しいものがあります。たとえば太陽を浴びて育ったトマトとか、氷水でキンキンに冷やしたキュウリとか、ほら、その付け合わせのジャガイモはおれが育てたんですけど……、ちょっと食べてみてよ」
ももこは付け合わせのポテトを口に入れると表情を変えた。
「うんま!」
すぐにレナとまなかにも食べろとジェスチャーを行う。
二人も食べて、同じように表情を変えた。
「ほっくほく!」
「でしょー? だからまあ、ほら、いろいろあるから、一つに拘る必要はないのかもって思うけどなぁ。食材はたくさんあるんだし」
津上シェフはまなかの肩をポンポンと優しく叩く。
「食べたくなった時に、また食べればいいんです」
「!」
「人生食事ができる回数は決まってるんですから、なるべく美味しいものを食べないと損ですよ。おれの知り合いの人なんて、毎日三食焼肉食べてるんですから」
そう言って津上シェフは下がっていった。
やはり自分と限りなく近い考え方を持っている人だと、まなかは思う。
するとそこで、ももこが思い切り手を叩いた。
「よっしゃ! いただきますッ!」
ステーキをナイフで切り始めた。
少し、大きめに切っていく。そして肉汁滴る大きな肉の塊を、別皿に溜めてあったソースに何度かくぐらせて、一口で食べてみせた。
唇の端から肉汁が垂れていく。
モッギュモッギュと咀嚼しながら、目を輝かせる。
「うんっっめぇええぇ……!」
すぐに次の肉を口へ運ぶ。
さらに今度はポテトもすぐに口へ放り投げて、口の中で肉と一緒に合わせていく。
ふと、ゴクリと喉がなる音がした。
まなかと、レナから出た音だ。
レナはすぐにメニューでステーキの値段を確認した。
すぐに財布を見る。少し、厳しい。
厳しいが――
「れ、レナにも同じものくださいっ!」
伸ばした腕に、並ぶ腕。
「まなかも!」
ももこが、あまりにも美味しそうに食べるものだから。
それもあるが何よりも、ももこは激励の魔法を使っていた。
「仲間だし、友達だろ?」
「!」
「アタシの魔法は魔法少女にかけちゃいけないって決まりはないんだ」
まなかのハートにメラメラ燃える炎が宿った。
やがてステーキが二つ運ばれてくる。
どうやら三つともまなかの父親が奢ってくれるらしい。
「やっほう!」
レナはさっそくステーキを切ると、ムシャムシャ食い始めた。
まなかも大きく息を吸い、肉の香りを鼻腔に入れる。
「無理は、しないほうが……」
「いいんです。まなか、お肉は好きですから。それに津上シェフも言ってたでしょう? 食べたくなったから食べるんです」
まなかはステーキを頬張ると、嬉しそうに笑顔を浮かべた。
次の日、タルトは帰り道でまなかを見つけた。
二人は手を振って駆け寄る。
「どうしたんですか?」
「はい。言いたいことがあって来ました」
「はい! なんでも言ってください!」
「まなかとお友達になってください」
「もちろん! いいですよ!」
「ありがとうございます。いつか貴女のほっぺを落とす肉料理を作るので、今はどうかそれでよろしくお願いします!」
「ありがとう! 楽しみにしてますね。まなか!」
『現在』
まなかは食についていろいろなことを学び、技術を取得した。
肉を食べないなら、それでいい。野菜からはとても美味いお出汁が出る。
それで作ったスープは最高に美味かった。
人にはそれぞれの想いがある。それを尊重してあげることが料理人としての役目だ。
ただ、まあ、それはとは別に、一人の友人としての想いがあるのも事実だった。
タルトが肉を食べられない理由は、やっぱり、ちょっと、普通じゃない。
だから、なんていうか、そのままにしておくのはとても悲しい気がした。
故に調べる。
メリッサや、リズ、エリザ。さらにはコピペみたいな兄貴たち(失礼)やら、聖乙女学園のクラスメイトで、『冠』とかいう仲がよさそうなイケメン男子生徒からも情報を収取し、タルトの好みを調べつくした。
さらに、実は少しタルトが町を離れることがあって、会えない時間ができてしまったのだが、逆にそれが考える時間をくれた。
「お待たせしました。お待たせし過ぎたのかもしれません!」
スイートルーム。
次々と料理が運ばれていく中で、まなかが、ここにいるメンバーだけのために作った料理が運ばれてくる。
それを見たタルトは目を輝かせた。
「これは!?」
「まなかの十八番、洋食での勝負です!」
シチューがかかったロールキャベツだった。
「どうです? タルトさんの色でしょう?」
徹底的に臭みを取って、硬くなり過ぎないように煮込んだ肉と、キャベツの甘味、肉と野菜すべての旨味を吸収したシチュー。
「白いご飯とも合うんですよこれが。そちらも用意して頂いたので、後で是非このシチューをかけてみてください。飛びますよ?」
タルトは視線が集中してるのを感じた。
微笑み、ナイフとフォークを手に取る。
本当にとても柔らかかった。
そして一口。それで表情は変わった。パァァァっと明るくなる。
誰がどう見ても、それはとびきりの笑顔だった。
あまりにも美味しい。
そして、あまりにも嬉しい。
まなかの頑張りが伝わってくる。そしてこちらを見ているレナとももこの優しい瞳もだ。
だからタルトは満面の笑顔で答えた。
「最高にッ、おいしいです!」
みんなで食べるご飯はやっぱり美味しかった。
シャンメリーを飲みながらくだらない話をしていると、みるみる時間は過ぎていく。
「なあ将来どんな人と結婚したい?」
「料理はまなかがやればいいので、掃除とかが上手い人がいいですね。あと同業者はちょっと嫌です。意見がぶつかりそうなので。あとはできれば同年代がいいですね。食もまた歴史と共に変わってきているので。年齢が近いと似たようなものを食べてる筈ですから」
「はーん。なるほどねぇ。結構考えてるんだ。タルトは?」
「わ、わたしは、まだ、そういうのは……」
「おいおいなんだよぉ、そんなこと言ってぇ、ちゃっかり彼氏でもいるんじゃないのー?」
「いえいえ、そんなそんな! そ、そういう、ももこはどうですか?」
「こら! タルト! ダメよそんなこと聞いちゃ!」
「フラちまってるからってか? よせよせ、別に地雷ワードじゃないって! そういうレナはどうなんだー? うりうりー!」
ももこはレナを抱きかかえると、近くに引き寄せる。
(ち、近い近い!)
「ほらほら、好きな人いるのかぁー?」
「し、知らないわよバカ!」
レナは頬を膨らませてそっぽを向く。
するとももこは笑って、そのほっぺを指で突っつき始めた。
「おもちみたいだなレナのほっぺは! きなこもちにして食っちまうぞー! がはははは!」
「……おっさんみたい。きも」
レナは呆れたように、テーブルにあった。枝豆のペペロンチーノを食べる。
「おいおい! これじゃ本当のずんだもちだよー! ははは!」
「いや、まったくピンときませんけど何なんですか、そのお餅ギャグシリーズ。笑ってるのももこさんだけですよ」
ふと、まなかは、そうだったと手を叩く。
「ここいらで食事はお開きにして、下のほうへ行ってみませんか? 実は深海さんからこういうのを貰ってるんですよ」
そう言って、まなかは四枚のチケットを取り出す。
このホテル、下に写真館が併設されているのだが、その店のイベントでコスプレをして写真が撮れるというのがあった。
ヘアメイクとかもしてくれるらしいので、結構本格的なものが撮れるらしい。
「これはその無料チケットなんですが。せっかくなので、みんなで写真を撮りましょう!」
「ふーん、まあいいんじゃない?」
「そうそう、タダなんだし、面白そうじゃん!」
「コスプレなんて初めてです! わくわく!」
「よし、では行きましょう」
部屋を出る四人。
(いいじゃないコスプレ!)
レナはにんまりしていた。
その実、この女が一番興奮していた。
というのも、先ほどホールで配膳を行っているももこを見て思った。
スタッフ衣装が男装しているようでドキドキしたのだ。
見方によっては執事のようなものだろうか?
(レナがお嬢様で! ももこはそれに遣える身! よいッ! すごく良いじゃない!)
こうしてたどり着いた四人。
衣装が展示されているのだが、男装に使えそうなタキシードやらがチラホラ見える。
レナがウキウキで手を上げようとしたところ、それよりも早く、まなかの声がした。
「それ、四つでお願いします」
「………」
衣装を着てスイートルームに戻った四人。
「あははは! かわいいですねぇ」
楽しそうに笑うタルト。
「初めて着たけど面白いなぁ。クセになりそうだよ」
楽しそうに笑うももこ。
「なにこれ」
唯一、レナだけがブスっとしていた。
煌びやかなスイートルームにイソギンチャクとエリンギを足したような着ぐるみが四つ並んでいる。赤、水色、黄色、白色のエリンギが、四つ。
「マーリンギ・ミラクルスイマーですけど……」
「いや名前はどうでもいいから! なんでこんな素敵な部屋に、こんなゆるキャラみたいなもんが四つ並んでんのよ! おかしいでしょ!」
「いやですねレナさんってば! またいつものツンデレですか?」
「違うわ! もっとお姫様みたいなヤツいっぱいあったでしょ!」
「それはまたどこかで着れるかもしれないじゃないですか。でもこのマーリンギはきっとココだけですよ」
「う――ッ、ま、まあそうかもしれないけど……」
ダメだ。まなかの瞳がキラキラしている。
これはおそらくガチらしい。
ももことタルトの瞳も同じ輝きを孕んでいる。
どうやらコイツらもガチらしい。そうなるとレナも従うしかない。
結果、夜景がきらめく大きな窓の前に、エリンギが四つ生えてる珍写真が撮れて終わった。
それでもまあ不思議なもので、いざ記念を残そうとなるとレナも笑顔になっていた。
ただし、それはそれ、これはこれだ。
写真館に衣装を返しに戻った時、帰り際まなかはレナに二枚のチケットを手渡した。
「深海さんは多めにくれました。これは、レナさんにあげます」
「まなか……」
「先にタルトさんとお部屋に戻ってますので。それでは」
レナはお礼を言うと、ももこを誘ってもう一度、写真館のスタッフにチケットを渡した。
「衣装、レナが選んでいい?」
「もちろん。いいよ。レナのセンスに期待だな」
(よし! よし! よし! これでももこに、男装させて――……)
そこでふと、笑みを消す。
相手を思いやる。そうやって努力したまなかのことを思い出した。
そうか、そうだな。そうだよな。
レナは大きく頷いて、衣装を指定した。
「ももこ、準備できた?」
「い、いや、できたけどさ……」
「もう、グダグダしないの」
レナは男装をしていた。王子様の衣装を選んだからだ。
カーテンを開けると、そこには素敵なドレスに身を包んだももこが恥ずかしそうに立っていた。
髪もおろしており、本格的なメイクもして、宝石なんかも身に着けてる。
どうやら深海は相当な上客らしく、失礼のないようにとのことで、多少のサービスもされているのだろうが、それでもやっぱり元がいいんだなと思う。
「レナぁ、恥ずかしいって……」
「でも、ももこ、そういうの好きでしょ? フリフリとか、意外とさ」
「それは……!」
「レナ、知ってるんだから」
「まあ、うん。そうだな。えへへへ」
そこにいた女の子は、世界で一番可愛かった。
なんて、レナは思うのだ。
だから手を出した。
「踊りませんか? 姫」
ももこは真っ赤になったが、やがて笑顔に変わる。
「はい!」
そして、レナの手を取った。
パーティが行われていた会場はもう片付けが終わって、何も残っていない。
そこでレナとももこはダンスを踊った。
振り付けは適当だ。見よう見まねだから、胸を張れたものじゃない。
でもそれでも、とても楽しかった。
「はふー」
「ふひー」
一方、スイートルームではまなかとタルトがジャグジーに入っていた。
まなかはお風呂が好きだった。
労働の後、さらに言えば調理で体にいろいろ臭いがついているので、それらがサッパリ流されていく感覚はたまらないものがあある。
タルトもお風呂が好きだった。
湯浴みをしながら仲間と話をするのは、あの時代では数少ない楽しみなのである。
「ボコボコが気持ちいいですねぇ」
「はい。こんなお風呂はフランスにはありませんでしたぁ。お出汁、出ますかね?」
「聖女様のお出汁ともなれば高い値段で売れそうです。くぷぷ」
そこで、タルトは頭を洗うべくお湯から出た。
まなかは彼女の体を見る。傷は一切ついておらず、とても綺麗な肌だった
「……どうですか? この時代は」
「素晴らしいです。見るものすべてが新鮮で。シャンプーだって、こんなにいい香りで、簡単に髪が綺麗に洗えて。とっても素敵!」
「タルトさんは生まれた時から魔法少女だったんですか?」
「はい!」
「でなければ、貴女ではありませんか?」
「え? どういう意味です?」
「同じなのでしょうか? 今も、貴女の願いは」
「……もちろん。まったく同じというわけではありません。ですけど、そこに込めた想いは何も変わってないのだと思ってます。ふふっ」
まなかは微笑み、視線を窓の外へ移した。
夜景が広がっている。たくさんの人、星、世界。
「IF因子、賢者の石は可能性を具現する。それは世界さえも……」
漠然としたことしかわからない。
ただし、なんとなく、もしかしたらと思うこともある。
無数にあるIF因子。もしも、だったら、であれば。そういう無数のタラレバがひとつひとつ世界になりうるとしたら?
きっと僕らの存在もまた、星のようなものなのかもしれない。数多にあって、瞬き、消えていく。
だったとしても、別に構わない。
「たとえ世界が変わっても……」
「え?」
「たとえ、配置が違っても、たとえレコードが違っていたとしても!」
胡桃まなかは、タルトを見てニコリとほほ笑んだ。
「まなかは永遠に美味しいを追求します!」
決して割れない胡桃が、そこにはあったのだ。
「おかえりなさい」
「「ただいま」」
ももことレナはすぐに笑った。
ベッドで、まなかはスピョスピョと寝息を立てている。
実に幸せそうな寝顔だ。
「今日は疲れたろうからなぁ」
「気も張ってただろうしね」
一方でタルトはバラエティに夢中のようだ。
特に『世界の果てまで行ってQB』は、たまにフランスも取り上げられて興奮すると。
「アタシらも風呂入るか。レナ先でいいよ」
「ありがと。あー、疲れた!」
「その前に!」
タルトがレナの行く手をふさぎ、ニヤリと笑う。
「どんな写真を撮ったんですか?」
レナも、ニヤリと笑った。
「ひみつ!」
「えー! そんなぁ! 教えてくださいよー!」
レナは脱衣所で、一度、スマホを見た。
データをもらって、アルバムに保存したのだ。
「ふふふ!」
魔法少女の腕力があって良かったと、心から思う。
写真には、ももこをお姫様抱っこしているレナの姿があった。
真っ赤になって恥ずかしそうに笑っているももこの顔を見れば、まだ当分は頑張れそうだと思った。
とりあえず今回で一旦区切りですかね。
もしかしたらもう一話、番外編みたいなのをやる可能性もあるけど、そこはまだちょっと未定で。
まだいろいろやりたいことが何個かあるんで。たぶんそっちをメインにやるかな? って感じです。
とにかく、また気が向いたら更新します(´・ω・)b