ももレナ風タルト まなかのソースを添えて   作:ホシボシ

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※注意!

今回の番外編は、派生元である『仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME』の要素がたくさん出てきます。
なのでタグには書いていませんでしたが仮面ライダーシリーズとのクロスオーバーがメインになっていることに加え、ももレナ要素はほぼ出てきません。
なので苦手な方は我慢してください(´・ω・)

さらに上記の作品を見ている方でも、注意してほしいのが最新話までのネタバレを含んでいることと、このお話に出てくる要素はまだ本編では公開されていないものになります。
あくまでも先行公開というか。
あるいは今後どう関わっていくのかを、ふんわり示している感じの内容になります。
今後の展開のネタバレともいえる内容になっておりますので、苦手な方は見るのをやめてください。



番外編
空を見上げて ※他作品とのクロスオーバー要素あり


「ハァ、ハァ……ッ! んぐッ!」

 

服の下に感じる液体。

やがて腿から踵まで垂れ落ちていくのだろう。

拭いたいが拭えない。だが、不快感はすぐに痛みで塗りつぶされた。

胸の僅か上、銀色の刃が突き刺さった。

 

「ぐあアァァああッ!」

 

ナイフは容赦なく胸を切り裂きながら移動する。

昔の缶詰みたいに円形に切り抜いて、やがては乳房が引きちぎられた。

それなりに大きな胸が床に落ちる。

おびただしい程の血が流れている。

激痛ではあるが――

 

「くはっ!」

 

あろうことか、この女は恍惚の表情を浮かべてしまった。

痛みとは苦痛だ。しかしだからこそ、より大きく胸に響く。

与えたし、与えられる。このフラットな所にこそ、本当に価値のあるものが生まれると彼女は思っていた。

 

「ぎゃがぁぁあぁぁあ!」

 

銃声が聞こえた。

コルボーの右目が潰され、弾丸は脳にまで到達する。

だがしかしコルボーは頬を赤らめていた。

 

今の叫びはいい。間抜けだ。

であるからにしてギャラリーも楽しんでくれただろう。

こんな無様な姿を見られるのは非常に屈辱的ではあるが、えもいわれぬ快感があったのもまた事実だった。

そういえば裸体を他人に見られることや、性行為を外ですることに興奮を覚えるものが一定数いるらしい。

ははあ、そういうことかと理解してしまう。

 

「まったく、とんでもない変態だなお前は」

 

都ひなのはメーターを見ている。

ソウルジェムにつながれたコードをたどった先にあるモニタにはコルボーの感情変化がグラフとなって表示されているが、このパターンは性的興奮に近いものがある。

 

「まあアタシも人のことは言えんがな」

 

表示されていく数値を見て、ひなのは三日月のような笑みを浮かべた。

この全てが全てに繋がっていく感覚。

 

(お前にはわかるまい。暁美ほむら)

 

偉大なるマウリッツエンジンは父が見つける筈だった。

にも関わらずお前が先に発表したのだ。

あの時の屈辱、決して忘れはしないとも。

 

「しかし……、大丈夫か?」

 

「問題ないであります」

 

三浦旭は涼しげな表情でコルボーの指を折った。

 

「がぁぁあぁああッッ」

 

コルボーは笑みを浮かべながら苦痛に叫んだ。

 

「そうじゃない。逆だ」

 

「?」

 

「……まあいい。続けろ」

 

「了解であります」

 

三秒後、またコルボーが苦痛に叫んだ。

 

 

それにしても。

声は、それなりに耳障りだ。

痛みが伝わってくるようだし、何が行われているか考えるだけで陰鬱な気分になる。

そもそも、うるさい。

深海はうんざりしたようにため息をついた。

 

大きなベッドの中、隣ではらんかが体を丸めている。

起きていたのか、起きたのか。身を寄せてきた。

深海はどうするか一瞬考えたが、やがてらんかを抱き寄せた。

少しらんかの体が震えた。深海は微笑むと、両手の人差し指を、らんかの左右の耳の穴に入れた。

 

らんかは何も言わなかった。

意味はない。お互い。意味を作ろうと思えば作れるが、深海としては魅かれる存在が見いだせなかった。

そうしたほうが、らんかがより良い操り人形となってくれるのならばそうするが。

まあそれは向こうから言い出してきた時でいいだろう。

今のこれは、指は、ただの耳栓だ。だから、らんかは寝息を立て始めた。

深海は無駄に広いベッドでため息をついた。

亡霊が昇る。今宵もまた、痛みが赦しを齎すのだ。

 

 

 

 

 

空を見上げて

 

 

 

 

見滝原。

大きな買い物袋を抱えて、レナ、ももこ、タルトの三人は歩いていた。

 

「いやぁ付き合ってくれてありがとなタルト。本当、助かったよ」

 

「いえいえ。これくらいなんてことはありません!」

 

「天下のジャンヌ様に荷物持ちをさせるだなんて、この平民風情のアタシには恐れ多いんですが……」

 

「もう、やめてください、ももこっ。そんな偉いものじゃないのに!」

 

「また謙虚な! 素晴らしい聖女様! あっぱれ!」

 

「………」

 

レナの頬が膨れてきた。十秒もあればもうパンパンだ。

 

「ちょっと、ももこ」

 

「はい?」

 

「レナにもお礼、言いなさいよ」

 

「えーっと、出かける前にめちゃくちゃ言ったと記憶しているんですが……」

 

「もう一回! 今ここで!」

 

「お? ん~、レナ~、なんだよ? 嫉妬したのかぁ? かわいいなぁ」

 

「は!? 違う! ばっかじゃないの!? 勘違いももこ!」

 

レナに頬ずりをしようとすると、彼女は真っ赤になって速足になった。

微笑むタルト。ももこは苦笑した。

これは緊急の買い出しだった。

 

二日前の火曜日夜。

店が終わるとまなかはインスピレーションが湧いてきたと新メニューの開発に取り掛かった。

水曜はお店が休みということもあってか想像以上に没頭しており、店の食材をすべて使い果たしてしまったのだ。

食べる役のももこや、バイトリーダーマナティー先輩の体重が二キロ太った時、時計の針は一周していた。

そして店から降りてきたレナとタルトに究極のメニューが完成したと、皿に白米を楕円状に盛り付けて出してきたのである。

 

「オムライス(ゼロ)です」

 

まなかは呼吸を荒げて、血走った目を見開いてニヤリと笑った。

目の下のクマが酷いが、まなかは最高傑作が生まれたと豪語した。

曰く、チキンライスからチキンや玉ねぎといった具材を抜き、ケチャップを抜き、さらにはタマゴさえもオミットすることでチキンライスという概念を再認識してもらうように作ったのだとか。

 

それはまさに零。

しかし無ではありません。虚構ではないのですと、まなかは詰め寄った。

枯山水から着想を得たらしい。

白米はオムライスではないが、白米イコール、オムライスとなるならばオムライスとは何か?

 

「このウォールナッツωにひとたび足を踏み入れれば、白米はオムライスとなるのです。まなかは白米をオムライスとして今一度、見つめあってもらえる時間が生みだすことに成功しました。それは味覚を超越したセンセーショナルでエモーショナルな体験へと昇華するのです。さあどうぞ召し上がってください。これが究極のオムライスですから、ぐへ、へへへ、うえへへははは……」

 

疲れている。レナとタルトは確信した。

寝てなかったのが悪かったらしい。事実、ぐっすり寝た後にまなかにオムライス零の話をすると、なんですかそれと真顔で言われた。

残ったのは、空になった冷蔵庫と食糧庫だけである。

 

そうこうしている内に営業日の木曜がきた。

野菜や卵は新鮮なものが朝に配達されるのだが、まなかは余分に食材を保存しておきたいタイプである。

なのでももこたちに買いに行ってもらっていたのだ。

 

「ん?」

 

そして今、ももこはなにやらシャッターのしまった店の前でおろおろとしている女の子を見つけた。

彼女が押している車椅子には、高齢の女性がいる。

 

「困りごと?」

 

「あ、あの! このお店……ッ!」

 

「あぁ、和田屋さんね。ちょっと前に閉店しちゃったんだ」

 

「そ、そんなぁ」

 

和田屋は、蕎麦や丼ものを中心とした和食の店であったが、店主のウメコという女性が夫の実家がある地域に引っ越すことにしたため、二か月前に店を畳んだのだ。

それを聞くと、少女・ヨゾラは残念そうに肩を落とした。

なんでも、この店に来るために見滝原にやってきたようで、車椅子にいたのは曾祖母のようだ。

 

「ごめんね大祖母ちゃん。ちゃんと調べればよかった……」

 

ウメコさんがインターネットに疎かったのか、グルメサイト等には積極的に掲載しておらず、閉店したこともSNSで詳しく調べないとわからないほどだった。

 

「ヨゾラのせいじゃないよ」

 

曾祖母から弱弱しい言葉が返ってきた。相当高齢のようだ。

 

「ヨゾラちゃんたちはご飯どうするの? もしよかったらウチの店とかどうですか?」

 

ももこがウインクをひとつ。

ちょうどそこで、ヨゾラのお腹が鳴った。

 

 

 

「わふぁひはひ、ふっほふほおふははひはんへふ(わたしたち、すっごく遠くから来たんです)」

 

ウォールナッツω。

ジャンボハンバーグと、それが誘うライスを口いっぱいに詰め込みながら、ヨゾラが事情を説明してくれた。

 

先日、テレビを見ていたら曾祖母が家族に一つ頼みごとをしてきた。

見滝原に行って、和田屋で食事がしたい。

いつも家族のことを優先してきた曾祖母が頼みごとをするのは本当に珍しいことで、ヨゾラはおろかヨゾラの母も初めて聞いたらしい。

曾祖母が見滝原の出身らしく、ヨゾラにとってはまったく知らぬ土地ではあったが、こうして学校を休んで新幹線を使って一泊二日でやってきたのだ。

 

「おいしい? 大祖母ちゃん」

 

「ええ、はい。とっても」

 

曾祖母の名は、コヨと言った。

まなか特製の、野菜とチキンを極限まで柔らかくしたトマト煮はお気に召してくれたようだ。

とはいえ――、という話である。

曾祖母が和田屋を目指したのは、何も和食が食べたかったからではないのだ。

 

「大祖母ちゃんのお父さん。だから、えーっと、わたしのひいひいお祖父ちゃんが最期にご飯を食べたのが和田屋だったらしくて」

 

正確には当時と場所は違うが、和田屋の店主、和田ウメコさんが作った料理が重要だった。

当時そこは特攻隊に選ばれた人間へ食事を作っていたところでもあったらしい。

ウメコさんはその家系の生まれらしく、その時のレシピを知っている人間なのだ。

 

「ひいひいお祖父ちゃんは、大祖母ちゃんが生まれるちょっと前に飛行機に乗って……」

 

記憶にはないため思い出に留めていたが、先日のニュースを見て何か思うところがあったのだろうという。

 

「ニュース?」

 

「知らないですか? 見滝原慰霊碑が壊されたって」

 

「あー、そういえば」

 

ももこは携帯で記事を検索してみた。

前にニュースでやってたのはなんとなく覚えている。

とんでもない罰当たりがいたものだと流して終わりだったが、感じるものは年齢によって大きく変わってくるのかもしれない。

 

「仕方ない。仕方ない……」

 

曾祖母は何度か呟いたが、ヨゾラは納得いかなかった。

 

「大丈夫。時間はあるし、どこに行ったか探してみようよ!」

 

「そうそう、アタシらも手伝うからさ」

 

「え? でも悪いですよ」

 

「いいっていいって。なあ、みんな」

 

タルトはうなずいていたが、レナは困ったように厨房を見る。

まなかは、大きく首を横に振っていた。

付き合いもそれなりに長い。ジェスチャーで何が言いたいのかがわかってきた。

正直、出前を配達するももこがいなくなるのは非常に困る。

 

「………」

 

レナはももこを見て、俯いた。

顔を上げて、何かを言おうとして、俯いた。

もう一度顔を上げると、ヨゾラと曾祖母を何度か見る。そして俯いた。

そしてそして――

 

「だったら……、レナが手伝う」

 

「え?」

 

「ウェイトレスはタルトのほうが人気だし、出前は面倒だから嫌だし。レナなら、いなくてもいいし」

 

「そんなことはありません! でも、困ってる人を助けようとする想いはとっても素敵ですっ!」

 

「そ、そんな大げさにいうことでもないでしょ……」

 

まなかも、レナが抜けるのはOKなのか、サムズアップを浮かべて店の奥に引っ込んでいった。

実にムカッ腹の立つ態度ではあるが、レナとしても目の前で困っているヨゾラたちを見て、はいサヨナラというのはモヤモヤが残る。

いや、まあ、助けるのは助けるで面倒なのは事実なのだが、どちらかといえばモヤモヤを抱えるほうが嫌だったという話だ。

ましてやヨゾラは年下だし、お婆ちゃんもいるしで、より放置した時の胸の痛みが強くなるじゃないか。

 

実際、ヨゾラはすごく喜んでくれた。

曾祖母もレナにお礼を言っていた。

今日は移動で疲れているだろうから後日、一緒に調べようということになった。

 

「じゃあ明日、お願いします」

 

「……ん」

 

レナがヨゾラたちの後ろ姿を見送っていると、左右に柔らく温かいものが触れる。

 

「えらいぞ~、レナぁ~」

 

「レナぁ、とっても素敵ですぅ」

 

「ちょちょちょっ!」

 

左からももこ、右からタルトがレナを抱きしめた。

ももこは頬ずりをしてくるし、タルトはしきり頭を撫でてくる。

跳ねのけようと思ったが、その実、善意を見せたのは『コレ』が原因なところも少しある。

今まで自己肯定感だの自尊心が低かったのは、とにかく否定される場にいたからだ。

だからこそヤマアラシみたいな性格になったわけだが、ももこやタルトはとにかく褒めてくれるし優しくしてくれる。

 

ウザいはウザいが、やっぱり、意外となかなか気持ちがいい。

なんだったら最近は自分と同じようなタイプを見てると冷笑さえ浮かべてしまう。

頭を撫でられながら囁くように褒められてみろ? 飛ぶぞ。

 

って、話なので、なるべくだったら褒められたほうがいい。

あとは、とにかくこの『ウォールナッツω』。店の名前であり、チーム名でもあるのだが、まなかは若干ドライなところはあるもののそれ以外のメンバーが凄まじいお人よしなわけだ。

そういう場所に身を置いていると、若干移るというか。

トガったことをしたほうが逆に気まずい感じになって気持ちが悪くなってきた。

この変化を喜べばいいのかはわからないが、居心地は悪くないのである。

 

 

一方、ヨゾラたちはホテルに帰るために河原を歩いていた。

 

「よかったぇ大祖母ちゃん。見つかるといいねぇ」

 

ヨゾラの問いかけに、曾祖母は何度か頷いていた。

そんななか、ふと、ブロロロロロロと変な音が聞こえてきた。

なんだろう? ヨゾラは辺りを見回すが何もない。

気のせいか? そう思ったとき、ドンと衝撃した。

目の前に、飛行機が降ってきたのである。

 

「え?」

 

飛行機。小型の飛行機だ。

正確にはプロペラ式の戦闘機、一式戦闘機と呼ばれるものに酷似していた。

ただの戦闘機ではない。機体部分が頭部になっており、そこから人型の体が生えている。

両腕は機関銃になっており、足にはまるで靴のように小型の戦車がくっついていた。

このおかしな人ともいえぬシルエットの周りにはモザイク状のエネルギーが迸っている。

 

「え? え? え……?」

 

ヨゾラは戸惑った。

これは一体なんなんだ? そう思うのは当然である。それは彼女の人生の中で初めて見る物体だった。

しかし曾祖母は本能で察した。

戦闘機というシルエット。両手についた凶器。

 

そしてこの、感覚。

逃げなさい。小さな声で何度もヨゾラに口にする。

しかし残念ながらもう間に合わなかった。

魔獣は機関銃を二人に向けると――

 

「変身!」

 

光が迸った。

ヨゾラたちの頭上を、アギトが前宙で飛び越えてきたのだ。

 

アギトは踏み込み、魔獣の手首を掴んで持ち上げる。

銃口が空に向けられ、ちょうどそこで無数の弾丸が発射された。

 

「フ――ッ」

 

魔獣が反応するよりも早く、アギトは掌底を腹部へ叩き込んだ。

怯み、後退していく中で発砲が止まった。

アギトは前進して魔獣と距離を詰めていく。

魔獣がエンジン音のような咆哮をあげて、腕を振るって殴りかかってきた。

 

しかしアギトはわずかに体を反らすことで攻撃を避けると、続けざまに手の甲で魔獣の背を叩く。

さらに続けて回し蹴りを打ち当てた。

衝撃で魔獣が大きくよろけたが、そこで発砲音。

狙いを定めていない無茶苦茶なものだった。

アギトは唸り、背を向けて両手を広げた。

感じる衝撃。しかし下手に動けば目の前にいるヨゾラたちに弾丸が命中してしまう。

 

「ちょッ! どうなってんのよ!」

 

ヨゾラたちから少し離れたところに停車していたマシントルネイダーからレナが飛び降りて走ってくる。

魔法少女に変身しつつ、ヨゾラの傍にやってくると全てを察した。

 

「とにかく逃げるわよ!」

 

「あっ! はい!」

 

レナは車椅子を奪うと、ヨゾラの手を取り走った。

それを見たアギトは振り返ると、弾丸を受けながらも強引に前に進んでいく。

しかし拳が魔獣に触れようとした時、プロペラの音が聞こえた。

魔獣は飛行することで拳を回避すると、地上にいるアギトへ両手の機関銃の乱射する。

 

「ッッ!」

 

アギトは地面を転がって弾丸を回避し、立ち上がりざまに跳ぼうと力を込める。

しかしそこで魔獣の戦車型の足にある砲身が動いたのを見逃さなかった。

アギトはそのまま大地を蹴ったが、攻撃のためではない。ヨゾラたちに向けて放たれた二つの弾丸を背中で受け止めるためだった。

 

「ぐあぁぁあッッ!」

 

「ッ! 翔一!」

 

レナが振り返る。

煙を纏って墜落したアギトを見て、しまったと思うが、それでもやはりヨゾラたちを守らなければならない。

レナは唇を噛んだ。車椅子を捨てて、曾祖母とヨゾラを抱えて離れることはできるが、曾祖母の体が持つだろうか?

抱えた時、持った時、跳んだ時、着地した時、骨折で済めばいいが、もしかしたらそれがきっかけとなって……。

 

(怖い――ッ)

 

人を傷つけることが。

 

『助けて!』

 

テレパシーが飛ぶ。

 

『魔獣がいてッ! 意外とマズイかも――ッ!』

 

みんなの腕が一瞬止まった。

そもそもレナたちがヨゾラを追いかけたのは、彼女がハンカチを店に忘れてきたからであった。

走って追いかけるには、もうそれなりに距離があったし、バイクを出してもらおうにも翔一は厨房の奥にいてヨゾラたちの顔がわからないしで、レナを連れて出たのだが――……。

 

まなかは唇を噛んだ。

今は営業中であり、店には他の客がいる。

翔一がいない今、店を開けてしまえばどうなるか。

ももこだってそうだ。料理の配達中でレナたちを助けに行けば、待ってる人はどうなる?

 

「大丈夫、おれに任せて!」

 

河原ではレナの気持ちを酌んだのか、アギトが言った。

丁度そこで魔獣の全身から小型のミサイルが発射される。

不規則な動きで飛び回るそれらを見て、アギトはベルト左サイドのボタンを押した。

 

装甲が青く染まる。

ストームフォーム、アギトがストームハルバードを取り出すと、それを振るって嵐を発生させた。

暴風がミサイルを散らして、次々に墜落させていく。

さらにアギトは風を纏って飛び上がり、急上昇を行った。

 

しかしハルバードを突いても手ごたえはない。魔獣が一瞬で高度を上げたからだ。

機関銃と戦車の砲弾が放たれる。

アギトはハルバードでいくつかを弾くが、弾丸の量はどんどんと追加されていき、ついにはガードを越えて装甲に命中していった。

 

しかしアギトはもう一度ベルトの左サイドにあるボタンを押した。

するとベルト中央から連続してレナの武器であるトライデントが発射された。

突風を纏ったそれは一瞬で魔獣に直撃。魔獣はよろけて墜落していく。

 

だがその中でプロペラ中央部分にモザイク状のエネルギーが集中していく。

間違いない。まだヨゾラたちを狙っているのだ。

いや、あえて狙ったといってもいい。

アギトは風を操り、射線に割り入るしかない。

そうすると直撃するレーザー。お互い地面に倒れる前に空中で体勢を整えて着地を決める。

 

けたたましいエンジン音とプロペラが回転する音が鳴った。

魔獣は飛び上がると、全身にモザイク状のエネルギーを纏って地面を蹴った。

アギトはグランドフォームに変わると飛び上がり、スライダーモードにしたマシントルネイダーに着地する。

 

展開するクロスホーン。車体が傾き、アギトはシートを蹴った。

同じくして魔獣が急加速した。

アギトが飛び蹴りで迫るが、魔獣が口からレーザーを発射する。

それが直撃してしまい、アギトが大きく減速した。

そして――

 

「――ッッ! グッッ!」

 

倒れたのはアギトのほうだった。ライダーブレイクが負けたのだ。

魔獣は着地して肩を揺らしていた。

笑っているのだ。魔獣はプロペラを回転させる。直接押し当てることで、アギトを装甲ごと引き裂くつもりのようだ。

 

「マズ……ッ!」

 

振り返ったレナは青ざめた。

アギトのおかげでヨゾラたちを遠ざけることはできたが、そのアギトが危ない。

 

「……!」

 

だが、レナはすぐに笑みを浮かべた。

魔獣はすぐに左を見る。光を感じたのだ。あまりにも眩しい過ぎた光。

魔獣にとっては猛毒となりえるほどの煌めきを伴いながら、タルトが歩いてくる。

 

「ガァァア!」

 

魔獣が吠え、タルトに突っ込んでいった。

すぐに何かが壊れる音がする。

煙を上げて後退していくのは魔獣だ。プロペラが砕け散り、そこから煙が上がっている。

 

魔獣は両手の機関銃を発射してタルトを狙った。

弾丸はタルトに当たっている筈なのだが、タルトは全く怯んでいない。開いた目のど真ん中に弾丸が直撃しようとも、瞬き一つしない。

何もない。ノーリアクション。タルトは尚も前進していく。

 

これはおかしい。魔獣は悟ったのか飛び上がり、距離を取ろうと試みた。

だがすぐに地面に落下する。空から伸びた光が魔獣を押しつぶしたのだ。

タルトは持っていた剣を振る。光の斬撃が一瞬で魔獣に到達すると、魔獣の全身をエネルギーが駆け巡り、体の至るところが爆発を始めた。

両腕が切り落とされ、戦車が粉々に砕け、魔獣は倒れて動かなくなる。

 

たった一撃。

攻撃を命中させただけ。

これがキュゥべえにイレギュラーと言わしめたジャンヌダルクの力なのである。

 

「……ッ」

 

しかし彼女は現代に蘇ったが、たった一つだけ大きな違いがあった。

それが『魔力』である。多くの因果を束ねた彼女はフランスでの戦いの時よりも、さらに力が上がっている。

言い方を変えればそれはデメリットでもあった。

 

かつてタルトは、あまりにも強大な力を制御しきれず短時間でソウルジェムが大幅に穢れてしまうという弱点があった。

クロヴィスの剣を手に入れてからは、それも収まったが、現在のタルトはクロヴィスの剣を持っているにも関わらず魔力を抑えきることができないのだ。

故に、魔法技を使うと仮定して、彼女が変身できる時間は長くても『1分』が限界なのである。

だからこそ早々に決着をつけるべきだ。

タルトが構えると、槍のような『旗』が生まれる。

 

「ラ・リュミ――」

 

そこでタルトの持っていた旗が大爆発を起こした。

衝撃の中でも槍はブレないが、爆炎と煙が視界を隠す。

タルトが旗を振ると煙が吹き飛び、三浦旭が歩いてくるのが見えた。

彼女は持っていたロケットランチャーを放ると、倒れている魔獣の前に立つ。

それも、背中を魔獣に向けて。

 

「偉大な英雄。ジャンヌダルク殿に敬礼!」

 

「旭さん……、どいてくださいっ」

 

「申し訳ないであります。しかし、ルールがあるのも事実であります」

 

旭はポケットから小型発信機を取り出すと、後ろに放って魔獣の体につける。

 

「ひとつ、我らが深海大尉はかねてより魔獣のサンプルを欲しておりました。生きたまま捕獲したほうがより多くの情報を手に入れることができるであります」

 

旭は『ヘラ』と呼ばれるハンドガンを抜いた。

正式名称はGM-01改4式、それを連射すればタルトの表情が曇った。

一つ一つの弾丸は小さいが、着弾時に小さな爆発が起きていた。

これが厄介で、威力は先ほどの魔獣の攻撃の比ではないのだ。

 

(みやこ)女史の特性弾丸であります。一つ一つに液体が注入され、着弾と同時に爆発が起こるであります」

 

 

しかし、それでもタルトは不動であった。

ピクリとも動いていない。眉をわずかに動かしただけだ。

であれば、旭は素早く弾丸を入れ替える。

タルトは動かない。着弾。爆発。

そこでタルトは槍を消滅させた。

 

「これは――!」

 

「女史特性の弾丸であります。威力はありませんが、爆煙から焼死体と、血の匂いが発生するようになっているであります」

 

 

タルトは何も言わなかったが、明確な怯んでいるようだった。

防御力は凄まじいとはいえ、嗅覚は少し別のところにある。

 

旭は歩いた。

手にしたのはモノケロース。

正式名称、GK-06改4式。超振動するナイフでタルトに切りかかっていく。

 

「ひとつ、これは単なる私情であります」

 

二人は組合った。

実は旭がタルトに攻撃を仕掛けてくるのはコレが初めてではない。旭には自らに課した掟がある。

曰く、作戦名は明星の審判。日曜日、月曜日、金曜日に旭はタルトを攻撃する。

 

「下界に染まりし穢れた我らが神の代行者になることを許したまへ」

 

殺そうとするのだ。

 

「うあぁっ!」

 

タルトが怯んだ。

無理もない。初めて見る攻撃だった。

突如として、旭の左目からレーザーが発射されて顔に直撃したのだ。

よろけていると、腹に衝撃を感じる。

旭の右手、手首から上が分離して、タルトを殴ったのだ。

 

「ォオオオオオオオオオオオ!」

 

回復したのか。魔獣が立ち上がり、吠えた。

両足を揃えて地面を蹴り、大空に向かって飛び立った。

旭は沈黙する。そしてすぐにタルトのほうを見た。

どうやら彼女は魔獣よりもタルト抹殺を優先するらしい。

 

(不意打ちは成功でありますが……)ティロン♪

 

見たところ、目立ったダメージはない。

 

「やれやれ」ティロン♪

 

旭は小さくため息をついた。実力差を感じるというものだ。

 

(……しかし、勝機はあるであります)ティロン♪

 

むしろ旭が優勢である。

タルトは放っておいても魔力切れで自滅する。

彼女が魔女になるのは恐ろしいことだが、それはタルト自身もよくわかっている筈だ。

 

ティロン♪

 

だから必ず魔女になるまいと、早めに変身を解除する。

そうなってしまえばソウルジェムを破壊するのは容易いだろう。

あるいはそれよりも早く自害を選ぶに違いない。

 

「………」

 

ティロン♪

 

「……?」

 

ティロン♪

 

「………」

 

ティロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ

 

「うるさいであります! なんであります!?」

 

旭は懐から携帯を取り出すと、メッセージアプリを確認した。

 

 

『ラーメンたべいこ』

 

『無視するの?』

 

『え? ヘラるよ?』

 

『ふーん』

 

『ふぅん。そう、なんだ』

 

『そっか』

 

『マジ無理』

 

『おい、先輩の言うことが聞けないのか?』

 

『そうですか』

 

『わかりました』

 

『はいわかりました』

 

『りょ』

 

『う』

 

『か』

 

『い』

 

『し』

 

『ま』

 

『う』

 

『ま』

 

『ひひィィィイイイイイイイイイイイイイイン!』

 

 

「大元帥からのメールがたくさん来ているであります! 想像の倍は執拗に来ているであります!」

 

旭は汗を浮かべ――

 

『既読ついたのに返信こないねぇ』ティロン♪

 

「ぐっ、そうこうしている内にまたッ!」

 

『こないねぇ。無視するんだねぇ』

 

「そっちが早すぎるだけであります――ッッ!」

 

『今すぐ来い。じゃないと潰すぞ、ガキが』

 

「くっ! ぐ……ッ!」

 

旭は少し考えた。もう少し考えたが――、そこで携帯をしまう。

 

「退くであります」

 

旭、撤退。

 

「な、なんだったのよ?」

 

レナはポカンとした表情で去っていく旭の背中を見つめていた。

 

 

 

 

「お、きちゃね、二号」

 

「………」

 

見滝原にあるラーメン屋、そこに制服姿の旭はやってきた。

奥のほうに座っておられる神那大元帥の隣に座る。

 

「イメチェンした?」

 

「……は?」

 

そこで旭の前に濃厚醤油とんこつラーメン豚増しと、ライス(中)が置かれる。

 

「左の瞳に乾杯。ばちこん☆」

 

ニコはウインクを行うと、ズゾゾゾゾとラーメンを啜り始めた。

 

「うますぎワロタ」

 

真顔でそう言いながら卓上にあったおろしニンニクをたっぷりスープの中に入れて溶かしていく。

 

「流石でありますな」

 

「何が?」

 

「義眼を見破るとは。精巧に造られているでありますのに」

 

「本当の目はどうしたの? 落とした?」

 

「捨てたであります」

 

「ふぅん」

 

ニコはどうでもよさそうに返事をした。

事実どうでもよかった。

スープに浸した海苔でご飯を巻いて食べるほうが重要なことだった。

 

「まだ胃までは機械になってないだろ? 食べなさいよ」

 

「………」

 

旭はラーメンを啜り始めた。

ニコとの関係は……、よくわからない。

なんだか似ていると言われてズルズル付き合わされている。

まあ確かに魔法少女の衣装デザインは近いところがあるのかもしれないが、それだけだ。

旭はいまいちピンと来ていなかった。

だがニコは何度も何度も似ているという。

 

「わざとでありますか?」

 

「おん?」

 

「いえ……。明星の審判の時に、よく招集がかかるもので」

 

「みょ――……は? え? なに? ミュウの進化? ポケモン?」

 

「……なんでもないであります」

 

「ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ」

 

ニコはホロホロになったチャーシューを箸で崩してご飯の上に乗せていた。

さらに千切りにされた沢庵をケースから出して、一緒にご飯にのせてかき混ぜて食っていた。

旭はそれを奇異の目で見つめながらラーメンを啜る。

 

「魔獣が出たであります」

 

「知ってるよ。なんだあの物騒な飛行機野郎は」

 

「確か……」

 

「色付きだ。タロットのアルカナを模してるから……、おそらくあれは戦車だろう」

 

以前、ニコたちが該当するような個体を倒したらしい。

しかしどうやら完全に破壊しきていなかったようだ。

 

「それが、"こっちの見滝原"に逃げ込んだみたい」

 

「壁を突破したでありますか」

 

「魔獣は負のエネルギーを吸収すれば進化していく」

 

「ここ最近、慰霊碑が破壊されていると報告を受けたであります」

 

「魔獣によって浸透しやすい負の種類も違うらしい。戦車にとってはご馳走だったんだろな」

 

「コチラもご馳走様であります」

 

「早くね? 全然食べてない雰囲気だったろお前」

 

旭は立ち上がり、ラーメン屋を出ていこうとする。

 

「え? 帰るの? これからアイスクリーム屋さんに行ってから、公園でケイドロするって約束だったじゃん」

 

「初耳であります」

 

「甘えるな」

 

「は?」

 

「甘えるなと言っている」

 

「………」

 

「質問の意味が分からない?」

 

「申し訳ないであります」

 

「それはうぬが未熟者だからである」

 

「……っ」

 

「悔しいか? しかし全く心当たりがないわけではないだろう。己の胸に手を当てて考えてみよ」

 

「ハッ!」

 

「目を瞑れ。何が見える」

 

「な、なにも見えないであります」

 

「否。見えている。見えないのであれば、それはお前が目を逸らしている証拠だ」

 

「!!」

 

「時は川のように流れる。静寂は静寂を生むが、流水のように流れゆく宿命は、誰しもが視覚できるものだ。見極めよ、さすれば、そこに見えぬものなし」

 

「……ッッ」

 

「――なんつっ」

 

「見えてッ、きたで、あります……!」

 

「ガ?(ガチ!?)」

 

「ハッ! 熱いご指導! 感謝であります!」

 

「……よろしい! 下がりなさい」

 

「神那大元帥に敬礼!」

 

(あれ? なんか適当に言ってみたけど響いてね? ようし、黙っておこう)

 

それから、しばらくしてラーメン屋に目つきが鋭い青年が入ってきた。

 

「こっちこっち」

 

「なんなんだ。いきなりラーメン食おうだなんて……」

 

「食いたくなってね」

 

「まあ俺も食事はまだだったが……」

 

「私はもう食った」

 

「は?」

 

「や、まいったね。キャッシュレス派だからさ。ここ現金だけなんだってね」

 

「お前、まさか……!」

 

「まままま。ま! お礼に冷たいビールと餃子を用意しといたから。ね、楽しんでね。はい。そういうことで。私、人を待たせてるから。もう行くわ」

 

「……おいちょっと待てお前! お礼って、普通にビールと餃子追加で注文しただけじゃねぇか! おい! おいッ! なあおいって!!」

 

ニコは一度も振り返らず店を出て行った。

木村(きむら)はニコ追いかけようと思ったが、うまそうな餃子とキンキンに冷えたビールを見て喉を鳴らすと、着席してラーメンを注文したのであった。

 

 

 

「というわけで、これはお土産であります」

 

「あんた頭どうかしてんじゃないの?」

 

レナから強めの言葉が飛んできたが否定はできない。

結局、アレからニコに連れられてアイスクリームを食べて、ケイドロをして、映画を見てからミタキーランドで遊んで、パレードを見て帰ってきた。

ミターキー(七面鳥のキャラクター)の嘴とトサカカチューシャをつけたままの旭が、キャラメルチョコクランチをウォールナッツωの面々に配っている。

お土産はそれだけじゃない。旭は魔獣の情報を包み隠さず伝えていく。

 

「どういうつもり?」

 

レナは訝しげな目で旭を睨んでいた。

上にタルトを避難させているが、それに気づいた旭が上を目指さないとも限らない。

とはいえ、今の彼女に敵意はないらしい。

 

「女心と秋の空は複雑であります。傷つけるのも、助けるのも、すべては我らの意思であると理解していただきたいでありますよ」

 

「は?」

 

「我らはタルト殿を殺したい。しかし殺したくない時もあるのであります」

 

「なによそれ! 全ッ然わかんない!」

 

「まあいいじゃありませんか。ここでやるよりはずっとマシです」

 

「料理長の言うとおりだよレナちゃん。さ、どうぞ話を続けてください」

 

翔一に促され、旭はうなずく。

 

「色つきは戦時中の怨念エネルギーを集めて急激に進化しているであります。おそらくヨゾラ殿の曾祖母を狙ったのもその時代を生きたが故か――」

 

「では次は老人ホームを狙う可能性が?」

 

「いえ。人よりも物のほうが優先度が高いと思われるであります。曾祖母殿が狙われたのはおそらく当時のものを何か持っていたからだと予想されるであります」

 

データによると、今は人的な被害は出ておらず、慰霊碑などの破壊を優先しているようだ。

これらから次は"神浜空襲跡地"を狙う可能性が高いと指摘する。

 

「魔獣のルールからして決行日は翌日が濃厚かと」

 

 旭がつけた発信機は、外れたとしても、つけた相手を追尾して再装着される特性がある。魔獣が再び実体化しても居場所がわかるというわけだ。

 

旭はその際に、居場所を教えてくれるという。

しかし同じくしてサービスはそこまでだった。

 

「深海大尉はサンプル獲得のために水城少尉を出撃させることも検討しているであります。それでは我らはこれで」

 

そう言って旭は帰っていった。

入れ替わりでタルトが下りてくる。まなかは旭から伝えられたことをもう一度、説明した。

 

「まいったなぁ」

 

翔一は苦い顔をする。

知り合いにも協力を頼もうかと思ったが、"チーム・ネフィリム"は御園大先生の次回作着想のための取材に見滝原を出ているらしく、"チーム・ネオブロッサム"には深海たちを止めてもらいたいというところがある。

 

「仕方ありません。まなかたちで何とかしましょう」

 

「そうですね料理長」

 

「ちょ、ちょ、ちょ」

 

「?」

 

レナが腕を組んで鼻を鳴らした。

 

「それはそれとして、ヨゾラたちのことはどうすんのよ」

 

「……どうしたいですか?」

 

「は?」

 

「いえ。含みのある言い方などではなく、尊重してあげたいので聞きました。レナさんは忘れているかもしれませんのでもう一度言っておきますが、ウォールナッツωのチームとしてのモットーはただ一つ。今日一日を締めくくる晩ごはんが最高においしく食べれることです!」

 

だからこそ各々がカバーする。

今日もそうだった。まなかにとって、もちろん人の命は優先されるものだ。

それを守るために戦うことは当然であると思っている。

 

しかし一方でウォールナッツωに来てくれるお客さんを満足させることも、同じくらい大切なのである。

おなかをすかせた人たちに『すみません、魔獣を倒しに行くので店を閉めます』などと告げるのはポリシーに反する行為だった。

だからこそ、タルトが出てくれたのだ。

負担が少なそうな人が出てカバーをする。それがチームの意味ではないか。

 

「ですので、レナさんがどうしたいかを言ってくれれば、まなかたちが助けますので」

 

「………」

 

レナが戸惑っていると、ポンポンと優しく背中を叩かれた。

ももこだった。微笑んでいる彼女を見て、レナは釣られそうになる。

それは少し癪だったので、グッとこらえて腕を組んだ。

 

「探してあげたいわよ。乗りかかった船を途中で降りるの、なんか気持ち悪いし」

 

「………」

 

「ももこ、翔一、うざい」

 

「「なんで!?」」

 

「成長したなぁ。みたいな目ぇしないでよ」

 

「いやいやっ、誤解だって。ねえ津上さん」

 

「そうだよレナちゃん。別にそんな目してないって」

 

「は!? なによ!? レナが成長してないっていうの!?」

 

「めんッッッッ!!!」

 

「なんか言った?」

 

「……いえ」

 

「怒らないでレナ! そうです! 二人が何を考えていたか聞けばいいじゃないですか」

 

「そうねタルト。そうしてやろうじゃない」

 

「続けるんですか……」

 

「いや、べつに。おれもヨゾラちゃんたちの悩みは解決してあげたかったし、同じ気持ちだなぁって」

 

「合格」

 

(……合格?)

 

「ももこは?」

 

「い、いや、その……」

 

「歯切れが悪いわね。どうせレナは単純だなーみたいなこと考えてたんでしょ!」

 

「んなはずないだろ! ただ、その――」

 

「ああもう! ハッキリ言いなさいよ!」

 

「レナの後頭部、かわいいなぁって」

 

「……ばか」

 

「赤くなるの気色悪いですねー……」

 

「ンまなか!!」

 

「素敵! どうして可愛いと思ったのか、わたしとっても気にな――」

 

「もういい! もういいですよタルトさん!」

 

まなかはそう言って一枚のメモ用紙をレナに差し出した。

 

「なにこれ?」

 

「何もレナさんの考えはレナさんだけが抱いたものではないということです」

 

まなかも、ヨゾラたちのことを助けてあげたいとは思っていた。

なのでさっさと行動に出ただけだ。

 

「超幸いにして、お父さんが和田屋さんを知ってました」

 

「本当に!?」

 

「はい。正確にはお父さんのお友達が営んでいる洋食屋さんで働いている人の奥さんが和田屋で働いていたようで。ウメコさんの現在の住所を知っているようなので、事情を話してアポを取っていただきました」

 

「さすが料理長!」

 

「えっへん。とにかく、まあ新幹線とタクシーで一時間半くらいですので、朝一で行ってください」

 

既に手配済みだったらしく、新幹線のチケットを手渡されたレナは真っ青になった。

 

 

翌日、ももこは野菜の皮をむきながらスマホを耳と肩で挟んでいた。

 

「大丈夫、大丈夫だって。そう、ホームは気をつけてな。黄色い線から出ちゃダメだぞ。うん。大丈夫切らないって。隣の人? 大丈夫、気にしないよいちいち。座席? そうだなぁ。じゃあ早めに入って後ろの人が座る前に倒しちゃえ。うん。大丈夫。ずっとこのまま繋いでるから。え? いや、え? それはちょっと……、はいはい! わかったわかった傍にいるよ。うん、大丈夫。アタシがついてるから。レナの味方だから。うん。うん。いやちょっとやっぱ恥ずかしいな。津上さんとまなか後ろにいるんだけど……」

 

アポはとってもらえたが、内容が和田屋さんの親子丼のレシピをまるまま模倣できるレベルまで教えてくださいとなると、向こうも簡単には首を縦に振ってはくれなかった。

事情を説明しておおまかなことは把握してもらえたが、条件としてウメコさんのところまで足を運ぶことを提案された。

故に、レナちゃんの一人旅が始まったのである。

新幹線に一人で乗るのは初めてだ。

 

『あー、もしもしレナさん? まなかですけど、ちゃんと席は通路側にしておいてあげましたから、席を立つときに気まずくならないで済みますから。安心してください』

 

「ありが……フンッ! 知らないわよ」

 

『どうなってるんですか貴女のシステムは。『ありが』の次はたった二文字ですよ。いや、なんだったら『と』まで言えば終わりなのに何故そこでトガるんですか……』

 

「……ごめん」

 

『はい、よろしい』

 

「でもまず知らない人が隣なのが嫌なんだけど」

 

『そこは我慢してください!』

 

幸い、隣にきたのはキャリアウーマンだったが、小さいパソコンで作業する前にフィルターをモニタに挟まれた。

 

(レナのこと疑って! 覗くわけないでしょ!)

 

と、文句を言ってやりたかったが、飲み込んだ。

レナも、もう大人だ。おいしいとは思わないがブラックコーヒーも飲めるようになった。

そういうのは黙っておいてやろうと思った。

実際、何してんのかちょろっと覗くつもりだったし。

 

寝てしまうといけないので、スマホを常に耳に押し当てていた。

しゃべると周りの迷惑になるので、ももこがひたすら一人で喋り続けた。

というよりもお気に入りにアイドルの曲をひたすらに歌い続けてもらった。

しかし突如、切られた。

まさか嫌われたのか? ウザいと思われたか? メンタルが参りそうになった時、トンネルに入ったから電波が切れたのだと気づいた。

 

山を越えると一気に田舎になる。

しばらく田んぼと畑を見つめ続けて、再び町になって、駅に到着した。

レナはタクシーを呼んでメモにあった住所へと進んだ。

タクシーの運転手さんが馴れ馴れしく話しかけてきたので、初めは無視しようと思ったが、レナは適当に、あいまいに、できる限り愛想をよくして微笑んでおいた。

 

「まあ、なんていうか……」

 

家の前で降ろされたが、レナは一旦そこから離れてももこに電話をかけた。

 

「我ながら、らしくないことしてると思うわよ」

 

『まあね。よく頑張ったよ。もうちょっと頑張れる?』

 

「ナメんじゃないわよ」

 

『でも電話してきてるじゃん……』

 

「そんなんじゃないから。これは、そんなんじゃない……」

 

『?』

 

「聞いてほしかったのは、まあ……、あるかも。なんか、そう、きっと、こういうことすればちょっとでも、レナの嫌いなところが減ってくれる気がするから」

 

ももこは、きょとんとしていたが、やがて小さく笑う。

 

「……アタシはそういうレナのところも好きなんだけどな」

 

「まあ! なんて素敵な言葉でしょう!」

 

タルトは嬉しそうに笑うが、ももこは真顔になった。

 

「とっくに切れちゃった」

 

「レナちゃん勝手に切ったら怒るくせに、自分は勝手に切っちゃうからなぁ」

 

 

 

 

そのレナさんは、家の中にいた。

前にはウメコさんがいて、レナにお茶を差し出した。

 

「すいませんね、わざわざ。疑うようなことも言ってしまって」

 

「まあ、その……、当然だと、思います」

 

心の中では「本当よ! さっさと教えなさいよねまったく!」などとのたまうデビルレナが若干、本当に若干いたことは否定できないが、それでも言葉を飲み込めるくらいの要素はあった。

レナはウメコに携帯を見せる。画面にはヨゾラから送られてきた曾祖母の写真が写っていた。

さらに二枚目には曾祖母が持っていた『写真』があった。

 

既にボロボロで、それはコピーなのか現物なのかもわからないが、いずれにせよそれは曾祖母の父だと察することができた。

ウメコはそれを見て、表情を変えた。

少し借りていいかとレナの携帯を持って奥に引っ込んでいった。

そしてしばらくして、メモを持って戻ってきた。

 

「はい、はい、わかりました。どうぞ、これがレシピになりますんで」

 

「ど、どうも……」

 

「すぐにというのなら撮影して送ってくれればいいんですので。はい」

 

レナはもう一度お礼を言ってレシピを撮影すると、まなかに送信する。

 

 

まもなくして旭から魔獣が現れたと連絡が入った。

色つき、『戦車』は『神浜空襲跡地』にある慰霊碑を破壊しようと歩いている。

取り込んだ負が馴染んだのか、その姿は以前のものとは違っていた。

プロペラ機だった頭部が今は最新型の戦闘機になっている。

機関銃はガトリングへ、足の戦車はメーサーレーザー搭載という現代では考えられないものだった。

 

色つきが止まる。

慰霊碑を遮るようにして、ももこが立っていたのだ。

 

「これをどうするつもりだ」

 

「称エシ! バッドエンドギア! 命令ドオリ破壊セヨ!」

 

「ッ!」

 

言葉を話せるほどまでに成長しているようだった。

 

「戦争ガ発生サセル負ノ連鎖! 万歳! コレヨリ! 再現ニ入ルベシ!」

 

「なんだと……ッ!」

 

最後の慰霊碑を破壊した後は、飛び立ち、神浜、見滝原、風見野、などなど、多くの地を爆撃する。

そうだ。爆弾、弾丸、毒ガス、なんでもいい。

それが死を呼び、苦痛を生み出し、さらなる進化を色つきに齎すであろう。

であれば色つきはこう発信するのだ。

国同士で殺し合い、勝ち残った国だけは、魔獣による攻撃をやめてあげようと。

 

さあ、人類はどうするか?

決まっている。世界大戦の始まりだ。

それを魔獣たちは見て楽しむのだ。そして賭ける。どの国が勝つのかを。

 

「魔獣ノ最高娯楽遊戯! フールズゲーム! 次ノ形態ノ始マリナノダ!!」

 

「そんなこと! 絶対にさせるかッッ!!」

 

ももこは変身して走る。

大鉈を振るうが感触はない。

色つきが後ろへ飛行しており、ガトリングや背中から次々と追尾ミサイルを発射してももこを狙う。

ももこは鉈を盾にするが――

 

「ぐあぁぁああぁ!」

 

周囲が爆発を起こし、ももこの体が浮き上がる。

きりもみ状に回転して、肩から地面に激突した。

魔獣は周囲を見回し、そこで口を開ける。光が集中していくのを見て、ももこが青ざめた

激励を自分にかけて強引に立ち上がると、煙を纏いながら滑り込む。

そこでレーザーが発射されて、両手を広げたももこの背中に直撃する。

 

「グアァアァアア!」

 

「ももこ!」

 

 

ももこが守ったのはタルトだった。

彼女は申し訳なさそうに唇を噛む。

 

「コッチに来なさい魔獣!」

 

剣は持っているが、変身はしていない。

それでもタルトは自らを囮に走った。

迫る弾丸をダッシュでよけ、迫るミサイルを剣で弾いて吹き飛ばす。

しかしやはり生身では限界があるのか、爆風で吹き飛ばされて地面を転がった。

 

そこへ迫るミサイル。だがそれらは空中で爆発する。

投げられた鉈のせいだった。ももこは走り、タルトを抱きかかえて跳ぶ。

しかし安全な場所はない。ももこはミサイルが迫るのを見ると、タルトを投げて、すべての攻撃を一人でうけおった。

 

「うグッ!」

 

そして、倒れる。

魔獣はタルトが見えなくなっていることに気づいた。

隠れているようだが無駄である。すぐに円形状のエネルギーを拡散させて、生体反応をサーチする。

 

(そんな能力があるなんて!)

 

予想外だ。タルトはすぐに襲い掛かる銃弾を、木を盾にすることで回避していった。

しかし時間の問題である。

ここまでか? 歯を食いしばった時、予想外の出来事が起こった。

 

突如、魔獣にとびかかってきた無数の影があったのだ。

メガゼールをはじめとして、複数のガゼルモンスターたちが一斉に色つきへとびかかっていく。

すぐに爆発が巻き起こり、メガゼールたちが消し飛んだ。

しかしそこで衝撃。ももこに斬られた。

よろけ、後退していく中で、追撃がヒットする。

 

色つきは飛び上がり、タルトを探した。

彼女を攻撃すれば、ももこはタルトを守らざるを得ないからだ。

しかし生体反応を探ってみて色つきは唸った。

木々の間に、メガゼールが隠れているらしい。

生体反応が多すぎる。これではタルトを特定するには至れなかった。

 

まあ一つ一つ潰していけばいいだけだ。

色つきは爆撃を開始する。

どうせ、ももこにはろくな飛び道具がないのだし。

 

 

 

 

「ど、どうしますか? ガゼルたちが減ってるけど、追加したほうが……」

 

「いえ。加勢はこのくらいでいいでしょう。仮にもしも彼女たちがここで終わるというなら、その程度の実力者だっただけです」

 

少し離れたところの木の上で、太い枝に腰かけている二人の中学生がいた。

眼鏡をかけた少年、『石田(いしだ)』は、チラチラと『常盤(ときわ)ななか』の顔色を窺っている。

 

「でも、聖女は使えると思います。取り巻きも利用できそうですし、常盤さんの魔法でも結果は良かったん……ですよね? 仲間になってもらうのはメリットがあると、思うんだけど……」

 

「おっしゃる通りです。ただ、同時に敵も多い」

 

「あ……」

 

「我々の目的はいずれ行われるフールズゲームの勝利者となることです。彼女たちは倒すべき敵ではありませんが、足枷ともなりえます」

 

「そ、そうですね」

 

ななかと石田は同時にメガネを整えた。

その時、二人は頭上に風を感じた。

 

戦闘機だ。

急上昇して色付きの遥か頭上に位置をとると、そこからレナが降ってきた。

ただし、落下しながらの一撃はヒラリと回避されてしまい、カウンターに放たれた蹴りで、レナは走ってきたももこにぶつかってしまう。

怯んだ二人へ直撃していくミサイルの数々。爆発音に交じって悲鳴が聞こえた。

 

「ぐッ! 大丈夫かレナ!」

 

「まあ、なんとかね……!」

 

「早かったな!」

 

「旭よ! あいつ! レナにまで発信機をつけてくれちゃって!」

 

ただおかげで旭が迎えに来てくれたわけだ。

神那大元帥とやらから与えられた専用戦闘機『ヴォルフ』に乗せてもらい、一気にこの地までやってきたというわけだ。

ヴォルフは既に飛び立った。加勢するのかしないのか、あいまいな旭の態度にイラついたのは事実だが、ここに来る途中、旭はポツリと口にしていた。

 

「我らはまだ、続いているのであります」

 

非常に抽象的な言葉のやり取りが続いた。

しかしそこでレナは旭の固有魔法が『幽霊』であると教えられて、なんとなく彼女を取り巻くものを察した。

 

『聖女殿は取り憑かれているであります。怨念だらけな分、まだコルボー殿のほうが赦しの条件がわかりやすくていい……』

 

とか何とか。

レナは困り果てた。難しいことをいうのはやめてほしかった。

一度考えてみる? そんな余裕はない。

ももこも叫んでいる。

 

「向こうがまた進化して明確にタルトの位置を割り出されるようになったら終わりだ! 強引だけど、無茶苦茶やって止めるしかない!」

 

真剣なももこの眼差しが、レナの心を貫いた。

そうだ。よくわからないが、わかることもある。レナはタルトのことが好きで、目の前にいる魔獣が気に入らない。

今はまだ……。

いや、きっとこれからもそれだけでいい。レナは変身魔法でももこに変わる。

 

「頼むよ、レナ!」

 

「柄じゃないけどわかったわよ。耐えてよももこボディ!」

 

二人は鉈を構えて、色つきに向かって走っていった。

 

 

 

一方ウォールナッツωでは、まなかと翔一がキビキビと動いていた。

ももこからのテレパシーでピンチなのは聞いているが、それでも彼女らには彼女らの戦いがある。

翔一は奥の席のほうで待っていたヨゾラと曾祖母に、その一品を置いた。

 

「和田屋は昔、和田食堂といって軍指定の食堂だったんです。多くの特攻隊員たちに食事をふるまったみたいで」

 

ウメコも母から話を聞いていた。

ウメコの母は、ウメコの母の母から話を聞いていた。

彼女はそういう話を訪れたレナにも話した。

 

「今と昔は、ぜんぜん違うものでね。価値観とか……」

 

レナもそれくらいはわかる。今もリモート授業だって受けているわけで。

 

「みんな笑ってたそうよ誇りを口にして、ご飯を食べて、お酒を飲んで、そして飛んで行った。そして――」

 

続きは口にしなかった。

しかしレナはウメコが言葉を続けているのだと思った。

口がポカンと開いている。

あそこからきっと見えず聞けない言葉が確かに存在しているのだ。

けれども該当する音がない。文字列がない。

 

レナも言葉が具現できない。

きっとそういうものがこの世界には存在しているのだろう。レナはそこで魔女を殺した日のことを思い出した。

その魔法少女は何を願って、どうして絶望したのだろうか?

わからない。なぜならばそれが『魔法少女』というものだからだ。

そこにはきっと表す言葉がないのである。

いつか理解できるのだろうか?

レナは、少女だ。

 

「当時は……、誇りだったと」

 

ウメコはレナに手紙を見せた。

何が書いてあるのかはよくわからなかったが、ウメコが説明してくれた。

レナより三年だけ早く生まれた少年が書いたものだった。

彼もまた笑顔で飛んで行ったという。悲しむな。勇気の限り。キミたちのためならばと。ウメコはポツリポツリと口にする。

レナはその内容を知って、言葉が出てこなかった。

 

「本気だったの?」

 

「さあ」

 

ウメコは、和田家に語り継がれている青年の話をしてくれた。

 

「当時、一人だけ食堂で泣いてしまった人がいましてね」

 

ウォールナッツω。

翔一は、ヨゾラの曾祖母を見た。

その青年は、はじめは仲間たちのように笑っていたが、和田食堂の料理を食べた途端、涙を零したという。

男が泣くものではない。彼は必死に涙を拭ったが、どうしてもあふれてしまうのだ。

 

当時のウメコの祖母が理由を聞くと、大切な人のお腹に自分の子がいるのだと教えてくれた。

父になるのかと聞くと、そうだと強く頷いた。

それでも飛ぶのかと、つい残酷なことを聞いてしまったが、それが青年の決意を確固たるものにした。

 

 

そうだ。あの子らの『  』ために飛ぶのだ。

 

 

彼はそう言って、翌日行ってきますと笑顔で言った。

 

「時代が時代で、当時はみんな、笑顔で行くんですよ」

 

ウメコはレナに向かって、もう一度、同じようなことを言った。

 

「でもやっぱり、そういうことですからね。そういうことなんですよ」

 

「……はぁ」

 

「手紙があってね。たくさん。ありましてね。それはやっぱり、きっと、それは未練なのか、それとも……」

 

ウメコは続きを言わなかった。

 

「そりゃあ、泣くわね」

 

レナが家を出る時になって、ようやくそう口にする。

きっと何か葛藤のようなものがあったのだろう。何を語ることがあるのだろう。そんな資格があるのかと。

その人の想いはその人にしかわからないものであると思っているからだ。

しかしそれでも、ウメコは一つだけ声を大にしていうことがある。

言わなければならないことがある。

 

「あんなことはね、二度と繰り返してはいけないんです」

 

「……!」

 

「家族がいて、友人がいてね。いなくても生きていれば作ることができた。それが人間というものでしょう? それを……、その自由を否定することなんて……!」

 

レナは頷いた。

 

「レナにも、とっても素敵な友人が……います」

 

ウメコは頷いた。

踵を返したレナ。そこで旭を見つけたのだった、

 

 

「思い出したんだね。きっと」

 

ヨゾラは目の前にある"親子丼"を見てそう言った。

きっとその料理を見て、曾祖母の父は娘が生まれるという事実がフラッシュバックしたのだろう。

曾祖母もそれを理解した。なのでお礼を言って、親子丼を食べはじめた。

 

「そうですか。そうですか……」

 

か細い声でそう言いながら、ひたすらに食べ続けた。

 

「そうですか……」

 

年齢もある。全部は食べられない。

だから少しでも多く食べ続けた。そしてしきりにハンカチで目を拭っていた。

 

 

 

 

「おいしかったね」

 

ヨゾラたちは帰りの電車に乗る前に、墓を参ることにした。

薬局で買った線香に火をつけて、手を合わせる。

数珠はないが、まあ許してもらおう。

 

「そろそろ帰ろっか」

 

ヨゾラが微笑むと、曾祖母は頷いた。

 

「大祖母ちゃんの故郷に来れてよかった。まあ昔と今じゃ景色は違うだろうけど。ただでさえ近未来都市って言われてるし……」

 

車椅子の後ろに行こうとして、ヨゾラは上を向いた。

 

「空、奇麗だねぇ」

 

快晴だった。曾祖母も釣られて上を向く。

そこで風が吹いた。

ヨゾラたちは見た。空を飛行するマシントルネイダー、そこに乗るアギトとまなかの姿を。

 

「……!」

 

一瞬ではあった。

一瞬でマシントルネイダーは飛び去ってしまったが、ヨゾラは確かにまなかの姿を見た。すると、前にいたあの騎士はきっと翔一だろうと予想する。

 

「ォホンッ!」

 

曾祖母が咳ばらいをした。なるべく声の通りを良くしようとしていたのだ。

彼女は手招きをして、ヨゾラを近づける。

 

「昔の飛行機はね、おっかなかった」

 

「え?」

 

「爆弾を落として、たくさんの物を壊して、たくさんの人を殺した」

 

「……うん」

 

「でも今は、人を乗せて運んでくれる。ヨゾラもきっと修学旅行で乗るよ」

 

「うん」

 

「それにあの飛行機はきっといいものだ」

 

直感で察したものの、間違いではないはずだ。

飛行機と呼んでいいのかも怪しいが、きっとあのマシントルネイダーは何が大きな闇を壊してくれるだろうと思った。

 

「どうしてここに――、見滝原に来たいのと聞いたね?」

 

「うん。気になった。慰霊碑を見てお父さんのことを思い出したの?」

 

「単に、心の声が聞こえたからさ」

 

空に行き止まりはないだろう?

壁はないし、信号もない。それと同じなんだ。

 

もうすぐ私は死ぬだろう。

 

でもまだ生きている。

 

今日もご飯を頂いた。明日も食べるつもりだ。生きるため。

 

鼓動は止まってない。

 

今、空を走り去っていったもののように、私の想いがこの地を望んだんだ。

 

 

 

 

「今ですっ!!」

 

タルトが変身した。

色つきに掴みかかっていたレナとももこは焦げ付き、血に濡れているが、ニヤリと笑った。

アギトをはじめとして、ウォールナッツωは飛び道具を主体とする敵に弱い。

ましてや色つきには爆発的な加速力がある。

なので作戦は単純だ。それに対抗するスピードを出すために見滝原からアギトたちがマシントルネイダーを飛行させて加速していく。

最高速に到達して、さらに減速せずにライダーブレイクを放つことができたら――。

 

しかし、問題はある。

減速してはいけないということは、狙いを正確にしなければならないということだ。

しかし超高速で飛んでいるマシントルネイダーからピンポイントに神浜で戦っている色つきを目指すのは無理がある。

よって、マーカーを作る必要がある。

それがタルトの役割だった。

 

しかしタルトが変身できる時間を考慮すると、アギトたちが出発してからでないといけない。

よって変身できないタルトを近くにとどめつつ、守る役割がももこたちにはある。

多くのダメージも受けたし、ガゼルモンスターの手助けがなければ厳しかっただろうが、結果として時間は稼げた。

 

「意地がある! チャンス逃してたまるか!」

 

ももことレナは頷きあい、色付きを蹴って距離をとった。

色つきは激しい光を感じて思わずうなり声をあげる。

タルトが手を前にかざすと、色付きを照らす光の柱が生まれたのだ。

だが色つきの体は普通ではない。強力な光があったとしても視界は良好だ。目くらましにはならない。

ガトリングをタルトに向けたとき、色付きは感じた。

 

その気配。

見る。マシントルネイダーがすぐそこに来た!

 

アギトの紋章が空間に生まれ、一つ通過するごとにマシントルネイダーは加速し、スピードを上げる。

見滝原から距離があったので、たくさんの紋章を経過していったのだろう。

周りの景色が線となる中で、アギトのクロスホーンが展開した。

さらにまなかの体を中心としてアギトのマークが浮かび上がる。

複合必殺技ユニオンバーストの発動であった。

 

「フッ!」

 

車体が斜めになり、アギトが飛んだ。

 

「火加減は最強で行きます!」

 

アギトが飛び蹴りの体勢をとった時、アギトの足の裏に巨大化したフライパンのプレート部分が張り付いた。

フライパンの底が激しい熱を放つ。

このスピードであったとしても色つきは反応し、ガトリングをアギトに向ける。

さらに口からはレーザーでアギトを妨害しようと試みる。

 

しかしどうだ。

弾丸、レーザー、共にフライパンの底が防ぐ。

ガンガンガン! ジュゥゥウウ! 弾丸や光線を防ぐ音が間近に迫った。

すべては一瞬。刹那である。

陽炎がそこにある。

 

「「ウェルダードブレイカー!!」」

 

「!?!!?!??!」

 

まなかとアギトの声が重なった。

色つきが飛び立つ前にフライパンの底が直撃して色付きは仰向けに倒れた。

というよりは衝撃で叩きつけられた。

体が地面にめり込み、断末魔を上げる暇さえなく大爆発を起こして四散する。

 

「作戦変更! ヒト、ヒト、マル! 至急! 落下爆撃! 開始!」

 

「!」

 

しかしまだ終わってはいかなかった。

ニコは『色つき・戦車』と思われる個体を破壊したという記憶があったらしいが、そういうことかと、まなかたちは理解した。

彼女らが破壊した戦闘機の体は、本体ではなかったのだ。

 

兵隊の姿をした小型の魔獣がパラシュートを広げてゆっくりと降下してくる。

これこそがあの戦闘機の中に潜んでいた色つきの本体であった。

体からは魔獣のエネルギー源である瘴気が噴き出ている。どうやら衝撃で肉体に致命傷を負ったらしい。

なのでヤツは、まなかたちを――、正確には街を巻き込んで自爆するらしい。

小型の体ながらも、怪しげに点滅するダイナマイトのようなものがビッシリと巻かれており、おそらく地面に着地と同時に起爆するシステムのようだ。

 

「させません!」

 

まなかはフライパンを振るう。

柄からプレートが分離されてフリスビーのように回転しながら飛んで行った。

しかしその時、色付きは一瞬で空を滑り、プレートを回避する。

さらにタルトの斬撃も同じように回避し、レナが投げたトライデントも同じように回避した。

空中移動ができてスピードもかなり速いと来た。

そこで魔獣は笑い始める。

 

「争いのエネルギーが、この色つき・戦車に力を与えたもうた! すべてはお前たち人間の起こした戦い! 殺意が原因だ!!」

 

血が溢れ!

憎悪が溢れ!

痛みが零れる!

だが人は今もそれを忘れることができない。

エンターテイメントに昇華し、あるいはそれが生み出した発展に今もなお縋ろうとしている。

 

「それは増悪の形状記憶合金! しかして甘美なる薬物! 繰り返すのだ! 背中を押してほしいならば、この魔獣が押してやろうぞ!!」

 

魔獣はだいぶ陸地に近づいている。

ここでは飛び道具を当てたとしても、倒した際に発生する爆発が陸地に被害を与える可能性が高い。

ましてやどれだけの規模になるか想像もつかなかった。

 

「我が特攻が! 魔獣にまた一つ新たな力と喜びを与えるのだ! おお偉大なるバッドエンドギア! 魔獣よ万歳!!」

 

「ひとつだけ」

 

「むっ!?」

 

まなかが、魔獣をまっすぐに睨んでいた。

 

「それは美味しいんですか?」

 

「ハッ! 何を馬鹿な!」

 

「そうですね。おいしくないに決まってます」

 

まなかは大きく振りかぶい、フライパンを魔獣に向けた。

 

「誰かの美味しいを邪魔しようとするお前たちを! まなかたちは決して許しません! いきましょう! ウォールナッツω!!」

 

「はい!」

「了解です料理長!」

「ああ!」

「んッ!」

 

タルトたちは強く頷き、素早くそのフォーメーションをとる。

 

「完成! ブレイブエシュロン!」

 

まなか、アギト、ももこ、レナで四角形の並びを作り、その中央にタルトが立った。

四人の魔法少女と、一人のサポートで生まれるこの陣形。

魔法陣が生まれ、中央にいるタルトへ四人のエネルギーが流れ込んでいく。

 

「フンッッ!」

 

アギトがベルトのサイドのボタンを同時に押すと、炎が迸り、その姿がバーニングフォームへと変わる。

しかし既に敵にアギトの情報が入っていた。

色つきが叫び声をあげると、全身から真っ黒な瘴気のスモッグが発生して空を覆い隠し、辺りを『夜』に変えてみせたのだ。

 

「太陽がなければこれ以上の強化はできまい! ましてや聖女の変身時間もとっくに限界だ!」

 

魔獣は笑う。

 

「お前たちが無様に怯えていた戦争以上の殺戮を我ら魔獣が齎すことができるのだ! これはその祝砲替わりだ! 醜く死んでいけェエエッッ!」

 

「黙りなさい!」

 

タルトが剣を天にかざすとどうだ、闇を切り裂いて眩い光がアギトを照らす。

それがエネルギーとなり、アギトの装甲が弾け飛んで強化形態への変身が完了した。

 

「たとえ国が変わろうとも、わたしの願い、光を齎すことに変わりはないと知れ!」

 

おお、偉大なるラピュセルよ。

この輝きにて、戦いを終わらしたまえ――!

 

「全ては! 愚かな輪廻を終わらせるために!!」

 

アギト・シャイニングフォーム。

この状態であるとアギトがタルトの魔力負担を肩代わりできるため、タルトのソウルジェムの濁りを軽減することができる。

それだけでなく、純粋に穢れるスピードを遅くできるため、これらによりタルトの変身可能時間が大幅に延長されるのだ。

 

タルトが生み出した旗は、まなかたちの魔力を与えられて形状が変化していた。

より強大となり、先端にはアギトのマークとフルールドリスのマークを合わせた槍がついている。

そのクロスホーンが展開し、エネルギーが集中していく。

 

「ラ・リュミエール!!」

 

まなかが旗をなげた。

回避してやると色つきは意気込むが――

 

「ゴォオオオオオ!」

 

速いなどというものではない。

それはまさに光速。輝きを感じた時には、色付きの腹部に旗の先端が突き刺さっていた。

同時に展開される円形の魔法陣。

それは厚みを帯び、扉を生み出し、バタンと音を立てて閉まった。

円形のバリアの中に色つきは閉じ込められたのだ。

 

「こ、これは――ッッ!」

 

フルールドリスの紋章が輝くそれは、タルトが生み出した魔法結界・天国の門だ。

門には鍵穴があり、今はそこに旗が突き刺さっている。

 

「人はいつかを過ちとし、それを繰り返さぬように想いを紡いでいこうと決めた」

 

「なにぃいい……ッ!?」

 

アギトは腰を落とし、構えをとる。

空中に浮かび上がるアギトの紋章。

 

「あの子のために。あの人のために。その系譜を今も人は胸に抱えている!」

 

アギトが、跳んだ。

 

「それが、未来だ!!」

 

足を突き出す。紋章を通過することでパワーが増幅された。

 

「ハァアアアアアアアアアア!!」

 

シャイニングライダーキック。

それが旗の石突に直撃した。

 

「ウゴォォォオォオ!」

 

槍がより深く魔獣の体内に侵入する。

さらにアギトは体をひねった。槍が90度、左にズレる。

これはまさに、鍵をかける動作だった。

 

「ウァア゛ア゛アアアアアアアアアアアア!!」

 

ガチャンと音がして、同時に鐘の音が鳴り響く。

門に輝くフルールドリスが、一瞬でアギトのマークに変わった時、門の中では爆発が起こった。

凄まじい衝撃のようだが、爆風はもちろん、ほんの少しの熱さえ門から漏れることはない。

 

二人のユニオンバースト。"ラ・リュミエール・アブニールシャイン"。

門はゆっくりと消滅していき、空にはあまりにも美しい青が戻ったのだった。

 

 

 

 

 

「うまいなぁ」

 

夕方。

少し早いが、たくさんエネルギーを使ったので夕食にすることにした。

教えてもらった親子丼を、ももこは貪り食っている。

 

「レナもそう思うだろ?」

 

レナは無言で頷いた。親子丼をバクバク食っていた。

 

「また食べたくなっちゃうよ」

 

いつかの誰かも、きっとそう思ったに違いない。

それくらい、この親子丼は美味かった。

 

「一つだけ、確かなことがあります」

 

まなかが熱い緑茶を飲みながら言った。

 

「たぶんきっと、あの世にはこの世のものほど美味しいものはありませんよ」

 

「……ああ。かもな」

 

そこでレナが腕を組んだ。

 

「じゃあ一応聞いておいてあげる。明日の晩御飯は?」

 

「明日は津上シェフの担当ですね」

 

「う、うーん。まいったなぁ。決めてないや。タルトちゃんは何が食べたい?」

 

「わたしが決めてもいいんですか! ではジャパニーズポトフ! おでんでお願いします!」

 

「そうだ。お客さんからお米をもらったので、それも炊きましょう」

 

「え? 白米とおでんなの?」

 

「へ? レナもしかして……」

 

「おでんはおかずじゃないでしょ! レナは絶対に無理!」

 

「そんなつれないこというなよレナぁ、価値観、変わるかもよぉー?」

 

「ももこと違ってレナは上品だからそんな食べ方しないの!」

 

「どういう意味だ! っていうか別に品は関係ないだろ!」

 

「タマゴたくさん入れてくださいね! フランスのオペラ座が埋まるくらい!」

 

「おっけー、おっけー」

 

「おっけーじゃありません! ウォールナッツが破産します!」

 

笑い声が聞こえてきた。

テーブルには米粒一つない、綺麗に食べられたあとの丼が五つ並んでいた。

 





とりあえず一旦これでこの作品の更新は止めようと思います。
また本編のほうが進んだり、気が向いたら更新しようかなって感じです(´・ω・)b
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