超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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ヴィランズ

 

 ロムレス共和国首都セプテム・モンテスは七つの丘に囲まれた都市だ。

 それぞれの丘に小さな街があり、その中央に存在している。

 そしてセプテム・モンテスは正方形が積み重なったような街でもある。

 最下層が最も大きく、最上層が小さい四角が少しづつ螺旋を描きながら空へ伸びている。

 階層もやはり七つ。

 構造もそうであるが、街並みも奇妙であった。

 第一から第四階層の建造物の全てが白亜であり、同じようなデザインと規格が等間隔に立ち並んでいる。ほとんどが二階建ての民家らしきもの。

 街行く人も皆同じような白い貫頭衣を纏っている。

 対照的に五階層以上は高い塀に囲まれ、他階層からは内部が見えないようになっていた。

 まるで、そこを境に住む人を分けているかのようだ。

 その五階層にある建物の一つ。

 三階建ての家屋から、塀に囲まれた街を眺めて息を漏らす女とそれを聞く男がいた。

 

「なんつーか……何度見ても悪趣味だよなぁ兄貴」

 

「妹よ。ことある度にそう言っているな」

 

 先日、≪龍の都≫を襲撃した二人組、アポロンとアルテミスだ。

 

 

 

 

 

 

「だってよぉ、ちょー暇だぜ。体痛くて動かねぇし」

 

「仕方なかろう。我らは怪我人故にな」

 

 窓の外を眺めながらふてくされているアルテミスも上体を起こしながら本を読んでいるアポロンも、清潔なベッドに並んでいた。

 広い部屋には木製の寝台だけではなく、薬品や医療器具が収められた棚があり、見るからに医務室といった風合いだ。

 二人の額や頬、四肢、細身のアポロンの体にも、薄いアルテミスの胸にも包帯が巻かれている。

 

「ま、国自体は悪くないと思うけどよ」

 

 普段ツインテールになっている水色の髪は下ろされ、それをいじりながら彼女はぼやく。

 

「飯も住むところも服だってくれるんだろ? 良い仕組みじゃねぇの。いや、オレらがこの国に来たつーか、合流したのは最近だけどよ」

 

「配給制も一長一短ではあるが……そうだな、我らのような生まれであればそうであろう」

 

 パタンと、アポロンが読んでいた本を閉じ、視線を窓の外に向ける。

 そこにあるのは四階層以下の規則的な街並みとは全く違う光景だった。

 不規則に、それぞれの国、時代様式毎の豪邸が塀の中に並んでいる。

 帝国風の豪奢な石造りのオペラ座のような家もあれば、それよりは装飾が控えめな王国風もあり、さらには玉ねぎ型の屋根を有する聖国風の小さな宮殿もある。

 窓の外から見えるだけでもそんな混沌であり、それは五階層と六階層の貴族居住区全体がそうなっている。

 

「あれだろ? この国もパパが作ったようなもんなんだっけ」

 

「然り。20年前の大戦時、各国が足並みを揃えて戦ったが、当然恐れをなして逃げ出した者もいる。つまりはそれぞれの国の貴族ではあるが。主に旧王国領の王族や貴族、さらには帝国や聖国のものだな」

 

 窓から見える統一性のない屋敷はその故に。

 戦うのではなく逃げることを選び、地位故にそれを可能とした特権階級。

 

「当時彼は魔族の侵攻が少なかった旧ロムレス国に集結し、独自のコミュニティを作り出した。そして王国の誕生に便乗する形でこの小さな丘を領土とした≪ロムレス共和国≫が生まれたというわけだ。小国ではあるが、成り立ち故に各国との潜在的な繋がりも深い。王制ではなく共和制を敷くことで独特の立ち位置を確保しているのである」

 

「へぇ。詳しいじゃん」

 

「うむ――――今読んだ本に書いてあった」

 

 掲げた本の題名は『鳥人族でも分かる共和国の歴史』。

 

「今読んでんかよ!」

 

「仕方なかろう、母上に呼ばれこの国に来たのが先月。その間も皇国が長く、先日の≪龍の都≫だ。療養中でやっとこういうのが読めるわけだな」

 

「……まぁそれはそうだけどよ」

 

 だとしても、先日の戦いもあってタイトルがちょっと嫌だ。

 嘆息しつつ、ベッドに勢いよく倒れ込む。

 その衝撃で体が軋むのを感じつつ、気だるげに天井を見上げた。

 元々、≪ディー・コンセンテス≫は世界各地に散らばったゴーティア/ゼウィス・オリンフォスの養子だ。

 それがここ一年かけて独自行動と集合をバラバラに行っていた。

 アルテミスとアポロンの場合は帝国や王国で冒険者――つまりは何でも屋――をしていたが先月ヘラの招集され、本格的に合流した。

 12人で構成されていたはずの≪ディー・コンセンテス≫だが、ヘルメスは死に、ヘファイストスは捕まり、首魁であるゴーティアも1年前に斃された。

 9人の内、ヘファイストスあたりは顔を合わせていたが大半は先月知り合ったばかりでもある。

 もっと言えば、まだ顔を合わせていない面子だっていた。

 

「……で、裏向きは?」

 

「集まった貴族たちは父上の息がかかった者たちだった」

 

 ことも何気に本を枕元に置きながらアポロンは言う。

 

「と言っても、明確に魔族として正体を明かしたわけではなく大戦の英雄として共和国の建国を誘導したと言った所か。父上が死んで今我らは活動しているが、本来ならばもう数年先に事を起こすつもりだったと言うし、その時の隠れ蓑として使うつもりだったのであろう」

 

「ふぅん。パパは色々準備してたわけだ」

 

「それほどまでに≪天才(ゲニウス)≫を警戒していたのであろう」

 

「はいはい。なんか≪ル・ト≫も消されたらしいし、意味わかんねーよな。どうやったんだ?」

 

「知らん。母上も極北に置き去りにしてそれだけだったらしい。下手に隠れて見つかったら終わりだったからな」

 

「はーん。嫌になるぜ」

 

 吐き捨て、沁み一つ天井を数秒眺めてから起き上がる。

 

「つまんねーわ、暇すぎ」

 

「貴様……兄による有り難い歴史のお話をなんだと……!」

 

「つまんねーわ」

 

「妹が……グレた……!」

 

「いや出会った時からグレてんだろオレぁ」

 

 兄の勤勉さには感心したが興味は薄い。

 趣味が悪い国だが配給制な分トントン。その日の食べるものを心配しなくていいなら御の字だろう。

 それがアルテミスの感想だ。

 この国に生きるのなら、血反吐を吐きながらカビの生えたパンを手に入れることも、それを誰にも奪われないように抱える必要もない。

 

「散歩でもすっかねぇ」

 

 貴族たちがそれぞれの生まれの地を再現した街並みは悪趣味ではあるが散歩としてはちょうどいい。体は痛むが、それでも問題ないだろうと判断。

 窓の外を眺めながらベッドの脇へ両足を下ろし、

 

「――――ヒ、ヒヒ。患者の自己判断、による、外出は、禁止」

 

 飛来したメスが耳元を掠めた。

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおお!? びっくりした!」

 

 窓枠に突き刺さったメスに驚き、掠った感触のある右耳を抑えながら振り返る。

 医務室の入り口に、少女が立っていた。

 十歳前後の幼い容姿。

 切り揃えられてた濃い紫のおかっぱ、その前髪は数筋がピンク色に染まってる。

 気だるげそうな、生気を感じさせない瞳はその前髪と同じピンク。年齢に変わらず配給された子供用の白の衣服の上から医療用の白衣を羽織っているが、サイズが合っていないのか手は袖の中に隠れているし、裾も引きずっている。

 陰気な子どもが医者の真似をしたような装いだが、

 

「ヘスティアァ!? てめぇ患者にメス投げるとかそれが医者のすることか!?」

 

「ヒッ。医者の言うことを、聞かない患者に、人権など、ない」

 

「医者つーか暴君だろ……!」

 

 引きつる様な笑いにたどたどしく、子供らしい高い声で物騒なことを言う。

 ヘスティア・ベスタ。

 神話において炉を司る女神の名を持つ彼女もまた≪ディー・コンセンテス≫の1人であり、この医務室の主であり、即ち医者でもある少女だ。

 ≪龍の都≫での戦いで敗北したアポロンとアルテミスを回収したのはヘラだが、その後に二人を治療したのはヘスティアである。

 どう見ても幼女ではあるが、それはそれとして腕は確かだ。

 彼女の物言いにアルテミスは軽く引き、

 

「おぉ我が女神……!」

 

 アポロンは目を輝かせた。

 

「今日も私の体を見てくれるのか、いやはや愛しい人に世話を掛けるのは心苦しいがしかして心が躍るものがあるな……!」

 

「…………糞兄貴さぁ」

 

「なんだ、妹よ」

 

「まだそれ言ってんの?」

 

「何を言う、我が愛は日輪のように燃え上がっているとも」

 

「………………」

 

 アルテミスは何としても部屋から出たくなった。

 長い付き合いの義理の兄はちょっと気障で口うるさいがそれでも兄だ。

 なのに、

 

「まさか真正のロリコンだったとはな……」

 

「否! 我が女神は体が幼いだけだ! 感じないのか、その小さな体から溢れん慈愛の心を……!」

 

「キッショ」

 

 この兄は先月ヘスティアと顔を合わせた直後に跪いて告白をしたのである。

 かなりキモイ。

 ここ数日の治療中もそんな感じだったのだが、妹としては現実を受け入れたくなかった。

 

「おい医者先生よ、治せねぇのかよアホ兄貴の性癖は」

 

「ヒヒ……ッ……私のような、童女に興奮し、告白するのは、完全に病気。だけど、性癖は治療不可……看取ることしか、できない」

 

「終末医療かー」

 

「おぉ、我が愛に燃え尽きるなら本望……!」

 

「………………」

 

 体調が戻ってきたせいかキモさが増していた。

 

「………………ヘスティア」

 

「なに?」

 

「出歩く許可、下りねぇの? ちょっと今この変態と一緒にいたくねぇんだけど」

 

「ヒヒッ」

 

 笑みを零したヘスティアは裾を引きずりながら歩き出し、

 

「おぉ我が女神、私にも診察を―――ぐはっ!」

 

「お前は、まだ絶対安静」

 

 途中ベッドから身を乗り出してきたアポロンの額をメスの柄で強打し、

 

「手を、出せ」

 

「あい」

 

 差し出されたアルテミスの右手の甲に、軽く人差し指を置く。

 ぼっ、と小さい音共にヘスティアの右の指に紫とピンクが混じった炎が灯った。

 

「…………ふ、む」

 

「どうよ」

 

 炎ではあるが熱は無い。アルテミスからすれば手の上で何かに撫でられているような感覚があり、

 

「……ヒヒッ。良い、ぞ。お前は一先ず、回復だ。戦闘行為は、あと三日は、控える様、に」

 

「おー、やったぜ。治療、あんがとよヘスティア」

 

「これも、仕事」

 

「我が女神よ! 私はどうかね!」

 

「お前は、ダメ」

 

 アポロンが妙にくねらせながら伸ばした手を叩き落としたヘスティアは、白衣のポケットに手を突っ込みながら言葉を重ねる。

 

「アルテミスは、比較的軽傷、というより、傷は致命ではなかっ、た。衝撃が、突き抜けたけ、ど、それだけ。逆に、アポロンのは、≪神性変生(メタモルフォーゼス)≫してなかった、ら、即死、してた」

 

「くっ……おのれトリウィア・フロネシス……!」

 

「ヒヒッ……無理をする、から」

 

 聞きながらアルテミスは思わず舌打ちをした。

 つまりはウィルとフォンには殺意がなかったのだ。お手て繋いだダブルキックは強力だったが、アルテミスを無力化させるためのもの。ヘラ曰く、ウィルの術式に相手の命を損なわないような制限が掛かっていたのだろうという話だ。

 それに助けられたのは確かだが、それでも気にくわない。

 

「……まぁいいぜ。出歩いて良いならちょっくら散歩してくる。体も鈍っちまうしな」

 

「いや、その前に、リビング、に」

 

「あん? なんかあったか?」

 

「これから、ある」

 

 彼女は陰気な笑みを浮かべ、

 

「――――アフロディーテとアテネが、来る」

 

 

 

 

 

 

 アフロディーテとアテネ。

 新顔、と言うわけではないがアルテミスからすればまだ顔を合わせていない最後の2人だ。

 気持ち悪い言動ではあったが、まだ本調子ではないアポロンを医務室に残してヘスティアと二人で階段を下りて行く。

 今彼女たちがいる建物は三階建てであり、医務室は三階に。リビングは一回にある。

 建物自体は共和国内にいくつかあるアジトの一つであり、使い始めたのは≪龍の都≫から帰って初めてだったりもする。

 リビングはこの世界のどの様式とも違う。

 部屋の中央に10人は同時に使える長いテーブルがあり、少し離れた所にはソファや本棚、さらには本来この世界にはないはずの壁かけ式の液晶テレビやらマッサージチェア、フィットネス用のエアロバイクまでも。

 アルテミスからすれば未だに慣れない奇妙なものは、ヘファイストスが作ったであろうともの。

 奥にはL字型のキッチンや食器棚、冷蔵庫。

 まず降りて来た二人を出迎えたのは、

 

「おぉ、歩けるようになったかアルテミスよ!」

 

 大柄の男だった。

 共和国で配給される貫頭衣は一番大きいサイズなのだろうがそれでも筋肉で張り詰められており、短めの茶髪からは如何にも肉体労働が得意だと物語っている。

 アルテミスを見た彼は破顔し、

 

「丁度チェリーパイが焼けたところだ。快気祝いというわけではないが食べるか? 飲み物は?」

 

 人懐っこい笑みと濃い緑色のエプロンの姿、それに両手のミトンで焼き立てのチェリーパイを掲げる。

 

「あー、サンキュ。ビールでいいぜデメテル」

 

「うむ! ヘスティアはどうする?」

 

「ヒヒッ……私は、私の栄養ドリンクを、飲む」

 

「あいわかった!」

 

 にっこりと笑う家庭的な男、デメテル。

 神話において豊穣の女神を示す名を持つ彼は、作り立てのピーチパイを切り分けてそれぞれ皿に乗せ、注文された通りに冷蔵庫から小サイズのビール瓶とケミカルカラーのドリンクボトルをお盆に用意する。

 

「さぁ食べるといい!」

 

「おー、美味そうじゃん」

  

 早速テーブルに座り、フォークでパイを切り分け口に運ぶ。

 

「おっ」

 

 サクサクとした生地と滑らかなチェリージャム。同時に小さくカットされたさくらんぼも入ってるので触感的な楽しさもある。生地自体に多めにバターが使われているのか、微かな塩気と甘いジャムのバランスが互いを補い合う。

 

「うっめ。デメテル、流石だなァ。マジで美味い。完璧だ」

 

「ありがとう! アルテミスは作った人を喜ばせるのが上手だな!」

 

「ヒヒ……脂質と糖質が過剰……美味しさの、代償……」

 

「わははは! 良いじゃないか! 二人とももっと食べると良い! 大きいことは良いことだ」

 

「おめー、女子に向かってそういうこと言うんじゃねぇよ」

 

 痩せ気味な上に胸が平らな自分とそもそも幼女体型のヘスティアであるが。

 しかし太りたいわけではない。

 世界への反逆という使命はあるが、それでも女としての美意識はそこそこにある。

 軽く文句を言いつつ、しかしチェリーパイの美味しさに免じてそれ以上は突っ込まず、

 

「それで? アフロディーテとアテネは?」

 

「うむ! マムがこちらに送ってくれるはずだ! そのためにこうしてチェリーパイを用意していたのだからな!」

 

 言った瞬間だった。

 リビングの中心に、黒い影が出現する。

 楕円形のそれはヘラが用いる転移門だ。

 3人の視線がそれに集まる。

 現れた影は二人分だ。

 

「―――あん?」

 

 1人は修道服と他の世界の学生服だというセーラー服が合わさったような恰好の金髪の少女。

 思わず目を見張るほどの美少女だ。

 アルマ・スぺイシアもとんでもなかったが、彼女に劣らない。

 そしてもう一人。

 奇妙だったのはそちらだ。

 赤を基調とした装飾鎧。

 だが、その装飾は戦闘には支障をきたさない程度であり、実用的なのが伺える。美少女と違い頭部までも兜で覆っているために、露出は一切なく外見情報が伺えない。

 

「そっちは……見るからにアフロディーテって感じだな。それはともかく……なんだ、そっちの鎧。アテネなのか?」

 

「騎士だ」

 

 独り言に近い呟きに、鎧姿が鋭く答えた。

 中性的な声で、性別も分からない。

 ただ彼、或いは彼女は腰に佩いた騎士剣に手を当てながら、金髪を庇う様に一歩前に出て言葉を告げる。

 

「殿下に仕える――――忠誠の騎士だ」

 

 

 




アポロン
お前……ロリコンだったのか……?

アルテミス
身内相手にはわりと温厚

ヘスティア
オーバーサイズ白衣の陰気ダウナーサイケデリックドクター。

デメテル
デカい体にデカい体の料理系男子

忠誠の騎士
一体いつ出て来た狂気のモブなんだ……



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