超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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久々に感想が二ケタ超えたのが間男なのこのssを象徴してる感じあって笑っちゃいましたね


アルマ・スぺイシア――僕らの世界――

 

「改めて。はっはっは久しいなぁウィル!」

 

「えぇ! また会えてうれしいですよディートさん!」

 

 満面の笑みでディートハリスと抱き合い背中を叩き合うウィルを見てトリウィアは微妙な気分になった。

 常日頃控えめにほほ笑むウィルにしては珍しい破顔だ。

 彼の前世で、彼の家族に起きたことを考えると、この世界でウィルに家族が増えるということは嬉しい。

 だからフォンも御影も自分の家族を、ウィルの新しい家族として紹介したのだ。

 そういう意味ではディートがいてくれたのは嬉しいことではあるが。

 めったに見れない顔を簡単に引き出されるとちょっと複雑なのだ。

 

「仲が良さそうだな、ディート。離縁したとはいえ従弟は従弟か」

 

「離縁ではありませんよ皇帝陛下。ウィルには諸々の継承権を手放してもらっただけです。依然我が従弟でありますとも」

 

「ふむ、そうか。甘い男だな」

 

 声は甘く、耳に響く。

 足を組みながら一人用のいすに腰掛け、装飾の施されたひじ掛けに肘を付く金の髪の美青年。女性と見間違いそうになるほどの美形であり、その両目もまた輝く様な金だ。白を基調とした軍服風の帝国の儀礼服は機能美を備えながらも為政者としての風格を損なわせず、先ほどまで卓球をしていたとは思えないほどに涼し気だ。

 ただそこにいるだけで光を放つ、黄金のような男だった。

 

「―――お久しぶりです、レインハルト皇帝陛下」

 

「は、はじめまして皇帝陛下!」

 

 彼、ヴィンダー帝国皇帝レインハルト・ヴィンターへとトリウィアは跪き、ウィルも慌ててそれに続いた。

 それが帝国の人間としては当然であり、そうすることが自然だと思わせられるから。

 対するレインハルトは軽い動きで片手を振る。

 

「立つが良い。公式の謁見でもなければ帝国でもない。気を楽にするといい。茶でも飲むか、使用人を」

 

「陛下。ここは王国でございます。何にでも使用人を使うものではありません、必要とあらば私がお淹れしましょう」

 

「ほう、なるほど。トリウィア、ウィル、お前たちもどうだ?」

 

「いえ、今日は挨拶だけと思いますので」

 

「そうか。ではディートハリス、淹れるがいい。そしてお前たちも顔を上げ立つとよかろう」

 

「はっ」

 

「は、はい!」

 

 顔を上げれば魔法でお湯を沸かしお茶を淹れるディートハリスの姿が見える。

 別に王国の貴族でもお茶くらいは使用人に淹れさせるものだが、本人がその気なので良いとしよう。

 なんでもかんでも使用人にやらせる帝国の文化はトリウィアも好んでいない。

 

「皇帝陛下。彼の紹介をしても?」

 

「許す」

 

「はっ。私の婚約者であるウィル・ストレイトです」

 

「ウィル・ストレイトです。お会いできて光栄です、皇帝陛下」

 

「うむ。卿の噂は私も聞き及んでいる。史上初の全系統保有者にして皇国次代女皇の婿、鳥人族の先祖帰りの主、聖国の救世主――そして我が帝国きっての才女の婚約者」

 

「…………きょ、恐縮です」

 

「トリウィアはそのうち私がもらおうと思っていたのだがな」

 

「―――」

 

 目にかかった髪を首の動きだけで払いながら、そんなことを言い、

 

「――――はい?」

 

「!?」

 

 流石のトリウィアも目が点になり、ディートハリスはぎょっとする。

 そんな話は二人とも聞いたことが無かった。

 なにせ帝国社交界と学会で悪名を轟かせ、王国に5年もいるのだ。見合いが持ち出される想定はしていなかったし、だからこそ秋は一悶着あったのだ。

 

「驚くことはあるまい。品種改良は帝国貴族の義務だ。その極致であったトリウィアと、彼女に劣るとはいえ天才である私の()()は自然と言える。……ま、それも先を越されたが―――そうさな」

 

 黄金が怪しく輝き、唇が薄い弧を描く。

 

「今からでも遅くはないか?」

 

 そこに、玄武のような威圧感は無かった。

 あるのは魂を突き刺すような宣託だ。

 このアースにおいて最も純粋に魔法を追求し、系統を蓄積して来た者。

 純粋な数ではトリウィアに劣るとしても。

 数百年間、常に七大貴族の血を取り込んできた皇帝一族の意味を彼女は知っている。

 戦って負けることはないとは思うけれど、戦うことになった時点でこの世界では敗北を意味する。

 

「なるほど」

 

 ウィルは、静かに頷いた。

 愉悦すら浮かばせる黄金に対し、

 

「ですが――――彼女は僕の幸福です」

 

 トリウィアの腰を抱き寄せ、その姿を見せつけた。

 

「―――――」

 

「ほう」

 

「…………ウィル」

 

 

 

 

 はわわわ! おいおいおいおいこれはちょっと想定していないぞ!?

 ウィルと皇帝陛下で痴情のもつれ!? どーすればいいのだ!? 仲裁……してどうなるんだ!? 二人が争って、どうやって穏便に済ませれば……!?

 

 

 

 

「……フッ」

 

 漏れた声はディートハリスのものだった。

 彼は上品な笑みを浮かべ、淹れたばかりの紅茶をレインハルトに差し出す。

 

「陛下、あまり我が従弟を揶揄うのはお良しくだされ。彼は真面目ですから。現状我が従弟と悪い関係になっても良いことはないでしょう」

 

「ほう、そうか?」

 

「えぇ。皇国と聖国と、ついでに王国と関係を悪くしても良いことはありますまし」

 

「ふふふ、甘い男だなディートハリス」

 

 紅茶を受け取ったレインハルトは香りを楽しみ、

 

「――――聊か遊びすぎたか。そう睨むなウィル。戯れだ、許せ」

 

 乙女が見たら一瞬で腰が砕けそうな甘い笑みで微笑んだ。

 

「…………分かりました」

 

「ウィルよ、私からも非礼を詫びよう。皇帝陛下はお前のような将来有望な若者を揶揄うのが好きでな」

 

「えぇ、大丈夫です」

 

 ウィルは長い息を吐く。

 

「すみません、ディートさん。皇帝陛下、無礼でした」

 

「良い、御相子だ。トリウィアもな。我が友を出し抜いた婚約者がどんなものが見て見てたかったのだ」

 

「………………いえ、皇帝陛下」

 

「?」

 

「トリィ?」

 

 鼻血が出そうだった。

 皇帝陛下万歳。

 レインハルトがウィルをこんな風に揶揄うのは想像していなかったが、結果オーライである。

 自分の国の皇帝を前に、『僕のもの』発言だ。

 ちょっと彼らしくアレンジされてたが大体同じことだ。

 最高。

 私の後輩君かっこよすぎませんか?

 あ、彼氏ですね。その上婚約者でした。 

 

「――――ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 やたら浮かれたトリウィアとずっと苦笑しているウィルというちょっとしたアクシデントはあったものの。

 アルマを始めしたウィルたちはいつか、ダンスホールだった大広間にいた。

 1年近く前はこのバルコニーから飛び降りたが、その時とは内装が様変わりしている。

 広間の中心に、円環状の円卓が置かれている。 

 辺の五分の一はカットされ、その中に人を置き囲むようにできるものだ。

 その円卓に、アース111における王たちが席を並べ、それぞれの側近が脇に立つ。

 亜人連合の盟主リウ、隣には龍人族の長であるエウリディーチェ。

 天津皇国の皇王天津院玄武、隣にはその娘である天津院甘楽。

 アクシオス王国の国王ユリウス・アクシオス、両脇には元帥レグロス・スパルタスと宰相メトセラ・ヒュリオン。

 ヴィンダー帝国の皇帝レインハルト・ヴィンダー、その隣には七大貴族、アンドレイア家次期当主ディートハリス・アンドレイア。

 トリシラ聖国の導師アリ・ハリト、その隣には次期聖女パール・トリシラ。

 アルマたちはその円卓から外れて長机を用意されている。

 

「ウィル、緊張してる?」

 

「…………で、ですね。少し」

 

 隣に座るウィルは少し緊張気味だった。

 アルマからすればこの手の権力者会議自体は見飽きているが、彼はやはりそうでもないらしい。

 フォンも似たようなものだが、流石にトリウィアと御影は平気そうだった。

 

「おっ、みんな見てみろ。見覚えのある仏頂面がいるな」

 

「ん」

 

 御影が促した先。

 リウや玄武の背後にいるアルマたちとは反対側、聖国導師のアリ・アハトやパールの背後。

 

「あっ、バルマクさんだ」

 

 アルマたちとは違い立たされ、手枷もされているがザハク・アル・バルマクもいる。

 去年の夏と変わらず、鋼鉄のような無表情。

 質素ではあるがそれなりに高そうな儀礼服を着ている。

 

「彼も証人だし、パールが色々したらしいね」

 

「あ、それめっちゃ愚痴聞かされたよ私」

 

「私も聞いたなそれ。例のヘファイストスはいないのか?」

 

「彼女は囚人ですし、必要な時にだけ連れてこられるのでしょう。バルマク氏はパールさんとアハト導師が身分を保証しているのであの扱いでしょうね」

 

 トリウィアは煙草を蒸かしながら白衣から懐中時計を確認し、

 

「定刻ですね」

 

 時間を告げる。

 このアース111主要国家の王たちが、魔族や≪ディー・コンセンテス≫に対してどのような対処を取るのか話し合う会議だ。 

 アルマにしても彼らがどんな判断をするかは興味深いが、

 

「……始まらないな」

 

 それぞれの王たちは自分の側近たちと何やら話している。

 カラフルな布を何枚も重ねた聖国の儀礼服に身を包み、髪を下ろしたパールもこちらを見て肩を竦めていた。

 

「共和国首相のルキア・オクタヴィアス氏がまだ来ていませんね」

 

 煙を吐きながらトリウィアが未だ来てないもう一人の名を口にする。

 名前だけはアルマも知っているが、共和国というのは話題に上がることが乏しい。

 アレスの出身国ではあるものの、彼も普段その話をすることはないし、学園にも共和国の生徒は非常に少ない。

 

「――――ふむ」

 

 アルマは広間の中を見回した。

 両脇にはウィルたち。

 眼前には各国の王。

 広間の壁際には王国の護衛騎士たちが連なっている。

 そして。

 

「おっ?」

 

 大広間、正面の扉が開いた。

 全員の視線がそこに向かう。

 ゆっくりと扉は開かれて。

 

「――――ごきげんよう、皆さま」

 

 ヴィーテフロア・アクシオスが姿を現した。

 

 

 

 

 

 

「―――――ヴィーテ?」

 

 まず言葉を発したのは彼女の父であるユリウス・アクシオスだった。

 座席の都合上、扉の正面に座る彼は自身の娘を確認し名を口にする。

 

「皆さまにお話があります」

 

 だが、ヴィーテフロアは父の言葉には反応しなかった。

 セーラー服を組み合わせた修道服姿の彼女はにっこりとほほ笑み、

 

「ルキア・オクタヴィアス様は、今はこちらには来られません。この会議も、開く意味はないでしょう」

 

「ユリウス王、これはどういうことだ」

 

 鋭く問いを投げたのは導師アリ・アハトだ。

 黒褐色の肌と蓄えた髭を持つ顔を歪めた彼の問に、しかしユリウスは答えられなかった。

 否、そもそもこの場で、状況を把握している者はいない。

 この会議にヴィーテフロア・アクシオスがいるはずがないのだ。

 七主教の聖女であり、政教分離が為されている王国では出席権も発言権もありはしない。

 なのに、彼女はこの場に立ち、無垢にして魔性の笑みを振りまいていた。

 

「代わりに、皆さまに一つ伝えなければならないことがあります」

 

 ヴィーテフロアは腕を広げた。

 囁くような、鈴が鳴る様な声。

 声量は大きくないのに、なぜか耳によく届く。

 海の様な深い瞳は――――真っすぐにアルマへと向けられていた。

 

「あ……?」

 

「――――――共和国は、全世界へと宣戦布告を行います。どうぞよしなに」

 

 花の様な笑みで、さらりとそんなことを言う。

 言い方と話のスケールが釣り合っていない。

 朝ごはんを食べていたら急に隠された出生の秘密を聞かされたような唐突さ。

 だから誰も反応できなかった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 視線が交わっていたのは現実時間にして1秒も満たず、

 

「――――――――――――――!!」

 

 アルマは視線を跳ね上げた。

 真上。 

 見ていたのは豪奢なシャンデリアではない。

 そのさらに上だ。

 ウィルたちが困惑するが、構わずに椅子を弾きながら立ち上がった。

 

「エウリディーチェ!」

 

「………………不味いな。()()()()()()()()

 

 異変に気づいていたのはこの中でエウリディーチェだけだった。

 日蝕の瞳を僅かに開け、同じように天上を見ている。

 

「だろうな……っ、やってくれる……!」

 

 吐き捨てた時にはアルマは制服から紺の魔導服と赤いマントに姿を変えていた。

 大きく腕を振り、

 

「アルマさん!?」

 

 ウィル、御影、トリウィア、フォンも強制的に戦闘装束に変え、それぞれの武器も取り寄せた。

 

「手が空いたら連絡する、それまでは状況判断!」

 

 鋭利な指示のみを飛ばし。

 

「ユリウス王! 王都の結界借りるぞ!」

 

 アルマ・スぺイシアは転移を実行した。

 

 

 

 

 

 

 転移先は王城の遥か上空だった。

 広い都市が一望できるような高所、マントによって飛行を行いながらアルマはさらにその直上を見た。

 光がある。

 日中でありながら、太陽とは別に輝く光源。

 それはただ光っているわけではない。

 

 ――――()()()()()()()()()()()()()()

 

『第326番!』

 

 アルマは首から下がった金細工のブローチの前で両手で印を組む。

 展開する白の魔法陣、金細工が時計の歯車のように音を立て動き、内部のエメラルドの光が露わになった。

 さらに指を組み替え――――彼女の背に、翼の様に腕が生えた。

 半透明の腕の幻影、それらはそれぞれの指で異なる印を組み、

 

『タウロス・レオ・リブラ・カプリコーン・スコルピオ・サジタリウス・ヴァルゴ・ジェミニ・アリエス・アクアリウス・キャンサー・ピスケス!』

 

 足元に黄道十二星座を示すシンボルによって魔法陣が展開。

 それだけではなく。

 目下、王都アクシオスの十二角形の城壁に同じものが浮かび上がった。

 即ちそれは王都一つ分、約二万人が住む都市と等しい直径約五キロの超巨大魔法陣だ。

 それは元々王都の十二角形城壁に仕込まれていたものでもある。

 大戦時代、人類連合軍の魔族に対する最終防衛都市として設計された王都には、ここまで攻め込まれた時のために都市を囲む防御結界が展開可能なのだ。

 この話はそれなりに有名な話であり、魔族という人類の敵対種がいるが故に各国のある程度の大きさの街には似たようなものがある。

 アルマはそれを強制的に起動させ、自らの魔法と接続していた。

 

『宙に描くは無限の想像!』

 

 紡いだ言葉はアース326の世界法則。

 宇宙、星々と深く繋がった世界であり、天文学、占星術による魔法が発展した世界。

 かつてエウリディーチェは問いかけ、トリウィアは答えた。

 人は星を見ればそこに絵を描くと。

 星座だ。

 冷静に見れば、どれだけ星を繋いでも星座が示す絵にはならない。

 けれど人々はそこに想像を伴うことで宙の絵を生み出した。

 故に、アース326の概念法則は王都の十二角形結界を黄道十二星座とリンクする想像を実現させることが可能なのだ。

 そうした。

 

広がり巡れ(イマジネーション・オブ)輝く願いの一番星(トゥインクルスター)!』

 

 空へ突き出した右手の先に生まれる直径五キロの十二角形魔法陣。

 王都の地上に浮かんでいたものがそのまま転写される。

 

「―――!」

 

 転写と激突は同時だった。

 遥か天空から降ってきた光。

 それは言ってしまえば砲撃だ。

 成層圏から降り注いだ極大のプラズマエネルギー。

 そのまま大地に突き刺されば、王都が丸ごと蒸発していただろう。

 

「冗談じゃない、世界観考えろってんだ……!」

 

 突き出した右腕を左手で支えながらアルマは愚痴を吐き捨てる。

 光の墜落はたっぷり十数秒。

 その間星図の障壁は空間に軋みを上げながらも確かに王都を守り切った。

 

「やれやれ……この前は巨人で次は怪獣か」

 

 だが、それで終わりではない。

 アルマは天空を見上げ、睨みつける。

 成層圏から今の光波を吐き出したものが、降りてくるから。

 同時に、先ほどまで晴天だったはずの空が急に曇り出し、引き裂くような震えがある。

 雷雨の前兆。

 そして暴風の主人の訪れを告げるものだった。

 逆落としの体勢で頭から落ちてくるのは蛇龍だった。

 純白に近い鋭い刃の鱗、小さな四肢はあるが全体から見ると小さすぎてトカゲに進化しかけの出来損ない蛇のようにも、東洋の龍にも見える。あるいは全体に数対の細い爬虫類型の翼も頼りなく見える。

 問題は、その大きさだ。

 全長にして400メートル近い巨大生物。

 太さは5メートル程度と、全長に比べれば細い気もするが気のせいだろう。

 それがなんであるか、アルマは知っていた。

 神代の時代、嵐と雷、そして天災の象徴とされた上位存在。

 人と神が交わる中、それらに一切の関心を見出さず人が立ち入れることのできない遥か天空にて微睡む蛇。

 現存する御伽話。

 生きる伝説の一つ。

 

「――――テュポーン」

 

 ギリシャ神話において曰く。

 多くの怪物魔物の父であり、最高神ゼウスを一度破りながらも、その雷霆を持って封じられた生ける天災。

 すなわち、ゼウスですら殺すことができなかったギリシャ神話世界最大クラスの龍。

 それと同等のものが今この王都に降り立とうといている。

 

「ゼウィス・オリンフォスを思うとなかなか皮肉が効いてるが―――ん?」

 

 呆れ気味に呟いた瞬間だった。

 まだ蛇龍まで距離があるから、どうするかと思った時。

 戦闘時のアルマの周囲には常時不可視の防御魔法陣が展開されており、一定威力・概念強度を持つ攻撃をシャットアウトするのだが。

 

 ぽつりと空から舞い降りた水滴が、()()()と音を立てて防御術式を焼き付けた。

 

「マジかこいつ。成層圏で何食べたらそうなる?」

 

 強酸性の雨だ。

 人間の強度的には勿論、アース111の建設技術ではこの雨が5分降れば王都が滅びるほどに強い。人間なら1秒間全身に浴びただけで焼け爛れるだろう。

 テュポーンが引き起こす嵐はそれで構成されているのだ。

 

「…………やることが、やることが多い」

 

 流石に愚痴がこぼれた。

 空から飛来する全長400メートル超のバケモノをどうにかすること。

 天災蛇に付随する強酸性の嵐を対処すること。

 さらにはそれらの被害を眼下の王都に出さないこと。

 一先ず目の前の仕事だけでそれだけを熟さなければならない。

 

「あー……もう。この世界ならのんびり暮らせると思ったのに。ヘラめ……徹底してるな。こんなの出されたら、僕も片手間というわけにはいかない」

 

 思わずため息が出る。

 一度、目を閉じ、肩から力を抜く。

 息を吸い。

 目を見開いた。

 迫る災厄を見据え。

 開眼する真紅に輝く瞳。

 

「――――――いいだろう、少し本気でやろうか」

 

 ぞっとするほど冷たい声で、マルチバース最高の魔術師はその真価を発揮する。

 胸の前で横にした両手の甲を重ね、右手は上を、左手は下を向ける。それぞれの手で、それぞれの印を組み、それぞれの魔法を行使。

 五本の指が印を結ぶ動き、関節を曲げた角度、それら全てが高度に圧縮された魔法の詠唱だ。

 ()()()()の術師が同じことをすれば数日、数週間準備をしてできるかどうかというものを手の動きだけで凝縮し、一瞬で構築する。

 完成させた。

 まずはテュポーン。

 数秒後には王都に至る蛇に対し、

 

「契約を果たしてもらおう―――」

 

 左手を握り、開いた右手を突き出し、手首を捻った。

 まるで、扉の鍵を開ける様に。

 

「―――――()()()()()!」

 

『■■■■■■■■――――――!!』

 

 絶叫が天空に嘶く。

 アルマの背後の空間に亀裂が入り、灼熱の溶岩と極冷の氷塊で構成された両手が突き出された。

 亀裂がこじ開けられ、炎と氷の魔人がその身を踊り出した。

 中空に現れた50メートル規模の巨人は次いで展開された足場の魔法陣に降り立ち、アルマもまたその肩に立つ。

 

「ル・ト! あいつどうにかしろ!」

 

『ハッ―――テュポーンか! 懐かしい、虫けらに良い様にされているなァ!』

 

「君だってヘラに無理やり起こされて暴れてただろ!」

 

『分かっている! だから貴様に力を貸してやるというのだ魔術師!』

 

 声は火山が噴火するかのように重々しい。

 先月の≪龍の都≫において。

 帝国の果ての氷の大地に眠っていたル・トはヘラによって眠りを妨げられ、アルマへの時間稼ぎに使われた。それをアルマが落ち着かせ―――叩きのめしたとも言う―――来るべき時に向けた戦力として契約をしていた。 

 即ち、ヘラに対し鼻を明かす為なら協力してもいいということだ。

 

『何をしている魔術師! とっとあの女を殺しに行け!』

 

「あほか。君たちが怪獣大決戦したら王都が消えるだろ」

 

『我は構わんが?』

 

「僕は構う―――来るぞ!」

 

 ついに同じ高度まで落ちて来たテュポーンに対して、ル・トが取った行動は単純だった。

 その場で跳躍し、飛びついたのだ。

 

『■■■■―――――!』

 

 災厄の蛇と炎と氷の巨人が王都の上空で絡み合う。

 長大でありながらテュポーンはその体をル・トの全身に絡みつき、戦闘に際して逆立った鱗が刃のように氷炎の体を削っていく。ル・トもまた纏わりつく蛇の体を両手で鷲掴み、超高温と超低温をぶち込んでいく。

 暴れながら巨人と蛇は熱と氷と酸をまき散らしながら真っすぐに王城へと落ち、

 

「中々見ない怪獣大決戦だが―――」

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

『お、おぉ……?』

 

 ル・トでさえ思わず声を漏らす光景。

 王都全体に亀裂が入り、砕けたガラスのように散っていく。

 落ちた先には――――また王都と同じ街並みがあり、さらに天上には逆さまになった同じ街がある。

 言葉にすれば意味が不明だが、そうとしか表現できない世界にアルマたちは入り込んでいた。

 空中でテュポーンを引きはがし、街に降り立ったル・トが降り立つ。

 両足で大地を踏みしめ、瓦礫が宙を舞った。

 いぶかしげに世界を見回す。

 

『ぬぅん! …………なんだ、これは魔術師』

 

「王都全体の空間をループさせて作った位相空間だ。君を呼び出した時点で、降っていた酸の雨ごとこっちに送ってたんだよ」

 

『酸……溶ける雨か、アレは厄介だぞ魔術師』

 

「分かってるよ。このレベルはマルチバースでも早々いないんだけど……アース111、困ったもんだな」

 

 100メートル離れた距離で蜷局を巻くテュポーンに息を吐く。

 自在に空を舞い、プラズマの息吹を吐き、酸の嵐を呼び起こす怪物。

 まさしく神に相応しい。

 

「それに―――」

 

 アルマは片目を閉じた。

 現実空間へと視界を飛ばし、王都を俯瞰する。

 既に異変は起きている。 

 情念の獣。

 砂に泳ぐ蟲。

 狂う龍。

 

「良い、とは言えないが最悪でもない。()()()()()()を考えるに別のアースへの門を開けるのは避けたいが――――ふっ」

 

 笑みが零れた。

 既に知っている顔のいくつかが、その異変の対処に乗り出してたから。

 危機はある。

 それはこれまでの戦いと同じ。

 けれど、信頼できる仲間がいる。

 それはこれまでの戦いとは違う。

 この世界で生きるアルマが信じられるこの世界の人間がいるのだ。

 その事実が、何よりもアルマにとっては特別で。

 幸福、なんて言ってもいいかもしれない。

 

「いいさ、踊ってやろう、ヘラ。ヴィーテフロア・アクシオス。――――()()()()()()()()()()を、舐めるなよ」

 

 

 

 




前後の緩急

アルマ・スぺイシア
まあまあ本気
大規模防御結界
街一つ丸ごとの位相空間
魔人召喚
このあたりを片手間でやる女

ル・ト
召喚獣


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