超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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シュークェ――人獣混交――

 

 何故こんなことに……?

 そんなことを思いながらシュークェは自らの翼で魔族を殴り飛ばした。

 王国西部の大通り。

 サンドワームや龍のような大物はいなくても大量に湧いてくる様々な魔族から中心部へと逃げる人々が逃亡の河を作っている。

 十人近くが並べるような広い通り。

 そこを駆ける民衆たちと、彼ら彼女を守る衛兵や騎士団。

 そういった人々へと襲い掛かる大小様々な魔族。

 シュークェは数は少ないが無視はできない鳥型魔族の迎撃を主に行っていた。

 鳥人族は戦闘に適したものは少なく、地上からの対空攻撃を行う魔法使いもいるにはいるのだが、

 

「ほわたっ!」

 

 シュークェが飛び回って炎翼で消す方が速かった。

 半裸の鳥人族が放った炎は魔族三体を燃やし、近くの二体に燃え移る。

 そしてその炎が、魔族の体を伝い包み込み燃やし尽くした。

 少し前、≪竜の都≫でナントカミスとかいう糸遣いに苦しめられた故に編み出した対拘束用の仙術だ。

 本来は張り巡らされた糸の類を燃やす為だが、案外使い勝手がよく飛び散った火の粉がそのまま小型魔族程度なら倒せるのでありがたい。

 しかしなんという名前だったろうか。

 ナントカミス。

 人種の女に対して、ミスというのは敬称だった気もする。

 つまり、

 

「ナントカ……?」

 

 地上、二階建ての屋根から犬型の中型魔族が飛びかかって来たので首ではなく、体ごと傾けて回避を行う。

 翼を空に引っ掛けた、空中での静止と移動だ。

 頭が上、足が下だったのが、翼を中心に位置を入れ替える。

 

「ガアアアーー!」

 

 全長三メートルほどの犬型の牙が迫る寸前で回避を成功し、足の先に腹があった。

 故に翼に炎を宿し、

 

「ぬぇい!」

 

 捻りを加えながら超至近距離での噴射加速を乗せ、両足螺旋蹴りで魔族をぶち抜いた。

 炎の残滓を残しながらすぐに体勢を元に戻し、 

 

「おぉ……!」

 

「すげぇぞあの鳥人族……!」

 

「かっこいいわ……!」

 

 走りながら逃げている人々の歓声を背に受けた。

 

「…………ほほっ!」

 

 口端が歪み、声が漏れた。

 走り抜けている民衆が、こちらに賞賛の声を上げてくれている。

 聞こえて来た声の中、女人の声があったので振り替えて見下ろせば、

 

「くそ、あいつできるとは思ったけどあそこまでだったのか……!」

 

「街コンじゃ碌に女子と会話できてなかったのによ……!」

 

「なんだよあの翼……! ワシも欲しいんだけど!」

 

「お前ドワーフ族だろそれでいいのか!?」

 

 鎧姿のむさくるしい衛兵たちだった。

 

「貴様らぁー! 何故このシュークェがお前たちの声援なぞ受けねばならん!?」

 

「どっちかっていうとディスってるよ!」

 

「なんだとぉ……!」

 

 キレている間にも彼らは街の中央に駆けて行った。

 仕方ないので真後ろから飛んできた鳥型魔族を翼で殴り燃やしておく。

 シュークェが何故今人間の都で、人間を守って戦っているのか。

 その理由は、

 

「おのれ、このシュークェの婚活はどうなってしまったのだ……!」

 

 そう、即ち番探しである。

 年明けの一件で兼ねてより『女と全然縁が無いけど自分には許嫁いるから何の問題もなかろ~~』というシュークェの目論見は崩れ落ち、許嫁だと思っていたフォンは目の前でウィル・ストレイトといちゃついてたのでかなり空しくなった。

 一度鳥人族に帰って長であり祖父であるリウに相談したら、

 

『お前みたいなのと番いになる鳥人族おらんじゃろ』

 

 などと遠回しに色々言われてから最終的に直球でそう言われたので諦めざるを得なかった。

 なので王都である。

 様々な人種が溢れ、出会いもある。

 特に、この日他の国の長も来ているとのことで街はちょっとしたお祭り状態。

 それに伴って街の人区画を利用したお見合いのようなものが行われていた。

 ようなものというのは別に番いを見つけるというよりも、それよりもうちょっとライトな関係、結婚を前提にしたりしなかったりする恋人を見つける行いらしい。いくつかの飲食店を貸し切って自由に出入りしたりローテーションを組んだりと趣向に凝っているとか流石人種繁殖にかけては色々豊かすぎるではないか。

 態々書店で『これでモテる! 異種族間恋愛の秘訣! 天津皇国次期女皇インタビュー付き!』とかいう本を買ってみたが文字が読めず素の自分で行ったらなんか会話が成立しなかった。

 

「どこにいるのだ我が運命の女よ……!」

 

 思わず慟哭が上がり、

 

「キアアアアアア!」

 

 空から大型の猛禽型魔族が突っ込んできた。

 

「やかましい、叫ぶな……!」

 

 翼に炎を宿し、

 

「―――君も、大概アルよ」

 

 右肩から声を聴いた。

 

 

 

 

 

 

 声と共に肩に響きがある。

 軽い衝撃だった。

 声がなければほとんど感じなかった重さ。

 

「――――あぁ?」

 

 それは攻撃ではなかった。

 シュークェの肩を蹴り、飛びかかる影だ。

 

「んんん……?」

 

 姿を見て、シュークェは思案する。

 肩を蹴ったそれは小さい。

 精々が五十センチ程度、緑の毛並みを持つ胴長四つ足の獣だった。

 何故か服を着ている。

 鳥人族でも着られているようなチャンパオ、それを体に合わせ、さらには動きやすくしたようなもの。

 見覚えがある様な動物。確か、

 

「…………胴長鼠!」

 

「フェレットアルよ」

 

「喋ったあああああああ!?」

 

 喋るフェレットに驚いている間にも魔族は迫っていた。

 翼を畳み、嘴を突き出した急降下による強襲。

 一本の銛が振ってくるようなものだ。

 

「―――と」

 

 フェレットは、しかしその切っ先を軽く手を添えて体を回した。

 シュークェは目を見張る。

 体術だ。

 獣の姿でありながら、その身軽さを活かしながら猛禽型魔族の体を滑るように跳ねたのだ。

 コンマ数秒以下の動きだった。

 刹那のすれ違いの中、フェレットはその肉球を腹に当て、

 

「――――ほっ!」

 

 ()()()()の掌底が魔族を横合いから吹き飛ばした。

 

「ん、んん……!?」

 

 視界の隅に猛禽型魔族が大通りから弾かれていくが、視界の中央が問題だった。

 淡い光を纏う小男。

 少年と言っていいかもしれない。

 連合風の戦闘装束、三つ編みを首後ろから胸の前に流した緑の長髪。エルフほどではないが尖った耳。

 一瞬前までは動物だったのに、今は人の姿を持って近くの屋根に着地している。

 その変化に関しては迷いなく言葉が出た。

 

「≪高次獣化能力(メタビースト)≫か……!」

 

 元許嫁にして現同郷親戚のフォンと同じ。

 任意で獣化と人間化を操れる亜人族の特異能力者だ。

 近づいて来た小型の魔族を翼の振るいによって打ち出した炎で消しつつ、少年のいる屋根に着地する。

 

「貴様、何者だ?」

 

 問いかけに、少年は背後に手を回しつつ、眉を上げた。

 

「おやおやフォン君から聞いてないアルか?」

 

「聞いておらぬ! ――――なにせ、王都に戻ってからフォンはこのシュークェに対して凄い冷たいからな!」

 

「何したアルか」

 

「別に何も――――王都で良い感じに繁殖相手を見つける方法を聞いただけだ! ウィル・ストレイトもいてフォンなら詳しいだろうしな!」

 

「それ本人に言ったアルか」

 

「無論だ! このシュークェ、思ったことは全て口にしてしまう! 口にしたら蹴られたし、待ち合わせにしてた茶店の店主には追い出されたが!」

 

「それはだめアルなー」

 

「なんだとぉ!?」

 

 会話の間も魔族はひっきりなしに二人に、或いは大通りへと襲ってくる。

 シュークェは翼から炎を、奇妙な少年は掌底を振るって拳圧を飛ばし対処をしていく。

 それと先の動きで分かるのは彼が武術において達人と呼べるものということだ。

 

「まぁ良いアル。僕はアクシア魔法学園の教員、ドニーというアルよ。最近ではフォンに拳法を教えているアル」

 

「なに……!」

 

 つまり、

 

「親戚がお世話になっております……!」

 

 腰を直角に曲げたら、そこを小さな猿型魔族が飛び越えて行き、

 

「いえいえ。こちらこそ良いご家族さんアル」

 

 ドニーの手の払いの着弾で発生した衝撃が消滅させた。

 シュークェは顔を上げ、

 

「しかし貴様、子供に見えるが?」

 

「エルフとのクォーターでアル。見た目通りの年でないアルからな。今年五十になるアルよ」

 

「なんと……! ではそのなんか変な喋り方も理由アルか?」

 

「真似しないで欲しいアルな。―――――これは昔世話になった初代陛下と賭けで負けて『おめー中華ぽくて拳法家とか語尾アル付けろよ拒否権はありませんだって俺王様だから!』という感じで強制されたアル」

 

「チュウカ、とは?」

 

「さて。初代陛下は半分くらい意味不明謎単語の使い手だったアルからなぁ」

 

 意味不明な謎の話を聞いた時だった。

 

「ん?」

 

「アル?」

 

「オオオオォォォォ!」

 

 シュークェとドニーがいる建物、その大通りを挟んだ向かい側。

 全長十メートル近い大きな蜥蜴型の魔族が、建造物を破壊しながら迫っていた。

 ぱっと見その大きさと形から竜に見えなくもないが、翼が無いからやはり蜥蜴のそれだ。

 胴から横に突き出された四肢を動かし暴れ狂うように真っすぐ大通りへの突撃を行っている。

 

「ちっ――――」

 

 距離はまだあるが、速度的に十数秒もあれば大通りにかち合う。

 そうでなくても崩壊し、飛び散る建物が避難の流れを引き裂くだろう。

 背負う炎を猛らせ、飛び上がろうとし、

 

「――――ハーイハイハイハイ!」

 

 それより先に、蜥蜴型魔族の鼻先に飛び込む女装の巨漢を見た。

 その女装を、シュークェは知っていた。

 人種の衣装であり、本屋の成人向け書物の表紙で見てしっかり覚えたその姿は、

 

「チアガール……!?」

 

 

 

 

 

 

「オォォォラッ……!」

 

 ドニーは筋骨隆々のチアガールがポンポンを魔族の鼻先にぶち込むのを目撃した。

 青と白の臍出しノースリーブのユニフォーム姿だ。

 

「懐かしいアルなぁ」

 

 ドニーはアクシア魔法学園設立時から在籍する古株の教員だ。

 そして初代国王と肩を並べ魔族大戦を潜り抜けた身でもある。

 初代国王は常識外れであり、既存の文化とは全く違う服や食事を考え出し、王国を大きく変えた。

 チアガールという概念とその衣装もその一つ。

 大戦が終わり、平和となってから運動する選手へ露出度の高い服と細かく裂いた布で作った飾りを振る応援団を結成しようと言い出した時はいつも通り脳の病気を疑ったがこれがウケが良かった。

 十年くらい前は生徒会が全員――男子も含む――この恰好をして各行事を行ったりもしたものだ。

 最近は落ち着いて、今の学園では一部活として残っている。

 

「おっ」

 

 そんなことを思い出している間に、打撃が魔族の頭部を伝播し、停止が発生した。

 魔族の巨体がつんのめって浮く。

 そこに、

 

「オラオラオラオラオラオラオラオーララララララァァァァァオラオラオラッラララララララァァァァァラーラーラーラーラー!!」

 

 拳撃のラッシュが鳴り渡った。

 何故かパンチの掛け声とバリトンボイスの声出しと裏声が混じっているが気にしないことにする。

 ラッシュは数秒続き、

 

「オーエスッ!」

 

 最後のアッパーが大型魔族を消滅させ、

 

「ハイッ!」

 

 Yの字のポーズを決めて残身とした。

 ユニフォーム越しからも隆起した筋肉が伺える。

 それから筋肉は振り返り、

 

「ちょっとドニーちゃぁん! 楽しくおしゃべりしてる場合じゃないでしょもー!」

 

 筋肉で女装でオカマのエルフが声を上げた。

 

 

 

 

 

 

「…………なんだ、アレ」

 

「うちの教員アルね。フランソワ・フラワークイーンというアル」

 

「学園というのはけったいなのがいるのだな……」

 

 しみじみと呟くシュークェに肩を竦め、チアダンスを踊りながら跳び回って魔族を消滅させるフランソワにまた怒られないように駆けだそうとし、

 

「ドニー師範!」

 

「アル?」

 

 眼下、通りから声が上がった。

 見れば足を止めた騎士がこちらを見上げている。

 顔の半分が鱗で覆われた縦の瞳孔を持つ、人種に近い性質を持ったリザ―ディアンの騎士だ。

 その顔に見覚えがあり、飛び降り彼の前に立つ。

 

「君は……ヴォール君アルか。久しいアルね」

 

「はぁい! 自分が卒業して三年ぶりでえええす!」

 

「うん、相変わらず喉が震えているようでなによるでアル」

 

 喉を鳴らして威嚇する声帯特性を持っているからか特徴的な話し方をするのは数年ぶりに会う学園の卒業生だ。

 記憶より成長した顔立ちを見上げ、

 

「良い鎧アルね。出世したようアル」

 

「はぁぁい! 師範たちの教えのおかげでぇぇっす! 部隊長になりましたぁぁぁ!」

 

「結構アル―――部隊長から見て、状況はどうアル?」

 

「正直、師範たちが戦ってくれて超助かってまぁぁぁす! 防衛はできても、迎撃が遅れているところでぇぇぇす!」

 

「ま、そうなるアルか」

 

 頷きつつ、避難民を見る。

 一口に避難民と言っても、実情は様々だ。

 前提とする戦闘能力がない市民だとしても、戦闘訓練をしていない大人もいれば、女子供に老人。彼らが走る速度にも大きな差があり、逃亡の流れは間延びしてしまう。 

 そういった延長を騎士団や衛兵たちは補い、守らなければならない。

 騎士団も単騎で大型を倒せる実力者やそれ以上の『二つ名』持ちもいるし、小型魔族程度なら衛兵でも倒せる。

 だが、町中に蔓延り、人々を守りながらだとどうしたって手が足りないのだ。

 緑の髪を撫で思うのは、

 

「……うちの生徒の大半が試験の準備で王都を出ていたのは幸いというかべき悩みどころアルね」

 

 思わず嘆息してしまう。

 学園の生徒ならば並みの騎士程度の戦闘力もあるし成績上位者『二つ名』持ち、或いはまだ貰ってないだけという者も多いのだ。

 その生徒たちはほとんどが王都を出て各地の試験会場の準備に出払ってしまっており、戻ってくるのにも時間がかかるだろう。

 戦力的にはいてくれれば助かるが、教え子たちが巻き込まれないだけよかったというべきか。

 

「―――ま、できることをするアルか」

 

「そうですねぇぇぇ! 師範たちにはぁぁぁ引き続きぃぃぃ迎撃をお願いしまぁぁぁす!! もう少し進めばぁぁぁ中心部の防衛線に辿りついてシェルタァァァに誘導できるのでぇぇぇええ!」

 

「うむ。そのつもり―――」

 

 言ったその時だった。

 警戒の為に周囲を見回す為に空を見上げた。

 駆けて行く避難民の前方上空。

 

「――――」

 

 男が宙に立っていた。

 かなりの高所。

 何か槍のようなものを手にしている。

 目にしてぴりりと背筋に震えが走った。

 魔族とも違う。

 むしろそれ以上の異物感。

 卒業生の騎士が連られて見るが、首を傾げるだけだったので彼は気づいていないのだろう。

 ある程度の戦闘経験と相手の技量を理解する目、それを持ち得る達人と呼べる領域の者でないと気づけない感覚。

 視界の端、フランソワも足を止めている。

 だがドニーもフランソワも届く距離ではない。

 アレに気づいて、尚且つ届く者は、

 

「なんだ貴様あああああああ!」

 

 いた。

 

 

 

 

 

 

 シュークェは炎翼をはためかせて飛び上がり、スーツ姿の男と相対した。

 声の届くギリギリの距離で向かい合う男は、近づいてみるとかなりの長身ということが分かる。

 顔に掛かる濃い藍の長髪。黒のネクタイに黒のダブルジャケット。

 手にしているのは妙な質感の金属による長方形を組み合わせたような三叉槍だった。

 堀の深い目元は暗く、どこか陰気な雰囲気を漂わせている。

 良く見ればただ宙に立っているのではなく、水の膜なようなものの上に佇んでいた。

 奇妙な気配と服装。

 それには見覚えがあり、

 

「貴様……ミス・ナントカの仲間か!」

 

「…………?」

 

 ゆっくりと首を傾げられた。

 なるほど。

 とぼけている。

 

「ふん……往生際の悪い奴め、このシュークェは騙されんぞ!」

 

「…………?」

 

 また首を傾げられた。

 なんと不遜な相手だ。

 己を前にだんまりとは。

 

「貴様もディーコロネンなのだろうが、たった一人でシュークェの前に立つとは――」

 

「俺はたった一人ではない」

 

 食い気味の早口が帰って来た。

 

 

 

 

 

 

「確かに俺は≪ディー・コンセンテス≫の一人であり、今は一人で立っているがだからといって一人ではない。俺には仲間がいてそれぞれの任務がありそれを実行しているだけだ。俺が今単独行動をしているのは俺の能力的に他の面子との共闘が難しいだけであり、俺の人格に問題があって除かれているわけではない――――いいか?」

 

 長髪を男は一息に喋り、

 

「………………」

 

 今度はこちらが首を傾げる番だった。

 声の届くか届かないかのギリギリの距離でボソボソと早口で言われても全てを聞き取るのは難しい。

 そのうち、聞き取れる単語を脳内処理し、最近王都で知ったいくつかの言葉から当てはまるのを決定し、

 

「つまり――――貴様、ぼっちか!?」

 

 男が振るった槍から生まれた水流がシュークェを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

「がばばばばばばぼぼぼぼぼ!」

 

 それはシュークェの全身を飲み込む激流だった。

 内側に螺旋を描く流れは不死鳥の抵抗を押しとどめ圧力を与える。

 

「――――っ」

 

 強烈な勢いに思わず大量の息を吐きだしてしまったのが良くない。

 仙術の発動には呼吸を伴う。

 加えて炎を扱うシュークェにとって、ただの水流程度なら蒸発できるが、

 

「んが……!」

 

 背から生み出した炎は、一瞬のうちに消されてしまう。

 それは圧力故であり、水と火という単純な物理的法則であり、

 

「ふぃふふぁんふぉふぁふぉふぉふぁふぃ……!」

 

 ミス・ナントカと同じ……! と口に出そうとして失敗した。

 単純な、物理的な水流では無い。

 魔術的・概念的強化を付与された奔流だ。

 

「……!」

 

 拙いと、シュークェは判断した。

 単純に高所からこのまま大地に叩きつけられればただでは済まない。

 否、シュークェの再生力ならそれ自体は問題ないのだが。

 問題なのは、この下だ。

 未だ多くの人々が逃げる為に駆けており、それに激突してしまう。

 戦うことがままならずに逃げて来た人たちだ。

 対処はできないだろう。

 今のシュークェにも対処が難しい。

 尋常ならざる再生力を前提としているために、攻撃を直接どうするかではなく受けた後にどうするか、という風に戦闘を構築しているのだから。

 この状況、的確に判断できるものは。

 

「フェレットは泳ぎが得意アルよ」

 

 いた。

 

 

 

 

 

 

「フランソワ先生!」

 

 ドニーは水流にシュークェが飲み込まれるのを見ていた。

 同時に大地を蹴る。

 飲み込まれた直後に炎翼で抵抗したが、逃れられていない。

 そのまま行けば彼ごと水流が人々に降りかかるだろう。

 故に同僚の名を呼んだのだ。

 既にオカマエルフは準備ができていた。

 

「ハァイ……!」

 

 大通りの向かいでポンポン同士を合わせていたので、

 

「―――とっ」

 

 その中心部に足裏を乗せ、膝を沈め、

 

「なんでポンポンにナックルダスター仕込んでいるアルか」

 

「チアガールにお触りした不届きものを張り倒す為よ……!」

 

 彼女―――その主張を尊重してそう呼ぶ―――が両手を振り上げると同時に、膝を思い切り伸ばした。

 轟、という音と共にドニーの体が空を往く。

 高速で弾かれるように跳び上がった少年は重心と体重制御しつつ、

 

「フェレットは泳ぎが得意アルよ」

 

 自ら水流に飛び込んだ。

 重い。

 内側に巻き付く様な圧力と不自然な魔力を感じる。

 構わなかった。

 足を延ばし、水流の外へ踝から下のみ置き、指先だけシュークェのズボンに引っ掛け、

 

「……!?」

 

 獣化と共に脱出した。

 

「ごほっ……これは……!」

 

「ちょっとした応用アル」

 

 宙に浮きながら、シュークェの驚愕の声を聴く。

 一瞬で抜け出したのは≪高次獣化能力≫の小技だ。

 ≪高次獣化能力≫保有者は任意で人、獣、半人半獣、さらにはその配分まで自由に変更可能であり、衣類さえも変化に適応できる。

 ドニーが行ったのはそれを応用したものだ。

 前提として人形態から獣形態になれば大きなサイズ変更が行われる。

 自分の身長の場合、大体100センチほどの差異が生まれるのだ。

 

「獣化を自分の体の一部を起点に行うと、その部位まで全身がズレるわけアルな。疑似的な瞬間移動というワケある」

 

 今回の場合、水流から飛び出させた足先を起点にした。

 その上で獣化することで、指を引っ掛けていたシュークェも100センチほどズレて、後は獣化形態のままに体重移動と体捌きで引き抜いたのだ。

 今のような回避もできるし、先ほど猛禽魔族を倒したように接触状態から移動分のエネルギーを稼いで、発剄としてぶつけることもできるのだが、

 

「………………?」

 

「まぁ、分からなくてもいいアル。フォンも首をひねっていたアルしな」

 

 この辺りは経験によるものが大きい。

 翼を広げ滞空するシュークェの肩で息を吐き、

 

「チアフル乙女ハリケェェェエンン!!」

 

 地上に到達する寸前、フランソワが水流を砕くのを見た。

 両腕を真上に伸ばし、回転したままに突撃したらしい。

 技名はどうかと思うが、威力は折り紙付きだ。

 的確に螺旋を読み、水流を飛沫に変えて行く。

 一先ず発生した危機は乗り越え、

 

Omnes Deus(オムニス・デウス) Romam ducunt(ロマ・ドゥクト)―――――』

 

 何も終わってないということを突きつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『飲み込め―――≪海遷惨冥(ネプトゥヌス・サンクチュアリ)≫』

 

 散らばった水滴が、逆再生のように空に昇っていく。

 空気さえも重くなったような深海の中心にポセイドン・エノシガイオスは三叉槍を掲げた。

 握る手から、姿が変わっていく。

 肌を包むのは鱗模様の厚手のダイバースーツ。

 両手両足に加速器を備えた機械装甲は腰と背のバックパックとチューブと繋がり、さらにはそこから顔の下半分、口と鼻を覆うマスクと接続された。

 シルエットだけ見れば魚人族だが、やはり別世界・別時代における科装(サイバーテック)

 その力を、ポセイドンは解き放った。

 

「――――」

 

 言葉は無く、掲げた三叉槍の先端に水球が生じる。

 水球が、さらに巨大な直系三十メートルの水塊となるのは一瞬だった。

 軽い動きで三叉槍を振り下ろし、水塊が自由落下を開始する。

 

「……!」

 

 眼下、地上から様々な声が上がった。

 悲鳴であり、怒号であり、驚愕だった。

 だが無慈悲に水の巨塊はゆっくり、確実に落下していく。

 地面に激突すれば周囲の建物ごと人々を押し流すだろう。

 衝撃の炸裂で数十人を押しつぶし、二次被害として周囲の建物との激突を促し、局地的・小規模な津波を生む。さらには動きが鈍った所で魔族の餌食になる。

 数十、数百の命を奪うだろう。

 ポセイドンはその事実をどうとも思わなかった。

 暗い緑の瞳で眼下を睥睨し、

 

「――――む」

 

 風が吹き抜けた。

 

 

 

 

 

 

 人々は見た。

 頭上、巨大な水の塊が振ってくるのを。

 誰もが見た。

 一瞬で黒く光る粒子の風が水塊の下に広がるのを。

 それは渦巻き状に、水塊と同じ直径にとなった。

 水塊が黒の螺旋に触れた瞬間、動きが極めて停滞し。

 誰かが聞いた。

 風の中に溶ける歌を。

 

「――――くろく、とおく、おそく」

 

 歌は吹き抜け、

 

「しろく、ちかく、はやく――――!」

 

 白の奔流が、黒の風ごと水球をぶち抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

「っ――――」

 

 ポセイドンは舞い散る大量の飛沫に息を飲んだ。

 直系三十メートルの水塊。

 それを一息でぶち抜いたのは、

 

『正名――――』

 

 白と黒の粒子による翼。

 

『――――≪山海図経・比翼連理≫』

 

「『比翼』のフォン……!」

 

 露出度の高い黒衣。

 全身に走り山吹に光る流線形の紋様。

 鳶色の奥に輝く金の瞳。

 フォン・フィーユィ。

 水しぶきを押しのけ黒白の粒子を輝かせながら世界最速がポセイドンの前に翼を広げる。

 彼女は濡れた髪を気だるげにかき上げ、

 

「…………なんか、鎧の感じ随分変わったなぁ。なんだけ、えすえふ? とか前に似たようなの見たことあるけど」

 

「…………」

 

「あれ、無視? これまで見た君の仲間、わりとおしゃべりだったけど」

 

「『比翼』のフォン、それはヘファイストス、アルテミス、アポロンのことか? あれらは確かに喋るが彼らのような軽快さを期待されては困る。確かに彼らは俺の仲間であるが、だからといって口数まで同じではない。その三人だって別に同じようなキャラクターではなかったであろう」

 

「うわ、急にめっちゃ早口で喋るじゃん」

 

「―――――スッー」

 

 深く息を吸う。

 普通に精神に傷を負った。

 聞かれたので説明したのに、内容ではなく言葉の速度に言及を入れるのはどうかしてる。

 故に槍を構えた。

 急に。

 めっちゃ。

 早口。

 全て終わってもしばらくベッドの上で思い返されそうな言葉を反芻しつつ、ゆっくりと短く言葉を放つ。

 

「その名が比翼なればこそ、お前が単身であるうちに、我が槍で貫き殺す」

 

「はっ、分かってないなぁ」

 

 考えながらの言葉は軽く笑い飛ばされた。

 陽鳥は緩く開いた拳を構え、太陽の光を翼に反射させながら輝かせる。

 冥府を招く海神に、陽光を背負う金烏は他意無く告げた。

 

「比翼ってのは、心の在り方さ。私はいつだって、ウィルさんの、主の翼だ。一緒にいないから一人ぼっちとか――――さては君、友達いないな?」

 

 




シュークェ
婚活が、できませぇん!!!!

ドニー
三つ編み中華アルアルショタジジイ
『二つ名』持ちの上澄み勢先生
初代国王陛下とは仲良かったみたいですね

ポセイドン・エノシガイオス
陰キャ
ぼっち・ざ・ごっど

フォン
毒舌の切れ味が日々上がっている
セリフ回しは結構好きなんですよね


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