超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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フォン&トリウィア――重なる歌――

 

「ぬおおおおおおお…………!」

 

 シュークェは腹から声を捻り出し、気を練り上げていた。

 水球の真下、並ぶ建物の中近くで一番頑丈そうだった石造りの屋根に立ち、両腕と翼を広げ、

 

「おおっ……ほっぉおおおお……んふあああああ……!」

 

 腕と翼の先に、巨大な火球が練り上げられていた。

 現在直径五メートル。

 顔の近くで焚火をしているような熱があるが、しかし球自体の熱量はさらに千度は超えている。

 球形の中で熱が循環し、内部で高まり続けているのだ。

 

「シュークェ!」

 

「おわっ!」

 

 急にフォンが隣に現れた。

 彼女は全身濡れ鼠だが、それには構わずに火球に視線を送り、

 

「―――小さいよこれじゃ! 伝えたでしょ、あの水蒸発くらいさせるような凄いやつ作っといてて!」

 

「あんなジェスチャーでは分からんわ! ドニー殿が解説してくれたが! あとこのシュークェでも流石にちょっと無理ないか!? 規模感違い過ぎるであろうが!」

 

「私が仙術でどーにかするから!」

 

「なら自分で飛ばせばいいんでは?」

 

「あの超寒くて超重い水の中で引きつけてたの見てたでしょ! あと私範囲攻撃苦手だから、シュークェのを加速と減衰で良い感じにして吹っ飛ばす!」

 

「できるのか!?」

 

 強く、問いかけた。

 正直、ちょっと無理がある気がする。

 実際に火球を生み出してみて思ったことだ。

 通常、絶招による爆熱体当たりでその身に宿す熱量を体外に放出して固定化しているのだが、しかしそれでも半分消し飛ばすのがやっとな気もする。

 正直あの根暗男の魔法はシュークェの常識を超えている。

 仙術を以てしても届かず、神に近い領域かもしれない。

 

「――――できる! というかやるんだよ! 私とシュークェで街を、みんなを守るの!」

 

 だが、彼女は吠えた。

 迷いなく、できてて当然と言わんばかりに。

 その在り方は、幼い頃の彼女とも、翼を失った時とも違う。

 もしかしたら初めてシュークェは今のフォンを見たのかもしれない。

 ウィルと出会って変わった彼女と。

 なら、言うことは一つだ。

 

「仕方あるまい……!」

 

 丹田に力を入れ、気を練り上げる。

 さらなる火、さらなる熱量を。

 瞬間だった。

 

「っ――――!」

 

 水球から奔流が飛び出した。

 最初のフォンが受け止めた現れた時と同じもの、それが八つ。

 それだけではない。半分程度の細さの水の槍が、螺旋を描きながら周囲、人々にも向けられていた。

 ドニーやフランソワ、数人の衛兵なら止められるかもしれないが、

 

「ほとんどは、足りないぞ……!」

 

「――――私が行く。シュークェはそのままで」

 

 横が見た時、妹分はもういなかった。

 

 

 

 

 

 

 フォンは、今度こそ飛翔を全開にした。

 冥海のではなく、空に飛び込むことよりその神速は十全を発揮する。

 一番近い水流へは、文字通り刹那で辿りつく。

 

「っ……!」

 

 即座に黒の減衰を盾のように展開し、受け止める。

 減速は強烈だった。

 時間が遅くなったかのように、目に見えて動きが衰える。

 一本だけなら、そこからさらに白の加速でぶち抜けばいい。

 だが、一本ではない。

 大が八、小は十五。

 だからフォンはさらに飛ぶ。

 黒の風はそのままにして、彼女だけが次の水流を受け止めに行った。

 コンマ秒以下の移動。

 黒で受け止め。

 白で渡り。

 二色が連続し、止まらない。

 

「a―――」

 

 喉から声を零しながら。

 

 

 

 

 

 

「―――おい、見ろよ」

 

 逃げていた人々の誰かが、足を止め空を見た。

 黒と白の翼を持つ少女。

 彼女が、

 

「分身……!?」

 

 水流をその身で同時に受け止めていく。

 水流の受け止めと移動を超高速で繰り返すが故の残像分身。

 火球に向かっているものも、避難民に向けられたものも残らず受け止めながら、次々に数が増えて行き、

 

「………………歌?」

 

 誰かが、呟く。

 そして誰もが聞く。

 

『―――――くろく、くろく、くろく』

 

 分身と残像によって全方位(サラウンド)で重なる歌を。

 

『―――とおく、おそく、おもく』

 

 風が、歌に溶け、

 

『―――つめたく、にぶく、ねむく』

 

 歌に、風が舞う。

 

『―――かぜが、うたうよ』

 

 少女は黒を翳し、

 

『―――あなたと、ふたり』

 

 白を纏い、

 

『―――いつだって』

 

 残像がブレ、

 

『―――どこだって』

 

 ここにはいない誰かへの想いを歌いながら、

 

『―――このはねが、つむいでいくよ』

 

 合計二十三本の水流、超高速の残像分と減衰の風による同時の受け止めを完了させた。

 

「おぉ……!」

 

 その背を、誰もが足を止めて見上げていた。

 背に粒子の翼を背負い、全身の刺青を輝かせる少女。

 彼女は、

 

「学園、一年次席……!」

 

 声を上げたのは、街で八百屋を営む中年の男であり、

 

「毎朝、街を飛んでる子だ……!」

 

 隣にいる軽食屋の店主も声を上げる。

 

「朝、見かけるとその日の売り上げが良くなるっていうあの……!」

 

「そうだ、開店準備する時ふと空を見上げた時、あの子が見えたら最高だぜ……!」

 

「おぉ……!」

 

 男二人が頷き合い、周りも深く同意し、

 

「あの子が、こんな無茶を……! 俺たちは、どうすれば!」

 

 自ら問いかけ合い、その瞬間に声を聴いた。

 

「応援よおおおおおおおおおおおお!!」

 

「!!」

 

 声を上げたのはチアガール姿の筋肉エルフだった。

 彼女は両手のポンポンをリズムよく振り、

 

「今から逃げても間に合わないわ! 戦いに参加することもできない!」

 

 だったら、

 

「応援よぉーー!」

 

 躍動する筋肉を大きく弾ませる彼女に対し、恰好と存在に疑問は持ちつつも言葉に対して迷いは無かった。

 

「あぁ……!」

 

 彼らは頷き、フランソワも力強く頷きを返す。

 拳を握り、

 

「さぁ、応援するのよ―――」

 

 振り上げる為の力を込め、

 

「―――――あの、不死鳥のシュークェを!」

 

「…………」

 

 拳の動きが、止まった。

 

 

 

 

 

 

『が、がんばれー』

 

「なんだ貴様らその腑抜けた応援はぬおおおおおおおおおおおお!! はっ! ぬん! とぁー!」

 

 あまりにも心の入ってない民衆の応援に、抜けそうになった気合を入れ直す。

 眼前、風の歌、それも通常喉の震えであるはずのものを確かな言葉の連なりとしたフォンがポセイドンの攻撃を阻止してくれている。

 だが、火球はまだ小さい。

 否、既に七メートル近くに大きくなかったが、

 

「まだ、足りんだろうこれでは……!」

 

『がんばー』

 

 せめて倍は欲しい。

 だがシュークェは既に魔力も気も限界まで振り絞っている。

 絶招の火力としては二割増し程。

 即ち、全力をさらに超えている。

 

「っ…………!」

 

『がんばーれーっ』

 

 それでもと、魔力を、気を、命さえも振り絞り、

 

「――――一人では限界があるアルよ」

 

「!!」

 

『おぉ……!』

 

 火球が一息に一回り大きくなった。

 横を見れば、三つ編みの少年が片手を火球に手を翳し、何かを注ぎ込んでいる。

 それは、

 

「仙剄……!? お前も、仙術を……!」

 

「フォンから聞いたのを自分なりって感じアルだけどね。それより、練った気と魔力を送り込んでるけど良い感じアルか?」

 

「ぬっ……!」

 

『いいぞ、頑張れー先生ー!』

 

 言われ、感じ、気づく。

 火球にシュークェ自身の仙剄とは別の気と魔力が流れ、それが火球を大きくしているのだ。

 

「おぉ……こんなこともできたのか……!」

 

「魔力と気はコンフリクトしないアル。だから、こうして他者から魔力を供給してもらえれば―――」

 

「なるほど、そういうことか!」

 

『頑張れー!』

 

 両手両翼を掲げつつ、背後に振り返り、

 

「貴様ら―――――このシュークェを応援するがいい!」

 

 叫んだ。

 そしてその声を受けた彼らは互いに顔を見合わせ、声を揃えて、

 

『めっちゃしてただろ!』

 

 

 

 

 

 

 フォンは風を聴いた。

 それは小さく吹く、熱を持つ風だ。

 数は多く、至る所から一点に向かう。

 一つ一つはあまりにもか弱い。

 当然だ。

 彼らは、彼女らは戦う力を持たないが故に逃げているのだから。

 けれど不死鳥が目に届く誰もが手を伸ばし、熱を送る。

 

「―――がんばれ」

 

 誰かが小さく口にする。

 

「―――がんばれ……」

 

 誰かが言葉を零す。

 

「―――頑張れ……!」

 

 誰もを守ろうとする不死鳥へと。

 

「上手く行ったら合コン、セッティングするからよ……!」

 

「あぁ、俺も、俺の娘―――の、友達の友達を!」

 

「ほぼ他人じゃねぇか!」

 

「だってうちの娘はなぁ」

 

「私半裸は嫌よお父さん!」

 

「だよなぁ……」

 

「鳥人族の文化だとなぁ。俺も嫁が魚人族だから困ったけど……フォンちゃんみたいに服着てくれれば……」

 

「うちも旦那が蟲人族だから食事とか生活とか合わせるの大変だったのよねぇ」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 一瞬、風が止まり、

 

「うおおおおおおおとにかく頑張れえええええええ!」

 

「貴様らぁー! ほんと応援する気あるか!? あと、友達の友達、お願いします!」

 

 また風が吹き、熱が集う。

 青黒を受け止め、神速を体現し、残像を残す中で、くすりと笑ってしまう。 

 面倒がられたりはするけれど、それでも嫌われないのがシュークェという男なのかなと思う。

 

「っ……!」

 

 不死鳥が、声にならぬ雄たけびを上げる。

 腕と翼の中に、本来彼でも扱いきれぬはずの熱が形になり、

 

「鳳仙絶招・改……!」

 

 結実する。

 三十メートル近い直径に達した大熱球。

 

「――――≪三界火翼・一切衆生≫!」

 

 放たれた。

 両腕と両翼に押し出されるようにゆっくりと冥海神殿へと浮上していき、

 

「っ……はっ……はっ――――――フォォォォン!!」

 

 不死鳥は陽鳥の名を叫ぶ。

 故に、フォンは飛翔を以て応答とした。

 水流からの離脱際に、細いものには加速と減衰のバランスを甘くした仙爪を置いておく。結果、激突当時に二種の力が暴発し、水流を砕いた。

 爆砕の瞬間には、とっくにフォンは大熱球の下にいる。

 

『―――しろく、しろく、しろく』

 

 起こしたのは加速の白だ。

 

『―――ちかく、はやく、かるく』

 

 それを大熱球の周囲を飛び回り、

 

『―――あつく、するどく、さましく』

 

 加速を注ぎ込む。

 

『―――かぜが、うたうよ』

 

 さらに真下に跳び、手と翼を翳す。

 

『―――みんなと、かさねて』

 

 白が、大熱球を頂点として螺旋を描き、

 

『―――いつだって』

 

 その権能が発揮される。

 

『―――どこだって』

 

 加速が、神速を奏で、

 

『―――このねつが、とんでいくよ……!』

 

 赤熱を押し出した。

 

 

 

 

 

 

 ポセイドンがその瞬間見たのは白だった。

 自身の肉眼、科装ゴーグルのレンズの視界補助、或いは全ての近くがその色に染まった。

 神速を受けた大熱球が冥海に激突したことによる大規模な水蒸気爆発だということには意識を取り戻してから思い至った。

 人種の街に火と水の混じり合いが、爆裂となって咲いたのだ。

 陽鳥の白は、大熱球を押し出すだけではなく、その内部にも溶け合っていた。

 それがどうなるか、それが真上数百メートルまで吹き上がった神殿が教えてくれた。

 加速はあらゆる現象に及んだ。

 単に高速で飛んだだけではない。

 仮想水との反応よりも高熱と衝撃が全体に伝播するのが速かったのだ。

 ただ熱や火を外部から冥海神殿にぶつけたのなら、一部は蒸発するがすぐに深海に押し留められただろう。

 そうはならなかった。

 深海が熱球を飲み込むよりも早く爆裂し、衝撃と熱は全体を駆け抜ける。

 直上加速を付与されたために、全方位ではなく真上へと。

 何もかもが、飛沫となって跳ね上がった。

 下手にポセイドンだけを倒して残った膨大量の水が街に落下しないようにさせるためだろう。

 これだけの水量が街に落ちれば甚大な被害となる。

 だからぶち上げたのだ。

 

「っ……!」

 

 そんなことを、飛沫舞う空の中で思った。

 落ちている。

 意識を取りもしてもなお、爆発による衝撃のせいか視界は歪んでいた。

 ≪偽神兵装≫に備え付けられた処置術式でも回復に数瞬掛かるほどだった。

 背や両足のジェットスクリューも一時的にダウンし、異能によって体勢を整えるまでさらにもう数秒。

 

「―――――やぁ」

 

「っ……!」

 

 それよりも早く、陽鳥が目の前に現れ、

 

「これ以上、迷惑かける人が多い場所で戦うのは止めようか――――!」

 

 拳が顔面に突き刺さり、

 

「――――!?」

 

 白い風と共に、世界が引き延ばされた。

 打撃を顔面に受けたまま、フォンがそのままに飛んだのだ。 

 一瞬で移動したのは数百メートル。

 あまりの速度によってまたその一瞬意識が途絶えた。

 次に目覚めたのは、

 

「――――ここなら、迷惑かけても問題なさそうだしね」

 

 王都北西部、どこかの劇場の直上。

 蹴りの一撃と共に、劇場の天蓋に開いていた穴へと叩き込まれた。

 

 

 

 

 

 

「っああああああああああ!!! これで私が動かなくなると思ったら大間違いよぉおおおお!」

 

 叫びながら、ヘファイストスはやっとの思いで立ち上がった。

 全身をぶち抜いた大量の刃は、自分をハチの巣にしたがそこは異能のおかげだった。

 蛸という生物を模した故に、ヘファイストスの≪偽神兵装≫は再生力に長けている。

 体中に開いた穴も、一分ほどで塞がり、回復することができた。

 その間にも悪魔の女はアポロンとアルテミスと戦っていた。

 戦っているというか、滅茶苦茶にさせられているというべきか。

 それでも踏ん張って倒されていないのだからここは流石と言うべきだろう。

 だが、

 

「ここから、逆転劇よぉ……!」

 

 瞬間だった。

 頭上の天蓋、そこに開いていた影が墜落してきた。

 粉塵を巻き上げ、そこに大の字で伸びているのは、

 

「――――ポセイドン!?」

 

「っ……ぐ……!」

 

 埋めき声を上げる陰気な同胞だ。

 それだけでは無かった。

 続いて舞い降りる翼。

 鳥人族の少女に、悪魔は微かに唇を尖らせ、

 

「…………私なら、迷惑かけていいんですか?」

 

「だって――――トリウィアなら問題ないでしょ?」

 

 鳥人族が、その黒風を解き放った。

 

 

 

 

 

 

 劇場内の全てを黒風が埋め尽くすのをトリウィアは確認した。

 一瞬だ。

 黒の奔流が形成する翼を勢い良く広げた結果。

 屋外ではなく、室内でその権能を用いるとどうなるかがその答えがこれだ。

 あらゆるものの停滞である。

 重力による荷重ではない。

 まるで時間が遅くなったかのように、あらゆる速度、行為が遅くなる。

 開いた掌を握りしめるだけでも十数秒かかるほど。

 驚いた。

 風は移ろうものだ。

 何らかの形を得ても、役目を果たせば解けて世界に溶ける。

 それが閉所で用い、空間に積層させるだけでこうなるとは。

 アポロンも、アルテミスも、ヘファイストスも、ポセイドンも。

 トリウィアでさえ≪境界超越(エクツェレントゥ)≫により強化された肉体、時間加速、さらには細かい重力制御を用いたとしてやっとなんとか動けるかというほど。

 

「―――」

 

 魔力が、既に尽きかけていた。

 ヘファイストスを倒してから僅か一分と少しだが、常時≪魔導絢爛≫を使い続けているようなものだ。

 当然、消耗も大きくこの超停滞の中では何もできない。

 故に、

 

「――――廻せ、≪叡智の天輪(アカシック・ハイロゥ)≫」

 

 新しい煙草を咥えながら、頭上の天輪が輝き回転する。

 結果、使い果たした魔力の全てが回復した。

 天輪は、ただの飾りではない。

 弁だ。

 アカシック・ライトはマルチバースから力を引き出す魔術。

 不足系統を引き出して全系統を体現した。

 だから今度は純粋なリソースとして引き出すだけだ。

 理論上は無限に戦い続けられるが、実際の所は精神的な消耗は避けられないのでいつかは限界が来るだろう。

 

「ですが、今ではありませんね」

 

 魔力は回復。

 だがそれでも超停滞の中では足りない。

 故に、

 

『――――≪黄金童話(ニーベルンゲン)神々の黄昏(ゲッテルデメルング)≫!』

 

 最大効率の身体強化を発動する。

 身体能力強化魔法『黄金童話』。

 ≪龍の都≫でもアポロンに対して用いた『戦乙女騎行』や『英雄凱歌』は、それぞれに特化した身体機能があった。

 だが、『神々の黄昏』が強化するのは、

 

「あらゆる全て……!」

 

 その通りの強化が、それまでをはるかに上回る強化を発揮した。

 頬や露出した太ももやニーソックスの下から青黒に淡く光る幾本もの直線のラインが浮かぶ。

 それまでは、例えば『英雄凱歌』なら鬼種に匹敵する膂力があった。

 今は違う。

 あらゆる種族において頂点である龍人族にも届く性能を手に入れた。

 それを以て、時間加速と重力制御を発動。

 結果、

 

「――――ほら、トリウィアなら問題ない」

 

 どんよりと時が流れる世界で、背後から声が掛かった。

 軽い音と共に背中が重なり、煙と共に嘆息する。

 

「無茶ぶりじゃないですか」

 

「でも、それに応えてくれるのがトリウィアでしょ。戦ってる途中でもこっちに合図送ってくれたし」

 

「まったく」

 

 苦笑してしまう。

 最初に天蓋に立った時、巨大な水球の中で戦うフォンが見えて、その後の列車砲の爆裂で気づいてくれるだろうと思ったのは確かだが。

 これは彼女なりの自分への甘えなのだろうか。

 だったら良いなと思い、知りたいなと考えた。

 それからやっぱりいいかなとも。

 知識欲は自分にとって呪いだった。

 知りたいという呪縛のままに多くの知識を得て、けれど代わりに失ったり傷つけたものがあった。

 けれど。

 ウィルは、それを祝福と呼んでくれた。

 呪いではなく祝福であり、それがトリウィア・フロネシスだと。

 祝福(ゼーゲン)だ。

 そして今、

 

「えぇ。この祝福が、貴方を一人にしませんとも」

 

「ほぅら」

 

 二人で笑みを零し。

 そして行く。

 

 

 

 

 

 

『―――しろく、くろく、あおく』

 

 歌と共に黒白の陽鳥と青黒の天使が駆ける。

 何もかも停滞する中で二人は高速で、フォンが言葉を口ずさみ、

 

『―――天高く、空深く、風強く』

 

 そこにトリウィアが言葉を重ねる。

 フォンがアルテミスとポセイドンを。

 トリウィアがヘファイストスとアポロンを。

 それぞれ蹴り上げ、飛ばし、

 

『―――かぜが、はこぶ』

 

『―――深淵が、深まる』

 

 中空、四人を一か所に纏めた。

 

『―――しゅくふくを、このめに』

 

『―――連理が、この背に』

 

 一塊の真下、フォンとトリウィアは集い、

 

『―――広がる叡智と!』

 

『―――ふかき、ひよくを!』

 

 手を、刃銃を翳し多重方陣が展開された。

 青、黒、白。

 三色で構成された魔法陣。

 アース111の神性を受け継ぎ、自らの名を正した陽鳥と。

 マルチバースの力を引き出し、境界を超えた天使が。

  

絢爛絶招(シンクロマジック)!』

 

 フォンが拳を振りかぶり、トリウィアが引き金に指をかけ、

 

『――――≪十字福音(ヘカテイア)疾風怒濤(シュトゥルム・ウント・ドランク)≫!』

 

 深淵の暴風をぶちまけた。

 この世界を構成する三十五の要素が織りなす破壊概念が加速に乗り、減衰によって触れた瞬間に重く残る。

 何もかもを打ち砕き、破砕する風のミキサーだ。

 アポロンも。

 アルテミスも。

 ヘファイストスも。

 ポセイドンも。

 抗うことは許されない。

 事前の超停滞から叩き込まれたが故に、防御も回避もできず、

 

「―――――終演」

 

 トリウィアの宣告により、全ての幕は下りた。

 

 

 

 

 

 

「おー、ちゃんと生きてる」

 

「こっちで非殺傷掛けてましたからね。まぁ、甘い気もしますけど……」

 

「ウィルさんは、こうするよね」

 

「えぇ」

 

 打ち上げた四人をトリウィアは重力制御で回収し、魔力で作った鎖で拘束をしておく。

 トリウィアは白衣、フォンは鳥人族の装束の上からスカジャンを羽織った姿に戻り、

 

「どうするの、こいつら」

 

「一先ず能力を封印しておきました。なんならちょっとした仮死状態なので、しばらくは大丈夫でしょう。正直、今は放置するしかないですね。この場にずっといるわけにもいきませんし……」

 

 ≪龍の都≫の時のようなヘラとやらの転移で回収されても困るが。

 今は手が足りていない。

 あちこちに蔓延る魔族を倒し、民間人の救助も必要だ。

 アルマと連絡が付けば助かるが、現状未だ無し。

 

「一先ず可能な限り強力な結界を張って、認識阻害と拘束をしておきます」

 

「ん、任せ―――」

 

 頷きは、行えなかった。

 フォンが顎を真上に跳ね上げ、トリウィアも同じ動きをする。

 トリウィアが手を伸ばせばフォンがその手を取って飛翔。

 大きくなった天井の穴から飛び出し、

 

「っ……!」

 

 二人は北の空に、息を飲んだ。

 あちこちで戦火や煙が上がっているが、それ以上の異変は無い。

 だが、知覚とは別、もっと深い所。

 精神を蝕む何かが、広範囲にばらまかれている。

 

「これは―――」

 

 何かの精神汚染。

 王都の北部。

 思い返すのは、そこに現れた存在とそこに向かった人。

 その名を、フォンが噛みしめる様に口にした。

 

「御影……!」

 

 

 

 

 

 

「―――――ごほっ」

 

 天津院御影は、血の塊を吐き捨てた。

 身体には傷があり、膝をついた地面には既に血だまりができつつある。

 

「…………参ったな」

 

 大戦斧を支えにしつつ、前を見た。

 そこには、

 

「オオォォオオオオオ――――――!」

 

 雄たけびを上げる、巨大な三つ首の獣。

 蛇と狐と狗の頭。

 それは天津皇国における神話。

 皇国の三大聖域に封印されていた鬼神。

 エウリディーチェ曰く、人を愛し、憎み、寿ぎ、矛盾に耐えられなかった神格。

 つい先日、封印が破られたと聞いたその名は、

 

「≪三鬼子≫……!」

 

 それが現実となって、絶望をばらまいていた。

 

 




トリウィア
ほぼ無限魔力回復もあります
うーんこの

フォン
キュウニウタウヨー
トリウィアに対してはどんだけ無茶ぶりしてもいいでしょみたいな甘えがあったりなかったり

シュークェ
頑張った


御影
絶体絶命


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