超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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天津院御影――夢に燃える――

 

 

「エーレーガーンートォォォオオオオオオオ――――!!!!!」

 

 クリスティーンだ。

 甘楽は隣の美女がどこから声を出したのかと言うほどの大声量の叫びを聞いた。

 彼女は両拳を天に突きあげ、ついでにモノクルを爆砕させ、

 

「―――――」

 

 ぶっ倒れた。

 顔面から地面に突っ込んだのでかなり痛みを伴いそうだが、

 

「……あら、良い笑顔」

 

「ほんとなんなんでござるかこの人は!?」

 

 仰向けにしてみれば仕事をやり切ったような澄み渡る笑顔で気絶している。

 エレガントがどうこうはよく分らないが、無理もない。

 

「流石に三鬼子を止めておくのに消耗したのでしょう」

 

 究極魔法を用いたとはいえ。

 三鬼子の断片であろうとはいえ。

 相手は神に連なるものだ。

 それを数分間完全拘束していたのだから成果としては破格だし、疲弊も尋常ではないだろう。

 

「今は休んでください」

 

 くすりと笑う。

 

「後は、私の妹がやってくれるでしょう」

 

「―――――はっ! エレガントモーニングございます! この世紀のエレガントを見逃すわけにはいきませんわ!!!」

 

 この人自由すぎないだろうか。

 

 

 

 

 

 

「そうだ……従妹だけじゃなくて俺も一緒にダンジョン攻略者になって最強無敵完全無欠になればいいだけじゃないか……!」

 

「どう生きるかなんて決まってた……! まずは嫁に許してもらうまでゲザをかまさないと……!」

 

「あはははは!! ぼっちでもダンスができるって僕が証明すればいいんだ!!」

 

「結婚相手がいないなら見繕えばいいだけじゃない!? この前隣の家の女の子が大人になったら……とか言ってくれてたし……!」

 

 絶望が払われ、夢に満ちた声が上がっていく。

 舞う火の粉は花びらのようだった。

 それまで周囲一帯を支配していた三鬼子の汚染を禊ぎ焼くかのように。

 ふりまかれた絶望を、鬼姫の夢が照らし浄化する。

 炎のドレスを纏う御影がその中心だ。

 正面から三鬼子を対峙する彼女は不敵な笑みを浮かべ、

 

「―――ごついなおい」

 

 指運にて両刃斧を回した。

 元々の大戦斧に、そのまま刃が三つ増えている。

 両端に二枚ずつ故にバランスはいいとしても、

 

「存外軽い。お前たちのおかげか?」

 

 自分の身に宿った三体の神精に語り掛ける。

 不思議な感覚だった。

 全身に力が漲ってる。

 活力が心に溢れている。

 出来ないことは何もないんじゃないか、そんな不遜なことを思ってしまうくらいだ。

 

「ふぅ」

 

 息を吐いた。

 それは熱を持ち、

 

「行くか」

 

 行った。

 

「―――――あれ?」

 

 前進は三鬼子を通過し、校舎へと突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

「…………?」

 

 周りに微妙な空気が漂う。

 甘楽も、いばらも、クリスティーンも、マクリアも、立ち直ったばかりの騎士たちも。

 

『―――――?』

 

 三鬼子でさえ、振り返って首を傾げた。

 

「あら?」

 

「おや、どうされましたか甘楽様」

 

 その中でふと目を空を見上げた甘楽は一歩横にずれたら、いばらの目の前に両刃斧が降って来て地面に突き刺さる。

 

「おおおおおおおおおおおおおお!?」

 

『しゃ、しゃー』

 

「あらかわいい」

 

 半透明の蛇の妖精が焦ったように頭を下げているあたり、本人も困っているのだろう。

 

「おーい!」

 

 声は大穴を空いた校舎から。

 瓦礫を払いつつ頭を掻く御影は手刀を立てて、

 

「すまーん! いばら、ちょっと手と足が滑った」

 

「軽く死にかけたでござるよ!?」

 

「いやマジですまん。なんか、上手く行かんな」

 

 はははと笑った御影は三鬼子に視線をずらし、

 

「そっちもすまん。ちょっとやり直していいか?」

 

 拒否と言わんばかりに攻撃がぶち込まれた。

 

 

 

 

 

 

「――――――お、おぉ?」

 

 三鬼子の攻撃は三つ尾だった。

 高速で伸縮し、そのまま三つ槍となって御影のいた場所に突き刺さった。

 対し自分は跳躍で回避を行おうとした。

 軽い判断だが、動きとしては力の入ったものだった。

 それくらいに三鬼子の攻撃は鋭かったし、新たな姿と力を得たからと言って慢心できるはずもない。

 相手は神の断片なのだから。

 だから、強く大地を蹴り、

 

「どんだけ跳んだんだ、私は」

 

 空だ。

 空の中にいる。

 風が全身を包み、ドレスがはためく。

 眼下、戦場となった王都の街が広がっており、おそらく一息に三十メートルほど跳躍したのだろう。

 

「――――」

 

 流石に気づく。

 先ほどの無様な突進の原因。

 さらには巨大な両刃斧が軽いと思ったことが勘違いだったと。

 自分の膂力が、それまでと段違いに跳ね上がっているのだ。

 身体強化の魔法を全力で回すよりも遥かに強力な強化。

 それが息を吸う様に、当然のように使えている。

 

「――――はっ。これがお前たちの力か?」

 

『わふー!』

 

『こーん!』

 

 両肩に狐と狗の妖精が降り立ち、声を上げる。

 良く見れば結構可愛い。

 もう一体を地上に置いてきてしまったのは申し訳ない気もする。

 

『しゃー!』

 

 言った瞬間、眼下から両刃斧が飛来して手の内に収まった。

 

「……至れり尽くせりか?」

 

 目を伏せながら苦笑。

 開いて、

 

「―――」

 

 街を見下ろす。

 戦火が広がっている街を。

 戦っている者がいる。

 守っている者がいる。

 戦いきった誰かがいる。

 守れなかった誰かもいる。

 民だ。

 国は違えど、御影が背負うべき人たち。

 

「――――なら、やることは決まっている」

 

 強く。

 優しく。

 美しく。

 

「行くか」

 

 今度こそ。

 

 

 

 

 

 

 御影は自らの力を違えなかった。

 足先から溢れた炎はドレスの布と一体化し、宙に爆ぜた。

 天空の真紅の花を咲かせて向かう先は、当然地上の三鬼子だった。

 

『オオオオオオオ―――!』

 

 迎え撃つ慟哭。

 即ちそれは、一度は御影に痛撃を与えた振動咆哮だ。

 指向性を持ち、振れたものの肉体を心を砕く声。

 斜め上、爆裂加速で迫る御影に対して放たれたそれに、

 

「お―――おおッッ!」

 

 大上段から両刃斧を振る。

 刃に灼熱を宿し、大気を焦がしながら、何一つ滞ることはい。

 威力が線となって通った。

 咆哮を縦に割ったのだ。

 

『―――!』

 

「―――!」

 

 どちらともなく声にならない音を口から漏らした。

 三鬼子のそれは驚愕であり、御影のそれは次の動きの為のものだった。

 中空で大質量を振るったことにより、彼女の体もそれに振り回される。

 今の膂力ならそれを抑え込むことも可能だ。

 抑え込まなかった。

 

「踊ろうか、三鬼子」

 

 大斬撃の勢いを殺さず、そのまま体を縦に回転。

 姿勢と勢いを制御し、前宙しながら距離を詰める。

 まだ両刃斧の間合いではない。

 それでもそのまま握った大物を横に薙ぎ払った。

 

『ゴアアアアア!』

 

 灼熱の斬撃波が三つ頭に悲鳴を上げさせ、止まらない。

 回転運動だ。

 爆裂による加速と大質量の武器によって生じる慣性。

 膂力によって制御するのではなく、それらを先行させて力を上乗せする。

 勢いによって前に出つつ、炎によって刀身を包み斬撃を振るえば、

 

「咲け……!」

 

 燃える大輪を咲き誇らせる。

 

『ア――――!?』

 

 駆け抜け様に放った炎熱斬撃は確かに三鬼子の体を焼き斬った。

 裂いた体表から零れたのは血では無く、魔族の瘴気のそれだ。

 おそらく、三鬼子の魂、その断片とでも呼ぶべきものを瘴気で肉付けしているのだろう。

 

「ま、だからどうって話だがな、とっ」

 

 勢いに靴先が地面を削りながら滑り、両刃斧を構え直す。

 絵面がちょっと変わるくらいか、なんて考えつつ軽く頭を振った。

 両刃斧を中心とした体重移動は威力は出るが、少し目が回る。

 使いどころを考えなければと思っていれば、

 

『―――――ナゼダ』

 

「お?」

 

 声が耳に届いた。

 狗、狐、蛇。

 三つの口から零れた声は、その通り三つ重なって、

 

『イトシイ、ニクラシイ…………クルオシイ』

 

 呪詛が空気に滲む。

 それまでのようにまき散らされたものではなく、御影に直接向けられたもの。

 

『オマエハ、チガウノカ。オマエガ、マジリモノ、ダカラカ――――?』

 

「はっ、そう言われてもな。そのあたりはお前たちの分身? ともうやったんだが」

 

『わん!』

 

『こーん!」

 

『しゃー!』

 

『―――――ナゼ』

 

「お前たち、可愛すぎて気が抜けるぞ?」

 

 苦笑し、

 

「いいだろう、三鬼子。そっちの方は言葉じゃ理解し合えなさそうだ」

 

 その笑みにさらに悦を乗せた。

 口端が凄惨に歪み、

 

「お前たちも鬼だ―――戦いで解り合おうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 マクリアは御影と三つ首の怪物の戦いを見ていた。

 もっとも、彼女自身はまだ戦闘訓練も受けておらず、憧れの人が何をしているのかを理解できるわけではない。

 理解できるのは、怪物がその巨体さを感じさせない速度の動きでで御影を襲っていること。

 そして、

 

「――――プリンセスが、踊ってる」

 

 少女の目には、そう見えた。

 残像すら残して駆けまわる怪物の動きの中心に御影はいる。

 両刃斧を振り、されど大きく動かず、踊る様に。

 

「迎撃、カウンターに徹しているようですね」

 

 隣に立つ甘楽が解説をくれた。

 自分と違い、彼女は全て目で追っているのだろう。

 

「あの子の新しい『息吹』……あの斧、クの字が四つ付いてるのはちょっとやりすぎかと思いますけど」

 

「かっこいいですね!」

 

 何故か目を細められた。

 

「……まぁいいでしょう。刃は大きいですが、クの字の分持ち手は長いですからね上手いこと自分が軸になって指運で回しているようです。いくら鬼種でもあの三鬼子のような大型の魔獣に対して、あの大きさの武器を使うのは大変でしょうけど今の御影なら問題ないようで」

 

「えぇと……つまりプリンセスは凄いってことですか!?」

 

「はい、そういうことです」

 

「なるほど!」

 

 分かりやすい。

 御影も素敵な人だけれど、その姉も良い人だ。

 

「!!」

 

 豪と、また強烈な音がマクリアを打撃する。

 思わず身を竦めるが、

 

「目を逸らさないのですね、貴女は」

 

 ころころと甘楽は目を細めて笑う。

 

「あの戦いは、この世界においても最大規模のものです。正直、私が混ざっても足手まといになりそうですし。三鬼子も御影にご執心のようなので今すぐ危険、ということはないですし、何かあれば私も守りますけど」

 

 それでも、

 

「怖いでしょう?」

 

「怖いです!」

 

 だけど。

 

「プリンセスは良い所を見せてくれるって言いました!」

 

 そうしたら、彼女はそれまで以上の彼女自身を見せてくれた。

 だったら。

 

「私は見届けたいです! プリンセスの戦いを!」

 

「そうですか」

 

 ころりと甘楽は口端を歪めた。

 

「エーレガァーンスゥ……!」

 

 背後で美女が低く唸っていたがそれはよく分らないので気にしないことに。

 

「いいですね、貴女」

 

「わっ」

 

 くしゃりと、自分の頭に手が乗る。

 甘楽が撫でる手は優しく滑り、

 

「見届けましょう、一緒に」

 

 

 

 

 

 

 見届けなければならないと、御影は己を奮い立たせた。

 

『ナゼ―――?』

 

 この三鬼子の慟哭と悲嘆を。

 同時、巨体を活かした高速の突進も受け止めなければならない。

 獣の体、三つの頭と三つの尾。

 それらはどれも立派な武器だ。

 四肢の打撃、口による噛みつき、尾は槍衾。胴体でぶつかってくるだけで十分な破壊を生む。

 対し、御影は両刃斧の長い柄を活かし、それ自体を回転させることで三鬼子の攻撃を受け流す。

 

「ハッ―――」

 

 言葉で言うのは簡単だが、難易度は高い。

 高速で迫る巨体というのはそれ自体が脅威だ。

 まず突進があり、そこから四肢、口、尾の攻撃に分岐するためにそれに合わせた対処が必要になる。

 難しい。

 難しいが、

 

「お前の葛藤は、もっと難しいものだったんだろう……!」

 

 出来ないことではない。

 今の自分ならできる。

 

「ハハ――!」

 

 笑うような案件でもない気がするが、しかし鬼種の本能として声が上がるのは抑えきれない。

 闘争に、酔うのだ。

 受け流すというより、より正確に言うなら弾いて威力を逸らすというべきだろうか。

 当てた瞬間、重低音と共に両手に衝撃が走る。

 

『オマエハ―――!』

 

 そう認識した瞬間には、三鬼子は既に駆け抜け、踵を返している。

 次だ。

 鬼獣が駆け。

 鬼姫が弾く。

 巡る鬼獣が描く起動は、鬼姫を中心とした天体図のように。

 

「簡単なことだ!」

 

 汗を流し、衝撃の余波で浅く全身を裂かれながら御影は叫んだ。

 

「それが私だから!」

 

『――――!』

 

 対し、何を感じたのか鬼獣が跳ねた。

 抱きしめるような前足の動きは、しかし両足による押し潰しだ。

 全体重を乗せたような飛びかかり。

 対し、

 

「ハハハハハハ!」

 

 御影は避けず、両刃斧を掲げて迎え撃つ。

 世界が、激震した。

 

「ぬっ……ぐぬぬぬぬ……!」

 

 大地に亀裂が入り、力んだ全身に血管が隆起する。

 大質量による大衝撃。

 

『イトシクテモ、ニクラシイ! ソレヲナゼ!』

 

「っ―――」

 

 何故と。

 数千年分の問いが、超重量となって御影にのしかかる。

 自分が和解し、力になってくれた三鬼子とは怨念の質量と密度が違うのだろう。

 同じ問いなれど、怨念としての純粋な圧力が違う。

 

「だった、ら……やはり鬼らしく、物理か……!」

 

 全身が軋みを上げる。

 掲げた両腕、握った両刃斧、ちょっとはしたなく広げた両足。

 

「っ―――――」

 

 一瞬、息を吸いながら体を沈め、

 

「だっ――――――あぁあああああああああああ!」

 

 跳ね上げた。

 

『――――!?』

 

 巨大な獣がひっくり返る。

 即座に追った。

 

『マザリモノガ!』

 

 だが、三尾が瞬発した。

 速く、鋭く。

 槍となって御影を止めようとする。

 対し叫ぶのは、

 

「玉藻! 力を貸せ!」

 

『こーん!』

 

 名を与えられた鬼狐が一瞬実体化。

 すぐに消えるが代わりに、

 

「舞い燃えろ九尾……!」

 

 腰裏から炎の尾が九本。 

 乱れ舞い、三本ずつが鬼獣の尾を弾き、

 

「吠えろ、拒魔(コマ)!」

 

『わふっ!』

 

 一瞬浮かんだ狗鬼は姿を消した後、御影の髪に影響を与えた。

 髪が揺らぎ、犬耳のような形を取ったのだ。

 跳躍中、未だ宙に体を置く御影は豊満な胸を逸らし、

 

「雄ォォォオオ――――――!」

 

 吠えた。

 声であり、それは同時に衝撃であり、熱だった。

 三鬼子が使っていた振動咆哮と同種のもの。

 鬼獣のそれは精神汚染を伴っていたが、御影の場合は純粋な高熱だ。

 熱波咆哮が、獣を撃ち焼く。

 

『―――――ッ』

 

 流石に直撃は堪えたのだろう。

 初めて三鬼子が体勢を立て直す為に体を横に回し、背後へ跳ぶ。

 御影は咆哮の反動によりすぐには追えなかった。

 だから呼ぶ。

 

「―――夜刀!」

 

『しゃー!』

 

 両刃斧の柄に巻き付くように、蛇鬼が浮かび消える。

 それをその場で振りかぶり、

 

「ふん……!」

 

 投擲した。

 黒の影を残しながら高速で空を駆ける獲物に対し、三鬼子は回避するが、

 

「食らいつけ、夜刀!」

 

『!!』

 

 両刃斧に宿った夜刀が御影の意思に応え、追尾。

 うねる様な軌道を描きながら三鬼子を追いかけ自らを叩き込んだ。

 

『しゃー!』

 

『キサマモワレラトイウノニ……!』

 

 当たりは浅い。

 三鬼子は自ら零れた瘴気も構わず、三尾を夜刀へと瞬発させ、

 

「させるか……!」

 

 両刃斧が消える。

 柄から伸びていた帯を御影が全力で引いたのだ。

 元から通常の大戦斧時から鎖鎌感覚で用いられていた黒帯。

 伸縮自在のそれは元々皇国で討伐された蛇の魔物から作られたものであり、夜刀とも親和性が高い。だからこそ夜刀も『伊吹』に宿ったのだろう。

 引き戻し、握りこみ、

 

「はっ! 流石は、神の力だな……!」

 

 賞賛と共に自らも前に出る。

 対する三鬼子も体勢を立て直し、それまでのように全体を駆使し襲い掛かる。

 今度は御影も舞いによる迎撃ではなく、両刃斧の重量移動を活かした炎の大輪を咲かせ自ら攻めに行った。

 激突音と燃焼音が連続し、互いに高速で位置を入れ替えながら、

 

『ナゼダ、ドウシテ――――!』

 

 同じ問いを三鬼子が叫ぶ

 だが、同じことをと、とは思わなかった。

 だって、その問いは。

 

「これから先、ずっと私が受けるであろうものだ……!」

 

 天津皇国の皇族において、異種の血を持った混ざり物の王として。

 そして、これから人種の子を孕み、鬼の血を薄める女王として、だ。

 

 

 

⚫︎

 

 

 

 

 皇国の歴史でも、異種が皇族の家系図に記されることはある。

 だがそれは立場的には側室であり、長い歴史の間、王はずっと純血だった。

 御影は違う。

 このあたり大戦によって世界のあり方は変わり、父はその出兵のついでに母を連れて帰ったのだから時代の流れとでも言うべきものかもしれない。

 それでも事実として、御影は皇国始まって以来の混血の女王となり、さらには婿としてウィル・ストレイトという人種と結ばれるのだ。

 鬼と人の子である御影が二分の一。

 半鬼と人種である御影の子の、鬼の血は四分の一。

 血が、薄れていく。

 悪いとは思わない。

 そもそもその是非は後の歴史家が判断すればいいだけだ。

 ただ生まれる前に両親の選択があり、自分の選択があり、ウィルとの選択があり、それらすべての結果だ。

 

「あぁ、そういうことだ……!」

 

 御影は笑みを浮かべながら両刃斧を回し、

 

「聞け、三鬼子……!」

 

 威力に言葉を乗せて行く。

 

「詳しく語ってやる……!」

 

 いいか、

 

「―――――ウィルはな、普段は大人しいくせにたまに急にとんでもないことを言うんだ!」

 

 

 

 

 

 

 鬼の姫が、荒ぶる神に想いと力を奉納していく。

 

「だがな、そこがいい! 支え甲斐があるし、我がままを通してほしいと思う!」

 

 全身を振り、

 

「アルマ殿は、私以外には母性とか年長者的な雰囲気を出すのに私にはたまに変な意地を張ってくるから寂しい! だがそれが良い! 私にだけ見せてくれる可愛らしさだ!」

 

 炎を滾らせ、

 

「先輩殿は、日常生活がちょっとずぼらすぎる! 今後一緒に生活をすると思うと心配事が多い! だがそれが良い! 独自路線で生きてるからなあの人は!」

 

 舞いを巡らせ、

 

「フォンはたまにやたら辛辣だ! 呪いの一件は一先ず黙ってくれてたが、今後がちょっと怖い! だがそれが良い! されたらちょっと興奮するかもしれん!」

 

 大輪を咲かせ、

 

「分かるか!?」

 

 想いを力に乗せて叩きつける。

 

「愛しさも憎らしさも紙一重だ! 別けなくていいんだ! 好きな相手の嫌いな所も言えないなんてどうかしてる! 私はウィルのダメなところは沢山言えるし、好きな所はそれ以上に言えるぞ! アルマ殿や先輩殿やフォンにもな!」

 

 獣の攻めと激突するたびに肌が裂け、衝撃が体を撃つ。

 構わない。

 この相手には、言葉だけじゃダメなのだ。

 力だ。

 鬼という種が信仰するもの。

 己の生命、その全てをぶつけ合う相互理解。

 

「感情なんて纏らなくていい!」

 

 熱を宿した咆哮が放たれ、

 

「理性で抑えきれなくていい!」

 

 九尾が攻防一体を体現し、

 

「何もかもは一つなんだからな!」

 

 両刃の斧が蛇のように駆ける。

 

『ワレラハオニヲ、ヒトヲ!』

 

 獣もまた、吠え、暴れ、力を叩きつける。

 

『アイシテイタ! ニクンデイタ! ソレデモイイトイウノカ!』

 

 その力は無尽蔵のようであり、それだけ多くの苦しみがあったのだ。

 だからこそ、姫もまたありとあらゆる全てを重ねて行く。

 

「あぁ、何も問題は無い!」

 

 激突。

 舞い、咲いて、駆けて、暴れて。

 力を以て何度でも語り合う。

 数千年の葛藤が張れるまで。

 

「何度でも問え! 何度でも叫べ! 何度だって暴れろ……!」

 

 笑う。

 楽しい。

 これで楽しめるのは人としてどうかと思うが、鬼種としては全うなので良いだろう。

 思えば学園に来てからこういう戦いは全然していなかった。いばらにも変わったと言われるわけだ。もう一度反省。全部終わったらウィルたちとも思いっきり戦ってみたいし、それが終わったら肉欲大爆発させてもいい。これはいつも通りか。

 あぁと、口端が吊り上がる。

 歓喜と充実が、全身を巡り、

 

「それがこれまでのお前たちだというのなら、その証明を何度だって私は受けよう……!」

 

 そして、

 

「私を知って、これからを積み上げろ……!」

 

 その全てを解き放った。

 

『―――――!』

 

 炎が巡る。

 

『わん!』

 

『こーん!』

 

『しゃー!』

 

 拒魔、玉藻、夜刀もまた御影の意気に応える様に吠え、

 

『≪征花絢爛・夢天ノ焔≫――――!』

 

 狗耳が盛り、九尾の衣がはためき、蛇の斧が灼熱を迸らせた。

 宿った三鬼子の断片、それらの同時展開に最終形態変化。

 火の粉が花の様に舞い、

 

『―――――』

 

 獣は、それに目を奪われた。

 人と神の力が溶け合った炎。

 それはかつて、三鬼子が愛したものに他ならなかったから。

 無くなったと、彼らは思った。

 神は消え、人と鬼だけになった。

 だから苦しんだ。

 だから憎んだ。

 そして今、愛し憎んだものが自らを受け入れようとしてくれている。

 

『アァ……ソレハ、マルデ―――』

 

「――――夢のよう、か?」

 

 鬼の姫は微笑んだ。

 

「あぁそうだ。夢を見るだけがお姫様じゃない―――――自らを以て、誰かに夢を示すものだ!」

 

 火が、炎が、真紅が、火の粉が、何もかもが溢れ出す。

 何もかもは握った両刃の戦斧集った。

 振りかぶり、

 

「≪神髄≫―――――」

 

 絶望を解き放つ夢を、神に捧げる。

 

『≪天津叢雲≫―――――≪禊祓≫ッッ!!』

 

 古来、炎とは不浄を浄化するもの。

 闇を照らし、営みを照らす。

 故にそれは、超高熱による灼熱の奔流であり、同時にあらゆる穢れを焼き祓う禊ぎだった。

 光が、駆け抜けた。

 両刃斧を振ったのは二度、十字の大斬撃。

 浄化の炎閃が、鬼の獣を飲み込み、

 

『ソレガ、オマエカ――――』

 

 理解と納得のつぶやきを漏らし、三鬼子が光となって弾けた。

 三つの光は空に昇っていく。

 それがどうなるか、御影には分からない。

 皇国の聖域に帰るのか、空に溶けるのか。

 分からないけれど、彼らが解き放たれたのは確かだった。

 だからドレスの裾をつまみ、膝を少し沈める。

 顎を引き、片角を晒して別れの言葉を告げた。

 

「――――――ごきげんよう」

 

 

 




御影
モードエレガント完備
やりすぎたかもしれない
無敵のプリンセス


自作『簡単なことだよ、愛しい人』が電撃大賞の最終選考に残りました。
ちょっと更新頻度が不安定になるかもしれないので申し訳ない。
しかし上手く行けば天才ちゃんの書籍化に一歩近づいたかも……?


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