超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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ウィル・ストレイト&アレス・オリンフォス――ボーイ・フェイス・ボーイーー

 

「――――すぅ」

 

 アレスは深く息を吸い、体に染みついた動きを実行した。

 右手で刀の鞘を、左手で柄を握る。右足は後ろに下げ、左膝は沈め、体もそれに応じて深く屈める。

 飛び出すことのみを前提とした抜刀体勢。

 アレスにとっての基本姿勢。

 この状態に雷属性の加速魔法をかけて斬撃を放つのが彼の基礎にして奥義。

 だが、今はそれだけではない。

 全身の軽科装と背後のフレームによる六枚翼が赤雷と共に鳴動。

 アレスの疾走を補佐する。

 息を吐き、

 

「―――ハ」

 

 踏み出した瞬間、視界から色が去った。

 魔法と科学により体感速度、身体強化、移動補正、それら全てが極限域まで強化。

 神速を体現し、それに対応した動きを実現するために、色覚を捨てるほどの集中力を発揮しているのだ。

 行った。

 行って、

 

「―――!?」

 

 赤い稲光の一閃は、既にウィルの肩を斬りつけていた。

 彼の背後、後方五メートル程度の距離で静止して再びウィルへと体を向ける。

 瞬発から疾走斬撃、反転までコンマ一秒にも満たない。

 ウィルでさえも反応できない動きは、当然のように止まらなかった。

 流れる様に右刀を納刀、左刀での抜刀体勢を取る。

 全身で稲妻を宿し、

 

「――――≪纏雷縮地≫」

 

 名の通りに。

 雷光を纏い、地の道を縮めた。

 やることは変わらない。

 違うのは、向かう先がウィルの背だということだ。

 色を失った世界では、まだ肩から噴き出した真っ黒な雫が宙を舞っている。

 確かに入ったが、浅かった。

 第三形態に移行し、跳ね上がった速度故に、僅かに斬線がブレたせいだろう。 

 次は通す。

 

「シッ―――!」

 

 振るう。

 右から左上。

 確実にウィルの脊椎を断ち切る軌跡。

 抜刀と斬撃の刹那には、思考の余地は無い。

 刃は振るわれ、

 

「≪ペリドット≫!」

 

「―――!?」

 

 色彩を失ったはずの世界に、緑が吹き抜けた。

 紋様剣だ。

 それは軽やかに宙を駆け、稲妻の通り道に割り込む。

 光の線で剣の形を取っているだけのそれは、確かに斬撃と拮抗。

 それが何なのか、アレスはすぐに理解した。

 

「フォンさんのか……!」

 

 ≪偽神兵装≫で強化されたアレスの速度域に追いついてくる風の紋様剣。

 もとより、ウィルの属性特化変身はそれぞれが御影やトリウィア、フォンを模したもの。

 その発展型というのなら、その剣がフォンの力を象徴していても不思議ではない。

 

「っ――!」

 

 反撃として右刀を逆手で握り、即座に刀身を射出した。

 ≪纏雷縮地≫による上乗せが無くても、鞘の内部機構に電磁力による加速がデフォルトで備わっている。

 故にその気になれば体勢が崩れていなくても、その射出力のみでも高速斬撃が可能だ。

 

「――――その翼に、追い付けないものは無く」

 

 だが、それすらも紋様剣は反応する。

 剣のような、翼のような鮮やかな緑の軌跡。

 まだアレスの左刀が、直前の拮抗から立て直しきれていないほど僅かな間にも間に合わせていた。

 

「くっ……!」

 

 咄嗟に背後にステップ。

 まだウィル自身は振り返ってすらいない。

 紋様剣が抜刀斬撃に追いつくなら、それを上回る速度と密度で攻撃をすればいいだけ。

 判断し。

 

「――――≪サファイア≫」

 

 軌跡が彩りを描くのを見た。

 青だ。

 速度が速いわけではない。

 振り返ろうとしているウィルの肩越しに、青の紋様剣が遅いとさえ言っていいほどの速度でこちらに切っ先を向けた。

 向けられたと思った瞬間、閃光が放たれた。

 

「そうなるか……!」

 

 考えるまでもない。

 トリウィアを模したものであり、彼女よろしく遠距離攻撃を担うもの。

 閃光に見えたのは青く輝く高速の水流だ。

 だが、今のアレスからすれば避けるのは容易い。

 右に一歩分だけ体をズラすことで回避し、

 

「――――その瞳に、見通せぬものは無く」 

 

 水閃が、()()()()

 

「あぁ!?」

 

 真っすぐに飛んでいたはずの水閃がほぼ直角にアレスを追ってきた。

 驚いて思わず、さらに背後に跳んだらまた軌道を曲げて追尾してくる。

 

「この追尾力……!」

 

 流石に刀で切り払いながら、思ったことをそのまま口にした、

 

「帝国学会で伝説になったという素人質問事変の執拗さを再現したのか……!?」

 

「あの探求心がトリィの魅力だよ……!」

 

「限度があるだろうが!」

 

 言い返しつつ、赤雷を纏う。

 ≪纏雷縮地≫に追いつく速度の緑。

 必中と見てもいい追尾の青。

 そうなればもう一色が何なのかは考えるまでもない。

 

「天津院先輩……!」

 

「流石、分かってるね!」

 

「分からないわけあるか! それを言ったらスぺイシアさんの分どうしたんだよ!」

 

「≪ルビー≫―――――ッッッ!」

 

「あ! 誤魔化すなよ!」

 

 やっと振り返ったウィルは右手に虹刀を、左手に赤の紋様剣を握っていた。

 

「っまずい……!」

 

 アレスは即座の判断を敢行した。

 位相空間(ハンマースペース)から予備フレームを二本射出。十字に組み合わせながら眼前に展開する。

 対して、赤の剣は切っ先を地面に掠めながら火花を散らせ、

 

「その炎に燃やせぬものは無し……!」

 

 炎閃が突っ走った。

 

 

 

 

 

 アレスが展開した十字フレームは、炎熱斬撃が放たれた時には赤雷の盾となっていた。

 それ自体が触れたものを焼き焦がす攻性防御は、

 

「っ……バ火力だと思ったぞ……!」

 

 一瞬で蒸発した。

 炎熱斬撃は、二段構えだった。

 まず振り上げの一閃が盾に走り、それだけでは盾には大したダメージにはならなかった。

 問題はその後。

 刻まれた斬撃痕が爆発を起こしたのだ。

 数メートルの火柱が上がり、フレームの盾は破砕。周囲に衝撃波をまき散らした。

 

「ふぅっ……!」

 

 アレス自身は盾を展開した時には≪纏雷縮地≫で真横に数メートル移動していたから爆発には巻き込まれていなかった。

 その上で、止まらない。

 広がる爆風の前に再移動、背のフレームウィングで衝撃を受け止めながら加速。

 三色の紋様剣の能力は把握できた。

 その上で、やることは変わらない。

 雷を纏い、駆けるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 アレスに対する迎撃は最早ウィルの意思を超えて行われている。

 ≪トリニティダイヤ≫は≪ルビー≫、≪サファイア≫、≪ペリドット≫の収束強化形態だ。

 今のウィル自身に特別な能力が備わっているわけではない。

 各形態の特化した身体能力をそれぞれに同時に発動し、現在のウィルにとって最高値の強化を得ているのだ。

 膂力、思考速度、速力。

 それぞれが極限まで高められている。

 加えて三色の紋様剣。

 防御破壊、必中追尾、最速反応。

 通常時の≪全ての鍵(オムニス・クラヴィス)≫による魔法行使は封印されるが、限界強化の身体能力と事象干渉まで至りかけている紋様剣があれば十分でもあるだろう。

 加えて、ウィル自身の長所である目の良さは当然据え置き。

 間違いなく、今のウィル・ストレイトにとって最強形態と言っていい。

 だが、

 

「速い……!」

 

 爆発斬撃を回避され、さらには駆けだしたアレスに思う。

 フォンのような目にも止まらぬ、というわけではない。

 彼女とは違い、赤雷を纏うが故に移動の残滓が必ず残る。

 だが、それだけだ。

 ウィルの目をしてでも、追いきれず、気づいた時には赤い稲光が嘶くだけ。

 

「だからこそ、頼むよ……!」

 

 神速には神速を。

 アレスなら真っすぐに向かってくると信じて、風の紋様剣を走らせる。

 

「!!」

 

 気づいた時には、眼前でアレスと風紋剣がぶつかり合っていた。

 やはり今はまだ目で追いきれない。

 それでもやりようはある。

 故に、虹刀を握る力を込めて前に出ようとし、

 

「――――!?」

 

 見た。

 アレスが取った二つの動きを。

 一つは振りぬいた左の刀を手放したということ。

 そしてもう一つは、

 

「翼……!?」

 

「来い……!」

 

 言った通りのことだ。

 背に展開されていた六枚のフレームウィング。

 その一つがアレスの手に飛来し収まり―――雷刃が射出された。

 

「抜刀……!」

 

「トリィ!」

 

 叫んでから本人の名前を呼んでしまったと気づいたが、そっちの方がテンションが上がる説もあるので良しとする。

 実際、水紋剣は叫びに応えてくれた。

 水閃が放たれ、抜刀と同時に着弾。

 握られていた刃を弾き飛ばす。

 凌ぎはしたが、問題は解決されたわけではない。

 

「その翼も、君の刀……!?」

 

「素直に教える馬鹿がいるか!?」

 

「僕は言えるよ! 赤は御影、青はトリィ、緑はフォンの!」

 

「さっき種明かししたしそれは基本的に説明になってないだろうが!」

 

 一瞬納得しかけたが、アレスにはちゃんと伝わっているのでこれは問題は無いだろう。

 問題はアレスのフレームウィングだ。

 ウィングの根元が柄になっていて、そこから刃が射出された。

 つまり、それ自体が抜刀機構となっている。

 腰の二刀を合わせ、合計八刀流。

 それは、

 

「マキナさんが喜びそうじゃん……!」

 

「風評被害で訴えるぞ―――!」

 

 

 

 

 

 

 アレスは八刀の内、七を切り捨てた。

 フレームウィングから発生する刃は稲妻が刀の形に固定化されたもので重さはほとんど無く、ウィングの柄自体も非常に軽量。

 さらにはどんな体勢でも背から手中に収まってくれる。

 結果的に斬撃を繰り出し柄を放棄。自律飛行で自動納刀されることで、

 

「食らい尽くせ……!」

 

 一瞬の内に八撃を繰り出すことが可能になる。

 だがその内、順に繰り出す七撃は、ウィルの紋様剣によって阻まれる。

 

「っつ……!」

 

 最初の三撃は風紋剣に撃ち落とされた。

 次の二撃は鋭角軌道を描く水紋剣の狙撃によって雷刃を撃ち抜かれている。

 続く一撃は炎紋剣の斬撃が刻まれ、爆発する前に雷刃自体を消失させることで爆撃を回避。

 風紋剣の速度は今のアレスでも意味が分からない速度域で最速斬撃三回でやっと対処できる。

 水紋剣の狙撃にしても異常な精度でこちらの動きを先読みしているのか抜刀しようと思った時には刃に着弾していた。

 特に炎紋剣は完全に一手分の攻撃を潰されているが、まともに受ければ耐えるのは難しい。

 故にこそ、

 

「一刀、専心……!」

 

 最後の一太刀を以て、ウィルに届かせる。

 元より唯一つのことに全てを懸けるのはアレスにとっては当然のことだ。

 むしろこの他の斬撃を迎撃されることを前提とできるが故に、さらに速度と鋭さを上乗せできる。

 なのに、

 

「ここに来て、まだ……!」

 

「当然……!」

 

 届いていない。

 ウィルの反応速度が上がっている。

 音速の数倍の雷閃に、虹刀を確実に合わせ撃ちあってくる。

 

「ちっ……!」

 

 つい先ほどもアレスに追いつくように飛躍的に剣術の技量を上げて来たが同じことが起きている。

 そして、改めて思うことは、

 

「嫌味か、アンタそれ!?」

 

「ごめん、もう何を指しているのか全然分かんないや!」

 

 彼の剣術は、あまりにも正道が過ぎる。

 アレスの場合であれば、極端な前傾姿勢から移動を兼ねた抜刀剣術。

 父から教わった≪オリンフォス式戦神術≫も所謂必殺技として会得しているが、それも含めて通常の剣術体系から見れば邪道と言うか一極特化しすぎたものだ。

 対して、ウィルのそれは基本の形に恐ろしく忠実だ。

 決められた形を、アレスの攻撃に応じて繰り出す。

 言葉にすれば簡単だが、実行することは簡単ではない。

 三流は型通りに動くのがやっと。

 二流は型を正しく出せるようになる。

 一流であれば状況に応じて最適な型を使いこなし、咄嗟のアドリブすら繰り出せる。

 そういう意味ではウィルは間違いなく一流に到達していた。

 

「お」

 

 どんな角度、姿勢から最速抜刀を射出しても確実に彼は刀を合わせてくる。

 故に、アレスはその完璧を崩そうと速度を上げ、

 

「おぉ―――」

 

 ウィルもまたそれ追い付き、

 

「おぉ……!」

 

 激突は苛烈さを増して行った。

 

 

 

 

 

 

 二人は最早、大きく移動することは無かった。

 互いに位置を入れ替え、左右にスキッドすることはあってもそれだけ。

 正面から互いにぶつかり合うから。

 

「―――アレス!」

 

 三色の紋様剣を舞わせながら虹の刀を振るう少年が叫んだ。

 

「一つだけ聞くよ!」

 

「あぁ!?」

 

 赤黒の稲妻を纏い八刀を射出しする少年は叫び返し、

 

「君は、楽しくなかったの!?」

 

「―――」

 

 赤い目が一瞬見開かれた。

 だが≪偽神兵装≫による行動補助は一連の動きを損なわせず、

 

「みんなで色々なことをした! 確かに巻き込んじゃったのは否めないけど!」

 

 それでも少年は思いを口にする。

 

「夏には一緒に御影を助けに行った!」

 

 赤は力強く、

 

「秋にはディートさんと僕とで王都のあちこち観光した!」

 

 青は鋭く、

 

「冬には≪龍の都≫を守った!」

 

 緑は速く、

 

「この春には生徒会に入ってくれた!」

 

 虹は―――真っすぐに。

 

「みんなで君の淹れてくれたお茶を飲む時間が、僕にとって幸福だったんだ!」

 

「それはアンタたちに巻き込まれたせいだ!」

 

 稲妻が抗うように射出し、

 

「何もかも、俺の意思じゃない!」

 

 それは七度繰り返され、

 

「流されるままに、惰性でそうしただけのことだ!」

 

 八度目に少年の命を狙い、

 

「確かに君が流されやすいのは否定できないけど!」

 

「アンタってやつは―――――!」

 

 虹と雷が激突し、

 

「でも」

 

 視線が混じり合い、

 

「何もかも、最後には君自身が選択したはずだろう!?」

 

「――――っ」

 

 初めて、稲妻が押し負け、

 

「君はそれを意思の弱さだと思っているみたいだけど、僕は全く思わない!」

 

 だってと、虹が駆け、

 

「それは、君の優しさだ!」

 

「こいつ……!」

 

「なんだかんだと付き合ってくれるの、本当に嫌だったら無理でしょ!?」

 

「―――」

 

 言葉と共に虹の一撃が打ち込まれ、

 

「―――――ふざけんなこの野郎!」

 

 キレ気味の反撃を打ち出された。

 

 

 

 

 

 

「アンタは、アンタはほんとにさぁ! 開き直りか!? 自分たちは好き勝手やりたいから貧乏くじを引けってか!? 我がままにも過ぎるだろ!?」

 

「君もそれを楽しんでるって言ってるんだよ!」

 

「そういうのはな! 我がまましてる側が言ったらダメなんだろ!」

 

「確かに自分で言ってちょっと思ったけど仕方ないじゃん! 意地張ってるし!」

 

「張ってるわけあるか! あの空間俺にとっては地獄だったぞ!?」

 

「具体的に! 直せるなら直すから!」

 

「良いのか!?」

 

「――――とりあえず一人一つで!」

 

「まずアンタが嫌いだ!」

 

「よし、一端僕は置いておこう!」

 

「畜生! ムカつく! なら言うが! 天津院先輩はちょっと覇気強すぎるだろ!」

 

「良いね! そこが御影の魅力!」

 

「くそ! あの人に悪口はちょっと思いつかない! フロネシス先輩は無表情でなんか唐突に変なことするのが怖い!」

 

「意外性を大事にしてるからね!」

 

「フォンさんはたまに冷静になって毒吐くのはなんなんだ!」

 

「周りをよく見てるってことさ!」

 

「トリシラ先輩はちょいちょい問題をスルーして俺に押し付けてくる節がある!」

 

「君を信頼してるってことだね!」

 

「イザベラ先輩はそもそもほとんど会話が通じないし喋り方がだいぶ変だろあれ! 誰か直してやれよ!」

 

「エスカ君に期待しよう!」

 

「スぺイシアさんは……スぺイシアさんもまぁいいだろう!」

 

「アルマさんは最高だからね! あ、ちょっと待ってアレス!」

 

「あぁ!?」

 

「生徒会に対する文句、あんまりないんじゃない!? ほら、やっぱり君は生徒会のみんなが大好きってわけ!」

 

「アンタが嫌いって話だーーーーー!」

 

 

 

 

 

 あぁくそ、何をやっているのだろう。

 剣撃を交わし合いながらアレスは思った。

 変な話になっている。

 変な話をしながらも戦いは止まっていないのに。

 これじゃあまるで。

 

「あぁ」

 

 思っていることを全部ぶちまけているのに。

 変な話に付き合わされて。

 いつの間にかそれに乗っかってしまって。

 それじゃあ、いつもと変わらない。

 

「ははっ」

 

 ウィルは、笑っていた。

 度重なる激突は直撃は無くても僅かに掠めた刃により、傷は増えている。

 血を流しながらも彼は楽しそうに笑っていた。

 いつもと違うのは、それかもしれない。

 首を傾けながら控えめにほほ笑むのはよく見たけれど。

 無邪気とさえ言っていい彼の笑顔を見るのは初めてだ。

 

「―――楽しいか?」

 

「うん」

 

 問いかけに、ウィルは頷いて、

 

「形はどうあれ、君の言葉を聞けているから。やっと君の本心を聞けたから。君が僕を嫌いでも、君は僕の大好きなものを好きでいてくれているから。だから、嬉しいし、楽しいよ」

 

 そんなことを言う。

 

「あと僕、こういう喧嘩したことなかったから。ちょっと楽しいよ」

 

「俺は今、アンタを殺そうとしてるんだが」

 

「よく考えれば御影とは最初に≪究極魔法≫撃たれたし、トリィにも撃たれた上でだまし討ちでマジバトルしたから、あんまり気にしなくていい気もしてきた」

 

「なんだよ」

 

 どうかしてる。

 あぁくそ。

 

「――――はっ。ほんとに、頭おかしいよ」

 

「あ、笑ったね」

 

「……あぁ、嘲笑ってやったよ」

 

「あはは。でも、笑った」

 

「うるさいなぁ」

 

 はっ、と声が漏れた。

 ほんとにどうかしてる。

 ウィル・ストレイトのこういう所が嫌いだ。

 

『――――』

 

 遠く、どこかで誰の声が聞こえた気がした。

 でも、今となってはもうそれは聞こえていない。

 何もかも己の全ては、目の前の彼に向けられているから。

 

 

 

 

 

 

 ウィルとアレスは自然と距離を開け、向き合った。

 息は上がり、疲弊は濃く、体中の至る所に浅くも傷がある。

 それでも。

 

「……今更止まらないだろ」

 

「うん、それでいいよ」

 

 ウィルは首を小さく傾けて微笑んだ。

 

「君の全部、僕にぶつけてくれると嬉しい」

 

「――――あぁ、くそ」

 

 アレスは小さく呻いた。

 彼は息を吐き、空を見上げて。

 真っすぐに視線を向けた。

 

「アンタが嫌いだ、ウィル・ストレイト」

 

「僕は君が好きだよ、アレス・オリンフォス」

 

 そして。

 

「――――この虹に、通せぬ意思は無く」

 

 ウィルは虹刀を振り上げる。

 その刀身に三色の紋様剣が重なり、彼の背には魔法陣が展開。

 刀身に刻まれた紋様から極虹が光の奔流となって溢れ出す。

 繰り出すのは三属性収束斬撃砲撃。

 

「――――我流奥義」

 

 アレスは右腰の刀を握り、構える。

 背後の六翼が赤雷を放出。フレームウィング同士を循環し。

 大気を焦がし、空気を震わせながら右の鞘の中に充填されていく。

 繰り出すのは雷撃収束抜刀斬撃。

 互いに全てを振り絞った最後の必殺。

 

「あはは」

 

「はっ」

 

 一瞬の空白。

 刹那の間に見たお互いは、何故か笑って合っていて、

 

「≪アルコ・イリス≫―――――――!」

 

「≪雷霆一閃≫――――――!」

 

 極虹と雷霆が放たれた。

 

 

 

 

 

 

「――――――」

 

 アレスは空を見上げていた。

 ≪偽神兵装≫は解除され、黒の制服姿。

 砕けた地面に大の字になって倒れている。

 身体は、まともに動かなかった。

 

「いやぁ……疲れたねぇ」

 

 頭上には黒の胴着と赤の肩幕姿のウィルがいる。

 逆袈裟に斬撃痕はあるが浅く、彼は立っている。

 つまりは、それが勝敗であり、決着だった。

 

「――――俺の負けか」

 

 自分には大きな傷はない。

 ウィルの放った極虹斬撃は、≪偽神兵装≫のみを消し飛ばし、しかしアレス自身にダメージを追わせなかったのだ。

 

「……なぁ」

 

「うん?」

 

「………………俺は」

 

 何を言うべきか、迷った。

 恨み事か、負け惜しみか。

 よく分らなくて。

 

「俺は……」

 

 そう、アレス・オリンフォスは。

 

「―――――アンタが、羨ましかったんだ」

 

 大切な人に囲まれている彼が。

 みんなから愛されている彼が。

 大事な物を大事にできる彼が。

 羨ましかったのだ。

 

「…………そっか」

 

 困ったように、彼は首を傾けた。

 彼もまた何を言うのか迷った様子で、

 

「はい」

 

 結局、何も言わずにこちらに手を伸ばした。

 ここまでしたのに。

 彼を殺そうとしたのに。

 それでもまだ、ウィルはアレスを見放さなかった。

 何故か、なんて考えるまでもない。

 彼が言っていた。

 ウィル・ストレイトにとってアレス・オリンフォスは彼の幸福に含まれているのだから。

 

「…………あぁ、くそ。アンタって人はほんとに」

 

 本当にどうかしてる。

 そんなことを思って、彼の手を取ろうとして、

 

「―――――――締め切り破壊! シャコパァーンチ!」

 

「だっ!?」

 

 突然の拳が、横からウィルの顔面に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 アレスはウィルの体が中空で三回転半して地面に落ちたのを見た。

 そして、それを為したのは、

 

「成敗!」

 

「…………トォンさん?」

 

 赤茶色の髪から白い触覚を二本生やし、両手を白い甲殻で覆ったシャコ系魚人族の少女。

 アレスのクラスメイトであるトォンだ。

 加えて駆け寄ってきたのは彼女だけではない。

 

「オリンフォス君、大丈夫!?」

 

「うがっ! おいパラディウム! 俺を捨てるな!」

 

 茶髪に制服姿の少女はやはりクラスメイトのアイネ・パラディウムであり、どうやら彼女に肩を借りていたようだが今まさに捨てられたらしいエスカ・リーリオもいる。

 エスカに関しては今のアレスよりも満身創痍と言った様子だ。

 

「凄い傷……! 一体どんな極悪人にやられたの!?」

 

「安心なさい、アイネ……その極悪人は今この私のシャコパンチで張り倒しましたわ。悪・必・打!」

 

「…………なぁ、おいトォン」

 

「なんですの?」

 

「…………お前が張り倒したの、生徒会長じゃね?」

 

「なんですの!?」

 

「いやぁ…………良いパンチでしたよ……トォンさん……えぇ……良い感じに顎に入りました……」

 

 立ち上がったウィルはプルプルと膝を震わせて、足取りも怪しい。

 それを見て、トォンも、アイネも、エスカも首を傾げ、

 

「つまり――――生徒会長が極悪人でしたの!?」

 

「そんな……!」

 

「マジかよ」

 

「いやいやいやいや! 三人とも、落ち着いてくださいよ!」

 

 何故かアレスが立ち上がってウィルを庇うことになった。

 三人とも怪訝そう―――いや、トォンだけはやたら速い拳速のシャドーボクシングをしている。

 

「逆でしょ逆! 疑われるのは僕の方では!」

 

「……? どうしましたの、オリンフォスさん。生徒会長に攻撃されたんでしょう?」

 

「それは! ……まあそうですけども」

 

「やはり! 避難場所になってる学園で派手な戦闘してるのがいたのでどんな奴かと思えば! まさか生徒会長だったとは……! 許せませんわ! 新刊は闇落ち生徒会長で行きます!」

 

「いやいやいや!」

 

「え? じゃあオリンフォス君が闇落ちしたの?」

 

「それは! ……まぁそうですけども」

 

「マジかよ。まぁお前ストレス溜まってそうだったもんな」

 

「それは! ……まぁそうですけども。主に後ろの人のせいで……」

 

「あっ、そこは追加するんだ……」

 

 後ろがやかましい。

 それは本当だ。

 いや、それにしたって。

 困惑するしかない。

 

「…………なんで、この人と僕で、僕の味方みたいなことを?」

 

「はぁ?」

 

 三人は、三人とも同じように眉を顰め、

 

「友達だからですわ」

 

「友達だからだよ?」

 

「ダチだからだろ。そんなん言わせんなよ」

 

 同じことを、当たり前の様に言い放った。

 

「―――――」

 

 意味が、分からない。

 何を言っているんだろう。

 ウィル・ストレイトとアレス・オリンフォスがいて、後者を選ぶなんて。

 

「…………あははっ」

 

「何笑ってるんだよアンタ」

 

「いやぁ……君、纏めると自分には友達がいないみたいなこと言ってたけど」

 

「雑な纏め方するな……!」

 

「でも―――いるじゃん。君の味方」

 

「―――――」

 

 息が、詰まった。

 頭の中に真っ白になる。

 

「……? オリンフォス君、そんなこと言ってたの?」

 

「まぁ! そういうムーブですの!? 確かにオリンフォス君は影が似合う男なのでそういう葛藤描写は取り入れたいと思っていましたが! 最終的にはクラスみんなに囲まれて幸せなピースをしてエンディングのつもりですわよ?」

 

「そこまでにしておけよ。なんかそういう感じじゃないっぽいぞ」

 

「――――」

 

 何かを言おうとして、失敗した。

 疲労とは別の要因で、膝から力が抜けて崩れ落ちる。

 

「大事なものってさ」

 

 隣にウィルが座る。

 

「大事だって受け入れるの、難しいよね。僕も去年はそうだったし」

 

「……アンタも?」

 

「うん」

 

 彼は苦笑し、

 

「まぁ僕も色々意地張ったり壁作ったりしてて……今思い返すと恥ずかしいや」

 

「………………今は自分を恥じるとこないのか?」

 

「全くないね!」

 

 顔を腫らしながら、彼は胸を張っていた。

 

「…………はっ」

 

 頬が、勝手に緩む。

 三人の友達が映っている視界は、自然と溢れた涙で滲んで、

 

「やっぱり―――あんたのこと、嫌いだよ」

 

 

 

 

 

 




ウィル
多分、誰かと喧嘩したのも初めてだったのでしょう
地味に剣術スキルが爆上がりした

アレス
変態雷速八刀流。
アンタのことが嫌いです(強調


トォン
アンタのことが嫌い(大好き)です!?!??!?!?!!?




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