超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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オールド・エイジ

 

 四人の合体攻撃が空けた大穴から、アレスはウィルとヴィーテフロアと共に城内に降り立った。

 

「ここは……」

 

 その場所にアレスは見覚えがあった。

 広い、正方形の空間。

 本来屋根はないが、今は黒い植物の根、或いは血管のような管で覆わている。

 黒い管は空間全体に蔓延っており、記憶とはまるで違う。

 それでも、空間の広さや黒管に絡められた花壇や生け垣は見覚えがあった。

 

「……中庭」

 

「なんとまぁ酷いことをしますね、人の思い出の場所に」

 

 かつて、アレスがヴィーテフロアに対して騎士になると誓った場所だ。

 王城の中庭、かつての美しい花園は見る影もない。

 

「酷いことを、はそっちじゃろうて」

 

 そして、アレスたちの正面。

 中庭の中央にて立つ喪服姿の女がいる。

 顔のベールは無く、露わになっている顔は数時間前の様子と変わりないようにアレスには見えた。

 

「綺麗に城をぶち抜いたのぅ。突入してくるとは思っていたが、あんな超火力ぶち込んでくるのは正直驚いた。こう、真上が急にとんでもない勢いで光を放っていたぞ?」

 

 ヘラは嘆息気味に言葉を零しつつ、首を何度か横に振った。

 それに即座に頷いたのはヴィーテフロアだ。

 

「確かに―――ぶっちゃけさっきのを直接、本体とやらに打ち込めば良いのでは? と思うくらいの威力でした」

 

「ヴィーテ……!」

 

 アレス自身ちょっとは思ったが空気を読んで言わなかったことだった。

 

「くくく、相変わらずじゃのう」

 

「それはどうも。…………ん?」

 

 なにかに引っかかったのか、ヴィーテフロアがヘラに対して眉を顰めたが、アレスにはよく分からなかった。

 考えるよりも先に、視界に文字が浮かび上がる。

 

【天才:あー、うん。まぁ僕も思ったんだけど。なんというか……思ったより火力出たね? 合体技、テンション上げる以外にもちゃんと意味あったんだな……。あぁいうの、ウィル以外とやったの初めてだったから普通にびっくりした】

 

【鬼姫様:わはは! これは私達の絆が、アルマ殿の経験を上回ったということか! うむ、それはかなり気分が良いな!】

 

【天才:もう一回ぶち込んでもいいんだけど、流石に対応されそうだしね】

 

「ヘラ? ちなみにもう一回さっきのぶち込んだらどうなりますか?」

 

「どうもなにも、二度目は無効化するだけじゃぞ。マルチバースの知識はこちらも潤沢だからのぅ」

 

「ずるいですねぇ」

 

【病ン姫:駄目みたいですね……楽できるかと思ったんですけど……】

 

【鳥ちゃん:このお姫様、良い性格しすぎてない?】

 

「……ぐぅ」

 

 アレスは思わず唸ることしかできなかった。

 冷静に考えれば、簡単に終わるのに越したことはないのだが、それなりの覚悟を持って城内に飛び込んだのだから、複雑な気分にならざるを得なかった。

 

「まぁ、よい。お主らの考えることは妾たちも分かっている。外の羽化体ごと本体を消滅させるつもりなのじゃろう?」

 

 笑みを浮かべたヘラは、アレスたちを見回す。

 そこに焦りはなく、余裕と自信が滲んでいた。

 

「ヘラさん、一つ質問を言いですか?」

 

 一歩、ウィルが前に出る。

 

「ふむ」

 

「今のあなたの言葉ですけど、本体をって……あなたがそうではないのですか?」

 

「良い質問じゃ。―――否である」

 

 ヘラは告げる。

 芝居がかった仕草で両腕を広げ、

 

「しかしてウィル・ストレイト。それにアレス。お主たちに対してはその話は妾からは止めておこう」

 

 彼女が見据えたのは、ヴィーテフロアだった。

 ヘラは右手を掲げ、

 

「ヴィーテフロア。義理とはいえ母子じゃ。女同士、語り合うとするかの」

 

 指を鳴らした。

 瞬間、

 

「おっと」

 

「ヴィーテ!?」

 

 ヘラとヴィーテを影が包み込む。

 

「っ……!」

 

 影を使った転移というのは、≪偽神兵装≫が教えてくれる。

 考える前に、アレスは隣の少女へと手を伸ばした。

 もう、嫌だったからだ。

 彼女と引き離されるのも、彼女が手の届かないところに行くのも、

 

「ヴィーテ……!」

 

「アレス」

 

 彼女もまた、アレスへと手を伸ばしていた。

 一瞬、互いの指先が触れ合い、

 

「――――大丈夫ですよ」

 

「!?」

 

 黒紫と乳白の小さな光が、アレスの手を弾いた。

 

「あの人には私も話を付けないといけませんから」

 

 だから、と彼女は微笑んだ。

 

「もう、大丈夫です」

 

 そして、影に飲み込まれて少女は消えた。

 ヘラもまた同じように姿を消し、残されたのはアレスとウィルだけ。

 

「アレス」

 

「……問題ありません、先輩」

 

 心配そうなウィルの声に、アレスは静かに返した。

 二色の光の残滓を握り、

 

「ヴィーテが大丈夫って言ったんですから。俺は、それを信じます」

 

「そっか」

 

 小さく首を傾けて微笑むウィルに、アレスは頷き、

 

「――――なるほど、良い顔になったな」

 

 ヘラの代わりに現れた男を見た。

 

 

 

 

 

 

 その男を見て、まずウィルが感じたのは違和感だった。

 彼が纏う黒革の鎧に対してだ。

 このアース111は服飾文化がずいぶんと発達している、というのはアルマの言葉だった。

 元々アースゼロでいう中近世程度の文化らしいが、初代アクシオス国王によって大きく発展し、現代に近いものがある。

 魔法による強化もあり、単なる鎧もデザイン性が高い。ゲームやアニメみたいだとも――ウィルはそのあたり疎いからピンと来なかったが――掲示板では言われていた。

 だが、その鎧は違った。

 デザイン性を一切配した実用性重視。それにはちきれんばかりの筋肉を押し込めた偉丈夫。

 190近い長身の男が握るのは、それと同じ長さの、やはりシンプルな槍。

 輝く金色の長い髪をオールバックにした初老の男だが、

 

「……誰、ですか?」

 

 ウィルに見覚えはない、気がする。

 対して、からからと男は笑う。

 

「おいおい生徒会長。歴史の勉強が足りんなぁ。よぉーく見てみろ、そして思い出して見ろ。実際に会って……は、いねぇか。ほれ、肖像画とかあるだろう?」

 

「えっと……」

 

 言われ、そしてウィルが思い出す前に、アレスが口を開いた。

 

「ゼウィス・オリンフォス」

 

 告げられた名前に男の笑みは深まり、ウィルは戸惑う。

 

「大戦の英雄、≪至高なる雷霆≫……俺の義父ですよ」

 

「あー……あぁ! そういえば! 知ってる姿と全然違うなぁって思いましたよ! ……全然違いますね!?」

 

「わはは! そうだろうそうだろう! あの傷はかっこよかったなぁ!」

 

 男、ゼウィスは声を上げて笑い、

 

「単純な話だ。お前が会ったのはジジイの頃の俺だ。今ここにいるのは他の世界のゴーティアと同期していた情報やヘラの記憶から再構成された、若い頃のゼウィス・オリンフォスってわけだよ。ちょうど、魔族大戦でゴーティアに乗っ取られる前の俺なのさ」

 

 彼はくるりと槍を指運で回す。

 

「ウィル・ストレイト、お前の親父と一緒に戦っていたのはこの年の頃だ」

 

「……それは」

 

 ウィルは、彼にしては珍しく目を細めた。

 その視線に対し、ゼウィスは肩を竦める。

 

「さて。お前たちは核を倒しに来たんだろう? 色々あって事故的にヘラに召喚された俺だが、現在諸々の主導権は俺にある。細かいことは天才(ゲニウス)に聞け。今更うだうだ語ることもあるまい」

 

 なぁと、ゼウィスはウィルとアレスに対して声をかけ、

 

「男だろう?」

 

 槍を構えた。

 

「俺を倒せば、この世界は救われる。まぁ、八割くらいはな」

 

 槍の穂先に、黄金の稲妻が弾け、空気が震えた。

 

「っ……!」

 

 反射的にウィルとアレスはそれぞれ刀を構え、ゼウィスは歯をむき出しにして笑った。

 

「お前らの世代で最強といえばトリウィア・フロネシスだろう? だけどよ、あいつが生まれるまでその称号は俺のものだったし、魔族大戦を終わらせて世界を救ったのもこの俺だ」

 

 だからと、英雄と呼ばれた男は言う。

 

「来いよガキども、お前らも世界を救いたいんだろう? その力があるか、俺が試してやろう」

 

 

 

 

 

 

 ヴィーテフロアが送られた先は城内の大広間だった。

 つい数時間前、各国首脳が集まり、ヴィーテフロア自身が戦いの始まりを告げた場所。

 そこで、彼女はヘラと向かい合う。

 

「まぁ、凡その事情はそちらも把握しているではあるが。妾はあらゆる次元のゴーティアを召喚してのぅ。本来はアレスの体を依り代にするつもりではあったが、自分の体を使ったせいでどうなるか分からなかったが、しかして、思いの外良い結果になった」

 

「へぇ。それは……」

 

 ヴィーテフロアは目を細めた。

 

「あなたが微妙に若返っていることに関係ありますか? えぇ、アレスやウィル先輩は気づいていなかったようですが、私の目は誤魔化せませんよ? 顔の皺がずいぶんと少なくなっていますね」

 

「ふっ……さすがじゃな……!」

 

 元々ヘラは六十という年齢には見えなかったが、その上さらに美貌に磨きを掛けている。

 皺だけではなく肌の張り、瑞々しさがまるで違う。

 顔の造形自体は変わっていないが、しかし肌はまるで別人だ。

 

「―――三十二!」

 

「甘い、これでも四十じゃ」

 

「はぁ……!? それもゴーティアによるものですか!?」

 

「否。これは妾個人の美容術じゃな。魔法も何も関係ないぞ?」

 

「ば、馬鹿な……!」

 

 ヴィーテフロアは信じられなかった。

 年齢詐称にも程がある。王女として、聖女として様々な人間に会う機会があるヴィーテフロアでもここまでの若作りを成功させている女性を見たことがない。あのミセス・エレガントことクリスティーンでもここまではいかないだろう。

 信じられないが、しかし明確な事実は一つ。

 

「それが自前でも……若返っているのは確かですよね。それはゴーティアからの恩恵ですか?」

 

「然り」

 

 ヘラは隠そうともせずに頷いた。

 

「依代となった妾は一度ゴーティアに飲み込まれた。通常であれば妾を乗っ取るんじゃろうが、器としての強度が足りなかったんじゃろうな。妾の記憶からゼウィス様を再現し、そのついでに補佐として妾という存在も最盛期で再構成したというわけじゃ。理解できるか?」

 

「そんな簡単にできるのか? という疑問を置いておけば、まぁできなくもないですね」

 

 気になるのは最盛期で、というところだ。

 ヘラは二十年ほど若返っている。

 ゼウィスの方もそうだとしたのなら、

 

「――――魔族大戦の頃ですか」

 

「左様。妾もゼウィス様も、肉体の強度という意味では二十半ばが適しているじゃろうが、戦闘力という意味ではやはりこの頃じゃ。なにしろ、魔族との戦争の真っ最中だったからの」

 

 それはヴィーテフロアが知らない時代。

 この世界は魔族大戦の前後であまりにも多くのことが変わった。

 ヴィーテフロアの祖父である初代国王による文化改革、各国の交流活性化や魔法学園の設立。

 そして、何より、

 

「戦争、というものを知らんじゃろう、お主らは」

 

「えぇ。幸いなことに」

 

 魔族との戦いもそうだが、国同士の小競り合いもそれを機に数を減らすことになった。

 特に今のアクシア王国周辺は、元々小国が定期的に戦争起こすことさえあったという。

 

「ふっ……今更戦争経験者マウントなんて、如何に若返っても中身は変わらなかったようですね?」

 

「はっはっは。お主はまったく。良い空気を吸っておるのぅ。その態度、教育してやるのも一興か」

 

「今更母親面ですか? お門違いですね、私の母は、私をお腹を痛めて生んでくださったお母様一人だけです」

 

「だが―――妾たちは似た者同士じゃ」

 

「――――それは」

 

「だからこそ、妾はお主と戦おうと思うのじゃよ」

 

 ヘラは苦笑し、右手を掲げ、

 

Omnes Deus(オムニス・デウス) ――――』

 

 その指先に、小さく影が集い、

 

「≪光と闇の境界(ツインカラー)其は溶け合わず離れ合わぬもの(アナイレイション)≫!」

 

 ヴィーテフロアは即座に究極魔法を発動し、対消滅の波動を打ち込んだ。

 だが、

 

「……!?」

 

 黒紫と乳白の光が、ヘラの影に飲み込まれて消えてしまう。

 そして、

 

『―――――Romam ducunt(ロマ・ドゥクト)

 

 喪服の女の変身が開始された。

 全身を影が覆ったと思ったら、次の瞬間には、その影は消え、新たな姿となっている。

 流線型のパーツで構成された漆黒の装甲は薄く、軽装に見えるが体の露出はない。

 腰のパーツは薄いドレスのように影を纏い、漆黒の仮面の後頭部からも影がベールのように背に広がっていた。

 

『≪影謳契寓(ユーノー・ブライド)≫』

 

 その姿はまるで、影でできたウェディングドレス。

 思わずヴィーテフロアは笑ってしまう。

 これが、彼女の≪偽神兵装≫の姿だなんて。

 両手を広げ、それぞれの手の平に二色の光を宿しながらヴィーテフロアは叫んだ。

 

「はっ! いい年こいて夢見る乙女ってわけですか! ババアは大変ですねぇ!」

 

「抜かせ小娘! 妾に勝って生き延びれば! 生涯現役でありたいという切実な思いを理解するじゃろうよ!」

 

 




ラストバトルはVS前時代の最強が二組です



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